楽天大学学長と仲山考材代表取締役を兼任する仲山進也氏 予防医学研究者の石川善樹氏が、自らの価値を世に問い続けている人々の思考法に迫る対談シリーズ。今回は楽天の正社員でありつつ、自ら立ち上げた会社も経営する仲山進也氏に聞く。2007年に楽天でただ一人、兼業自由、出社の義務もないフェロー風正社員となり、社内外の様々な人たちと新たなビジネスを創出してきた。企業に属しながら、自由に働くとはどういうことか、自身の経験に基づいて語ってもらった。
■夢中で遊ぶように仕事をすると人が集まってくる
石川 仲山さんはこのほど、「組織にいながら、自由に働く。」(日本能率協会マネジメントセンター)という著書を出版しました。タイトルはご自身の働き方そのものですね。楽天のような大組織で、どのように今のポジションを築いたのですか。
仲山 シャープに2年いて、1999年に楽天へ移りました。インターネットショッピングモール「楽天市場」ができて2年ほど、社員はまだ20人くらいの頃です。当初はEC(電子商取引)コンサルタントとして、楽天市場に出店する店長さんと一緒に「どうすればネットでよい商売ができるか」と試行錯誤するのが仕事でした。そのうち、ネットショップ運営の知見やノウハウがたまっていき、三木谷浩史社長(現在は会長兼務)が「楽天市場版のMBA(経営学修士)をつくりたい」と考えるようになります。こうして店長さん同士が学び合える場として、00年に楽天大学という教育事業を始めることになり、私が立ち上げを担当しました。
石川 仲山さんは、店長さんにどんなことを教えているんですか。
仲山 「店長さんに教える」というより、「店長さんと遊ぶ」という方が近いです(笑)。楽天大学をつくるにあたって、三木谷社長のオーダーは「小手先のテクニックというより、人はなぜモノを買うのか、といった本質的なフレームワークをつくってほしい」ということでした。お客さんが最初はほしいと思っていない「卵」や「ところてん」をどうやったら買いたくなってもらえるか、みたいなことを店長さんたちと一緒にディスカッションしたりしていました。そんな中で、「夢中で遊ぶように仕事をしていると、新しい価値や魅力が生まれて自然に人が集まってくる」ということを体感しました。商売が軌道に乗ったお店とは、チームビルディングや理念づくりなどへと「遊び」の幅を広げていきました。
石川 仲山さんは楽天大学の学長として講座をつくったり、講演したりする業務と、他部署との調整や部下を管理するマネジャー職を兼任していた時期を経て、学長職に専念する道を選んだそうですね。
仲山 マネジャー業務だけで手いっぱいで講座をつくる時間が全く取れない割に、マネジメントとは何かをわかっていなくて部署の雰囲気もよくないという、誰もハッピーでない状態でした。それを解消するため、別にマネジャーを置いてほしいと「白旗宣言」をしました。それ以来、学長といいながら部下はいません。社内の人からは、組織のレールから外れた変な人とみられているようです(笑)。
楽天大学
2000年に仲山氏が中心となって立ち上げた、楽天市場に出店する店舗向けの教育事業の名称。楽天内の組織で、学校法人ではない。主にオンライン講座を通じて、電子商取引(EC)のほか、チームづくりや理念づくりまで幅広く店舗を支援する。
仲山考材
2008年に仲山氏が設立した株式会社。EC経営者や運営者など主に中小企業向けに、オンラインで電子商取引やチームづくりなどを学ぶ講座などを運営。考えるための素材(考材)やきっかけを提供して、人やチームの成長を応援(Empowerment)する。楽天との資本関係はない。
石川 いえいえ、そんなことはないでしょう。信頼されているからこそ、自由に動けるポジションにいられるんじゃないですか。楽天社員のまま、サッカーのヴィッセル神戸の運営にも関わったんですよね。
■大事だけど漏れ落ちてしまう仕事を拾う
石川善樹氏仲山 04年に三木谷社長がヴィッセル神戸のオーナーになったとき、ノリで「サッカー好きなので神戸行きたいです」と言ったら、本当にお手伝いとして派遣されることになりました。当時は三木谷さんの個人会社がオーナーになっていて楽天のグループ会社でもなかったので、人事発令もなくイレギュラーな形でした。
石川 そういうイレギュラーになる理由について、仲山さん自身は、ほかの社員と何が違うと思いますか?
仲山 組織が大きくなって機能分化していくと、その境目から漏れ落ちてしまう仕事が出てきます。誰の担当でもないけれど大事な仕事が、会社のあちこちに落ちている。僕はそれが気になって拾ってしまいます。
石川 具体的に言いますと?
仲山 目先の売り上げを取るために安売りに走るような商売は、社内のKPI(重要業績評価指標)としては評価されますが、長い目で見て、お店にとって「よい商売」とはいえなかったりします。楽天市場の存在価値って、もっと本質的な「中小企業を元気に」というところなんです。
例えば、ある地方のお米屋さんがあります。店長は60代で、自分の代でお店は畳むつもりでいました。上京した息子さんに、電話でパソコン操作を聞きながら、人さし指で一つひとつキーを押してサイトをつくっていました。最初は全然売れなくて、でもがんばっているうちに売れるようになって、商売が軌道に乗ったころ、息子さんが後を継ぎに戻ってくることになったのです。息子さんが継ぐことにしたのは「電話でおやじの声がどんどん楽しそうになってきたから」というんですね。
石川 いい話じゃないですか。売り上げが増えるだけじゃない。商売ってこんなに面白かったんだと思えることこそが、楽天市場の価値だというわけですね。
仲山 そうです。三木谷社長のいう「エンパワーメント」です。全国の中小企業が楽天市場に出店することで、見えなかった自社の価値や魅力に気づいて、お店にファンがつき、売り上げが伸びて元気になる。店の売り上げが伸びれば、楽天の収益にもつながる。このコンセプトが僕は大好きで、ここさえブレなければ店長さんたちと遊んでいても、長い目でみて楽天のためになると思っています。
石川 今のお話で思い出したのですが、経営学者のピーター・ドラッカーは主に大企業を念頭に置いて、組織に対する貢献には3つの種類があると説いています。1つは直接的な貢献、これは売り上げや利益ですね。2つ目が人材の育成。そして3つ目が価値への貢献だと。仲山さんの仕事は、この3番目なんだと思います。その企業しか提供できない価値をつくる。そうすれば、キャッシュは後から付いてくる。
仲山 そう言ってもらえるとありがたいです。組織が大きくなると、やっぱり「直接の貢献」以外は評価されにくくなると思うので。あと、目新しいことをやると評価されやすいので、いつのまにか木の幹の部分が忘れ去られて、「ニュース」を求めて枝葉の部分に関心が向きがちになる傾向があると思っています。だから手薄な幹とか根っこのところをフォローしに回りたくなっちゃう。単に混んでいるところが苦手なので、みんながやり始めたことは自分がやらなくてもいいやと思ってしまうだけかもしれませんけど。
■分断した組織をつないで価値を生む
仲山進也氏(左)と石川善樹氏石川 キャッシュを効率よく生み出すだけなら組織があればよいのかもしれませんが、現在は顧客の価値がどんどん多様化していますから、組織の力だけではない個人の力が大切になってくるのは必然のように思えます。
仲山 そうですね。最近、いろんな会社の人と話して感じるのは、やろうとしている仕事に対して組織の規模が大きすぎないか、ということです。大きな工場が必要な仕事だったら会社を大きくする必要がありますけど、この変化の時代に新規事業を立ち上げるなら熱量の高い小さなチームのほうが適しています。むしろ、組織が大きすぎるデメリットのほうが多くなっている。「大きいことはいいことだ」という価値観から、「小さいこともいいことだ」という価値観も大事にしたほうが、仕事も楽しくなって成果も出やすくなる気がします。
石川 言われてみれば、その通りですね。
仲山 僕は「チームビルディング」や「共創」が得意分野で、本も出させてもらっているのですが、その中で「チームとグループの違い」について考えてみました。例えば、サッカーの日本代表チームとは言うけれど、日本代表グループとは言わない。グループリーグとは言うけど、チームリーグとは言わない。チームワークとグループワークはどっちも言うけど、意味が全然違う。ぼくらは無意識に使い分けていて、どうやらグループよりチームのほうが強そうだと(笑)。その点、グループ会社とは言うが、チーム会社とは言わない。規模拡大が目的化した結果、グループ会社間のシナジーが効いていなくて、チームになれていないことを如実に表現しているような気がするわけです。
石川 確かに、なぜこの会社がこのグループなんだろうという例はありますね。
仲山 最近は一つの会社の中ですら、部署間のシナジーがないことが少なくないです。部署と部署の間にすきまが広がっていて、価値を生み出す因果関係プロセスが断絶してしまっていたりします。そこでいろんな部署のまわりをウロウロしながら、分断された組織をつないでいくようなスタイルの価値創造ができると、自由な働き方へ近づいていくのかなと思います。
石川 仲山さんは、会社の組織図に載ってるんですか?
仲山 載ってません。載せるとしたら、遠足の日に休んで集合写真の右上に丸く顔だけ写ってる人みたいなポジションだと思います(笑)。
石川 そういう「何をやっているかわかりにくい人」を受け入れる枠組みを整えることが、これからの企業には必要なんでしょうね。
仲山進也
1973年北海道生まれ。慶応義塾大学法学部卒業後、シャープを経て99年に楽天入社。2004年ヴィッセル神戸の経営に参画。07年、楽天で唯一のフェロー風正社員(兼業自由・勤怠自由の正社員)となり、08年に企業の成長支援を手掛ける仲山考材を設立。著書に「あの会社はなぜ『違い』を生み出し続けられるのか」(宣伝会議)など。
石川善樹
1981年広島県生まれ。東京大学医学部健康科学科卒業後、ハーバード大学公衆衛生大学院修了、自治医科大学で博士(医学)取得。「人がより良く生きるとは何か」をテーマに企業や大学と学際的な研究を行う。専門分野は、予防医学、行動科学、計算創造学など。
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