農産物輸送ピンチ JR北海道 路線見直しに産地懸念
2018年07月06日
鉄道輸送するJAきたみらい産タマネギをコンテナに積み込む作業員(北海道訓子府町で)
貨物3線区で45万トン
JR北海道が打ち出した路線の見直しに対し、農産物輸送を鉄道に頼る道内産地に懸念が広がっている。見直し対象の路線に、貨物列車の通る区間が含まれるためだ。全国に大量の農産物を送り出す北海道では、長距離輸送などに強みを持つ鉄道の利用が不可欠。トラックの運転手不足などで鉄道に代わる手段が見いだせない中、廃線などが決まれば輸送への影響は必至だ。(石川知世)
JR北海道は、地方部の人口減などで乗客が減り、1996年度をピークに鉄道運輸収入が減少傾向にある。2017年度決算ではグループ全体の営業利益が416億円の赤字となった。
同社は16年7月、このままでは赤字で修繕費などが確保できず、全道で鉄道の運行が難しくなると表明。乗客の少ない路線の地元自治体などに対し、廃線を含む対応の協議を求めたいとした。同年11月には協議の対象として「単独では維持困難」とする13線区を公表した。
13線区のうち、貨物輸送に使われているのは、①石北線の新旭川~網走間②室蘭線の沼ノ端~岩見沢間③根室線の滝川~富良野間──の3線区。この3線区でタマネギ、ジャガイモ、米など45万トンを輸送する。いずれの線区でも、本州向けの便は農産物が貨物の4~7割を占める(ホクレン調べ)。
同社はこの区間では鉄道輸送を維持したい考えで、国や道、地域の支援を求めている。ただ、国などの支援策はまだ示されておらず、今後の路線維持は不透明だ。
鉄道が利用できなくなった場合、農産物輸送への影響は大きい。北海道の農産物は約7割が道外向けで、その大半を扱うホクレンはタマネギや米など年間75万~80万トンを鉄道で運ぶ。
ホクレンは「本州と陸続きではない北海道にとって、鉄道貨物は重要な輸送手段。利用できなければ、農産物以外を扱う地元企業や、道外から届く日用品の輸送にも大きな影響がある」(物流部)と指摘する。
トラック運転手不足
地元も困惑する。北海道中央部にあるJAふらのは、道外向け農産物の約7割(年間約5万8000トン)で鉄道を利用。大半はタマネギで、9月から翌年4月まで富良野~札幌間を1日1往復する。JAによると、この区間が利用できなければ札幌までトラックで運ぶことになり、新たに20人以上の運転手が必要となる。運転手不足で人員が十分確保できないことに加え、コスト上昇も懸念材料だ。
JAは4月の総代会で、鉄道問題に関する決議を採択。市町村などと連携し路線維持を求める方針を確認した。決議後、地元商工会と共同で沿線5市町村の議会に要請。路線の存続に向けた対応を求めた。
JAの植崎博行組合長は「農産物の安定供給ができなければ消費者の信頼を失い、ブランドが失墜する。鉄道に代わる輸送手段がない以上、路線維持は不可欠だ」と強調する。
国の支援策夏に方向性
北海道東部のオホーツク地方も、タマネギを中心に農産物の道外輸送の約7割を鉄道に頼る。北見から石北線と室蘭線を通って青函トンネルに向かう貨物列車は、同地方でタマネギを扱う全JAが利用。「タマネギ列車」の愛称で親しまれる。過去に廃止が検討された時も、産地が必要性を訴えて1日1往復を確保してきた。
ホクレンは「内陸部が多く、港が遠いため鉄道の重要性が高い」(北見支所)と説明。札幌から届く農産物出荷用段ボールの輸送をトラックから鉄道に切り替えるなど、利用を促進している。
JAグループ北海道は輸送について検討を続け、情勢に応じて関係者に要請をしていきたい考え。JA北海道中央会は4月、石井啓一国土交通相らに、輸送力確保に向けた国の支援を初めて要請した。国はJR北海道の経営状況を踏まえ、今夏にも支援策の方向性をまとめたいとしている。
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自然災害の備え 地域の防災力高めよう
多くの被害を出した九州北部豪雨から、1年を迎える。傷痕が癒える間もなく、今年も自然災害が各地を襲う。台風7号に伴う集中豪雨は、九州や北海道で土砂災害や河川の氾濫を引き起こし、農業にも多くの被害をもたらした。自然災害には誰でも巻き込まれる恐れがある。常日頃から命を守る対策を徹底しよう。
地球温暖化による気候変動が激化し、「数十年に一度の大雨」という言葉が、当たり前のように聞かれるようになった。気象庁によると、世界の2017年の年平均気温は、1981年から2010年の平均と比べると0・38度も上がった。100年当たりでは、0・73度の割合で上昇している。
日本はさらに深刻で、1・19度の上昇だ。それも、1990年以降の上昇が顕著になっている。温暖化に伴って自然災害発生のリスクは確実に高まっているといえそうだ。
政府がまとめた「防災白書」は、災害の発生に備えて「自助」と「共助」による事前防災の必要性を強調した。自分で自分を助ける「自助」と近所の人などと助け合う「共助」を組み合わせることが、大きな力を生む。
阪神・淡路大震災の救助は、7割弱が家族も含む「自助」、3割が隣人等の「共助」によって行われた。「公助」である救助隊による救出は数%にすぎなかったという。重要なのは、「共助」の考え方の共有であり、その実践だ。災害時に一人でできることには限界がある。
災害発生の前に、地域の危険な場所を把握し、地域で信頼関係を構築しておくことも重要になる。昨年の九州北部豪雨でも、行政の連絡を待たない自主的な避難や、近隣住民からの避難を促す声掛けが大きな力になった。
福岡県朝倉市では、行政と住民の協力で市内全域の「自主防災マップ」を2014年度までに、全戸配布していた。住民による地域の危険箇所の確認や避難場所が周知されていたことが避難行動につながった。
同県東峰村でも、平時に作成していた避難行動要支援者名簿の情報を基に、災害時の支援計画をまとめていた。災害の直前に行っていた避難訓練には村の半数が参加していたという。地域の防災力を高めていた成果である。今後の大きな教訓となろう。
内閣府は、災害対策基本法を改正し、町内会や学校区、商店街などのコミュニティー単位で連携できるよう「地区防災計画」の策定を推進している。住民主体の「共助」による「防災」の取り組みだ。同計画は昨年4月時点で、21都道府県46市町村の984件に上る。一層の広がりに期待したい。
全国各地で、想定外の災害が起きている。想定外の事態にいかに対応するか。行政の「公助」と、住民主体の「自助」「共助」の日頃からの取り組みにかかっている。
2018年07月05日
トランプ米大統領 WTO脱退示唆 自国有利へ揺さぶり
トランプ米大統領は2日、世界貿易機関(WTO)に関し「もしWTOがわれわれを適切に扱わなければ、何かするだろう」と記者団に述べ、将来的な脱退の可能性を示唆した。早期脱退には否定的で、実現性は不透明だが、米国発の追加関税措置などを発端にした貿易摩擦が激化する中での発言で、「自国第一主義」を一層際立たせた格好だ。
2018年07月04日
昆虫飼料 実用化めど 家畜ふん・残さ餌にミズアブ育て給与 大阪府や大学など
大阪府立環境農林水産総合研究所などの研究グループは、昆虫アメリカミズアブ(ミズアブ)を原料とした飼料生産の実用化にめどを付けた。ミズアブの幼虫は、餌として食べた食品残さや家畜ふん尿に含まれる窒素などを、体内にタンパク質や脂肪の形で高濃度に蓄積する。その特性から、飼料として活用が期待できる。輸入に頼る大豆などの飼料原料の代替や、未利用資源の活用につなげる。
ミズアブは体長2センチほど。北米原産とされ、国内でも東北以南の地域に広く生息する。飼料は、ミズアブの幼虫を乾燥させ粉末状にしたものなどを、大豆や魚粉に代わるタンパク質として家畜や魚に与える。海外では既に先行事例があり、国内でも飼料としての安全性が確認されれば普及できる見込みという。
食品残さや家畜ふん尿を餌にミズアブを育て、幼虫を飼料として活用することで、食料生産の新たな循環型モデルを構築する。幼虫による食品残さの処理能力は、15日で減量率80%と高い。ミズアブを使った飼料の採卵鶏への給与試験では、卵の食味などへの影響はなく殻の強度が増すメリットがあったという。
環境省の事業を活用し、同研究所、愛媛大学、香川大学、国際農林水産業研究センター(JIRCAS)が共同研究に取り組む。
今後、農家や食品事業者らと連携し、ミズアブを育てる拠点を各地に広めていく構想を描く。同研究所は「持続可能な食料生産につながり、世界的な食料問題に対応できる技術。昆虫利用で新たなビジネスを切り開いていきたい」と展望する。
2018年07月01日
米国貿易権限法3年延長 対日FTA要求恐れ
米国議会が持つ通商交渉の権限を大統領に委ねる大統領貿易促進権限(TPA)法が2021年6月30日まで3年間延長された。トランプ大統領の延長要請を議会が容認した。これを受け、ライトハイザー米通商代表は、2国間の自由貿易協定(FTA)交渉を積極的に推進する方針を表明。7月下旬にも始まる日米の新貿易協議(FFR)で日本に対してもFTA交渉開始を求めてくる可能性が高まった。
TPA法の延長を受け、ライトハイザー氏は米国の労働者や農家、牧場主の利益になることを強調し、「トランプ政権は数々の潜在的な2国間自由貿易協定を追求している。TPAの延長はわれわれがこれらの機会を積極的に追求し続けてよいということだ」との声明を発表した。
7月下旬には、茂木敏充TPP担当相とライトハイザー氏によるFFRの初会合が 開かれる予定。同氏は 日本とのFTA交渉に 意欲を示していただけに、今後対日要求が強まるのは必至だ。
現行のTPA法は、オバマ政権下で環太平洋連携協定(TPP)交渉がヤマ場を迎えていた2015年6月に成立。今年6月30日で失効することになっていた。
トランプ政権はTPPから離脱したが、カナダ、メキシコと結ぶ北米自由貿易協定(NAFTA)の再交渉などを進めるため、3月に議会にTPA法の延長を要請。7月1日までに議会に否決されなかったため、自動延長が決まった。延長は1回限り。
2018年07月04日
再エネ主力電源に 荒廃農地の活用も 基本計画閣議決定
政府は3日、再生可能エネルギーの施策などを織り込んだエネルギー基本計画を閣議決定した。原子力発電への依存を減らし、太陽光や風力などの再生可能エネルギーを主力電源と位置付ける方針を打ち出した。2030年度までに電源構成の4分の1を再生可能エネルギーで占めることを目指し、荒廃農地を利用した太陽光発電の普及などに取り組む。
2018年07月04日
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農産物輸送ピンチ JR北海道 路線見直しに産地懸念
貨物3線区で45万トン
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JAグループ北海道は輸送について検討を続け、情勢に応じて関係者に要請をしていきたい考え。JA北海道中央会は4月、石井啓一国土交通相らに、輸送力確保に向けた国の支援を初めて要請した。国はJR北海道の経営状況を踏まえ、今夏にも支援策の方向性をまとめたいとしている。
2018年07月06日
「和ごはん」魅力訴え 官民一体でプロジェクト 国産愛用、マークも
官民一体で和食文化を発信する「Let’s(レッツ)! 和ごはんプロジェクト」が始動した。和食文化がユネスコ無形文化遺産に登録されてから5年目の節目に、改めて和食の魅力を広めるため、農水省が企画。子どもや子育て世代に和食を身近に感じてもらおうと食品メーカーやスーパーが家庭で手軽に調理できるメニューなどを発信し、国産農畜産物の消費拡大につなげる。
プロジェクトでは、ご飯や汁物、おかずを組み合わせ、だしやしょうゆといった日本で古くから使われてきた調味料などを使った食事を「和ごはん」としてPRする。「調理が難しく敷居が高い」という和食のイメージの払拭(ふっしょく)を狙う。ご飯茶わんと箸を描いたロゴマークを作り、食品や販促資材に使うなどして周知を後押しする。
プロジェクトは長期的に続ける予定で、国内で開かれる2019年のラグビーワールドカップや20年の東京五輪・パラリンピックで、訪日外国人へのPRも視野に入れる。
同省はプロジェクトに参加する食品メーカーやスーパー、流通業者らの取り組みを発信する。6月末から募集し、5日現在で約30社・団体が応募。既に約20社・団体が本格的な活動を予定している。
同省は「味覚が形成される子どもに、和食を食べる機会を増やし、消費を定着させたい」(食文化・市場開拓課和食室)と考える。レストランでは子ども向けの和食メニューの展開を想定。子育て世代には時短メニューを提案し、食卓に気軽に取り入れてもらう。
イトーヨーカ堂(東京都千代田区)は7、8の両日、全国145店舗のイトーヨーカドーで「七夕」(7日)に食べる風習があるそうめんの食べ方を提案する。同社は「旬の食材や国産食材を取り入れた和食を提案していきたい」(広報担当)と話す。
2018年07月06日
ヤギ市場活況 除草、乳加工に長野でせり
長野県飯田市で5日、乳用種ヤギの日本ザーネン種だけを扱う「下伊那子山羊(やぎ)市場」が開かれた。登録され、血統書が発行される市場は全国でここだけ。除草や乳の加工利用など近年のヤギブームで価格が上昇し、全体平均で1頭11万8243円と高値で取引された。2014年に5万円台だった平均価格は、2倍程度に高騰している。
今年で69回目を迎え、JAみなみ信州と同JA畜産協議会、JA全農長野の3者が主催した。
3~5月に生まれた雌33頭、雄7頭の計40頭が上場。前年に雄が多く生まれたため、前年より20頭減った。岩手から大分までの購買者20人が参加し、全頭が成立した。
雌の平均価格は13万2780円で、最高値は18万6527円。雄の平均は4万9709円で、最高値は7万6356円。
2018年07月06日
米の全国組織 実需に品質、数量PR 15団体が出展 大阪市でフェア
全国農業再生推進機構(米の全国組織)などは4日、産地と実需の結び付きを支援し、米の安定取引につなげる「米マッチングフェア2018」を大阪市で始めた。6日まで3日間の予定。初日の展示商談会には宮城、岡山県などから15団体が出展し、各産地の独自品種やブランド米を紹介。品質面に加え、まとまった数量を安定供給できる点などをPRし、実需者に提案した。
2018年07月05日
「七夕」には カスミソウ 首都圏で商戦活況
七夕(7月7日)に向けて、宿根カスミソウの売り込みが、首都圏で本格化している。カスミソウの小さな花を「天の川」に見立てたブーケなどを提案。都内の卸売会社は「七夕需要で小売店からの注文が年々増えている」と話す。
青山フラワーマーケット南青山本店(東京都港区)は2日から、福島産のカスミソウだけを束ねた「ミルキーウェイ(天の川)ブーケ」(810円・税別)の販売を始めた。「1日で用意した数量の半数以上が売れた」(同店)と好調だ。
東京花市(東京都品川区)では青やピンクに染めたカスミソウ(480円・税別)を販売。「20、30代の女性がよく購入する」という。
大田花き花の生活研究所の桐生進所長は「7月は洋花の物日需要がない中、七夕の花材として定着した」とみる。
2018年07月05日
特産PRへ“奔走” 交通安全看板 飛び出し坊や 米、牛、馬、酒…七変化!
道路脇に立つ交通安全看板「飛び出し坊や」が本来の役割とは違う世界に“飛び出し”、食や地域のPRに一役買っている。45年前に滋賀県で誕生したとされ、以来、交通安全を啓発する看板として全国各地で活躍してきた。最近では前掛け姿の米穀店の店員や日本酒を手に持つ僧侶、乳牛の着ぐるみなど、多様な姿に変身。農産物直売所や米穀店、農家レストランなどの広告塔としての役割を担っている。(前田大介)
滋賀発祥、各地で活躍 SNS通じ集客効果も
飛び出し坊やは、1973年に旧八日市市(現東近江市)社会福祉協議会が、交通死亡事故から子どもたちを守ろうと、同市の久田工芸に看板製作を依頼したのが誕生のきっかけとされる。同社製の正式名は「とびだしとび太」。通常の姿は赤い上着に黄色いズボン、髪を横分けにした少年だ。今にも道路上へ飛び出しそうな雰囲気で、注意を喚起している。
2016年には、県立琵琶湖博物館が県内で飛び出し坊やの“生息調査”を実施。地元企業と連携した文具などのキャラクターグッズも販売される。年間500体余りを手作りする同社の久田泰平代表は「特別注文が増えだしたのは4、5年前から」と振り返る。
東近江市の地域おこし協力隊の比嘉彩夏さん(30)は今年、444年ぶりに復活した酒「百済寺樽(ひゃくさいじだる)」のPRのため、僧侶姿で一升瓶を持った飛び出し坊やを作り、同寺のバス停と酒造好適米を栽培する水田に設置した。「飛び出し坊やは地域で知らない人はいない。人気にあやかり、日本酒の人気も不動のものにしたい」(比嘉さん)と意気込む。
地元産米の発信力の強化に飛び出し坊やを起用するのは、JAや農家、行政などでつくる東近江市水田農業活性化協議会だ。約30万円をかけて「東近江米」の米俵を担ぐ飛び出し坊やを同社に依頼。2月から市内の4JAや農産物直売所、道の駅などに10体が並ぶ。
飛び出し坊やは県外の農産物イベントでもPRに活用されており、同協議会事務局は「主食用米の激しい産地間競争を勝ち抜くための力にしたい」と期待を寄せる。
農家もこの動きを歓迎する。市内で約4ヘクタールの米を生産する藤田清一郎さん(76)は「見ていて楽しいし、農家にとって励みになる」と話す。
3年前から乳牛の姿を模した飛び出し坊やを置くのは、同市で農家レストランなどを営む池田牧場。当初は交通安全看板として利用していたが、来店者らがインターネット交流サイト(SNS)に投稿し拡散。年間来場者約14万人を誇る同牧場にとって「頼もしいキャラクター」(池田義昭代表)と存在感は大きい。
他県では、「上げ馬神事」で知られる三重県桑名市の多度大社近くの車久米穀店が、馬に扮(ふん)した飛び出し坊やを昨年10月に登場させた。以来、飛び出し坊やを見るために県外からも来店者が集まる。石川信介店長は「集客だけでなく、地域活性化にも役立てたい」と力を込める。
地域創生に一役
■コンテンツ産業や地域活性化政策に詳しい立命館大学映像学部の中村彰憲教授
飛び出し坊やは、公金を投じて作られた「ゆるキャラ」とは一線を画す。自然発生的に広がり、地域で愛されてきた全国的に珍しいキャラクターだ。寛容に受け入れバリエーションを楽しんでいる点も珍しく、注目に値する。農産物のブランド力を高めるだけでなく、やり方次第では地域創生にもつながる力を秘めている。
2018年07月04日
国産麦のアンテナショップ開店 料理でおいしさPR 商品の全国展開後押し
国内初となる国産麦のアンテナショップ「むぎくらべ」が2日、東京都千代田区に開店した。麦加工食品の試験販売の場として、JAや食品事業者らが少ない出展費用で利用できる。出展者は週替わりが基本で、今週は香川産や埼玉産の小麦を使ったうどん、洋菓子などが販売される。商品の全国展開を後押しする。
2018年07月03日
訪日客宿泊地方で増加 17年観光庁調べ 三大都市圏以外4割超 「農泊」推進 さらに呼び込み
地方を訪れる外国人観光客が増えていることが、観光庁の調査で分かった。2017年に訪日した外国人のうち、三大都市圏以外の地方部に宿泊した割合が初めて4割を超えた。青森、大分など5県では、前年比で5割以上の増加率を記録した。農水省は、この勢いを維持するには「農泊」が鍵を握るとみて、取り組みの拡大に力を入れる。
2018年07月01日
昆虫飼料 実用化めど 家畜ふん・残さ餌にミズアブ育て給与 大阪府や大学など
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2018年07月01日
食品サンプル 芸術の域 長野で展示会開幕
長野県池田町の北アルプス展望美術館で30日、食品サンプルを展示した「FOOD SAMPLE展」が始まった。本物そっくりの農畜産物や料理のサンプルで、来館者を楽しませている。
作品は老舗食品サンプル会社、イワサキ・ビーアイ(東京都大田区)が提供。職人が社内コンクールなどで腕を振るった160点を展示する。
カレーの風呂に浸かるニンジンの家族や霜降り肉のサンダル、スパゲティのテニスラケットなど精巧でユニークな作品が並ぶ。食品サンプルの作り方や歴史も紹介。出口付近では、そばや信州サーモンなど町内の飲食店お薦めのサンプルを展示する。学芸員の吉成見奈子さん(29)は「世界に誇る日本独自の食のアートを楽しんでほしい」とPRする。
展示は8月26日まで。入場料は一般800円、高大生600円、小中学生200円。
2018年07月01日