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プロジェクトマネージャーの話らしく、抽象的な課題を具体的に落とし込むことができればそれだけで食っていける。転職の際はそこを強くアピールしたほうがいい。その能力を積むには実践と経験しかない。それはそのとおりかと。
でもこの記事には他に
「タスクをきちんと落とし込める人材が少ない。育たない。面接採用でもその能力は見抜けない。」というふわっとした課題がそこに発生している。主題ではないとしても「実践と経験つむしかない」は課題解決として弱い。
この記事で理想的な人は元スクエニCTO 橋本善久 が思い浮かぶ。
ロンチ大失敗したFF14を1から作り直した大黒柱の一人。
下のプレゼンは様々なタスク管理をコントロールする術が書かれている。
http://www.jp.square-enix.com/tech/openconference/library/2011/dldata/PM/PM.pdf
俺がもうひとり尊敬してるのが、これも元スクエニの坂口博信。FFシリーズを11までプロデュースやディレクションしてた人。
ゲーム雑誌などのインタビューでしか知らない人だけど、「プロジェクトでバグが発生しそうな匂いがわかる」といいのけ、プロジェクトでバグ以外の問題発生しそうな場所も先回りして手をうち、「ハードを超えた次世代プログラマを先に抑える」という目の付け所はFF1当初から一貫してる。
ファイナルファンタジーは、ファミコンでRPGが実現できたというドラゴンクエストに発奮して後から追いかけたプロジェクトなので初代の発売日は87年12月。その3ヶ月後、88年2月にドラゴンクエスト3は社会現象となる。
でも制作体制の違い(堀井雄二自身が開発中のテストプレイをし続ける)で、ドラクエはシリーズを追うごとにプロジェクトが長期化。逆にFFは2タイトルを並行開発して毎年出すぐらいの勢いですぐにナンバリングも追い越す。圧倒的プロジェクトマネジメント力の違い。そして坂口さんがFF11でスクエニを去った後、FF12はディレクター降板。FF13の大幅な開発遅延。FF14の大失敗。FF15に至っては制作着手から10年以上必要とした。朗らかに優秀なPMが抜けて軸がなくなってる状態。
この期間、ゲーム機史上最大の開発難易度と言われる(本来の設計思想、GPU版CELLが完成しないまま発売せざるをえなかったポンコツ)PS3をまたいでるとは言え、FFは全て、特にFF7、FF10、FF11は当時としては達成不可能なジャンプアップを見事にクリアしてきた。
彼らがいるときといないときで、PMはどういう違いがあるのか。
例えばPMは初期タスクの割り振りのあと、プロジェクトが進むに連れ、ずっと移りゆくボトルネックにすぐアラートをかけ、手を打っていくということをし続けていかなければならない。
しかし、今そこがボトルネックだから残業お願いしてでも解決してくれ、物理的な作業もしてくれ、バグも一生懸命解決してくれ、、なんて言えばそれは元のPM管理がずさんだったわけでスタッフは気持ちよく働いてくれない。しかしプロジェクトが大規模複雑化するほど、市場もリアルの外部環境も個人の事情も予想し得ないいろんな事が起きすぎて当初の予定通りにはいかなくなる。最初から見通しなんて立たない。
FFというかうまくいくゲーム開発で何が起きてるかと言うと開発者全員が「熱狂に包まれてハードワークをこなしている」事。つまり「仕事」としてやってるというよりはもはや「使命」としてやっている。それはFF14のとんでもない立て直しもそう。
ハードワーク当然なので、みんな部署の垣根とか気にせずほんとに必要な意見をケンカしてでもぶつけ合う。つまり本来先に問題に気づいてるのはPMよりも、現場のスタッフ。ケンカしてまで部署を超えてあちこちに文句言うのは越権行為だが、そのハードワークをやりきるにはもうそんなこと言ってられない。
普通のプロジェクトがダメになるのは「自分に与えられた仕事の範囲は絶対超えない」「本音は言わない」それをしては余計な問題になるし空気も悪くなる。そしてこのゲームが面白くないとわかっててもディレクターに本音を伝えず空気を読む。本音いえば自分の評価が下がる。きっちり仕様どおり仕事をこなし空気を読むことが評価を上げる事。だから余計な口出しはしない。このプロジェクトは「使命」ではなく「仕事」だから。
ゲーム会社も普通の会社も評価システムは全て「本音」を封じ「空気を読む」ほど評価が上がるようになっている。言われたことをきちんとこなし、きっちり仕様を実装できるか、絵をあげれるか。プロジェクト全体が一丸となるための評価ではなく、全ての評価は個人単位だから。プロジェクトと個人を切り離す評価システム。この状態で問題を解決しようという方がおかしい。
社長が会議でプロジェクトや会社の状態などを熱く語って、みんながそれを黙って反省しながら聞いても、何も前に進まない、結局変わらないなんて日常茶飯事。社長の熱い気持ちだけでは誰も本音を言わないし評価もされないから、そこに熱狂なんて生まれはしない。
ジブリの名プロデューサー鈴木敏夫も似たようなことを言う。「映画を作る時は仕事じゃなくそれをお祭りにする」と。これも「仕事」ではなく「熱狂」「使命」に通じる言葉。アニメーターが真の力、給料以上の力を発揮するのにそれは必須なのだろう。「ジブリ」の由来がサハラ砂漠に吹く「熱風」というのは偶然だろうか。
じゃあプロジェクトはスタートから「炎上状態」を狙ったらいいかとか、最初から後がない(ファイナル)なら、誰も遠慮なんかして空気読まずに全力出し切るしかないだろう、プロジェクト達成したら業界もユーザーも絶対驚くような使命感を狙って、、、というマネジメントを肯定できるかというとわりと難しい。世の中そんな使命感がもてるプロジェクトの方が圧倒的に少ないし、リスクも高い。評価、報酬の面で納得いかないのが普通。
ある意味やりがい搾取の、ゲーム業界、アニメ業界だからこそできる熱狂とも言える。(ゲームは報酬としてアニメほどのブラックではないが) 熱狂を得るのに技術や表現の進化がとても早い業界だったということもある。
では、普通のプロジェクトが「空気」を読まず「本音」を言い合えるにはどうしたらいいかというと「本音が出るまで、スタッフ個別にとことん話し合う」方法がある。これは一度倒産したHAL研を社長になって立て直し、プレステに市場を奪われて落ち目になった任天堂の社長となって立て直した岩田聡がやったこと。
逆さに降っても本音を言わないスタッフに、根気強く話しかけ、話を聞いていく。それでやっとでた本音(問題の本質)を、統合していき解決策を探る。それを何年もローテーションして続けていく。確実に効果はあるがものすごい時間を使う方法。
そして最近では「評価システムを変えてしまえ」というところまで来ている。
ZOZOがやってる「同一賃金+業績連動ボーナス+職能給」。
これには個別の評価がほぼ無い。
つまりスタッフが本音を言って評価が悪くなるということがない。
何か達成したり解決したり、誰かの手柄という名誉はあっても、報酬的な評価にはあまり関係ない。誰がうまくやってもみんながそれを共有して、一緒に報酬が上がる。評価のために「空気」を読む必要がなく、本質的な問題を最初からフラットに話し合える。
プログラマが自分の評価安全のために無駄な見積もりをしたり、仕様だからと本質的じゃない無駄な実装に時間をかけたり、仕事を早く片付けたらもっと余計な仕事が増えるからごまかすなど、個人の損得をいちいち考えずにすむ。自分の報酬を上げるには全体の業績を上げるしか無いとしたら、自分の効率化ではなく、自分と同僚達との関係性で仕事の最大効率化を考えなくてはいけなくなるから。つまり個人の最大効率化のために「怠惰」になるわけではなく、全体の最大効率化のためにより本質的な改善に手を付ける「怠惰」となる。
近いことをやってるのが未来工業やメガネ21。またそれらに習った企業が日本や海外でもポツポツ発生してきている。これを具体的に語ってるのは過去のエントリーにいくつもあるので詳細は省く。
プロジェクトのタスク管理は、変わりゆくボトルネックをどうコントロールしていくか。それは結局スタッフの本音のアラートをどう嗅ぎ分けるか。人の本音を引き出すために人間が好きで、他人の心理を慮り、本音で話し合える関係を築ける人こそPMに向いてるのだろう。
今回あげた「最初から炎上や祭りに追い込み、熱狂の渦に巻き込む」「本音が出るまで徹底的に腹を割って話し合い続ける」「会社そのものを本音で話し合える評価システムとしてスタートする」は、全て人間の本音を引き出す心理の話。
元記事の主題から外れ、やや大げさなところまで掘り下げて来たが、タスクに落とし込める人が数少ないのではなく、そのタスクで移りゆくボトルネックに対処するため、本音を引き出す状況を作り出せる人が少ない「空気を読むいい人」ばかりで本音がだせず空気を読む構造そのものに目を向ける人が少ないのが問題かと俺は考えてる。
より詳細な話は過去のエントリーにもあり、これから先のエントリーでもときどき触れていくので、この記事はここまで。