オーバーロード ワン・モア・デイ   作:0kcal
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Misunderstand

 アインズは前回行った様々な実験は最低限に留め、浮かせた時間で様々なことを指示する傍ら、秘密のノートに思い出せる限りの記憶を書き込んでいた。部屋にはナーベラルがいるが、待機場所として指示した位置から自分が何をしているかは見えないはずだ。これもエ・ランテルで一般メイドの眼を盗み続ける方法を模索していた賜物である。

 

「ううむ……やはり細かい時間経過と日付は全然思い出せないな……大丈夫なのか、これ」

 

 転移直後からシャルティアの事件収束あたりまでは経過日数などもわりと鮮明に思い出せるのだが、その後のモモンとして活動してた頃になるといつ、どこで、何をしていたかいまいち思い出せないのだ。これはアインズが睡眠不要のアンデッドであることが原因だろう。日付に関しての感覚がやや曖昧なのだ。その上、この頃は現地の文字が全く読めず――今でも数字やいくつかの単語しか覚えてないが――暦を意識できなかったこと。モモンとして活動していた期間、長い割には大きな事件がなかったことも原因だろう。

 

(ヘロヘロさんもINしなくなる少し前は今日は何曜日でしたっけ?あれ?じゃあ今日は何日?って毎回言ってたっけ…規則正しい生活って大事だなと思ったなあ。あー今回はもうちょっとこっちの文字も覚えないとな、日記をつけておく必要があるし)

 

 ゆえにこちらの暦や文字も併記して日記をつけておく必要がある、とアインズは考える。もし再び同じ状況に陥ったとすればその日記も消えてしまうのだが、活字として書きだす事で記憶が強化されるのは常識だ。もしロールバックで持ち越せるのが自分の記憶だけなのだとすれば、これは最重要課題の一つといえるだろう。鈴木悟も提出させられた日誌に日々書き込んだことはわりと覚えていたし、後で見返すことでその時は大したことのない情報と思ったことが後々役立つことがあったことを思い返す。

 

「途中からアルベドに丸投げしてたツケだなあ、これは」

 

 前回、転移直後こそ自分で情報を把握しようとしていたが、時間が経過するとともにアルベドが秘書のように対外的な予定の管理をしてくれるようになったので、ついつい任せていたのもよくなかったのかもしれない。対外的なスケジュールを把握しているものが自分以外にもいることは必要ではあるが、それに慣れ切って自分で自分のスケジュールを管理することを放棄していたことは反省しなければ。

 

(シャルティアに関してはこの作戦で大丈夫かな……いや、時間をおいてもう一度見直しだ。これは失敗できない、念には念を入れないと)

 

 一番時間を割いているであろう直近の難題に幾度目かの修正を加え、アインズはノートのページをめくる。

 

(そして魔樹で守護者の連携確認、これちょっと方法考えないとなあ、全員一斉にじゃなくて細かくチーム分けをするとか、誰かを指揮官にするとか。リザードマン……これはそのままでいいか? ハムスケの森を支配してた東の巨人と西の蛇を潰したのもこのあたりの筈だな。セバスが王国でツ、ツ、ツ……ニニャの姉さん拾って王国で大騒ぎになった件は……駄目だ、事件の規模が大きいしエントマの件もある、じっくり考えねばならない、これは後でもう一回時間をとろう)

 

 大きな事件は見開きでページを確保し、思い出したことがあったらその下に書き込んでいく。そうやって書き込みをつづけ、修正した方がいいと思える部分に修正案を書き込むという作業に没頭していたアインズは、アラームの音で手を止める。

 

「……さて」

 

 支度をしなければいけない。インベントリからあらかじめ用意して置いた仮面とガントレットを取り出す。その仮面は黒く、のっぺりとした表面には白字で眼のような文様が書かれていた。名称はマスク・オブ・ホルス。ガントレットもまた黒く、金の装飾が施されており指先が鋭く尖っている。名称はガントレット・オブ・イビル。これらはアインズがかつて、無自覚にとある人物の影響でとある病気を発病中のころ、悪い魔法使いロールプレイ用に自ら作りだしたマジックアイテムである。

 

(これはタブラさんに見せてもらった……ホルスの眼って模様だったか、あれ見て気に入っちゃって仮面のデザインにしたんだよなあ)

 

 出来上がった仮面を装備してタブラさんに見せにいったら「モモンガさん、ホルスの眼って片目のヒエログリフだから両方あるのはちょっと、あと定められた比率があってね、そもそも鳥の頭を持つ神だから仮面の形が」とダメ出しされ、それを聞いていた死獣天朱雀さんが「ホルスの眼は右眼と左眼にそれぞれ別名があり意味がある、ルーヴル美術館には両目が記された壁画が所蔵されているが知っているかねタブラくん」などと言い始めたものだからタブラさんと死獣天朱雀さんで珍しく言い合い、と言っても横から聞いてる分には互いの情報交換にしか見えないような喧嘩を始めたりしたっけ、とアインズは懐かしく思い出す。

 

 ちなみに他のギルドメンバーはおおむね微妙な反応だった。例外としては、ウルベルトさんが片目の方がよいと思うが、ならば逆に額に宝石を付けて……と真剣に検証してくれたのと、るし☆ふぁーとペロロンチーノが腹を抱えて笑いやがったことか。彼らの悪行をしかるべき人物達にリークしたのも、今となってはよい思い出である。

 

 なぜこんなものをアインズが用意したかと言えば、ひとえに前回アインズ・ウール・ゴウンとして対外的に被っていた嫉妬マスクが正直、嫌だったからだ。なぜ自分は毎度毎度、このある意味呪いの嫉妬マスクを用意してるんだろうと思ったことも何度かあるぐらい。そこで、今回は衣裳部屋から宝物殿まで自分の所持アイテムで目的にぴったりなものが無いか探しておいたのだ。ギルドメンバーの反応から一抹の不安はあったが、アインズは自分のセンスを信じることにした。

 

「まあ、こちらの人間は美的感覚がちょっと違うからな」

 

 不安からあらかじめ自分に保険を掛けたアインズは更にいくつかのアイテムを懐に入れ、遠見の鏡を設置。伝言を飛ばしいくつか指示を出すと、セバスに部屋に来るように伝えよとナーベラルに命じたのだった。

 

 

 

 

「なめないでよねっ!」

 

「ぐほぉ!」

 

 不意を打ってエンリ・エモットは眼前の騎士の顔面に、全力で握っていた石を叩き付けるように投げる。鈍く重い音が響き、騎士はたまらず大きくよろけて倒れこんだ。

 

「ぎ、ぎじゃまぁぁぁ!」

 

 後ろから怒声が飛ぶが気にしてはいられない、とにかく森に入って逃げ延びなければ、自分もネムも命はない。今ので稼げた時間は僅かだろう。だが金属鎧をきている騎士は軽装の自分たちより速く長くは走れないはずだし、森の中奥深くに入ってしまえば、土地勘もない相手はそうそう追っては来られないはずだ。

 

「あっ!」

 

 だがエンリの会心の一撃を無にするかのように妹、ネム・エモットが転倒した。急ぐあまり、ネムの走れる速度を大きく超えてしまっていたようだ。騎士が立ち上がってこちらに向かってくる。その騎士を助け起こしたらしい騎士も一緒だ。ざっと周りを見回すが都合よくさっきのような石も太枝すら落ちてはいない。

 

 間に合わない、せめて妹が逃げる時間を稼がなければ、そう思い、エンリは覚悟を決めて転んだ妹と追ってくる騎士達の間に立ち、騎士達をにらみつける。するとエンリの前で騎士達は突然、足を止めて自分を見ておびえるようなしぐさをした。自分にひるんだわけではないだろう、いったい何がー

 

「貴様!一体」

 

<マジック・アロー/魔法の矢>

 

「ごっがっひげぇ!」

 

<ライトニング/電撃>

 

「ほぎゃぁ!」

 

 後ろから声が響くと、直後に騎士達が悲鳴を上げる。1人は光弾で宙に跳ね上げられると、続けて着弾した光弾によって空中でダンスを踊り地面に落ちて動かなくなった。もう1人はものすごい音と光がしたと思ったら、煙を上げて倒れていた。髪をたき火で焼いてしまったような嫌な臭いが周囲に立ち込める。

 

 後ろに何かがいる……先程騎士に追われていた時の数倍の恐怖に襲われるが振り返らないわけにはいかない。エンリは後ろを振り向いた。

 

「怪我はないか……あー、そこの娘よ」

 

 そこには、両目の周辺に奇怪な文様が描かれた仮面をつけ、豪奢なローブを纏い、宝石で煌びやかに飾り付けられた大きな杖をもった、お話の中から抜け出たようなような魔法詠唱者(マジックキャスター)が自分と妹を交互に見ながら、遠慮がちにこちらに話しかけていた。そしてその声を聞いたエンリは助かった、と気が抜けてその場にへたり込んでしまったのだった。

 

 

「怪我をしているな、治してやろう」

「え?」

 

 止める間もなく、魔法詠唱者がネムの膝に水晶細工のような容器から赤い液体を振りかけると、ネムの膝にあった擦り傷があっという間に消えてなくなった。だが傷が瞬く間に治るという事は、魔法のポーションだ。魔法のポーションは大変高価なものだということを、エンリは知人から聞いて知っていた。それを子供の擦り傷などに気軽に使っていい物なのだろうか、とエンリがへたり込みながらさらに力が抜けていくのを他所に「痛くない!すごい!」「そうかそうか、よかったな」「ありがとうございます!変な仮面のおじちゃん!」「え……あ、うむ、そうか……変か……」と謎の魔法詠唱者とネムの会話が進んでいく。

 

 ……妙に魔法詠唱者が、初対面なのになれなれ……親し気にネムに話しかけてるような気がするが、気のせいだろうか?いやいや、もしかして子供が好きな方なのかもしれない。変なことを考える前に、まずは命の恩人にお礼を言わねば。

 

「あの、た、助けていただいてありがとうございます」

「気にすることはない、私は通りすがりの魔法詠唱者だ……魔法詠唱者は知っているな?」

 

 緊張から声がふるえたがちゃんと声は出た。質問の答えはイエスだ、たまに村にやって来る薬師のンフィー……ンフィーレア・バレアレとその祖母リィジー・バレアレが魔法詠唱者だ。あと昔の伝説や物語でもたびたび登場するので知っている。

 

「はい、たまに村を訪れる私の友人の薬師が魔法詠唱者です」

「うむ、ではえーと……これを渡しておこう」

 

 魔法詠唱者がこちらに何かを放って投げる。慌てて受け取ると小さなおもちゃのような角笛が2つ、掌の中におさまった。

 

「それは小鬼(ゴブリン)将軍の角笛というマジックアイテムだ。吹けばゴブリンの兵士が現れ、お前達を守ってくれる。何かあればそれで身を護るが良い……そうそう、護りの魔法もかけておいてやろう。安全になったと思うまで出ないことだ」

 

 よくはわからないが、これを吹くとゴブリンの兵隊さんがでてきて、自分たちを守ってくれるらしい。ぼおっと角笛を見つめていると、自分達の周りに半球状の光の壁が出現した。驚いて目を丸くしていると「なにこれ!すっごい!」「うむ、生き物……獣や魔物を通さない魔法だ、姉と共にここでおとなしくしていなさい(なでなで)」「はい!」驚いて目を丸くしていると魔法詠唱者が踵を返して歩き出したのを見て、エンリは慌てて声を上げる。

 

「ま、待って下さい!」

 

 魔法詠唱者が、慌てた素振りで振り向く。こんな小娘の言動を、そんなに気にかけてくれるのだろうか。血だまりに沈んだ自分の母の姿、ならず者の騎士にしがみついたまま刺される父の姿が浮かぶ。自分たちの村が襲われており、村を救ってほしいという事をこの魔法詠唱者に伝えなくては。

 

「旅の魔法詠唱者様、私たちだけでなく、私たちの村も襲われてるんです!どうか、どうか村を救ってください、お願いします!」

「お願いします!」

 

 自分の様子を見て妹も声をあげ、頭を下げた。祈るような気持ちで待っていると、頭上から先程と同じ……だが強く自信に満ちた声が響き渡った。

 

「よかろう!我が名はアインズ・ウール・ゴウン、この名に懸けてお前達の村を救ってやろう」

 

 エンリは魔法詠唱者が歩き出す気配を感じたが、頭は下げたまま上げなかった。その頬から大粒の涙が流れ、やがて森に嗚咽の声が聞こえ始める。

 

「お父さん……おかぁさぁぁん……」

 

 どのくらいそうしていたかはわからない。だが唐突に至近距離から鳴った金属音が耳を打ち、エンリははっと顔を上げ――森に悲鳴が響き渡った。

 

 

 

 

 

 

「うーむ、介入タイミングがかなり早かったか。わかってると、はやめはやめで行動しちゃうよなあ。まあ大怪我をしなかったわけだし、いいだろう……しかし姉の名前が咄嗟に出てこないとは」

 

 カルネ村とネムの名前はしっかり覚えていたため、予定を立てる際に姉の名前の確認が思考の死角になっていた。名前が出てこなかったことで焦りが生まれ、細かい記憶が思い出せずにさらに焦るという悪循環。そして幼い子供故の正直かつ肺腑を抉る感想……まさか光るとは思わなかった。アンデッドでなく眼球があれば泣いたかもしれない。何か手順を違えていないか、と歩きながら再確認をし始めたアインズは重要なことを思い出した。

 

 

「あ、デス・ナイト」

 

 

 デス・ナイトの召喚を思い出したアインズは思案する。騎士の死体からは少し離れてしまった。戻るのは3分とかかるまいが、今から姉妹のもとに戻るのは、なんか間抜けだし、おかしいしかっこ悪い。デス・ナイトは死体無しVerでいいか、と結論を出したアインズはスキルを使用する。

 

 

 ――中位アンデッド作成 死の騎士(デス・ナイト)――

 

 

 虚空から黒い靄が現れ、人型へと変化した。現れたのはアインズが好んで使う壁用アンデッド、デス・ナイトである。アインズは召喚モンスターとの精神の繋がりを使用して敵騎士たちの情報をデス・ナイトに送り、指示を与える。

 

「ゆけ、こいつらを逃がすな、逃げるものは殺せ」

 

「オアァアアアアア!」

 

 デス・ナイトの眼下に赤い光が宿り雄たけびを上げ、走り出そうとしたその時、アインズの後方――今歩いてきた森から絹を裂くような、女性の悲鳴が響き渡った。

 

「――アルベド!」

 

 即座に悲鳴の原因に思い当たったアインズはデス・ナイトに一歩近づき最速で魔法を発動する。

 

<グレーター・テレポーテーション!!/上位転移!!>

 

 

 

 

 

 アルベドは転移門をくぐり、眼前の状況を確認する。粗末な武装の下等生物(ムシケラ)の死骸が2つ、その前で不快な音を立てている雌の下等生物が2匹。察するに自分の仲間が潰されて、嘆いているというところだろうか。おそらくは、恐れ多くも至高の御方の手によって死を賜ったのだから歓喜するべきなのに……所詮は下等生物か、と呆れつつ生きている雌下等生物を観察する。

 どちらかが魔法詠唱者なのか、生意気にも防御魔法を展開しているようだが、自分から見れば問題にもならない低位の魔法だ。何の障害にもなりえない、そう考えてる間にも不快な音は流れ続けている。ソリュシャンなどはこの音を楽しげに聞くのだろうが、自分には下等生物の声を聴いて喜ぶ趣味はない。

 

(……煩いわね)

 

 潰してしまおうか、と手に持った3F――自らの得物であるバルディッシュ――を意識する。しかしこの場には至高の御方であるモモンガ様が先にいらっしゃってる筈、にもかかわらず下等生物が2匹も生き残っているという事は、戯れに見逃されたのだろうか。それとも何らかの意図をもって生かされているのか……いずれにせよ情報が足りない。

 

(まずはモモンガ様と合流しなくては)

 

 モモンガ様に伝言を、と魔法を発動させかけるが、シモベである自分が至高の御方を見つけられずに伝言で場所を尋ねるのは不敬ではないだろうか?という考えがよぎる。ただでさえモモンガ様には1回……いやそれ以上に無能をさらしているのだ、自身の行動は慎重を期すべきだろう。そう判断し、アルベドは下等生物に近づく。魔法の範囲外、至近距離まで近寄るが、相変わらず下等生物は不快な音を立てるばかりでこちらに気が付かない。感覚器官が余程鈍いのか、と苛立ちこのまま3Fを薙ぎ払いたくなるが我慢して一歩、音が鳴るように踏み出す。

 

 下等生物が身じろぎ、顔を上げてこちらを見て、不快な騒音――悲鳴――を上げた。いやぁいやぁと鳴き声を上げつつも大きい方が、小さい方を引き寄せている。煩い、そして醜い。ここ数日燻っている苛立ちの感情が大いに逆撫でされる。

 

(殺さなければよいかしら、ね)

 

 モモンガ様がこの雌下等生物共を何らかの意図で生かして置いたのだとしても、黙らせるために足の1本を斬り落とすくらい、即座に治せば問題ないだろう。絶対に死なないように足を切り落とすことは容易だし、出血などによる継続ダメージを発生させないことも可能だ。

 

 アルベドはゆっくりと、対象に恐怖を与えるような動きでバルディッシュを構え、振り降ろした。

 

 

 

 

 

 

 エンリ・エモットは突如現れた黒い騎士を見て、自身の口から悲鳴が上がるのを抑えられなかった。それは生物として負の感情を放つ圧倒的上位者を前にしたがための反応だったのだが、そんなことは彼女にはわからない。自分の周囲に先程の魔法詠唱者の護りの魔法があると分かってても、抑えきれぬ恐怖が身を貫いたことで涙と鼻水をこぼし、嗚咽を上げながら妹を引き寄せるのが精いっぱいだったのだ。妹も涙を流し震えている。

 エンリは恐怖の中、自分が弱者であることを憎んだ。今日起こったことは全て自分が、自分たちが弱者で相手が強者だったからだと気が付いたのだ。だが、弱者がこの瞬間に強者になることはあり得ない。目の前の黒い騎士がゆっくりと武器を構え、振り下ろすのから目をそらさぬことだけが、彼女のできる抵抗だった。

 

 

 

 

 

 

 

 転移してきたアインズはその光景を見た瞬間、自らの過ちを正すべく行動した。

 

「デス・ナイト!」

 

 アインズと精神の繋がりを持っていたデス・ナイトは主人の意を汲み、その声が発せられる前、転移とほぼ同時にアルベドに向かって彼の持つ固有スキル――あらゆる攻撃をその身に引き受ける――を発動させつつ、突進していた。自らを待ち受ける運命を知りつつ、身を投げうつ彼の体には主人の使命を果たせる喜びと誇りが漲っていた。

 

 

「オアアアアアアァァァァァ!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「びえぇぇぇぇぇぇん!!」

 

 

 アインズの目の前に、ぺたん座りで泣き続ける全身鎧に身を固めたアルベドと、それをやはり地面の染みに座り込んだまま呆然と見つめるエンリ、怖いもの知らずにもアルベドに近づき「大丈夫?泣かない泣かない」と声をかけ始めたネムがいた。

 

 あの直後、デス・ナイトが発動した固有スキルによって、アルベドの攻撃は軌道を変え突進したデス・ナイトに突き刺さった。デス・ナイトはそのままの勢いでアルベドに衝突し、HPが当然の如く1しかなかったデス・ナイトは虚空に黒い靄をまき散らして消滅した。後に残されたのは何が起こったか全くわからないエモット姉妹、間に合った……と安堵するアインズ。そして自分の手元を見て、アインズを見て、消滅しつつある黒い靄を見て、自分が今何をしたのか理解してしまったアルベドだった。そして今はこの様である。

 

 

「――――――はぁ」

 

 アインズは思いっきりため息をつくと、疲れ切った声で投げやりにスキルを発動させる。

 

 ――中位アンデッド作成、です・ないと――

 

 騎士の死体に黒い靄がとりついてデス・ナイトが現れるが、誰もそれを見ておらず、気にしていない。そんな状況の中、新たに生み出されたデス・ナイトはどこか困ったように頭を動かした後、気まずそうに主人の命令を果たすべく村へと向かった。

 




多数のご感想、お気に入り登録及び誤字報告ありがとうございます。修正もできてると思います。今後ともよろしくお願いいたします。


ついに!カルネ村に……ついてませんね、これは。次回こそカルネ村です。







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