現代では、ゲームで生計を立てたり自分のキャリアとする人が増えている。
圧倒的な実力で試合に勝つ人、独自のノウハウで彼らをサポートする人、ストリーミング等でファンの人気を集める人。彼らは誰よりゲームを遊び、ゲームを愛し、ゲームを理解しているのだろう。
そんな彼らに、我々が問うべきことは何だろうか。「どうやったら勝てますか?」「どうすればプロになれますか?」なるほど確かに気になる。だが本当に気になることは、「あなたはゲームが好きですか?」という、原初的な質問ではないだろうか。
現代ではSNSやブログ、商業メディアを通してゲームへの愛が語られる時代。だがゲームを何百何千時間と遊び尽くし、無数のプレイヤーの上に立つ人にこそ聞きたい。一体ゲームのどこに、そこまでの魅力があるのかを。
そんなわけで、DMMゲームス主催PUBG JAPAN SERIES(以下PJS)にてキャスターを務め、過去にもゲームキャスターや選手として様々な実績を持つ、abara氏(@abaranche)に、『PLAYERUNKNOWN'S BATTLEGROUNDS』に眠る、研ぎ澄まされた戦略性、奥深さと魅力について語って頂いた。
登場人物
abara
かの名作FPS『Wolfenstein: Enemy Territory』から、競技色の強いタイトルにのめり込み、カスタムマッチの主催や実況解説を経て、現在はPJSのコーナーで解説をしてる人。
最近はまってるのは古代ヨーロッパ戦史、好きな音楽はダブステップとのこと。かなり多趣味だった。
J1N1
ERANGELの森でひっそりと暮らしながら、ゲーマー日日新聞というブログを書いてるアブノーマリティ。
近年の著しい砂漠化により(専らAIM精度の酷さで)故郷を追い出されたが、最近は森も選べるようになったことで帰ってきたらしい。
「俺PUBGわかったじゃん」から入った業界
PJSにて解説を務めるabara氏
J1N1:abaraさん、初めまして。abaraさんは今PJSにおいてとしてキャスターとして活躍されていますが、どのような経緯で今の仕事に就かれましたか?
abara:最初に『PUBG』に関わったのはDONCUP*1というユーザー主催大会の解説として出演しました。あと、実は選手経験もあり、DONCUP自体にも出場はしています。
J1N1:選手から入ったんですね。
abara:1回だけ、2017年4月に開催された最初の大会でSolo部門で出場しました。
その時、自分は『PUBG』のメタを読んだプレイを意識しました。以前にもカスタムマッチに参加していたんですが、多くのプレイヤーに共通する傾向として、セーフゾーンの真ん中を取らずに端から攻める傾向に気づいたんです。*2
そうすると、逆に真ん中に行けば、予選ぐらいは普通に行けるんじゃないかと考えて、実際に参加してみたのがきっかけです。その時はそこまでガチで選手として結果を出そうというより、「気づいたことを試してやろう」という意識の方が強かったです。まぁ決勝では偶然中心に他のプレイヤーがいたので、もう少し練るべきだと思ったんですが。
ただそこで、「あ、俺PUBGわかったじゃん」という自信がついたんですよね。そこから解説になりました。それでDONCUPの#2から#6まで、SOLO、DUO、SQUADで解説をして、その後は『オーバーウォッチ』のOverwatch OPEN DIVISION Japanを経て、今はPUBG JAPAN SERIESの振り返りコーナーで解説をしています。実際には全然わかっちゃいなくて、深すぎるゲームを理解するのには結構苦労しました。
全ての武器を使いこなしてこそプロ
J1N1:ありがとうございます。abaraさんが精力的に日本のPUBGコミュニティに貢献されてきたと思うのですが、ズバリPUBGの魅力とは何だと思いますか?
abara:うーん、僕は理由は主に2つあると思います。
まず、非常にとっつきやすい点ですね。
これは他のバトロワ系のゲームにも通ずる所なんですけど、まず全員が同じ状態でスタートしながらも、武器の湧きやセーフゾーンの収縮など、一定のランダム要素はありますが、塩梅が絶妙で、初心者が偶然勝ったり上級者が一方的に勝てなかったり、そういう調整になってるんです。けど、遊ぶほどにそういったランダム要素をある程度まで克服できるようにもなる。
かつ、「最後まで生き残れば勝ち」というルールが本当にわかりやすい。色々な対人ゲームを遊んできましたけど、誰に聞かれても「何やってるんですか」と聞かれて、すぐに答えられるのはバトロワの強みですね。
徐々に気づいてくるんですよね。やればやるほどうまくなるって。個人的に重要だと思うのが、撃ち合いでフェアだということ。具体的に『PUBG』は、止まってたら照準通りにしか弾が飛ばないし、弾がランダムに拡散しないんですよ。だから負けた時、次どうしようかって考えられるんですよ。
J1N1:確かに、自分も何本かバトロワやってきたんですけど、このゲームはホント撃ち合いが楽しいですよね。銃がちゃんと差別化されてて、そこもバトロワと噛み合ってる。
そこで、僕含めて初心者が苦手とする武器の2トップがM16A4*3とAKM*4だと思うんです。仮に両方のうち1つだけ拾うとしたら、どちらが良いと思いますか?
abara:それは状況次第ですね。M16A4はAKMより弾速が早いので、遠距離での野戦では強いですね。あと室内の近距離戦では3点バーストの瞬間火力が高いので利があります。
逆に、AKMは近距離から中距離で強い武器ですね。あとM1895*5と共通弾なので、弾薬を確保しやすいメリットがあります。特に競技シーンのSQUADだと物資が限られるので、AKMが上手い人は重宝されますね。
因みに、僕なら近距離のバーストが苦手なのでM16A4よりAKMを取ります。あと最近だとSMGが強化されたので、UMP9*6を拾っても良いかもしれません。
画像はwikiより(via Assault Rifles - PLAYERUNKNOWN'S BATTLEGROUNDS Wiki)
J1N1:なるほど……!凄く参考になります。AKM苦手だったので練習しないと。
それにしても、こういった武器の取捨選択がありながら、ランダム性が混ざってる所、『PUBG』の凄く良い所だと思うんですが、どう思いますか?
abara:このゲームは常に自分たちが欲しい武器が手に入るわけじゃないんです。拾った武器でどこまで戦えるか、そこで底力が試されるんですよね。
例えば、プロでもM16A4やAKMのようにクセの強い武器を苦手としている人はいる。なので、全ての武器を使いこなせるように、韓国では武器種を限定したSQUADをスクリムでやることもあるんですよ。
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PUBGの定石について
J1N1:撃ち合いだけでも本当によく出来たゲームなんですけど、このゲーム立ち回りも凄く重要ですよね。
abara:そうですね。むしろこのゲームはマクロな目線での立ち回りの方が重要で、確かにセーフゾーンにはランダム性があるんですけど、極める程に敵の動きが予想できるようになるんです。
何故かというと、ゲームを極める程、上級者になる程に定石が決まってくるんです。
J1N1:定石ですか。例えばどのような?
abara:一番わかり易いのは、敵の銃声を聞いてから後ろを詰める、という戦術ですね。逆にこれを予測して、周囲を警戒しなくてはなりません。銃声を鳴らした後は長居をしないのが得策ですが、あえて敵を待つという戦術も取れます。
あと昔の自分が実践したように、セーフゾーンの端ほどプレイヤーが集まりやすい試合だったら、、中央に飛び込んで強いポジションを確保するとか、逆に中央が過密なら端からゆっくり攻めるとかですね。
意識するべきは、敵はワープできない事。最初は飛行機から降下するんですけど、もう初期分布はある程度決まってて、そこからルートを予測できるんです。
加えて、射線が通りやすい平原や、車のスピードが出ない山は、危険なので避けられる傾向にあります。また、ERANGELの場合は川が多いから橋は激戦区になりやすい。そういった事を念頭に入れて、自分の装備や立ち回りに合わせてプレイするわけです。
J1N1:なるほど、そうした定石を理解した上で、具体的にどう立ち回るべきだと思いますか?
abara:物資を捨ててでも人気な場所を先に取るか、後手に回った場合は強いポジションを避け、終盤のここしかないというフェーズで攻めるかですね。
基本的に、このゲームは防衛側が強いです。なのでポジショニングのタイミングが重要ですね。終盤でも、誰も知らない強ポジに籠もったり、安置でない場所でも車やスモークで陣地を作る事も出来ますから。
参考文献:abara氏の考察する強ポジの条件など読みどころたくさんのnote
PUBGの大会をもっと楽しく観戦してもらいたいabara流PUBG実況/解説用語集|abara|note
ERANGELのナバロン要塞である
ビークルを織り交ぜた立ち回りの多様性
J1N1:何というか、知れば知るほど本当に運を実力で補えるゲームなんだなと思いました……。でも乗れるビークルがバイクしかない時、ちょっと冷や汗かきません?
abara:いやいや、確かに脆いけど、バイクは弱くないですよ。車より遥かに機動力が勝るので、終盤のポジション取りでは先に強ポジを確保できる、とても大きなメリットがあります。
『PUBG』のビークルの凄い点は、ビークルを止めないと降りられない点です。*7ビークルは強力な武器ですが、乗っている間は無防備だし、安全に降りる場所を確保する必要がある駆け引きがあるのが面白いですね。
J1N1:確かに。先程述べた、立ち回りやマップと連動した戦略性がありますね。
abara:そうですね。ところで質問なんですが、一つ面白い戦略があって、自分にビークルがなく、他のプレイヤーやチームのビークルが無防備に置かれていたら、どうしますか?
J1N1:え?多分タイヤをパンクさせておきますよね。*8
abara:普通はそうなんですけど、あえて放置する戦略もあるんです。例えば自分の装備が弱くて、かつ相手の方がセーフゾーンの内側にいる場合、彼らと撃ち合えばまず負ける。その状態ではセーフゾーンと敵チームと挟み撃ちにされます。
なので、あえてビークルを放置して敵を先行させるのもアリ。このゲームは、基本的に不幸なチーム同士が潰し合うゲームなので。
J1N1:正にバトロワならではの戦略ですね……。
abara:もちろん、自分たちに車があったり、敵よりセーフゾーンの中央に陣取れているなら、タイヤを割るのが基本です。移動手段がなくなったチームは、自分たちが手を下さなくても倒れてくれる可能性が高まりますから。
とにかく、自分さえ生き残れば良い一方、全体の状況をいかに把握するかが大事なんですね。終盤で最終的に撃ち合うといえ、中盤まではいかにリソースとポジションを確保するかが大切なので、こんな戦略もありえるわけです。
J1N1:競技レベルや上級者の間だとここまで考えて立ち回ってたとは……。
少し脱線する質問なんですけど、個人的にビークルでもレアな車両があれば良いなと思って、極稀に機銃付きジープがスポーンするとかどう思います?
つまりこういうの
abara:面白いと思いますよ。そんなに強いとも思えないし(笑)。このゲームだと、止まって身体晒してる人が一番やられやすいので。
J1N1:……まぁそうですよね。
実は奥深い砂漠マップ
J1N1:ところで、素朴な質問なんですけど、ERANGEL*9とMIRAMAR*10どっちが好きですか?ERANGEL派が多いと思うんですけど。
abara:うーん、それは単純に(ERANGELを)知ってるから好きって方が多いと思いますよ。MIRAMARはまだ知らないって事が多い。最近PJSでMIRAMARが採用されたので研究していますが、FPP*11ならむしろ、MIRAMARの方が楽しいと感じますね。
J1N1:何故FPPだとMIRAMARが楽しめるんですか?
abara:ERANGELは平地が多いので、どうしてもFPPの立ち回りが難しいんですよ。MIRAMARは起伏が激しいので、自分の姿を隠したりするなど、理解度が高い程上手く立ち回れる所が好きですね。TPPだとある程度バレるので意味ないのですが。
J1N1:なるほど、正直FPPでMIRAMARって余りプレイしたことなかったんですが、めちゃくちゃやりたくなりますね。ってかやろう。ところで、MIRAMARっていつもどの辺に降りてます?
abara:僕はPower Grid*12が好きですね。人がPecado*13より少なく、武器が多く、高台で周囲を把握しやすく、色々おいしいんですよ。あと、建物は少ないけど、発電機とか遮蔽物が多いので、程よく撃ち合いが楽しめるんですよね。
J1N1:それ聞いたら皆Power Grid降りそうですね(笑)
少し話題を変えますが、みんな大好きERANGELについてどう思いますか。
abara:ERANGELは分断されている所が多い点が面白いですね。
北と南でどっちにセーフゾーンが決まるかで凄くプレイヤーの個性が出ます。先に強いポジションを決め打ちで確保するハイリスクなプレイヤーとか、橋の中心で様子を見るとか。
J1N1:運要素が顕在化させてるんですよね、ほんとチームの個性や実力を。
esportsとしての『PUBG』の楽しみ方
J1N1:本日は色々と参考になる話を聞けてありがとうございます。様々な魅力につて語っていただきましたが、実際abaraさんがここまで『PUBG』を続けた最大の魅力は何ですか?
abara:新しいゲームだからです。バトロワという今までになかったジャンルで、無数の要素があって、どれだけやっても常に新しい発見があるっていうのが、本当に面白いですね。それでいて、撃ち合いには古典的な奥深さもある所も好きです。
J1N1:今までシューターを遊んできた上級者から、全く触れたことのない初心者まで受け入れる多様性がありますよね。
abara:まだまだ発展途上なんで、これからもっと面白くなっていくと思います。プレイヤー側の能力や研究、大会自体もまだ「集計がリアルタイムで行われない」といった点などで発展途上にある。
個人的に一番課題が、競技シーンにおける大会ルールとゲームシステムの融和だと思います。今は「ドン勝しただけで優勝」では運ゲーなのでポイント制が導入されたんですが、そこが少し複雑で。CSなら単純に16回爆弾を爆破させれば明確に勝てますが、、PUBGではドン勝とっても総合的に負ける時があります。
なので、勝つためにはどれだけ敵を殺せば良いのか、どれだけ生き残れば良いのか、そうした内容をカウント等で観戦者にわかりやすく、リアルタイムに伝わることができれば、プロシーンの人気も増えると思いますね。
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以上、abara氏に『PUBG』の魅力や攻略についてたっぷり語っていただいた。
まず実感したことが、自分の『PUBG』の理解の乏しさだ。ある程度は運要素も仕方ないと考えていたが、一流のプレイヤーともなれば運要素を極力細分化し、その都度戦略を組み立てる。上級者がいつもドン勝にありつけているのは、運に依存しない卓越した技術があったからだ。
例えば、銃を選ばず確実に弾丸を命中させるエイム、敵の退路を読んだ上での立ち回り、様々なビークルの利用……。こうした積み重ねがあるからこそ、偶然は必然となる。
逆に、それだけ『PUBG』がここまで考えられて作られた作品なのだということにも圧倒される。すっかりこのインタビューに看過され、さっそくFPPのMIRAMARに潜り込み、無事残り10人ぐらいでポジションを無くして射殺された。
ともかく、プロの目を通したゲームの、複雑な魅力の一部を読者の方には伝えられたなら幸いだ。
また、「俺がやってるゲームもマジで面白いよ」というプロな人がいれば、ぜひとも連絡してほしい。
*1:DONCUP PORTAL
*2:セーフゾーン:中にいるとダメージを受ける青い壁より内側。試合が進む度に少しずつセーフゾーンは収縮されるので、プレイヤーは最終的にぶつかり合うことになりやすい。
*3:強力なアサルトライフルだがフルオートが出来ないため細かなエイム力が問われる
*4:ライフルの中で特に火力が高いが、反動が大きくフルオート射撃が苦手
*5:高威力のリボルバー、かなり上級者向け
*6:手頃で使いやすいサブマシンガン。近距離で強いが距離が離れると威力が弱まる。
*7:乗ったビークルにスピードがのったまま降車すると、大きなダメージを受ける
*8:ビークルはタイヤが特に脆く、ここがパンクすると移動速度がガタ落ちする
*9:初期から存在するマップ。北に居住地区の島、南に軍事基地の島に分かれている。特に人気が高い。
*10:ほぼ1つの大陸で出来たマップ。高低差ある山岳部と建物が密集した都市に分かれ、遠近両方に対応する必要がある。
*11:FPS専用モード。TPSモードより視野が狭く、索敵が難しい。
*12:中西部に位置する発電所
*13:中部の都市。アイテムがよく湧くので人気がある