ノビチョク浴びた英女性が死亡 殺人事件として捜査へ

Dawn Sturgess
Image caption ドーン・スタージェスさん(44)は6月30日に神経剤「ノビチョク」を浴びて意識不明となった

英南部ウィルトシャー・エイムズベリーで6月30日に男女が神経剤「ノビチョク」を浴び意識不明となっていた事件で、このうちのドーン・スタージェスさん(44)が8日夕、死亡した。これを受け、ウィルトシャー警察は殺人事件として捜査を開始した。

もう1人のチャーリー・ロウリーさん(45)は危篤状態が続いている。

テリーザ・メイ英首相は、スタージェスさんの死に「ショックを受けている」と話した。

警察によると、スタージェスさんの死はすでに家族に伝えられ、検視が行われる予定。

英全国の各警察を網羅する対テロ警察ネットワークがウィルトシャー警察と協力しながら、捜査を主導している。今年3月に元ロシア情報将校と娘が近くのソールズベリーで浴びて重体となったのも、「ノビチョク」だった。

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検査の結果、スタージェスさんとロウリーさんがノビチョクに汚染された物体を手で触ったことが明らかになっている。しかし、2人がどのようにノビチョクに触れるに至ったかについては、捜査が続いている。

ロンドン警視庁で英国のテロ対策を統括するニール・バス警視監補は、「ショッキングで悲しいニュースだ。ドーンは子供3人を含め、家族を残して亡くなった。大変辛い状態にあるご家族のために祈っている」と話した。

「ドーンと共に倒れた45歳の男性は危篤状態が続き、入院中だ。本人とご家族のためにも祈っている」

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Image caption 警察はスタージェスさん(左)とロウリーさんがノビチョクを浴びた経緯を調べている

バス警視監補はまた、スタージェスさんの死亡を受けて、「犯人あるいは犯人グループを特定し法の下にさらし、無謀で野蛮としか言いようのない行為の責任を取らせると、決意がいっそう固まった」と話した。

「ドーンに悲劇的な死をもたらした致命的な物質に、市民2人がどのようにさらされたのか。この解明にあらゆる証拠を集めるため、捜査員たちは緻密で念入りな捜査を継続する」

スタージェスさんが亡くなったソールズベリー地域病院のクリスティーン・ブランシャード医長は「ひどく悲しい」と述べ、スタージェスさんの家族に哀悼の意を表した。

「ソールズベリー地域病院のスタッフは、ドーンを助けようと休み知らずで働いた。有能で献身的でプロフェッショナルなスタッフのみんなも、心を痛めているはずだ。みんな、できることは全てやったので」

ロウリーさんもこの病院で治療を受けている。また、ノビチョクを浴びたとみられていた警官は、陰性だと確認された。

「殺人者」

メイ首相は「哀悼の意」を示すと共に、捜査員らは「事実を突き止めるために一分一秒を争って働いている」と話した。

「英政府はこの悲劇に向き合う地元コミュニティーを、全面的に支援する」

英外交官のジュリアン・キング欧州委員(安全同盟担当)は「この事件の背景にいるのは殺人者だ」と批判した。

また、サジド・ジャビド英内相は、「殺人犯をなんとしても法の下で裁くつもりだ」と強調した。

最大野党・労働党のジェレミー・コービン党首は「ショックを受けている」と話した上で、「警察の全面的な捜査で事実を洗い出し、地元コミュニティーを支援し、犯人を司直の手にかけるべきだ」と話した。

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Image caption スタージェスさんとロウリーさんは、エイムズベリーのマグルトン・ロードの住宅で倒れた

イングランド公衆衛生庁(PHE)は、一般市民への危険性は「低いまま」だとしている。

PHEのポール・コスフォード教授は「予防策として、市民には針や注射針や見慣れない容器といった不審物を手に取らないよう呼びかけている」と話した。

また、6月29日午後10時から翌30日午後6時半の間にエイムズベリーのマグルトン・ロードと薬局ブーツ、バプティスト教会、およびソールズベリーのジョン・ベーカー・ハウスとクイーン・エリザベス・ガーデンの5カ所に立ち入った人には引き続き、「衣服を洗濯機で洗うか、ドライクリーニングが必要な場合は袋で2重に包んで口をしっかりと結んでおく」よう指示していると述べた。

「不本意な犠牲者」

ウィルトシャー警察のアンガス・マクファーソン本部長は、「とんでもないことで愕然としている」と話した。

「スタージェスさんは無実の一般市民で、このような前例のない国際的事件の不本意な犠牲者になることなく、日常生活を送るべき人だった」

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Image caption ロシアの元スパイ、セルゲイ・スクリパリ氏と娘のユリアさん(写真)は3月にノビチョクによる毒殺未遂にあった

3月にロシアの元スパイ、セルゲイ・スクリパリ氏と娘のユリアさんが英南部ソールズベリーで有毒の神経剤「ノビチョク」による毒殺未遂に遭った事件では、英政府はロシアを非難している。

ロシアは関与を全面否定している。

スタージェスさんとロウリーさんが病院に運ばれた後、ジャビド内相はロシアが英国を「毒物の廃棄場」にしていると批判した。

在英ロシア大使館はこれに反撃し、英政府が「事態を混乱」させ、「自国民を怖がらせている」と述べた。

ロンドン警視庁は声明で、スクリパリ親子の事件と今回の事件の関連性は、「もちろん捜査対象だ」と述べた。

警察報道官は、「2人に使われた神経剤が、スクリパリ親子が浴びたものと一緒に作られたものかどうか、捜査員は言及できる立場にない」と話した。さらに、「(スタージェスさんとロウリーさんが)が、3月のスクリパリ氏とユリアさん殺害未遂後に除染された場所を訪れたという形跡も、まったくない」と説明した。


<解説> フランク・ガードナーBBC安全保障編集委員

スタージェスさんとロウリーさんは3月のスクリパリ親子の毒殺未遂後に残されたノビチョク入り容器を触り、汚染されたのではないか。これが現在、検討されている仮説だ。

英国民のドーン・スタージェスさんが英国内で亡くなったことで、捜査に性質は殺人事件に対するものに切り替わった。それに伴うあらゆる、外交と安全保障上の影響と共に。

英国は3月の事件について、ロシア政府が暗殺計画を指示した以外にあり得ないと、ロシアを糾弾している。

ロシアは全ての関与を否定し、支持基盤の弱い英政府がロシア開催中のワールドカップの成功にケチをつけようとしているのだと反論している。

向こう数日は、さらなる批判と反論の応酬が予想される。


(英語記事 Murder inquiry after Novichok woman dies

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