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転生したらスライムだった件 作者:伏瀬

聖魔対立編

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086話 暗躍する者

 無事に魔王達に認められ、魔物の国テンペストへと帰って来た。

 行きはともかく、帰りは空間移動で一瞬である。

 帰ったら国が無くなっていた! という事は無く、皆元気そうで安心した。

 俺の命令通り、各々の部隊による警戒態勢を敷いているようである。

 より洗練され、周囲の安全にも寄与している感じであった。

 ふと思ったが、この国は軍事的防衛面ではそこらの国々が相手にならないほど優秀なのではなかろうか。

 何しろ、単なる兵士でさえほぼ全ての者がBランク相当なのだから。

 そこらの魔獣や妖魔では近寄っても来ないのだ。

 この国周辺は治安が大幅に安定しているだろうが、ここから流れた魔物達がどこかに被害を齎さないか心配になった。

 その辺の調査も行った方がいいかも知れない。

 そんな事を考えつつ、ヴェルドラとシオンを引き連れて町に入った。

 俺が町に入ると、住民達や巡回の兵達が道の端により跪く。そうして、一つの道が出来上がっていた。

 俺が魔王達の宴ワルプルギスに行っている間に練習したのか、一糸乱れぬ動きであった。

 一体何をしとるんだ、そう思っていると、道の先から幹部達がやって来る。

 そして、


「この度は、魔王襲名の儀、真に御目出度き事に御座います!

 何よりも、よくぞご無事でお戻り下されました!」


 代表してリグルドが口上を述べた。

 かなり恥ずかしい思いを味わう事になった。

 毎回毎回、段々芸が細かく大げさになってくる。正直、嬉しいけど恥ずかしい気持ちの方が大きい。

 そして毎回の流れで宴になるのだが、今月は殆ど毎日宴なんじゃないの? って程、毎週催し物を行っている。

 まあいいか。

 自分達の主が(まあ俺なんだが)、正式な魔王になったのだ。

 祝いたい気持ちも判らなくも無い。人間にしてみたら真逆だろうけどね。

 そんなこんなで、懐かしき自分の棲家に戻るより先に、宴を催す流れになったのだった。




 町に戻った翌日、早速幹部会を開く。

 その席で、ソウエイに町周辺の魔物達の動向を調査するように申し付ける。

 ソウエイは、「余り心配する必要は無くなるかも知れません」と言いつつも了承してくれた。

 心配する必要が無いとはどういう意味だろう? 共存出来るという意味かな。

 まあ、共存出来るのならそれがいい。

 知恵無き魔物は排除でいいのだ。何しろ、この国は妖気の大きな者が多いので、妖魔の発生率も上昇しているだろうから。

 問題として、人間の商隊が安全に行動出来るように街道は整備は勿論、安全確保しなければならない。

 そうした、弱い妖魔でも人間には脅威だ。なのでそういった魔物の排除も考慮する必要があるのである。

 そうした俺の心配に対し、


「でしたら、街道に対魔結界を施してはどうでしょう?」


 と、ベスターが提案する。

 それを後押しするかのように、


「旦那、完成したぜ。結界発動の試作型魔法具がな!」


 ニンマリとした笑みを浮かべてカイジンが言った。

 マジかよ。

 おっさん達、凄すぎるだろ。

 何やらコソコソと開発してるのは知ってたけど、この前の結界騒動の時に役立てなかったのが悔しかったようだ。

 だけど、一月も掛からずに試作型って、ひょっとして天才か?

 カイジン&ベスターに、ガビルを加えて色々と開発を行っていた。

 カイジンなど、最早鍛治はクロベエに任せて、自らは研究に明け暮れる日々を過ごしている。

 まあ、魔物の国テンペストの開発関係の総責任者を兼任しているので研究ばかりは出来ないだろうけど。

 話を聞くと、ここら一帯はかなりの濃度の魔素が集まりやすくなっている。何しろ、抑えていても結構妖気を漂わすのだ。

 普通の洞窟内でもB+ランク相当が大量に沸く場所は結構魔素濃度が濃くなる。それから考えるなら、この国は異常なレベルと言う訳だ。

 そういう理由もあり、以前から大気中の魔素を取り込み魔物が"魔晶石"を生み出す仕組みを解析していたらしい。

 大気中の魔素濃度を薄めると同時に、大量の"魔晶石"を獲得出来る。

 魔素濃度が少なくなると、魔物や妖魔の発生率も少なくなるので、大量発生を心配する事も無くなるのだ。

 実に素晴らしい発明である。

 この国の特性にマッチして、必要不可欠な仕組みになりそうだ。

 そしてその開発は更なる発展を見せ、出来上がった"魔晶石"を燃料としての利用する方法と、魔石へと加工する方法とを発見したそうだ。

 俺がイングラシア王国で大量に購入してきた魔石が多いに役立ったらしい。

 まあ、魔石への加工を効率化するには、大型の装置が必要になると以前聞いた覚えがあるが、実際にとても難易度が高い作業となるそうだ。

 方法は解明したが、実用化には時間がかかりそうである。

 一方、"魔晶石"をそのまま燃料として用いるのは、意外に簡単だったようだ。

 魔石と違って更に魔素を濃縮し純度を高める必要が無い事が、簡単であった理由らしい。

 で、今回開発したのが、魔鋼の板に結界の魔方陣を刻んだモノを埋め込んだ石版である。

 この石版には、人工"魔晶石"に魔素を集約する機能を埋め込んであり、魔方陣への魔力供給を行う仕組み。

 大きさは、一辺1mの正方形。厚みが50cm程度と結構大きい。

 重量も当然かなりのモノであり、動かすのはかなり大変そうである。

 だが、これを一度設置してしまえば、周囲の魔素を吸収し結界を維持する動力を半永久的に維持出来るとの事。

 結界の種類は、魔鋼の板に刻む魔方陣を変えればいいだけなので、かなり使い勝手が良いものであった。

 この簡易設置型魔方陣発動装置、名付けて"結界君"を街道の10km地点毎に設置しておくと、その辺り一帯の安全確保が可能となりそうだ。

 結界の発動範囲を街道に沿うように調整するのが一番苦労したとの事。

 この装置の作成には、ベスターやカイジンだけではなく、シュナやクロベエといった製作組全ての知恵が結集されていた。

 一月で作成したのでは無く、今まで培った技術の集大成だったようだ。

 ちょっと感動してしまったよ。

 早速許可を出し、街道への設置工程が予定に組み込まれる。

 ソウエイへの命令も変更し、この装置の設置の影響調査も追加した。

 こうして、着々と魔物の国テンペストを交易の要へと発展させるべく行動を進めるのだった。



 続いて、近況報告を受ける。

 本当は先に報告を受けるべきなのだろうけど、ついつい思いついた事を口走ってしまい順番が狂ったのだ。

 今後はもっと落ち着きたいものだ。

 周囲の状況に変化は無く、目だった動きを見せる国も無いとの事。

 ヨウム達の状況は掴んでいる。開放した王様も、此方の意に添うように動いてくれているようだ。

 王としての経験が無いヨウムが、貴族相手に交渉など無理だと思う。なので、あの王様が俺の意に添うようなら、仲間にして利用して見るのも面白いかも知れない。

 仲間になってくれるなら、きっとヨウムの役に立つだろうしな。

 近況報告を受けながら、俺はその事を心のメモに書き込んだのだった。

 幹部会で、近況の報告もひと段落した。 

 俺の心配事も皆の隠れた努力により即座に解決した事だし、何か他に問題が無いか聞いてみる。


「問題という程では無いのですが、同族達にもリムル様の魔王襲名を知らせたいのです。

 転移術の練習がてら、久々に各村々を巡って来たいのですが宜しいですか?」


 ゲルドが挙手し、そう述べた。

 そういや、最近は街道工事ばかりで、猪人族ハイオークの村々がどうなったか気になっているのだろう。

 流石に食糧事情が改善されたのは報告を受けているが、その後はほったらかしであった。

 俺は許可を与える。ついでに、


「そうそう。言ってなかったけど、俺の支配範囲とやらがジュラの大森林一帯になったぞ。

 だから、無いと思うけど侵略された場合は迎撃しないといけない。

 後、領地だと宣言するのはどうやったらいいんだろ? ほっといていいのかな?」


 その言葉で、幹部達が一斉に俺を見てきた。

 あれ? 何か不味かった?


「えっと……。全域、ですか? 本当に?」


 おそるおそるといった感じに、リグルドが聞いてきた。


「おいおい、マジかよ。ここは不可侵領域指定されていたんだぞ。

 樹人族トレント達は面識あるし、基本動かないから大丈夫だろうけど……

 耳長族エルフの隠里の連中はどういう反応を見せるかが問題だな」


 と、ベニマル。


「いやいや、こっちは問題でもないだろうさ。

 だが、相手にしてみれば大問題だぞ。

 何せ、森の資源の権利が全てリムルの旦那にあると、魔王達に承認されたって事だろうよ。

 こいつは凄い事だぞ。

 今までは町や村の開拓にしろ、資源の採取なんかも暗黙に行われてた。

 俺達もやってた事だし、許可貰ってないのは一緒だよ。許可取る必要が無かったんだから。

 だが、今後は森に住むにはリムルの旦那の許可が要るって事になる。

 さっきのエルフにしろ、隠里に住んでいてもそれは変わらない。

 魔王リムルに許可を貰いに来る立場になってるんだ。

 こいつは大事になるぜ?」


 大興奮してカイジンがそんな事を言い出す。

 言われてみれば、今までは住むのに許可は要らなかった。


「だが、どうなんだ? 既に住んでるのに、今更許可を求めるのか?」


 と俺が聞くと、


「いやいや、魔王に守護して貰うか、魔王を認めずに勝手に生きるか。

 当然、判断は自由でしょう。

 しかし、それは攻められても文句を言えない行為になりますよ。

 少なくとも、我等であれば挨拶に赴いた。親父にも伝えておきます!」


 と、慌てたようにガビル。

 何だか大事になりそうな予感。

 気楽そうなヴェルドラはともかく、何故か鼻高々なシオンを見やる。

 こういう大事になるなら、先に教えてくれよと思ったのだが……、シオンがそんな事に気付く訳が無かったな。

 ついでに、シオン、別にお前の頑張りでここの領土を得た訳では無いのだけどね。

 本当、秘書にピッタリの出来る女という外面に似合わず、まったく出来ない女だよ。

 心から残念すぎる。


「フフン! リムル様ならば当然の事です!」


 などと、意味不明な事を自慢気に言い出したシオンは、放置でいいだろう。

 結局、要約すると魔王の庇護を得るには、挨拶に来るのが普通と言う事。

 これからジュラの大森林の調査を行い、どれだけの知恵ある種族が暮らしているのか調べるそうだ。

 せっかく街道整備に目処が付いてきたのに、忙しいのは変わらないようだ。

 まあ、魔導王朝サリオン方面へも街道設置が残っているし、仕事はまだまだ大量にあるんだけどね。

 リグルドも、恐らく来ると思われる各種族の来訪に備えて、町の住民への指導と準備を行うという事で話は纏まった。

 やはり、魔王になったら何か面倒な事があるのでは無いかと思っていたが、案の定だったようである。



 幹部会を終えようとして、何か忘れていたのを思い出した。

 そうだ、ヒナタに送った返事はまだ来ていないのだろうか?


「ところで、西方聖教会に送り帰した使者は、無事に届けたのだろ?

 返事はまだ来てないのか?」


 その質問に、


「クフフフフ。我が主よ、勿論無事に届けております」

「いや、町の周囲の警戒も万全だし、不審者は見かけていない。

 まだ、返事は来ていないぞ」


 届けた事をディアブロが保証し、返事はまだだとベニマルが答えた。

 という事は、まだ検討してるのかも知れない。

 ヒナタと戦う事になるのは余り考えたくは無いのだが、相手次第だ。

 今ならば負けるとは思わないが、決して油断していい相手では無い。

 本当、無理だと思うけど、向こうから謝罪してくれれば良いのだけどね。

 早く国の発展だけ考えていられるようになりたいものである。


 こうして、魔王になってもいつもと変わらぬ感じに問題点の確認を終え、幹部会は終了した。






 −−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−






 誰も知らぬ常夜の国の奥深い場所にある玄室へ向けて、銀髪の美しい少女が静々と進む。

 少女の名は、ルミナス・バレンタイン。

 この常夜の国の支配者であり、夜魔之女王クイーン・オブ・ナイトメアと呼ばれる"魔王"である。

 ルミナスの膨大な魔力にて結界に閉ざされた玄室の中には、ルミナスの愛する少女の眠る聖霊力こおりの棺がある。

 この玄室へ辿り着く事が可能な者も限られるが、ルミナスの魔力結界を解除出来る者など存在しない、筈だった……。

 ルミナスは高鳴る胸の鼓動を抑えつけ、愛する少女を思いながら玄室へと足を踏み入れる。

 入った瞬間に異変に気付いた。

 静謐な空気が乱れており、ルミナスの愛する少女と異なる人間の匂いがしたのである。

 それは微かなものであったが、吸血鬼たる彼女の鼻を誤魔化す事は出来なかった。

 だが、そんな些細な事よりも重要な事に……

 玄室の中に大切に隠されていた、聖霊力こおりの棺が消失していたのだ。

 最初戸惑い、現実を認められずに混乱する。

 魔王たるルミナスにとっても、これは起こり得ぬ筈の出来事だったのだ。

 だが、冷静な部分でルミナスの思考が再開され、現実を認識する。

 いくら感情的に認めたくない事だとしても、冷静な思考が現実を突きつけるのだ。

 聖霊力こおりの棺が盗まれたのだ、という現実を。

 やがて、込み上げてくる怒りの感情そのままに……

 ルミナスは怒りの咆哮を上げながら、その秘めたる魔力を解き放つ。

 瞬時に玄室が破壊され、周囲を混沌たる魔力の渦で満たしていく。

 何人も近寄る事も出来ない、死の空間が形成されていた。

 その怒りの感情とは別に、冷静な思考が状況を分析する。

 この玄室にかけた結界は彼女にしか解けない。

 いや、正確には…彼女クラス、つまりは魔王クラスの者にしか解けないのだ。

 であるならば、ここに進入した者は魔王に匹敵する実力者であるという事。

 そして、この場所にある聖霊力こおりの棺の事を知りえる人物。

 それは、聖霊力こおりの棺にて眠る者が何者なのかを知っているという事。

 でなければ、ここに入る意味は無いのだ。

 そして、ここに進入してもルミナスがいては目的を達成出来ない。

 だからこそ機会を窺っていたのだろうが、だとすれば魔王達の宴ワルプルギスが開催される事を知っていた事になる。

 知らずに進入し、たまたまルミナスが不在だった等という都合の良い話は考えられないのだ。

 だとすれば…犯人は……。

 ルミナスは考える。

 自分を除く7名の魔王、更に元魔王である2名に犯人はいるのか……。

 一人一人の性格と現状を鑑みて、犯人と思える者は居ないように思えた。

 だが。


「まてよ……。一人忘れていたわ」


 そう呟く。

 それは、既に死んだ魔王。

 名をクレイマン。

 小物過ぎて、記憶から消えかけていたのだ。

 だが、ヤツは死の間際、何と言っていた?

 確か……、"呪術王カースロード"カザリームが復活したとか言っていた。

 現魔王では無く、魔王に匹敵する能力を持つ者。

 そして、カザリームならばクレイマンを通じて魔王達の宴ワルプルギスの開催を知りうる立場にいる。

 というよりも……寧ろ、カザリームの目的は聖霊力こおりの棺だったのならば……


「クレイマンに命じて魔王達の宴ワルプルギスの開催を指示し、その隙に棺を奪った……?」


 魔王達の宴ワルプルギスの開催の名目は何でも良かったのだ。

 クレイマンを操り、新参者への討伐が成ればそれはそれで良い。

 本当の目的を達成出来るならば、それ以外はオマケでしか無かったのではないのか?


 ルミナスの表情が、怒りと屈辱にて真赤に染まる。

 自分の導き出した推測が、ほぼ間違いないだろうという確信がある。

 愛する者を奪われた怒りと、魔王たる自分が出し抜かれた怒り。

 自分以外の者に触れさせたくないが為に、防備に配下をつけなかった事も悔やまれた。

 もっとも、配下がいても無駄だった可能性はあるけれども。

 どちらにせよ……


「許さんぞ、絶対に許さん。見つけ出して八つ裂きにしてやる!」


 仄暗い地下の玄室跡地にて、銀髪の美少女は絶叫し、その暴威を振るい続ける。

 その怒りは、かつてヴェルドラに自分の王国を灰にされた時の比では無く、魔王である少女の心をかき乱す。

 そして、その満たされる事の無かった欲望が、とある変化をルミナスに齎した。


《確認しました。条件を満たしました。

 ユニークスキル『色欲者ラスト』が究極能力アルティメットスキル色欲之王アスモデウス』へと進化しました 》


 "世界の声"が響くが、ルミナスは反応しない。

 そして、


「どうでもいいんだよ! そんな事……、どうでもいいんだよ!!!」


 絶叫。

 進化した能力の司るモノ、それは"生と死"である。

 ここが、生きる者のいない死者の都であったことは幸運であろう。

 常夜の国の奥深い場所にて、銀髪の美しい魔王の絶叫はいつ終わるとも無く響き渡るのだった。

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