【芸能・社会】加藤剛さん、ひっそり逝く 80歳、先月18日に胆のうがんで2018年7月10日 紙面から
テレビ時代劇「大岡越前」や映画「砂の器」で知られ、端正な顔立ちと落ち着いた演技で人気を集めた俳優の加藤剛(かとう・ごう、本名剛=たけし)さんが6月18日午前10時11分、胆のうがんのため東京都内の施設で死去した。9日に所属事務所が発表した。80歳。静岡県出身。葬儀・告別式は近親者で行った。同日には俳優仲間の横内正(77)や次男で俳優の加藤頼(37)が取材に応じ、故人をしのんだ。お別れの会は9月22日に東京・六本木の俳優座劇場で開かれる。 加藤さんのがんは今年3月末に発覚。本人も知っていたといい、一時代を築いた名優は家族にみとられ、先月静かに旅立った。本人の希望により6月28日に、家族葬でひっそりと見送られた。さらに遺族の意向でお別れの会の段取りが固まるまで伏せられ、この日の発表になったという。 加藤さんは早稲田大を卒業後、俳優座養成所に入り、1962年にドラマ「人間の条件」の主人公に抜てきされて注目を集めた。山本薩夫監督の映画「戦争と人間」(70~71年)などに出演、正義感の強い男や逆境を乗り越える力強い人間を演じて評価された。 熊井啓監督の恋愛映画「忍ぶ川」(72年)で女優栗原小巻と共演して話題に。野村芳太郎監督の「砂の器」(74年)では、暗い過去を隠して自らの立場を守ろうとする天才作曲家を熱演し、代表作となった。 32歳の70年に始まったTBS系「大岡越前」では、人情味あふれる裁きを下す大岡越前守忠相が当たり役になり、加藤さんの代表作となった。二枚目で端正なたたずまいの加藤さん演じる大岡越前が、白州に裃(かみしも)姿でさっそうと現れるさまはお茶の間を魅了。「大岡越前」は約30年続き、加藤さんは舞台でも演じた。さらに76年のNHK大河ドラマ「風と雲と虹と」では平将門役で主演している。 ほかに、舞台「わが愛」3部作、ドラマ「三匹の侍」(フジテレビ系、66~69年)、「獅子の時代」(NHK大河ドラマ、80年)、映画「舟を編む」(2013年)など、幅広く活躍した。 ◆遺作でも大往生舞台は「先生のオリザニン」(16年)、テレビ出演は昨年12月に次男・頼と一緒に出演したテレビ朝日系「徹子の部屋」が最後となった。映画で遺作となった綾瀬はるかと坂口健太郎のW主演作「今夜、ロマンス劇場で」(今年2月公開)にも出演。加藤さんが演じたのは映画助監督(坂口)の晩年で、最後病室で息を引き取る老人役。最後の映画で、まさに現実と同じように大往生した。 ◆受け継いだ東山「優しいまなざし忘れられません」加藤剛さんの代表作「大岡越前」を受け継ぎ、昨年は共演も果たした東山紀之(51)は「撮影中には、食事をご一緒させていただき、俳優陣を前にさまざまな話をしてくださった時に、新しい大岡越前を認めてくださったようにも思いました。その時の優しいまなざしは今でも忘れられません。剛さんに安心してもらえるよう頑張っていきます。天国から見守ってください」とコメントを寄せた。 加藤さんはTBSで約30年間、「大岡越前」に主演。一方、東山は2013年にNHKで復活した「大岡越前」に主演、今年1~3月放送で第4シリーズを迎えた。 17年1月放送のNHK・BSプレミアム「大岡越前スペシャル」では、加藤さんがお白州で大岡越前の調べを受ける浪人役でゲスト出演し、新旧大岡越前の夢の共演が実現した。 上品で真面目な雰囲気が、よく似ていた加藤さんと東山。ドラマの会見で東山は「加藤さんに出ていただいて、ごほうびをいただいた。加藤さんの精神を受け継ぐことができれば」と時代劇の継承者として襟を正し、加藤さんは「東山さんは正義感と温かい心を持った大岡忠相を演じていらっしゃって、うれしく思いました。これからも頑張ってください」とエールを送っていた。 ▽NHK大河ドラマ「風と雲と虹と」などで共演した女優の吉永小百合(73) 「『わが心のかもめ』(NHKドラマ)で初めてご一緒したとき、剛さんのあまりの美しさにうっとりしてしまいました。その後すぐに『また逢う日まで』(フジ系ドラマ)でも共演させていただき…まじめですてきでした。近年は平和を願って『コルチャック先生』(舞台)を演じられたり、心をこめた活動をなさっていらした。突然のお知らせにぼうぜんとしています」 ▽「大岡越前」で共演の俳優山口崇(81) 「びっくりして気持ちの整理がつかない。学生劇団でも一緒で付き合いが長く、『大岡越前』のチームでは一番真面目。ごうちゃんと呼ばれて親しまれた。(大岡越前で共演した俳優の)竹脇無我もあいつも逝っちゃった。胸が痛いな」 ▽「大岡越前」などで共演した西郷輝彦(71) 「大岡越前に私は竹脇無我さんの代役で出演したのですが、なぜかそのままレギュラーになりました。あの凜(りん)としたお姿はまさに剛さんの大岡越前。誰もまねることはできません。尊大ぶることなく、人を上から見ることもなく、いつも穏やかに撮影を楽しんでいらっしゃる剛さんの人間性が現場にあふれておりました。仲良しの無我は先に黄泉(よみ)の国へ行きました。どうぞ仲良く本読みでもいかがですか?」 ▽映画「忍ぶ川」で共演した女優の栗原小巻(73) 「加藤さんは俳優座養成所時代の先輩で、たくさんの作品でご一緒しました。どの作品も私にとって大切な作品ばかりです。一つ一つの作品で監督を中心に、役やシーンをみんなで作り上げました。とても知的な方でした。訃報に接し、ただただ目まいがする状況です」 <加藤剛> 1938(昭和13)年2月4日生まれ、静岡県出身。早稲田大文学部演劇科で学び、大学4年の時に難関を突破して俳優座養成所に入る。62年「人間の条件」の主役でデビュー。64年俳優座に入団。ドラマや映画、舞台など幅広く活動。2001年紫綬褒章、08年旭日小綬章などを受章。著書に「こんな美しい夜明け」などがある。
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