「最も強い者が生き残るのではなく、変化に対応できるものが生き残る」
あなたもご存じの通り、この言葉はイギリスの自然科学者であるダーウィンが遺したとされる言葉だ。
企業もまた「最も強い者」が生き残るとは限らない。「イノベーションのジレンマ」という言葉もあるように、時に「最も強い」と賞賛された企業が環境変化に足元をすくわれ、衰退の道を辿った例は枚挙にいとまがない。
例えば、1983年に発刊され、世界的なベストセラーとなった「エクセレントカンパニー」で紹介された14社の企業は、すでに4社を除いて倒産あるいは買収の憂き目にあっている。
この記事に辿り着いたあなたなら、何らかの理由で「リブランディング」に関心をお持ちのことだろう。
当たり前のことだが、ブランディングは一度確立したからといって、未来永劫に渡って成功が保証されるとは限らない。どの市場もいつか必ず成熟する。予期せぬ競合が現れる。企業は決して環境変化から逃れることはできない。
今回は市場の変化に晒され、行き詰まりを見せたブランドの再生手法の一つである「リブランディング」について解説する。
「リブランディング」といえば、安易に「ロゴを変更する」「パッケージデザインを変更する」など「見た目の変更」に飛びつきがちだ。しかし「見た目の変更」はリブランディングの際に選択肢に挙がる「手法の一つ」でしかない。
今回の記事を最後までお読みいただければ、
- リブランディングとは何か?
- 問題解決型リブランディングの手順
- リブランディングの成功事例
- リブランディングを成功させるためのチェックリスト
がご理解いただけるはずだ。ぜひ、あなたのリブランディング戦略の参考になれば幸いだ。
目次[表示する]
- リブランディングとは何か?問題解決型リブランディングのすすめ
- リブランディングの手順と手法-1:問題の特定
- リブランディングの手順と手法-2:問題解決
- リブランディングの手順と手法-3:問題解決リブランディングのチェックリスト
- 終わりに
リブランディングとは何か?問題解決型リブランディングのすすめ
k_birdはこれまで、外資系コンサルティングファームや広告代理店で幾度となくブランディングの相談に乗ってきた。その中で「リブランディングとは?」に対する最も多い回答は以下のようなものだ。
上記の「リブランディング」の意味は、半分は当たっているが半分は間違っている。その理由は以下の2点だ。
1つ目は「目的と手段の混同」だ。
ブランディングがビジネス活動の一貫である以上、その目的は「利益の最大化」となる。なぜなら、あらゆるビジネスの原資は「利益」であり、必要十分な利益が確保できなければブランドに対する再投資は難しくなる。その結果、生活者にブランド価値を提供し続けることができなくなる。
上記を踏まえれば「ブランドの魅力やアピール力を蘇らせること」という定義は、リブランディングの「手段(の一つ)」の話をしているが「目的」の話をしていない。そして「目的」が抜け落ちれば「目的と手段の混同」が生じ、徐々に手段が目的化してしまうのはよくある現象だ。リブランディングの目的を「見た目の変更」に置きがちなのは「目的と手段の混同」の典型例だ。
あくまでリブランディングの目的は「利益の最大化」であり「ブランドの魅力やアピール力を蘇らせること」は、そのための「手段の一つにすぎない」ことを認識しておこう。
そして2つ目は「新しく時流に合うように…」というくだりにある通り、ブランドが行き詰った原因を、安易に「時流に合わなくなったから」に帰着させている点だ。
「時流に合わなくなったからリブランディングする」という発想は「時流にあってないこと以外は、何も問題がない」ことを前提にしている。しかしこのブログを読んでいるあなたなら、よもや「ブランドから得られる利益は、時流に合うか合わないかだけで決まる」とは思っていないだろう。
残念ながら巷に語られる「リブランディング」は、リブランディングを「時流に合うか?合わないか?」という狭いスコープに押し込めてしまっている。そのため「何が原因でブランドは行き詰っているのか?」という「原因の特定」という視点が抜けてしまうことが多い。
重要なことなので繰り返すが、リブランディングはビジネスの一貫である以上、その目的は「アピール力の向上」ではなく「利益の最大化」だ。そして、ブランドが行き詰まる原因は、必ずしも「時流に合わなくなったから」だけとは限らない。
これらを踏まえて、k_birdが考えるリブランディングの意味とは以下の通りだ。
リブランディングとは、利益の最大化を目的に、行き詰ったブランドを再生させるための問題解決策を指す。そして「問題解決策」である以上、
- 問題を特定する=ブランドが低迷している原因は何か?
- 問題を解決する=その問題をどう解決するか?
というステップが必要不可欠となる。
「リブランディング」は、全くゼロから立ち上げる「新ブランドの立ち上げ」と異なり、現在のブランドエクイティを活かせることが利点だ。その結果、やり方次第では少ない費用と労力で強いブランドを再構築できる。
その利点を最大限に活かすためには「ブランドエクイティの大部分を残して」「ブランドエクイティの必要最小限の部分を変える」という「最小投資&最大効果の視点」は必要不可欠となる。
そして「最小投資&最大効果」を実現するには「そもそも何が問題なのか?」という「原因の特定」と「ブランドエクイティのどの部分を残して」「ブランドエクイティのどの部分を変えるのか」という切り分けが必要だ。これらをおろそかにしたままでは、リブランディングは成果に結びつかない。
この「問題の切り分け」が曖昧なままリブランディングを行った失敗事例が、かつらメーカーであるアデランスのリブランディング事例だ。
アデランスは過去に、企業名を「ユニヘアー」に変更したことがある。ユニヘアーとは「ユニバーサル・ヘアー」の略で、「文化・言語・国籍の違い、老若男女を問わずに利用できる新しい毛髪」を意味していたとされる。いわば「時流に沿った」考え方だ。
しかし社名変更以降も行き詰まりから抜け出せず、わずか数か月後に、再び社名を「アデランス」に戻すという決断を下す。
一般に、ブランドの「見た目(この場合は社名)」を変更すると、会社案内やホームページ・店舗看板など様々な表現物をリニューアルする必要が生じ、相当のコストと労力がかかる。
アデランスの場合、社名を「ユニヘアー」に変えたことで様々な表現アイテムのリニューアルが生じ、1年経たずに「アデランス」に戻したため、再び表現アイテムのリニューアルを行うという混乱が生じたことは想像に難くない。
このアデランスの事例からもわかる通り「問題解決」という視点が抜け落ちたリブランディングは「何を残して」「何を変えるか」の判断をミスリードし、時にプラスどころがマイナスの結果すら生む場合があるので注意が必要だ。
リブランディングの手順と手法-1:問題の特定
ここからは「問題解決型リブランディング」の手順・手法の解説に移ろう。
これまで解説してきた通り「問題解決型リブランディング」で最初に着手すべきは「何を残して」「何を変えるか」を見極める「根本課題の特定」だ。
この記事をお読みになっているあなたは、恐らく「売上あるいは利益が長期的に低迷している」ことにお悩みではないだろうか?
売上や利益が長期的に低迷している場合、その原因は大きく以下の3つに分けることができる。
- 購入者の数が減っている
- 購入単価が下がっている
- 購入頻度が減っている
一般に「売上」は「購入者数×購入単価×購入頻度」に分解することができる。そしてここから「費用」を差し引いたものが「利益」だ。もし、費用が大きく変わっていないのであれば、売上や利益が低迷している原因は上記3つのどれかということになる。
以下、一つ一つ見ていこう。
購入者数が減っている場合
購入者数が減っている原因は、大きく2つの可能性が考えられる。
- 買いたいと思う人の数(=購入意向者数)が減っている
- 買いたいと思う人が実際に購入する割合(購入率)が落ちている
買いたいと思う人の数(=購入意向者数)が減っている
「1.買いたいと思う人の数(=購入意向者数)が減っている」場合、その原因は、さらに2つの可能性に分けて考えることができる。
- 新規に買いたいと思う人の数(新規の購入意向者数)が減っている。
- 既存顧客のリピート購入意向者数が減っている。
まずは「1.新規に買いたいと思う人の数」が減っている可能性だ。
「新規に買いたいと思う人の数」が減っているということは「新規の見込み客」に対して「欲しいという期待感情」を創れていない状態だ。
この時に疑うべきは「ブランドの高齢化」だ。
「ブランドの高齢化」とは、ロングセラーブランドによく起きる現象だ。時代を経るうちにブランドの購入者が高齢化してしまい「古臭いブランド」というブランドパーソナリティを形創ってしまう。
その結果、新規の見込み客(≒若い世代)から敬遠され「欲しいという期待感情」が創れないまま、ブランドの高齢化が加速していくことになる。
ブランドは「ブランドの新規顧客数>ブランドの離脱者数」であるうちは売上は上がっていく。しかしブランドが高齢化していくと、徐々に「ブランドの新規顧客数<ブランドの離脱者数」という状態に陥り、売上は減少し始める。
つまり、ブランドが売上を維持・拡大するには、常に「ブランドの離脱者数」を上回る「新規顧客数」が必要となる。しかしブランドの高齢化はそれを妨げてしまうのだ。
この場合、ブランドが抱える問題の根本原因として可能性が高いのは「顧客の高齢化」と「ブランドパーソナリティの陳腐化」の2つだ。よって、問題解決型リブランディングの重点テーマは「ターゲットの再設定」と「ブランドパーソナリティの刷新」に当たりをつけて検討していくことになる。
続いて「既存顧客のリピート購入意向者数が減っている」場合だ。
「既存顧客のリピート購入意向者数が減少している」ということは、ブランドが既存顧客に対して「次も欲しい」という期待感情を創れておらず、リピート購入が続かない状態だ。
既存顧客からのリピート購入は、あなたのブランドにとって生命線となる。
なぜならあなたのブランドの収益構造は、既存顧客から得た利益を原資に新規顧客を獲得する投資を行い、常に「ブランドの新規顧客数>ブランドの離脱者数」を維持する、という構造になっているからだ。
もし、既存顧客のリピート購入が続かなければ、新規顧客を獲得するための充分な原資を得ることができない。そうすれば、いずれ「ブランドの新規顧客数<ブランドの離脱者数」という構図となり、ブランドはジリ貧に陥っていく。
この場合、ブランドが抱える問題は「次も欲しいと思えるだけのブランド提供価値を提供できていない」ことだ。よってリブランディングで「何を変えるか」については「ブランド提供価値」に当たりをつけて検討していくことになる。
買いたいと思う人が実際に購入する割合(購入率)が落ちている
続いて「2.買いたいと思う人が実際に購入する割合(購入率)が落ちている」場合を考えてみよう。
この場合、まず疑うべきは以下の2点だ。
- チャネル戦略がうまく機能しておらず、売り場数が減少している。
- 価格戦略がうまく機能しておらず、割高な印象を持たれてしまっている。
つまり、ブランドが抱える問題はマーケティングミックスにおける「チャネル戦略」や「価格戦略」である可能性が高くなる。その場合、リブランディングで「何を変えるか」については「チャネル」や「価格」に当たりをつけて検討していくことになる。
このケースの場合、問題は「チャネル」や「価格」なのだから、安易に「見た目のリブランディング」を行っても問題が解決しないので注意が必要だ。
購入単価が下がっている場合
購入単価が下がるという現象は「どうせ似たような商品なら、価格が安いほうを選びたい」という生活者心理が生じたときに起こる。つまりブランドが抱える問題は、競合ブランドとの「価値の違い」や「役割の違い」が不明瞭となり、生活者の評価軸が「だったら安いほうで」と「低価格」に移ってしまっていることだ。
購入単価が下がっている場合、以下の2つに当たりをつけて検討していくことが多い。
- ブランド提供価値
- ブランドポジショニング
新たなブランド提供価値を検討する
ブランド提供価値とは、先ほど解説したように「ブランドが顧客に届けている喜びの度合い」のことを指す。
よって、競合ブランドとの違いを明確化するには、
- 競合ブランドとは異なる「ブランド提供価値」を設定する
- 競合ブランドと同じだが、大きく上回る「ブランド提供価値」を届ける
のどちらかとなる。
新たなブランドポジショニングを検討する
ブランドポジショニングとは「生活者がそのブランドに対して認識している独自の役割」のことを指す。
例えば、多くの人は「贅沢な時間に食べる大人のアイスクリーム」と聞くと、真っ先に「ハーゲンダッツ」と答える。また、もしあなたが「無骨で自由奔放な個性が表現できる大型バイク」と聞けば、真っ先に思い浮かぶのは「ハーレーダビッドソン」ではないだろか?
そしてもし「この2つの競合ブランドは?」と聞かれたら、あなたはどう答えるだろうか?恐らく、簡単には思い浮かばないはずだ。
ブランドポジショニングとは、ほかのブランドでは替えられない独自の役割を構築し、比較されずに「指名買いし続けてもらえる状態」を創り出すことだ。その結果、購入単価は高い状態を維持することができる。
もし、あなたのブランドの購入単価が下がり続けているのなら、
- 自社ブランドを、より有利なポジショニングに変える
- 現在のポジショニングをより鮮明化する
のどちらかを検討しよう。
購入頻度が下がっている場合
購入頻度が下がる原因は、以下の2つの可能性が考えられる。
- 既存顧客が「競合ブランド」にスイッチしている場合
- 既存顧客が「競合となる代替品市場」にスイッチしている場合
顧客が「競合ブランド」にスイッチしている場合
これまであなたのブランドをメインで購入してくれていた既存顧客が、競合ブランドと併用しはじめたり、あるいは競合ブランドをメインで使用するようになった場合、あなたのブランドの購入頻度は下がることになる。
この場合、先ほど解説した「購入単価が下がっている場合」と同様に、ブランドが抱える問題は「ブランド提供価値が競合ブランドより劣っている」か、あるいは「ポジショニングが競合ブランドと被っている」かのどちらかとなる。
よってリブランディングで「何を変えるか」についても「ブランド提供価値」か「ブランドポジショニング」に当たりをつけて検討していこう。
- 競合ブランドとは異なる「ブランド提供価値」を設定する
- 競合ブランドと同じだが、大きく上回る「ブランド提供価値」を設定する
- 自社ブランドを、競合ブランドより有利なポジショニングに変える
- 自社ブランドのポジショニングを、競合ブランドより強く鮮明にする
顧客が「競合となる代替品市場」にスイッチしている場合
これまであなたのブランドをメインで購入してくれていた既存顧客が「競合となる代替品市場」に奪われている場合、あなたのブランドの購入頻度は下がることになる。
例えばあなたが「味噌ブランド」のマーケティング担当者だったと仮定しよう。
残念ながら味噌は、年々、市場規模が縮小している。一方で、個別包装されたインスタント味噌汁市場は、それに反比例するように年々拡大している。
近年では晩婚化や高齢化により単身者が増加し、味噌よりも手軽で簡便なインスタント味噌汁を選ぶ生活者が増えている。すると当然「インスタント味噌汁」が食卓に上がる頻度が増え「味噌」の購入頻度は下がることになる。つまり顧客が「代替品市場」に奪われている状況だ。
残念ながらこのようなケースでは、リブランディングは有効な問題解決策とならない。
なぜならこのケースにおける真の問題は「味噌市場の縮小」であり、解決するには「味噌市場自体を再拡大させる」という業界全体の取り組みを行うか、あるいは「成長しているインスタント味噌汁市場に参入する」という事業戦略やブランド拡張を検討する必要があるからだ。
つまり、リブランディングとは別次元の検討が必要となる。
このように、正確に課題を特定し「何を残して」「何を変えるか」という検討ステップを踏めば「そもそもリブランディングでは問題解決にならない」という結論を導き出すこともできる。
もし味噌メーカーのマーケティング担当者であるあなたが、安易に「新しく時流に合うように、味噌ブランドの魅力やアピール力を蘇らせよう」とリブランディングに走ってしまえば、ブランドが抱える真の課題が解決されないまま、無駄な労力とコストを投じることになる。
重要なので繰り返すが、リブランディングとは「利益の最大化を目的に、行き詰ったブランドを再生させるための問題解決策」だ。
そして「問題解決策」である以上、必ず「今のブランドが抱えている課題の特定」というステップを踏むべきだ。
さらに、リブランディングが「既存のブランドエクイティを使って」「最小投資で最大効果」を目指すブランド戦略の手法である以上「ブランドエクイティの何を変えて」「ブランドエクイティの何を変えないか」を明確にすることもまた、必要不可欠であることを肝に銘じておこう。
リブランディングの手順と手法-2:問題解決
課題を特定し「何を変え」「何を変えるべきでないか」が把握できたら、次は「問題解決」のステップだ。
上記の「課題の特定」のステップを踏めば「今のブランドのどこに課題があるのか」「どのブランドエクイティを残し、どのブランドエクイティを変えるべきなのか?」はおおよそ検討がついているはずだ。
ブランドが行き詰った「課題」さえ特定できれば、その後のステップは通常のブランディングのステップと大きくは変わらない。
以下、簡単にリブランディングのステップを解説しよう。もし詳しく知りたければ、リンク先を参照いただきたい。
環境変化を味方につける
もしブランドの課題が特定ができたら、ここで初めて「時流に合わせる」ステップに入ろう。
どのような企業も、1企業の努力では環境変化に抗うことはできない。そうであれば、社会環境や市場環境の変化を「所与の前提」として捉え、それらを賢く味方につけていく視点が必要となる。そのために必要となるのが「社会の変化を味方につける」ためのPEST分析と「市場の変化を味方につける」ための3C分析だ。
PEST分析を行う
PEST分析は、社会変化を「政治」「経済」「社会「技術」の4つの切り口で分析し「どのような社会変化を味方につけるか?」を検討する際に有用な分析フレームワークだ。
社会環境の変化は、時にブランディングやマーケティングの「根本」に大きな影響を及ぼすことがある。
- 政治:
市場競争の前提となる「市場競争のルール」そのものを変化させる。 - 経済:
売上やコストなど利益に直結する「価値連鎖」に影響を与える。 - 社会:
売上の元となる生活者の需要構造に影響を与える - 技術:
市場競争のKSFを変えてしまう。
また上記はすべて、1企業の力では抗いきれない構造的な変化である以上、リブランディングの際には必ず「社会環境の変化を前提に、どう味方につけるか?」という視点で分析を進めよう。
3C分析を行う
3C分析とは、市場環境の変化を「Customer(市場・顧客)」「Competitor(競合)」「Company(自社)の3つの視点で分析し「どのような市場変化を味方につけるか?」を検討する際に有用な分析フレームワークだ。
マーケティングとは、突き詰めて言えば「競合ブランドを上回る魅力で生活者ニーズを満たし、利益を上げ続ける企業活動」のことだ。
そして「3C」には上記全ての要素が含まれており「3C=マーケティングそのもの」といっても過言ではない。
- 「生活者ニーズを満たし…」←Customer(市場・顧客)のニーズ
- 「競合ブランドを上回る…」←Competitor(競合)の強み・弱み
- 「上回る魅力で…」←Company(自社)の強み・弱み
リブランディングを行う際には、自社の既存ブランドエクイティを再構築し(=自社)、競合とは異なるか、あるいは上回る価値を提供し(=競合)、生活者のニーズを満たさなければならない(市場・顧客)。
ここまでお読みになれば、リブランディングにおける3C分析の重要性は、もうご理解いただけたはずだ。
リブランディング戦略を策定する
味方につけるべき環境変化を認識できたら、次はリブランディング戦略の策定だ。問題解決型リブランディングにおいては、
- ブランドが行き詰っている原因に焦点を合わせ
- そこに「味方につけるべき環境変化」を掛け合わせて
- ブランドを構成する要素を再定義していく
という手順を辿ることが多い。その際に有用なフレームワークが「ブランドアイデンティティプリズム」だ。
「ブランドアイデンティティプリズム」とは、フランスのビジネススクールHEC経営大学院の教授であるジャン・ノエル・カプフェレが提供したフレームワークだ。ちなみに、カプフェレ教授は「ブランド論の3大聖人の一人」としても知られている。
この「ブランドアイデンティティプリズム」を、今の時代に即した形でk_birdが改良を加えたのが以下のフレームワークだ。
ブランドアイデンティティプリズムは、以下の6つの要素で構成される。
- ブランドライフビジョン
- ブランドパーソナリティ
- ブランド提供価値
- ターゲット設定&ペルソナ
- ブランドの役割
- ブランドの特徴
以下、このブランドアイデンティティプリズムのフレームワークに沿った形で、成功事例を交えながらリブランディングの解説を続けよう。
リブランディング戦略の手順と成功事例-1:ブランドライフビジョンの策定
ブランドライフビジョンとは「生活者とブランドの両方が望む、社会やライフスタイルの未来像」のことを指す。
近年、SDGsやCSV経営、あるいはマーケティング4.0など「政治・経済・社会」の各分野が連携しながら「社会をより良く変える」という考え方が浸透しつつある。
もし、リブランディングを通して「社会」や「生活者」あるいは「時代の流れ」を味方につけたいなら、新たなブランドライフビジョンの策定は必須だ。
この「ブランドライフビジョン」を通してブランド再生を成功させた事例が、ご存じアップルだ。
今は世界のトップブランドとして名をはせるアップルだが、その昔、Windows PCとの競争に敗れ、倒産しかかる憂き目にあったことがある。一説によれば、一時期は会社の運転資金が残り14日分しかない状態にまで追い詰められていたという。
そんなアップルのブランド再生に寄与したのが、ブランド史に残るリブランディングキャンペーンである「Think different.」キャンペーンだ。
「Think different.」キャンペーンには、以下のメッセージが添えられている。
クレージーな人たちがいる。
反逆者、厄介者と呼ばれる人たち。
四角い穴に 丸い杭を打ちこむように物事をまるで違う目で見る人たち。彼らは規則を嫌う。
彼らは現状を肯定しない。
彼らの言葉に心をうたれる人がいる。
反対する人も賞賛する人もけなす人もいる。しかし彼らを無視することは誰もできない。
なぜなら、彼らは物事を変えたからだ。彼らは人間を前進させた。
彼らはクレージーと言われるが私たちは天才だと思う。
自分が世界を変えられると本気で信じる人たちこそが
本当に世界を変えているのだから。Think different.
このメッセージは「クレイジーな人たち」を称賛し「創造性や革新性が受け入れられる社会」を創ることを呼びかけている。そしてこのライフビジョンが広く社会に共鳴され、多くの味方を創り上げたことがブランド再生の原動力となってことは、想像に難くない。
このアップルのリブランディングは、ブランドライフビジョンを基点に成功させた事例といえるだろう。
リブランディング戦略の手順と事例-2:ブランドパーソナリティ
ブランドパーソナリティとは「そのブランドならではの個性を、人間の人格に例えたもの」だ。
ブランドパーソナリティは、適切に設定し管理すれば以下のような効果を期待できる。
- ブランドを記憶に残りやすくする効果
- 強いブランド連想を創る効果
- ブランドを差別化する効果
- ブランドに対して感情移入を創る効果
- ブランディングに一貫性や統一感を創る効果
しかし冒頭で解説した通り「ブランドの高齢化現象」が起きると、徐々にブランドパーソナリティは「古臭いブランド」として陳腐化していく。
そしてブランドパーソナリティが陳腐化すればするほど「新規の見込み客」に「欲しいという期待感情」を創れなくなり、やがて「ブランドの新規顧客数<ブランドの離脱者数」となり、売上は減少しはじめる。
このブランドパーソナリティの刷新を通してリブランディングに成功したのがヤンマーだ。
約100年もの間、日本の農業に貢献してきたヤンマーだが「長い歴史」「農業」などの連想が、古臭いブランドパーソナリティを創っていた。しかしヤンマーの実態は、今や農業だけでなくマリンインダストリーや建設機械、さらにはエネルギーへと事業領域を広げている。
このミスマッチを解消するために、ヤンマーはクリエイティブディレクターの佐藤可士和氏を招へいし、リブランディングプロジェクトを立ち上げた。
リブランディングプロジェクトでは、古臭いブランドパーソナリティだったヤンマーブランドを「エルメスのような会社」に変えるべく、プロダクトデザインには、フェラーリやマセラッティなどのデザインを手掛けた奥山清行を起用。
さらに農作業のためのウエアデザインは、イッセイミヤケのデザインを手掛けた経験のある滝沢直己氏を起用している。
ヤンマーの事例は「ブランドパーソナリティの刷新」が企業全体のリブランディングをに寄与した成功事例といえるだろう。
リブランディング戦略の策定と事例-3:ブランド提供価値
ブランド提供価値とは「ブランドが顧客に提供できる喜びの度合い」のことを指す。ブランド提供価値は、ブランドの購入単価や購入頻度に大きな影響を与える重要な要素だ。
ブランドの提供価値が競合ブランドと同等になってしまえば「どうせ似たような商品なら、価格が安いほうを選びたい」という生活者心理が生じ、購入単価は下がっていく。また、顧客は徐々に競合ブランドにスイッチしていくため、購入頻度も減少していくことになる。
この「ブランド提供価値」を再構築してリブランディングに成功したのが、自動車メーカーのマツダだ。
マツダは、バブル経済後の不況期に大胆な値引き販売を行い、ブランド価値を大きく低下させたことがある。その結果、下取り価格が大幅に下がってしまい「マツダ車を買った人は、買い替え時に再び(値引きが大きい)マツダ車を購入する以外に選択肢がなくなる」という状態となってしまっていた。当時このような「負のスパイラル現象」を揶揄し「マツダ地獄」と呼ばれた。
このような行き詰まりから脱却するために、マツダが選んだ道が「ブランド提供価値」を基軸にしたリブランディングだ。
その後、マツダは「Be a driver.」というブランドアイデンティティ掲げ「既存のルールや常識に縛られない人生のドライバーを応援するブランド」として、ブランドの「自己表現価値」を向上させることにまい進する。
また「マツダデザイン」と称して「ブランドの感性価値」も明確に打ち出している。
さらには「SKYACTIV TECHNOLOGY」をはじめとする環境対応技術を通して「ブランドの実利価値」の向上にも熱心だ。
数ある国産自動車メーカーの中でも、マツダは独自のブランド提供価値を基点にリブランディング成功事例と言えるだろう。
リブランディング戦略の策定と事例-4:ターゲット設定
「ブランドの高齢化」に抗うためには、ターゲットの再設定が必要となる。
ターゲットの再設定を行う場合、多くの場合、ターゲットを若者層にシフトすることが多い。なぜなら「ブランドの新規顧客数<ブランドの離脱者数」となっている状態を「ブランドの新規顧客数>ブランドの離脱者数」という状態に変えるためだ。
この「ターゲットの再設定」でリブランディングに成功したのが、サントリーの「角ハイボール」だ。
日本のウイスキー市場は、1983年にピークを迎えた後に市場が急速に縮小し、2007年には販売量ベースで6分の1まで落ち込んだといわれる。
その原因は、若者層のウイスキー離れだ。ウイスキーは他のアルコール飲料に比べ、価格が高く、中高年層向けという古いイメージが、ウイスキーを若者から遠ざけていた。
そこでサントリーは「ビール離れ」「チューハイや低アルコール飲料の台頭」という若者の変化を味方につけることを決意する。その時に打ち出したのが、アルコール度数も低く抑えられ、食中酒としても飲める「角ハイボール」という飲み方提案だ。
また「角ハイボール缶」などを発売することで「ハイボール」という飲み方を定着させ、ウイスキー市場の底上げに成功した。
このサントリーウイスキーの事例は「ターゲットの若返り」を基点にリブランディングを成功させた秀逸な事例といえるだろう。
リブランディング戦略の策定と事例-5:ブランドの役割(ポジショニング)
ブランドポジショニングとは「生活者がそのブランドに対して認識している独自の役割」のことを指す。いわば「ほかのブランドでは替えられない独自の役割」を構築し、比較されずに「指名買いし続けてもらえる状態」を創り出すことだ。
この「ブランドポジショニングの変更」でリブランディングに成功したのが、資生堂の「シーブリーズ」だ。
シーブリーズは、かつては20代から30代の男性市場を狙っていたブランドだ。ところが近年では競争が激化し、いつしかシーブリーズブランドは高齢化し古臭いブランドパーソナリティを持たれる状態に陥っていた。
そこで、資生堂はシーブリーズの役割(=ポジショニング)を「恋と青春に生きる女子高生のデオドラントブランド」に変更。いまでは女子高校生の定番ブランドとなり、売上は低迷期の8倍にも達したといわれる。
このシーブリーズの事例は「ターゲットの再設定+ポジショニング変更」を基点にリブランディングを成功させた事例といえるだろう。
リブランディング戦略の策定と事例-6:ブランドの特徴
リブランディング戦略が決まったら、その戦略をマーケティングミックスに具現化していく必要がある。その際に真っ先に必要なのが、商品やサービスへの具現化だ。
そして「商品の仕様変更」を含む大掛かりなリブランディングで成功したのが、エスエス製薬の「ハイチオールC」だ。
過去、ハイチオールCは「男性向けの2日酔いの改善薬」として販売されていたがうまうくいかず、売り上げの低迷に陥る。
その際に、エスエス製薬は大英断ともいえるリブランディングを行った。
含有成分の特性に着目し、ブランドのポジショニングを従来の「男性の2日酔い対策」から、一気に「女性の美白対策(しみ・そばかす対策)」 に変更したのだ。
このリブランディングによって、ハイチオールCは女性に飲みやすいように1回あたりの服用量を4錠から2錠に変更し、1瓶あたりの錠数も変えている。また、価格についても1瓶あたりの錠数を減らし、標準小売価格も3,800円から2,200円に引き下げている。
このハイチオールCのリブランディング事例は、ターゲット変更やポジショニング変更はもちろんだが、それらを「商品特徴まで落とし切って具現化する」ことで成功させた事例といえるだろう。
リブランディング戦略の策定と事例-7:ブランドシンボル
冒頭で「見た目の変更」はリブランディングの「手法の一つ」でしかないと解説した。
しかしもし「ブランドが抱えている問題」が「見た目」だとしたら「見た目の変更」は問題解決の有力な手段となる。
日本は歴史の長い企業が多いことから「見た目の古臭さ」で損をしている企業は数多い。特に中小企業の中には「〇〇工業」や「〇〇産業」あるいは「〇〇屋商事」などの社名をよく見聞きするが、事業内容をお聞きするとびっくりするような先端事業を展開していたり、グローバルニッチな企業だったりすることがある。
もし「ブランドの見た目」自体が問題なら、ブランドシンボルの変更は、リブランディングの有力な手段となりえる。
リブランディングの手順と手法-3:問題解決リブランディングのチェックリスト
ここまで「問題解決型ブランディングの必要性」そして「進め方」について解説してきた。そして最後に「問題解決型リブランディング」を有効に機能させるためのチェックリストを紹介して締めくくろう。
もし、以下のすべてのチェックリストに〇が付くなら、リブランディングの成功確率は劇的に上がるはずだ。
- ブランドが低迷している「根本的な要因」は特定できているか?
- ブランドの「何を変え」「何を変えないか」の切り分けができているか?
- リブランディング戦略は「根本的な要因」を解決するものになっているか?
- リブランディング戦略は「社会や市場の変化」を味方につけているか?
- リブランディング戦略は、設定したターゲットのニーズに合っているか?
- リブランディング戦略は、競合ブランドとの競争に勝てるか?
- リブランディング戦略は、各要素間で整合性があるものになっているか?
- リブランディング戦略は、現有リソースで実現が可能か?
- リブランディング戦略は、再現性があり持続可能か?
終わりに
今後も、折に触れて「ロジカルで、かつ、直感的にわかるブランディングの解説」を続けていくつもりだ。
しかし多忙につき、このブログは不定期の更新となる。
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