オーバーロード ワン・モア・デイ 作:0kcal
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「……ありえん……」
アインズは衝撃のままに呻くように呟く。そんな筈がない、と脳内で叫ぶ。自身がユグドラシルより転移してから約1年ほどの月日が経っている、もし今がユグドラシルから転移してきた直後だとするとあの日々は何であったのか、夢あるいは幻だったのか、それともやはり自分は何らかの魔法やワールドアイテムの影響下にあってこの光景を見せられているのかいや、もしかしたら最初からこの世界そのものがアインズ、いや鈴木悟の――――――――――――――
「何か問題がございましたか?モモンガ様……失礼いたします」
アインズの動揺を察したのかアルベドが先程の問いを繰り返しつつ、アインズのそばに寄る。そのアルベドの行動で思考のループに陥りかかっていたアインズは我に返る。
「何かございましたか?」
今度はアルベドが顔を寄せて問いかけてくる。あの時と同じくふわっと良い香りが漂う…そういえば転移直後もどんどんと距離を詰めてきて近い近いと思ったものだ……そう考えてる間にアインズに冷静さが戻ってくる。
「アルベドよ、しばしそこに控えよ」
「かしこまりました」
アインズが片手を上げて命ずると、アルベドは再び元の姿勢に戻る。それを見届けアインズは現状を整理しはじめる。まずアルベド及びセバスは間違いなく自分の事をモモンガと呼んでいる。これにより先程のユグドラシルの転移直後ではないかという考えが補強されるが確認のためにいくつか質問を行う必要がある。
「セバスよ、お前にいくつか聞きたいことがある……答えよ」
「何なりと」
セバスは真剣な面持ちで頭を上げ、射貫くような眼でこちらを見ている。思えば転移直後はこの視線が怖かったな、そう思いつつ問いを口にする。
「このナザリック大墳墓におけるお前の役割は何か」
「この身は至高の御方々よりナザリック大墳墓のメイド及び使用人を束ねる家令を任じられております」
「このナザリック大墳墓より外に出たことはあるか?」
「大墳墓内の家令を申し付かっておりますれば、至高の御方々の命なくばナザリック大墳墓の外に出ることはございません、外に出る命を賜ったことはないかと」
「外の情報で知っていることは?」
「ナザリック大墳墓の周辺は沼地であり周辺には野生のモンスターが存在すること、外には至高の御方々と同格の敵対するものが存在することくらいしか外の世界のことは存じません」
「ふむ……」
これで現状が転移直後と同様の状況であることはほぼ間違いなくなった。あるいは遥か時の流れの果てに自身が記憶を失ってしまいたまたま状況が合致しただけで自身の認識より未来である可能性も考えたがその可能性はなくなったわけだ。そう思いつつ視線をアルベドの方に向ける。
「アルベドよ、現在ナザリック大墳墓に何か異常はないか?」
「はっモモンガ様……ナザリック大墳墓内に異常は見られません、すべて正常かと思われます」
声をかけられたアルベドが一瞬歓喜の表情を浮かべ翼を震わせ、一瞬瞑目した後、真剣な表情で報告を行う。転移直後は混乱もあって気が付かなかったが今見てみるとこのころのアルベドは感情表現を自身の立場をわきまえているのか、かなり抑えていたのだなと考える。アインズの認識上の最後とはえらい違いである、どうしてああなった……あーやめておこう、今はもっと考えるべきこと、やるべきことがある。まずは色々な意味で確認作業を進める必要がある。セバス・アルベドとの会話により普段の調子を取り戻したアインズは言葉を続ける。
「うむ……アルベド、セバス、プレアデス達よ聞け、我々のナザリック大墳墓は今現在原因不明かつ不測の異常事態に巻き込まれている」
アルベドとセバスの顔に驚愕と苦悶の表情が一瞬あらわれるが、プレアデスは真剣な表情のまま続くアインズの言葉を待っている。
「ゆえに――セバスはナザリック大墳墓を出て周辺の情報を1……いや2時間の間収集せよ、範囲はナザリック大墳墓より半径1㎞に限定。知的生命体と遭遇した場合、情報収集のため交渉を第一とし戦闘行為は極力避けよ。」
「はっ」
「セバスの補佐としてソリュシャン、エントマは同行しセバスの指示に従え、もし戦闘に入った場合ソリュシャンはナザリック大墳墓に即時帰還。エントマは戦闘に突入した場合、手段はまかせるがソリュシャンの戦闘離脱を支援しつつ戦闘に入ったことをナザリックに報告せよ……ではゆけ」
「「ははっ」」
すさまじく真剣な表情のセバスとソリュシャン、エントマが立ち上がって一礼し即座に行動を開始する。もし、今が本当に転移直後と同じ状態であるならばナザリック大墳墓周辺には草原が広がっているはずだが、まだそうとは限らない。またあの時はあくまで万が一の際に情報を持ち帰らせるためにプレアデスを1人同行せよと命じたが、プレアデスの特性を把握している今は情報収集能力と帰還時の逃走・隠密能力を保有するソリュシャンと蟲、幻術と戦闘離脱時のかく乱及び支援能力を保有するエントマの同行を指示する。
「ユリ、ルプスレギナ、ナーベラル、シズの4人は第9階層に上がり、第8階層以上より侵入者が来ないかどうか警戒にあたれ……ゆけ」
「「「「はっ」」」」
残るプレアデスも命を受けるとともに一斉に立ち上がり、一礼すると玉座の間より出て行った。それを見送りアルベドに視線を移す。
「アルベドは各守護者・しもべにナザリック内部に異常がないか確認するように指示を出せ。各階層守護者は守護階層の情報を整理し2時間後に第6階層アンフィテアトルムに集結するように伝えよ。アウラ、マーレには私が赴き直接用件を伝える。第4階層、第8階層に関してはアルベド、お前が情報を整理するのだ。よいな」
「畏まりました。復唱いたします。6階層守護者の2人を除き各守護者に内部の情報を収集し2時間後に第6階層アンティフィアトルムに集結するように伝えます。第4・第8階層に関しては私が守護者に代わり情報を整理いたします。」
「よし、ゆけ」
「はっ……先程の失態を払拭すべく誠心誠意努力し行動いたします」
「え?」
アルベドの言葉の意味が呑み込めず、変な声を出してしまったが悲痛な雰囲気をまとったアルベドは聞こえていないのか足早に玉座の間を後にする。失態?何が?と考えるがアルベドがなにが失態と感じたのか思い当たらずいったんその問題を棚上げする。なにせやること考えることはあの時と同じだけあるのだ。
「それにしても……」
肺も喉もないがアインズの口から重いため息が漏れる。そしてしばし玉座の間を焦点を定まらずに眺めていながらぽつぽつと呟き始める
「あの日々が……アルベド、シャルティア、アウラ、マーレ……デミウルゴス、コキュートス……ヴィクティム……お前たちと過ごした日々が……」
守護者たちだけではない、セバスやプレアデス――ユリ・アルファ、ルプスレギナ・ベータ、ナーベラル・ガンマ、ソリュシャン・イプシロン、エントマ・ヴァシリッサ・ゼータ、シズ・デルタ――ペスト―ニャや41人のメイド達、奴……を含む他のNPC達との記憶がアインズの脳裏によみがえる。それはまるでかつての友との日々のようにまばゆく輝いていた。
「いつの間にか……お前たちとの日々がこんなに大切な……彼らとの日々に勝るとも劣らぬ宝石になっていたのだな……なのに……」
言葉を切ったアインズは怒りの炎を目に宿し先程の時とは比べ物にならぬほどの力を込めて、アインズは玉座に拳を叩きつける。玉座が破壊されたのではないか、それほどの音が玉座の間に響き渡った。そのまま拳を震わせアインズは呪詛の声を上げる。
「今は……今はまだわからないが……もしもこれが……」
この状況に自分を追いやったのが、NPC達との日々を奪ったのが誰かの悪意だったのならば――――
「この世界に存在するすべての苦痛を永遠に与え、未来永劫自らの行為の愚かさを思い知らせてやる……」
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