The Paul Stanley's Mirror Ball Iceman
~ "クラッシュド・ミラー"ギターができるまで ~

資料協力:(有)フレイムス

ここではジェフ・ハッセルバーガーが語る、70年代の、より興味深いアイバニーズのギターについて紹介する。

「キッスの連中は、いつもちょっとしたチャレンジを与えてくれた。ポール・スタンレイは、フレットのクラウンシェイプやポットのカーブというような細かい事に夢中になるよりも、もっと大事なのは何か、ということをよくわかっていた。例えば、ピック・ガードがクローム・メッキであるべきか、それともポリッシュド・ステンレスであるべきかといったことである。

ポールの、今や伝説となった“ミラーボール・アイスマン”は、ギター・テクノロジーの『フィニッシュ』に関して、如何に尽力すべきかという文字通りの好例である。それは、ポールの、ギターを粉々に砕けた鏡みたいに見せるというアイディアについての電話で始まった。思い出すに、彼の言葉を借りれば『俺は鏡で出来ているギターの、ピックアップの部分をハンマーでぶっ叩いたようなヤツが欲しい!』だった。

話しを聞いただけでは簡単そうに思えた。私は1/8インチ厚の鏡を入手し、それをアイスマンの形に合わせてカットして、ピックアップの辺りをハンマーで一撃した。しかし、その結果私が作り出したのは約10,000個のガラスのかけらと3枚の破片だった。これではどうみても仕事になりそうもなかった。

私は1枚1枚の破片を粉々に砕けたかのようにカットしなければならないことになったのである。もっと沢山の鏡と数本のガラス・カッターを私は買いに出かけた。まず初めに鏡をポールのギターの形に合わせて1枚切り出す事から始めて、図案を練り、それを鏡に描き写そうと考えた。でも結局、その工程を省略してしまうことにして、自分がカッコいいと思うままに破片を切り始めた。これには数日を要したが、ギターの周りをウロウロしながら、私は段々とコツを掴み始めていた。この作業が終わった時、私は5本の指が無事だったことをうれしく思った(!)。

後でわかったことだが、鏡のカットはまだまだ序の口だった。私が鏡と格闘している間、アイバニーズ社での私の信頼するパートナーであるジム・ヘフナーはポールのギターの1本のトップを1/4インチ削っていた。そう、鏡は後付けなのである。ジムはトップの周りのアバロノイドのバインディングを残したままにしており、予定ではそこにエポキシか何かを塗って、鏡を取り付けることになっていた。

私たちは、1つ1つの破片を僅かに異なる角度で取り付ける事が出来るように、鏡の厚さを2度に渡って割り出した。ポールのステージ・コンセプトは、ギターをスーパー・トゥルーパー・スポットライトで照らし、ミラーボールのようにそのギターから反射される光線を作り出すというものだった。私たちは隣り合うそれぞれの破片に5°から15°までの角度差を念頭に置いていた。

私は、エポキシでふさがれてしまうのを避けるため、ダボをマスキング・テープで保護したのだが、これはうまくいった。アイスマンはトップが僅かにアーチ状をしているので、トップのカーブによくフィットさせるため、私は鏡の幾つかをカットし直さなければならなかった。これは退屈な作業だったし、エポキシ剤が乾いてしまう前に、すべてを終わらせることがいつも出来るとは限らなかったが、すべての破片はちゃんとフィットすると思った。

その夜遅くにすべての鏡をきちんと取り付けてから、ジムと私はそのギターを外に持ち出して、自分のピックアップ・トラックのヘッドライトの光の中でテストしてみた。そうするとそれは何とうまくいったのである。光はあらゆる方向に飛び散って行った。唯一の問題は、鏡がそれぞれ違うアングルで取り付けられていたので、接合部分がカミソリのように鋭くエッジが立っていることだった。このエッジを使っておいしいコール・スローが山ほど作れそうな感じ(!!)だった。

表面がきれいに、滑らかに、そして安全になるように、透明ポリウレタンの仕上げ剤で鏡を覆ってしまうことで問題を解決しようと、私は準備を進めた。翌朝、私はポリウレタンを調合し、それを鏡の表面に塗りつけた。私は本業の仕事をほんの1、2時間しかせずに、仕上がり具合をチェックしようと作業場に戻ったとき、胃ケイレンを起こすかと思った。それは乾いて曇ってしまい、鏡の効果を台無しにしてしまったのである。クソ~!何てこった!!

ポリウレタンが固まってしまう前に、私はノミを片手にそれを削ぎ取り始めた。幸運にもガラスはポリウレタンをそれほど残さず、夕食前にはほとんどすべてを剥がし終えていた。その仕上げ剤は破片と破片の間から取れなかったが、それが問題の解決方法であることが判った。

私は接合部分のすべてをポリウレタンで埋めたが、まだ鋭く尖ったエッジは残されたままだった。結局、私は鏡の各接合部分を滑らかにするように磨くためドレメルの小さなサンディング・ホイールを使い、必要なだけポリウレタンを塗ることにした。これにはかなりの時間がかかったが、うまくいった。

やり残していたのは、いくつかのガラスに穴を開けて、すべてのピックアップとハードウェアを付け直すことだけだった。ポールは実際にこの改造をやってしまうこと、そして角膜へのダメージを心配していた。私がおよそ100万光度の威力を持つそのギターをステージ上に見た時、その光景はとても印象的なものだった。

私たちが手掛けたすべてのカスタム・ギターの中でも、この1本は私の心に強く焼き付いている。何故なら、私は自分の失敗の記憶を呼び醒ます数枚の古い写真を見つけたからである。このギターの製作には凄まじい努力を必要としながら、ギター・テクノロジーの世界への貢献が実際には何もなかったという事実が、私にこのギターを永遠に愛しく思わせるのである」。


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