そもそも今回の働き方改革法案は新聞などで多く報道されているので、その内容を「知っているつもり」の人も多いでしょうが、実際には勘違いしている例が少なくありません。たとえば、次のような新聞の見出し。
「働き方改革 残業の上限『年720時間』 新制度案を提示」
これだけを見ると、残業時間は年間720時間、つまり月間60時間以内にする義務が法制化されるように読めますが、実際は違います。前述したように、原則は「年間360時間以内」まで、「月間30時間以内」に抑えるのが本来の姿です。
確かに、「特別な事情」がある場合には年間720時間に限度を設定できるのですが、これはあくまで特例。しかも、この特例を適用する場合には、「単月100時間未満」「複数月平均80時間以内」「月間45時間超の残業は年間6回以下」という条件を課せられます。
この中で守るのが難しいのは、「月間45時間超の残業は年間6回以下」でしょう。いったい、「半年間のみ45時間超の残業になり、残り半年間は45時間以内」という会社が、どこにあるのか。あるとすればアイスクリーム製造業のように、季節的な繁忙期・閑散期がある業種ぐらいしか思い浮かびません。
つまり、法令順守をしようとすれば、「原則」を守らなければいけなくなります。
しかし、中小企業は、仕事を大手企業からもらうことが多いものです。特に日本の製造業では、親会社、子会社、ひ孫の協力会社など重層的な構造になっていて、その「主従関係」は想像を絶するくらいに封建的です。「増産が決まったから、明日から生産を増やして」と突然言われれば、中小企業はなにも言い返せず、ぐっと我慢の子でいなければいけません。
それでも、残業規制を守ろうとすれば、いったいなにが起きるか。
残業時間は減ったものとして申告して、実際は従業員を働かせる。そんな最悪の事態が起こりかねない気がするのは、私だけでしょうか。