「いやぁ、事務所(プロダクション)を始めたばかりのころは散々でした。 2ヶ月間の売り上げが2万5000円でしたから・・・。 貯金?そんなものありませんでした。」

-------そう言って笑った吉沢氏が『シスタープロモーション』を設立したのは35歳のとき。今から3年前のことだ。
プロダクションを新規に設立する場合、たいていはマネージャーが担当していた女優を引き連れていくか、先に女優を確保している。 ようするに見通しを立ててから独立するのだ。しかし、吉沢氏はプロダクションを設立してから女優を募集したそうだ。
なんとも無謀なお人である。
さて、そんな吉沢氏は、さまざまな職業を経験してきたバイタリティ溢れる人物だ。若い頃は、 手のつけられないヤンチャ小僧だったそうで、高校時代はケンカ三昧。17歳のときには自立していたそうだ。

「高校時代はバイトとケンカに明け暮れていましたね。だからといって、学校が嫌いだったわけじゃないんです。 好きでしたよ。毎日、行ってましたからね・・・・・」

-------しかし、かなり目立ってしまったのだろう、吉沢氏は退学することになってしまう。 それからの吉沢氏は、好奇心とチャレンジ精神を満たすため、さまざまな仕事を経験していく。 AV業界に転身する直前には、ダイニングバーを経営していた。
同店は50~60代のアメリカを意識した内装と、吉沢氏が自ら腕をふるう料理が評判となり、連日、大盛況だったそうだ。 もちろん、そこには吉沢氏の誠実で明るい人柄が関係していたことは容易に察せられる。
数多くの固定客がつき、店の経営も安定してきた。 本来なら素直に喜ぶべき状況だったが・・・・・・成功してしまった吉沢氏にとっては、物足りなくなっていた。 それと同時に、店に対する情熱が失せ始めていたのだ。
そんなとき、親類に声をかけられた。「アダルト関係の仕事をしてみないか?」と。 ダイニングバーをオープンさせてから5年目のことだった。吉沢氏は二つ返事で、 その申し出を快諾して、ダイニングバーをたたんだのである。
新たな仕事に対しての意欲を持ってのぞんだ吉沢氏だっかが、それは魅力的なものではなかった。 しかし1度足を踏み入れたからには、どっぷりアダルト業界に浸かってみよう!そう決意した吉沢氏は、 数ヶ月のインターバルを経てプロダクションを設立した。

「AV業界に対する偏見ですか?それはありましたね。AVは好きでしたけど・・・・・。 18歳のときに初めてビデオデッキを買ったんですよ。まだ1泊2日のレンタルが500円くらいした時代ですよね。 毎日のように違う作品をレンタルで見まくっていました(笑)」

-------AV好きではあるが、それを生業にするとは多少なりとも抵抗がある吉沢氏だったが、 それでも、なんの人脈もコネもなく、女優さえいないままプロダクションを設立した。 そんな彼を待っていたのは・・・・・・どん底の毎日だった。 が、いつかは成功させる!そんな思いを胸に、ようやく見つけた所属女優の宣材(宣伝材料=女優のプロフィールや写真が張られている)を持って、 AVメーカーや出版社に営業し続けた。
かくして2ヶ月間、働き回ったものの売り上げはわずか2万5000円だった吉沢氏。 そんな彼を優しく支えてくれたのが、当時付き合っていた彼女だった。

「忘れもしません。黙って15万円差し出してくれました。あの時は本当に助かりました・・・・・」

-------そんな吉沢氏に転機が訪れたのは3ヵ月目のこと。 あるフリーペーパーに「モデル募集」の広告を掲載したのがキッカケだった。 名刺ほどだったスペースにも関わらず、多数の応募があったのだ。ここで吉沢氏のアイデアが功を奏した。 連絡先として携帯電話のアドレスを掲載したのだ。 電話だと躊躇されるが、メールなら気軽に応募してもらえる!そんな吉沢氏の目論見が見事に当たったのだ。

「応募してきた女性の中に野宮凛子がいたんです。 彼女との出会いがあったから、今の僕がいるといっても大袈裟ではありません! 何度かメールでのやりとりがあって、面接のときに初めて会ったのですが、 人妻なのにセンスがよくて、すごく格好良かったんです。」

-------今もそのときの光景ははっきり覚えているという吉沢氏が続ける。

「しかも、彼女『自信ないんですけど大丈夫でしょうか?』って、いきなり目の前で服を脱いだんです。 若い子にはないヤル気が感じられました。」

-------その直感は当たった。知り合いに紹介してもらった人妻専門AVメーカー『センタービレッジ』が、 彼女と面接。デビュー作のリリースを即決したのだ。 しかも、その作品がヒットしたのである。彼女が売れると見抜いた吉沢氏の眼力もたいしたものである。 ちなみに、野宮凛子は今も『シスタープロモーション』に所属する女優として活躍。

「戦友みたいな間柄。ホント、食えるようになったのは彼女のおかげです!」

その口振りからは、本当に感謝している気持ちが伺えた。

-------野宮凛子が売れたことをキッカケに『シスタープロモーション』の売り上げは確実に伸びていった。 また彼女に続く女優たちも増え、2年目には第二の野宮ともいうべき、 これまた人妻の今宮せつながデビュー。ヒットを連発させた。

「今宮せつなはデビューから1年半で引退しました。彼女の作品もよく売れて、 さまざまなメーカーさんから声をかけていただきました。」

-------このころになるとAV業界の中で人妻女優に強い『シスタープロモーション』と言われるほど事務所の認知度を高めていた。 そして現在は、野宮凛子とやはり人妻の宮崎彩香が同プロダクションの二枚看板として活躍! 主演したAV作品はことごとくヒットしている。 現在、所属する女優30人のうち8割が人妻・熟女といことについての吉沢氏は、

「もともと熟女好きですし、その趣向が表れてるといってもいいでしょう。 それに熟女は気構えがしっかりしていてヤル気があります。 特にアダルト系業界未経験の熟女は、その傾向が強いのですし・・・・・・ だから、うちはどちらかと言うと未経験者の方を歓迎しています。」

と語る。つまり経験がある熟女は所属させないということなのだろうか? 仕事ができる経験者のほうが安心して現場へ送り出せると思うが?

「経験者の中にもステキな女性はいますが、えてしてスレちゃってるんですよね。 やたらギャラのことを気にしたり、現場で冷めてみたり・・・・・・ 男優とヤレばいいんでしょみたいなことを思ってるんでしょうね。 本当はモニター前の視聴者に見てもらうことを意識しなければいけないはずなのにね。 だから素人のまま、素の反応を見せてくれればいいと言っています。専門用語や隠語を使われるとガッカリもします。」

-------いったん言葉を切った吉沢氏が再び続ける。

「仕事が終わった後に、女の子から『楽しかった』と言ってもらえると嬉しいですね。」

-------吉沢氏が女優に対して持つこだわりが分かる話だ。
そんな吉沢氏のモットーは、ウソをつかない、時間を守る、人に対して誠実であること。 人として当たり前のことばかりだが、実際に守ってる人は意外と少ない。 だからこそ所属している女優は吉沢氏のことを信頼し、慕っているのだろう。
また、仕事の関係者たちの評判も良く信頼している吉沢氏は必ず入れ込みに立ち会う。 これは集合場所や撮影現場に赴き、女優をスタッフに引き渡すことだが、 本来、そうしたことは現場マネージャーが行う。

「目が届かないのがイヤなので、だから自ら動くことにしています!」

-------インタビューの終了時間が迫ったところでプロダクションの売り上げを聞いたところ、

「たいしたことないですよ・・・・・・。 でも、シスタープロモーションを始めるきには500万円の借金があったんですが、1年半で完済できました。 そうそう、去年の夏にようやく念願叶ってベンツのワゴンが買えました。中古ですけどね(笑)」

-------そして、最後に人妻である女優たちへの気遣いを教えてもらった。

「ご主人に内緒の場合が多いので、バレないように守ってあげることが大事です。 また内容によっては(リスクの高い仕事は)、お話をいただいたときに断ることもあります。 だって私は、彼女たちに食わせてもらってる女衒ですから・・・・・」

-------現代の女衒は穏やかさの裏に熱いハートを感じさせる漢だった。

【出典】ぶんか社 PENT-JAPANスペシャル2007年8月号掲載