W杯前の5月上旬、サッカー日本代表の本田圭佑選手が、分厚い学術書『負債論』(以文社、2016年)を「最近読んだお気に入りの本」とツイートして話題になった。
一方、海の向こうイギリスでは、その著者・社会人類学者デヴィッド・グレーバーの新刊書が話題になっている。
その本が、5月中旬に出版された『Bullshit Jobs: A Theory(クソどうでもいい仕事-その理論)』(邦訳は未刊行)だ。
グレーバーは、2013年に本のもととなる「クソどうでもいい仕事という現象」(1)という題の小論を発表し、インターネット上で大評判になった。
このエッセイは10ヵ国語以上に訳され、掲載したウェブサイトへのアクセスは1日で数百万に達したという。
「Bullshit(ブルシット)」は、英語を話す人々にとっては下品なののしり言葉で、「くっそどうでもいい!」「うそだろ!」といった感じで使われる。「bullshit jobs」という語感のキャッチーさもバズった理由だろう。
グレーバーはどんな仕事を「クソどうでもいい」仕事だというのだろうか。
グレーバーの主張はこうである。
1930年に経済学者ケインズは、20世紀末までに技術発展によって、イギリスやアメリカのような国では週15時間労働になるだろうと予言した。1日に3時間だけ働けばいい。
だが、そんなことは決して起こらなかった。テクノロジーはむしろ人々をもっと働かせるために利用され、無意味なくだらない仕事が次々と生み出された。
20世紀に増えた雇用といえば、専門職・管理職・事務職・販売職・サービス職。とくに管理系の仕事が増え、金融サービスやテレマーケティングなど新しい情報関連産業が創出された。また、会社法部門、大学の管理部門やヘルスケアの管理部門、人事、広報などの部門が拡大している。
グレーバーによると、これらが「ブルシット・ジョブ」なのだ。こういった仕事は、やっている本人たちも何の役に立つかわからない。
まるで誰かが、私たちを働き続けさせるためだけに無意味な仕事をつくり出したかのようだ。それなのに、このおかしな状況についておおっぴらに話されることはなかった。
実際に、イギリスの有力な調査会社YouGovが調査を行った。
その結果、労働力の37%が「社会に対して意味のある貢献をしている」と思っていないことがわかった。50%は「自分の仕事が有用だ」と考えていて、13%が「わからない」と回答した(2)。