102話 謁見する魔物達
俺が魔王に就任し、一ヶ月半経過した。
闘技場の建設は順調である。
ゲルドの指揮は素晴らしく、順調に計画通り進んでいる。
更に、ドワーフ三兄弟末弟のミルドが俺の設計図に手を加え、美術的価値すらも持つ美麗な建築物へと様変わりしていた。流石は芸術家、見事なものである。
これならば、各国の王族も満足する出来栄えになりそうである。
俺には芸術性が乏しいから、非常に助かった。
ミルドの付加した部分に関しても、お披露目ついでの武闘会開催には、十分に間に合いそうだ。
俺も携わりたい気持ちはあったが、そんな暇が無くなったのである。
俺の就任を祝う、或いは見極める為に、各種族の代表が続々と
彼等は魔王への忠誠を誓い、加護を得る。
だが、魔王にその実力が無いならば、自分達の繁栄どころか滅亡への道を突き進む事になってしまう。
今までジュラの大森林は、ヴェルドラの絶大な加護の下に不可侵領域を守ってきた場所である。
その不可侵領域を支配下に治める、新たな魔王。
しかも、成り立て魔王だという。各種族の代表が不安に思うのも、無理の無い話なのだ。
今日も今日とて正装して、祭られる俺。
スライムの姿で。
最早、置物のようであり、神棚に飾られた鏡餅のような扱いになっている。
分身を置いておいたらいいんじゃね? と言ってみたのだが、笑顔で却下された。
こういう時の幹部達の連携は、素晴らしいものがある。
俺を除け者にして、思念リンクしてるとしか思えない。
仕方なく、飾り付けられて身動きも取れない(わざわざその為だけに、スライム用の
こんな事をしなくてもいいと思うのだが、威厳があるように見せるのが大切なのだと……
つまり、普段のスライム
まあいいけど。
しかし、面白いのは各種族の反応である。
する事もないので、置物らしく黙って口上を述べる魔物達を眺めているのだが……
その反応は三つに分かれるのだ。
崇拝、観察、恐怖である。
観察する者共の中に、ほんの僅かに見下す者もいるようだが、これは都合が良いかもしれない。
問題は、怯える者達なんだよな。
そう思いつつ、謁見に応じているのだ。
一つ目の、俺を敬い信奉する者達は、以前俺と関わりがあった者達である。
ガビルの父親である、
「お久しぶりで御座います、リムル殿、いや魔王リムル様。この度は御目出度く、ワタクシどもも……」
ガチガチに緊張している様子だったので、
「あ、お久しぶりです、首領。堅苦しく言わなくてもいいですよ。
同盟でもお世話になってますし、今後とも宜しくお願いします」
と、言葉をかけた。
その一言で色々な不安や心配が解けたのだろう、本来の豪胆な性格に戻ったようだ。
「いやいや、かないませぬな、リムル様には。ガビルめは、お役に立っておりますか?
本当に、どうしようも無い息子でして……」
建前上は破門扱い。おおっぴらには言え無い事を思い出したようだ。
生真面目な人物である。だが、そこが好感が持てる所だった。
ふと思い立ち、
「そうそう、首領。"アビル"と、名乗る事を許します。ガビルの父だし、名前無しは不便なので」
と、久々に名前を付けた。
父という部分を強調し、そろそろ勘当を解いてやれ! と、暗に諭すのも忘れない。
俺の思いに気付いたのか、感謝を込めて頷く首領。いや、アビル。
「御意! この名に誓って、リムル様への忠誠、片時も忘れませぬ!!」
そう、力強く頷いて、その場を後にした。
ガビルの所に案内するように、控えているリグルに目配せする。
リグルは頷き、アビルを連れて去って行った。
ちなみに、アビルは
加護と若干の力を与えたのみなのだが、この名付け、軽々しく行うのも問題だ。
デスマーチは勘弁して貰いたいし、何より意味なくするものでもない。
今回、首領に名付けたのは、ガビルの働きへの感謝の意味もある。
今後は気軽に名付けも出来ないだろうけど……
続いて、
俺達を信頼しているのだろう、護衛もつけていない。
その数名は、子や孫達。
食料事情の改善は当然、暮らし向きも良くなったとの事。
何より、子供が生まれ、その子達も
子供が
一代限りの変異が当たり前だったのだそうだ。
出生率が下がった分、育児に力を注げるようにもなるだろう。今後の労働力として、大切に育てるように言い聞かせる。
子は宝、それは世界や種族が違っても、変わること無き真理だろうから。
心配だった、名前の継承も上手くいってるらしい。
適当につけてる分、ややこしそうだけど、本人達にとっては自然な事のようだ。
良かった。まあ、慣れかも知れないな。普段から、その名で呼べば定着するのだろう。
元々名前無しでも問題なかったのだし、俺の心配し過ぎかもしれない。
ジュラの森大同盟の構成メンバーとして、最後の一角。
まあ、動けないから、実際に来てくれたのは
相変わらず、大きな魔力を感じる。
「お久しぶりです、リムル様。魔王襲名、おめでとう御座います」
気兼ねするでもなく、挨拶してくれる。
俺もその方が助かるというもの。お互いに近況を話し合った。
今現在、目だった不都合は無いそうだけど、移動に不便なのが目下の悩みらしい。
実際に、目の前のトレイニーさんは、身体が薄くなっている。
「それもこれも、妖精女王が転生してしまわれて、我等は置いてけぼりだからなのです。
下手に移動も出来ないので、こればかりはどうしようも……」
気になる事を言いましたよ?
妖精女王……いや、まさか、な。
あのちびっ子が、そんな大それた者の筈……
俺の脳裏に、ラミリスの無邪気な笑い顔が思い出される。
「へ、へえ。妖精女王ですか。名前とかって判ります?」
「ええ、偉大なるラミリス様です。
何千年も前に、邪悪な者共の調停を行い、それ以降お姿がお隠れになり……」
聞かなかった事にしたい。
俺のイメージと、トレイニーさんのイメージ、絶対に一致しないだろう。自信がある。
だが……。ずっと、待っているのだろう。
その妖精女王が、魔王の一柱になっているなんて、思いもしないのだろうし……
知ってて俺の配下に加えるのも、如何なものか。
「あの、その人物に心当たりがあるんだけど……」
「え? それは、本当ですか!?」
物凄い勢いで反応された。
紹介するだけしよう。あのちびっ子を見て、幻滅する可能性もある。あるけど、ラミリスは案外大物だ。
そんな程度でへこたれはしないだろう。
俺は意を決し、トレイニーさんをラミリスに会わせて見る事にしたのだ。
結果。
大泣きし、感動するトレイニーさん。
マジで、ラミリスが妖精女王の生まれ変わった(?)姿だったようだ。
「ああ、変わりなく美しく、気品あるその姿……」
感涙に咽びながら褒め称えるトレイニーさん。
一体誰の事を言っているのか、俺には良く判らない。
特に、気品とか、ラミリスの何処を探しても見当たらないんだけど……
「聞いた!? ねえ、ちょっと今の聞いたでしょ! アンタ、アタシの事を見直したでしょ?」
鼻高々で、俺に自慢してくるラミリス。
ウザイ。
俺の周りを飛び回り、
「どーよ!」
という感じで、大喜びしている。
まあ、いいか。
仲間に巡り合えるのは、嬉しいものだろうし。
一頻り喜びあい、ひと段落した所で、俺はまたしても思いつきを口にした。
「どうせなら、迷宮内に引っ越して貰ったらどうだ?
あそこからなら、
「あ! それ、いいかもよ?
階層の拡張は出来るし、空いてる階層あるから、
俺の提案に頷くラミリス。
何より、迷宮内では配下は不滅。本来の主に仕えるのが良いだろうし、俺はそう提案してみた。
「しかし、ジュラの森に生きる者として、リムル様の傘下に加わるべきでは……?」
トレイニーさんは、生真面目にそんな心配をしているけど。
実際の所、迷宮設置を許した時点で、そこは治外法権も発生する。
迷宮内部は、俺の管理とラミリスの管理、両方発生する特殊地帯になるのだ。
その事を説明し、今なら移住を不問にすると付け加えた。
トレイニーさんは迷っていたが、取り急ぎ戻って、
瞬間移動で戻って行った。
流石は実体を具象化して操る程の魔力の持ち主である。便利な能力をお持ちだ。
空間移動に似てるけど、発動が早い。俺の能力で解析しているので、その内使えるようになるだろうけど。
三日後、速やかに相談を終えてトレイニーさんが戻って来た。
即座に謁見を申し込んで来て、開口一番、
「我等、
許可をお許し願えませんでしょうか?」
そう願いを述べて来た。
当然、許可を出す。
「ありがとうございます!」
そう言って、喜ぶトレイニーさん。
しかし、問題はどうやって大木の移住を行うか、という点だ。
だがそれも、案外あっさりと解決した。
ラミリスが、迷宮の扉を向こうで出して、そのまま中に移動して貰ったのだ。
こうして、思わぬ所で
だが、この事はラミリスの配下の増加を意味し、迷宮内部の安定化にも繋がる事になる。
魔素と空調の管理が、格段にやりやすくなったのだ。
そして、数が少ないけれども
95階層を
こうして出来たのが、樹木生い茂る
もっとも広い面積を持つその階層は、直径5kmの真円であった。
そして、96階層へといたる扉の周辺に、最後の
ここでしか買えない、貴重な武器防具を店先に並べた武具店も営業させる。
客は滅多に来ないだろうけどね。間違いなく、趣味の店である。
その場所を囲むように、
魔素濃度が濃いお陰で、皆活き活きと生活出来るようになったそうだ。
というより、向こうから望んで役立ちたいと言って来たらしい。
思わぬ所で協力者が得られたものである。
後に、この階層は、一つの森林型都市を形成する事になる。
その名を、"
その場所に辿り着ける者にしか、恩恵を与えぬ町。
だが……それはまだ未来の話であり、今の俺にはそこまでの想像は出来ていないのだった。
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さて、二つ目に俺を観察する者達だ。
この者達は、ジュラの大森林の上位種族の者達である。
内訳は、
誰も住んでいないと思っていたのだが、上位種族たる彼等には苦にならぬ環境だったようだ。
長老の代理として、孫娘のモミジという少女がやって来て、俺に挨拶の口上を述べた。
鼻が長いから
目立つのは、若干、肌の色が赤みがかっているくらいか?
というか、男も思っているほど長くない。余り長いと色々邪魔になりそうだったし、そんなものかもしれない。
ただ、この種族。驚く程プライドが高いのだ。
開口一番、
「ふん。低級なスライム如きが、我等の上に君臨する時代が来るなんてね。
笑えない冗談だわ……でもまあ、仕方ないでしょう。
この森を支配する事は認めて差し上げます。ただし、我等への干渉は許しません」
と、幹部達も居る前で言い放ったのだ。
ピクリ、とシオンが反応しかけたけど、驚く事に自重した。
何らかの変化が彼女の中で起きたらしく、小さな事には目くじらを立てなくなったのだ。
いい傾向なのだが、ちょっと不気味でもある。
纏めて爆発したりしなければいいんだけど。
シオンが行動に移すのを止めたのを見て、
「なるほど、
其方への干渉を行うなという事ならば、此方も其方への支援は行わないが、それで良いのだな?」
ベニマルが代表して問いただす。
前も言った通り、魔王の支配を受けないなら受けないでそれで良いのだ。
魔王によっては、不敬だから滅ぼすという行動に出る者もいるだろうけど、俺はその辺は寛容だ。
というか、面倒だ。
なので、そういう反応をする種族は好きにさせると皆には伝えている。
ベニマルはその事を受けて、そう確認したに過ぎない。
「ええ、それでいいわ」
その返事を聞いて、俺は頷く。
そして、ベニマルの話を引き継いで、
「判った。じゃあ、お互いに不干渉でいこう。
ただし、山に住みついた
食料などの取引は好きに行うという事でいいか?」
「そうね。山の恵みに対しての権利は主張しない。
鉱石に関しても、実際我等には不要なモノだしね。
我等は干渉を嫌う、ただそれだけよ。
我等を軍事目的で招集しようとしないならば、それでいいわ」
「了解。それについては、問題ない。軍事力として、君達に関わらせるつもりはない。
軍は、志願制が望ましいと考えているんでね。
話は終わりだ。
ただまあ、せっかく遠くまで来てくれたんだし、ゆっくりして行ってくれ
この国の強者が、力試しをする大会を予定している。
見世物というか、娯楽にもなるだろうし、滅多に見れるものじゃないと思う。
ぜひ楽しんでいってくれ」
そんな感じで話を終えた。
志願制という言葉が聞きなれなかったのか、少し驚いた表情をしていたのが印象的だ。
友好的に交流出来るのが望ましいし、せっかく来たのだから武闘会でも見て、この国を楽しんでから帰ってくれたらいいと思ったのだ。
モミジという
「ふふ。スライムに仕える者がどの程度のものか、見せて貰うわ。
どうせ、魔王になったのも運が良かっただけなのでしょうし、ね」
そんな事を抜け抜けと言い放って、その場を去って行った。
だが、その言葉は俺の申し出を受け入れたという意思表示。素直じゃない性格なのかもしれない。
モミジが去った後、
「我慢しましたが、アレは言いすぎでは?」
と、シオンが言い出す。
「だよな、ちょっとカチンと来たよ、俺も」
と、ベニマルまで。
まあ、上位種族と言うだけあって、Aランクには到達していた。
確かに、強いのだろう。だからまあ、不干渉でいたいというならば、無理に謙る事も無いだろう。
そう思ったので、
「あんなもんじゃねーの? 配下になりたい訳でも無いらしいし、敵対のつもりもないそうだし。
むしろ、山の権利を譲ってくれて良かったと思うよ?
鉱石とか、採取しまくってるじゃん。今更返せって言われたら、戦争になりかねないしね。
対等では無いし、向こうに困った事があったら態度も変わるんじゃないの?」
気楽に二人を諭す事にした。
厄介なのが、鉱山の権利である。まあ、元々、誰の山でも無いから問題ないのだ。
今回俺の物と正式に決定し、それを周知させるのが目的なのだから、もし文句を言うならその種族は敵対行動を取ると見做す事になる。
なので、不干渉で良かったのだ。
潰す事は出来るだろうけど、なるべくは友好的にやりたいと願うからなんだけどね。
多少生意気な対応は、目を瞑る事で話を締めくくったのだった。
続いてやってきた、二つの種族。
この種族はお互いに仲が悪く、100年戦争を続けているそうだ。
なので、対抗するようにやって来た。
今にも喧嘩に発展しそうな空気を纏わせて、お互いに牽制しまくりつつ俺の前に立つ。
そして、
「おう、魔王様よ。戦に役に立つなら、俺達、
貧弱な
「ふん、馬鹿め! 魔王というからには、見る目もあるさ。
迷う事は無い、我等、
何とも、暑苦しい、というよりうっとおしい奴等が来たものである。
だが、だ。
コイツ等を見た瞬間、俺の脳裏に閃いた事がある。
そう! 迷宮といえば、ミノタウロス。
欲しい。ぜひとも、ボスユニットとして、30階層辺りを任せたい。
そんな気持ちがグングン湧いて来る。
しかし、そんな気持ちとは裏腹に、この魔物達が俺に対する忠誠は低そうだ。
いい雇い主が出来そうだ、程度のもの。
そして、俺を利用して相手を滅ぼそうという思惑がミエミエであった。
俺はシオンに目配せした。
シオンは、え? いいの? みたいな表情を見せたが、すぐに邪悪な笑みを浮かべる。
「貴様等、我が王の御前にて、無礼にも程がある。
礼を尽くせぬならば、相応の扱いを覚悟するが良い!」
二人纏めて、ボコボコにする。
一分も掛からなかった。
二人の引き連れていた氏族の若者達は手を出す暇も無い早業である。
ひと睨みで、二人の部下を黙らせて、シオンは俺に一礼した。
これで良い。
先程の
なので、俺も遠慮なくコイツ等を利用出来ると言うものだ。
そもそも、100年も戦闘行為と略奪行為を繰り返す、迷惑な種族なのだ。
実質、戦闘力ならば、
単純な戦闘に関して、ジュラの大森林の最強種族だと思える。Aランクに達する者も何名か居てるようだしね。
だが、そんな戦闘種族が100年も争っていれば、周囲は迷惑そのものだろう。
他の種族から訴えられる前に、コイツ等を処分しても問題ないと考える。
「お前達、力が余っているようだから、喧嘩する舞台を用意してやろう。
逆らうならば、お前等に待つのは、滅亡だ。
だが、勝利を収め、俺に役立つ事をアピール出来たならば、取り立ててやる事も考えよう。
精々、全力で勝利に向けて励むが良い」
俺は大仰に言い放ち、反論を許さない。
気配を消すと同時に全て切っていた『魔王覇気』を放ち、軽く威圧した。
その気配に触れて、
ガタガタと震え出し、最初の横柄な態度は見る影も無い。
あれ? 最初から『魔王覇気』を出していたら良かったんじゃ……
いや、そんな事はないだろう。ここぞという時に出すからこそ、効果がある、という事にしよう。
ともかく、この二人は武闘会に参加させる。
そして、適当な事を言って、迷宮で働かせるのだ。
俺の頭には、良いボス役が手に入りそうという喜びしかなく、
『必ず、必ずやご期待に応えて見せます! ですから、何卒無礼をお許し下さい!!』
と、必死に訴える二人の声は届かない。
可哀相な二人と部下達は青褪めた顔で退出し、それを見た他の種族は何事かと想像を膨らませる事になった。
これ以降はスムーズに謁見は進んだ。
我の強い種族も居たのだが、強種族である
こんな感じで、俺に対する謁見は終わろうとしていた……
だが、最後の謁見者が一つの問題を持ち込む事になるのだ。