81話 宴にて
クレイマンは得意の絶頂にいた。
自分を見下す古参共が、驚愕の表情を浮かべているのだ。
ただ、生意気な女を一人殴っただけだというのに、だ。
頭の硬い老害が自分の前に平伏す事によって、真なる魔族の世界を構築できる。
クレイマンは内心では、常にそう考えていた。
だが…、本当にこれで正しかったのか?
ふと、そうした疑問が湧き出てくる。
あのお方は、決して目立つなと言っていた。それなのに、自分は衆目を集めてしまっている。
クレイマンはその事に思い至り、その考えを打ち消す。
大丈夫だ。討伐議題を出す事が出来なくなった以上、その発言力の大きさが物を言う。
ここで古参の魔王ミリムが従順であると見せつける事で、他の魔王の反抗心を奪うのだ。
最強の魔王であるミリムに睨まれて、反論出来る魔王はいない筈である。
だが、本当にそうだろうか?
自分はやり過ぎてしまってはいないか? そもそも、何故こんなにも不安になるのだ?
本当は、ミリムを殴る必要は無かったのだ。
それなのに、
いや、待て。おかしい。
何故か、冷静な自分が違和感を感じ警報を鳴らしている。
策が失敗するにつれ、次策が稚拙になっている。こんな筈ではない。
あのお方に相談しなければ…。
しかし、現在は接触禁止を言い渡されている。
いや、落ち着こう。
大丈夫だ。そう自分に言い聞かせるクレイマン。
まだ自分にはミリムという切り札がある。
呪法:
そして、自らのユニークスキル『操演者』により支配は完全に行われているのだから。
あのカリオンでさえ、抵抗も出来ずに滅ぼされた程の圧倒的な力の権化が。
そして、徐々に落ち着きを取り戻し、クレイマンは笑みを深くした。
「さて、本日は私の呼びかけに応えて頂き、誠に有難う御座います!
それでは始めましょう、我らが宴を。
ここに、
クレイマンは主催者の権利として、集まった一同を見渡し、
そして、数百年ぶりに魔王が全員参加して開催される
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ギィは、クレイマンの様子を薄く笑いながら観察する。
その余りの滑稽さに声に出して笑ってしまいそうで、笑いを抑えるのに苦労する程であった。
そもそも、クレイマンは勘違いしている。
というよりも、全然理解してはいないのだ。
十大魔王などという呼称は、人間達が勝手に言い出したものであり、ギィが認めたものでは無い。
10人だろうが、100人だろうが何でもいいのだ。
ただ、500年毎の聖魔大戦で生き残れる者が少なく、数が調整され10人以下になるのだ。
その度に、新参が覇権争いをして、いつしか上限が十名と決まっていただけの話。
人間側としても、無駄に危険な魔王が増えるよりも覇権争いでもして数が減ってくれる方が都合が良かったのだろう。
いつの間にか暗黙の了解が出来ていたというだけの話なのだ。
最初の魔王が、ギィである。
力無き分際で自分を召喚した人間の望みを叶え、相手国を滅ぼした。
その報酬として、召喚した人間の国を滅ぼした。
たったそれだけで、不必要な事なのだが、自分が真なる魔王に覚醒している事に気付いたのだ。
一つ目の国を滅ぼした後に召喚した二体の"
それ以来、自分に付き従う事を許している。
そして、ギィが魔王として覚醒した頃、同時期に魔王に覚醒している者がいたのだ。
それが、ミリム。
4体の"竜種"その最初の一体が、大地にて人間と子を為した存在。
不思議な事に、人間と交わった"竜種"は、その大半の能力を子に奪われてしまった。
それ以来、"竜種"が子を為す事は
力を失った竜は大地にて受肉を果たし、
その事から、"自然聖霊の意思ある塊"であった者は、"竜種"と呼ばれる事になったのだ。
現在、地に満ちて繁殖しているドラゴン達は、元を辿ればこの一体に行き着くのだ。
その"竜種"、"星王竜ヴェルダナーヴァ"へと。
その"竜種"が自らの生まれ変わりとして、娘に与えた
愚か者が逆鱗に触れたのだ。
ミリムは激怒し、その国を滅ぼす。
そして、真なる魔王へと覚醒した。
当時の理性無きミリムは更に暴れ、ギィと衝突する。
七日七晩戦闘は継続して行われ、西の豊穣な大地が死の大地へと変貌してしまった程である。
結局、決着はつかなかった。
ミリムに理性が戻った事で、戦闘は終了したのだ。
ミリムに理性を取り戻させた者、それがラミリス。
当時、聖霊の主として君臨していた彼女は、邪悪な魔の力と強力な竜の妖気を浴びて変質してしまう。
だがそれでも、ミリムの暴走を止める事に成功した。
そして、その二人を調停したのである。
この3名が、原初の魔王。
目的は、三者三様。
力の極限を目指す者。
勝手気ままに生きる者。
世界の調停を望む者。
だが、それでいい。
同じ目的では無いからこそ、三人は互を認め合う事が出来るのだから。
その後、天空門を守護する巨人や古き吸血鬼が魔王となり、天から堕落し落ちてきた者が6番目となった。
これが、第二世代。
最古の魔王に劣る者達。
巨人は、その身に纏う聖なる属性により、魔王の種は芽吹かない。
だが、異常な力を有している面白き存在である。
巨人と妖精を除く魔王達は、幾度かの聖魔大戦を経て真なる魔王へと覚醒していた。
それでも尚、自分とミリムが持つ
だが、吸血鬼と堕天使には、覚醒の兆しが見えている。
究極能力に目覚めるのも時間の問題であろう。それを気長に待てばいい。
そして、クレイマン。
この愚か者は、ミリムを制御出来ている気でいる。
滑稽で仕方が無いが、そんな事は不可能だ。
ギィにも出来ない事が、こんな雑魚に出来る筈が無いのだ。
この世の全ての法則は、ユニークレベルでしかない。
つまり、究極であれ何であれ、魔法による支配は一切無効なのだ。
苦手な属性攻撃が多少通用する事がある程度。
精神支配系の攻撃など、通用する筈が無いのである。
そのような惰弱な精神で、
故に、ミリムに対してクレイマンが何かを為すなど出来る訳が無い。
つまりは、全てミリムの手の平の上で踊らされているに過ぎない。
馬鹿なヤツ。
ギィは薄く笑みを浮かべ、結末を見守る。
久しぶりに、楽しい宴になりそうであった。
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クレイマンが得意げに事の説明を行っている。
何でも、人間の情報提供者から得た情報で、俺が魔王カリオンを殺害した事になっているらしい。
ていうか、カリオンって誰だよ! って話なんだけどね。
グルーシスの親分だって事は知ってるけど、会った事も無いのである。
というか、クレイマンのヤツ、話が長いわ。
眠る必要も無いのに、眠気が湧いてくる。精神攻撃だろうか?
一言で言うと、ウザイ。
本当、勘弁して欲しいくらいだ。
「あの〜、質問いいですか?」
俺が聞くと、イライラしたように此方を睨み、
「何だ?」
と聞いてきた。
「いや、魔王って、そんな下らない事を会議しちゃうものなのですか?
もっとこう、論より拳って感じで実力主義なのを想像してたんですけど?」
と、挑発する。
この台詞に、クスクスと銀髪少女が笑った。
さっきまで怒りの眼差しでこっちを見ていたが、少しは怒りが解けただろうか?
というか、笑うと絶妙に可愛くなる。
「クレイマン、確かにその者の言う通りぞ。
お主の説明は、くどい。端的にものを言うが良い」
少女がクレイマンに言い放った。
その言葉に怒りの表情を浮かべるクレイマン。
単純? それとも、真性の小物?
もしこれが演技なら、大したものなのだが。
「く…。舐めるなよ、下等なスライムが魔王だなどと!」
「え? スライムがどうとか、関係あるの?
こっちは、お前のクソつまんねー話を聞きに来てるんじゃねーんだよ。
っていうかさ、お前、ミリムを殴るってどういうつもりだ?
宴が始まるまではと我慢してやったが、もういいだろ?
さっさと言いたい事を言っとけよ。お前の最後の言葉になるんだから」
俺の言葉に顔を引き攣らせるクレイマン。
怒りゆえか、ドス黒い
流石は魔王。そこそこ威圧感があるね。所詮、そこそこだけど。
その時、人形の様に動かないミリムが、一瞬、拳を握りしめてガッツポーズを取ったような……。
いや、気のせいだろう。
ったく、可哀想に。直ぐに解放してやるよ、ミリム。
俺は心にそう誓う。
「ク、皆様。聞いたでしょう?
この物も知らぬ下等な魔物が、偶々魔王の種を得て魔王種となった程度で調子に乗って。
あまつさえ、人間達と戦争まで引き起こす始末!
この様な者を野放しには出来ますまい。我らが粛清せねばならぬと考えますが、いかに?」
大仰な身振り手振りで、魔王達へ説得を試みている様子。
しかし。
「おい、
俺は机蹴り上げて凄んだ。
大きな円卓が蹴り飛ばされて、後方へ吹き飛んでいく。
そこに広いスペースが出来ていた。
「否。この場では、公平に自分の言葉でのみで相手に訴える事を是とするよ」
俺の問いに赤髪の一番ヤバそうな魔王が答える。
面白そうに、嫣然と笑みを浮かべている。
俺はシオンに目配せし、直後にシオンが俺の左隣に立って演説していたクレイマンに攻撃を仕掛ける。
拳に
ボコボコにしてすっきりした顔で、
「宜しいのですか?」
と俺に聞いてくる。
……。
お前ね、普通は殴る前に聞くよね?
しかも、俺はチラっとお前を見ただけだぞ。
確かに意図としては、クレイマンを黙らせろっていう意味だったんだけど。
次の一瞬で、ボコボコにするとは思わなかったよ。
まあ、やってしまったものは仕方ない。
何しろ今の演説の途中から、
多分、自分に都合の良い反応を引き出す為の行動だろうが、残念ながらバレバレだった。
先に仕掛けて来たのはクレイマンだし、正当防衛を主張させて貰うだけの話。
これで怒って俺に敵対を表明する魔王がいたら、それはその時だ。
「きさ、キサマ、貴様ーーーー!!!」
クレイマンを覆うドス黒い妖気が濃くなり、クレイマンの怪我を瞬時に回復させる。
オークロードが見せた回復能力を遥かに上回っている。
だがまあ、魔王なんだしこの程度は普通に思えるな。
「許さん、
クレイマンが叫ぶと同時に、懐から5体の人形を放り投げる。
その人形は瞬時に魔人へと変貌し、シオンに襲い掛かった。
一体一体が上位魔人クラス。
恐らくは、魔人の魂を奪い人形へと変えていつでも操れる能力なのだろう。
見ただけで
ぶっちゃけ、だから何? と言いたくなるスキルである。
案の定、シオンが剛力丸という愛刀を抜き放ち、5体の上位魔人を切り捨てた。
「ははは、少しはやるな! だが、無駄だ。
叫びながら呪文を唱えるクレイマン。
フーン。って感じに待つシオン。
しかし、人形が起き上がってくる気配は無い。
「ば、馬鹿な…。何故復活しない?」
呪文の詠唱を中断し、焦りを浮かべるクレイマン。
そんな無駄な事するより、中断せずに唱えとけよと言いたくなるけど。
「うーん。面倒だから教えてやるよ。
シオンの持つ大太刀は、
その人形、物理、精神の両面で防御術式組んでなかっただろ。
作りが甘すぎるから、一撃で壊されるんだよ」
何でも無い事のように説明してやった。
こいつもそろそろ俺の餌になって貰うのだし、知りたいなら教えてやってもいいだろう。
この程度は隠す程の事じゃない。
「せ、精神攻撃も備えた剣だと!?」
「珍しくないだろ? 人間も持ってたぜ?」
「ば、馬鹿な! それは宝刀では無いか!」
「ふーん。どうでもいいよ。俺達が造った剣だし」
シオンの大太刀は、ヒナタの剣を参考に俺が改良したのだ。
7発とかもったいぶった制約は無い。一撃で相手の魂を喰う。
その分、確殺という訳では無いが、物理精神同時攻撃になっていた。
最初から
同時に物理防御もしないとならない分たちが悪い。
「ほぅ。そうだったのですか。これは、"剛力丸・改"だったのですね!」
知らなかったのか…。
確か、渡すときに説明したよね? まあいいか…、シオンだし。
その時、クレイマンが立ち上がった。
中断していた詠唱を大急ぎで再開し、ようやく呪文を発動させたようだ。
「小癪な剣も、この私のコレクションに加えてやる。
喰らえ、
その邪悪な光が、俺ではなくシオンへと襲いかかった。
その様子を眺め、
「ククククク。喜べ、魔王さえも支配する究極の呪法だぞ!
お前如き魔人に使用するのは勿体無いが、まあ良い。
下等なスライムは、どうやら部下頼りなのだろう?
所詮、オークロードにてこずる程度の弱者よ、部下に殺されるがいいわ!
貴様の主を始末出来たら、この私の部下に取り立ててやる」
そんな事を言い出した。
駄目だ。『うわぁーもうだめだ』とでも言って、相手を調子に乗せてやりたいのだが、面倒になってきた。
コイツ…弱すぎる。
ヒナタだったら、それこそ瞬時に切って捨てているレベルじゃなかろうか。
いや、弱い訳では無いのかもしれないが、少なくともベニマルやソウエイとか幹部達を見ていたから目が肥えたのかも知れない。
それに…。シオンに継承された能力『完全記憶』とは、死んでも記憶が残る程の特殊能力。
つまり、魂での思考を可能にする。
その意味する所は、精神支配系の能力の一切を無効化するのだ。更に、精神へのダメージの大半も無効化する程である。
だから、
「おい、これはどういう攻撃だ? 痛くも痒くもないんだが。
もう少し待たないと発動しないのか?」
イライラし始めた声で、シオンが黒い光の中から聞いている。
もったいぶった秘術っぽく言っていたが、所詮こんなものである。
「そ、そんな筈あるわけない!!!
ミリムにも、魔王ミリムをも操ったこの秘術が、貴様如き魔人に敗れる筈が無い!!!」
シオンが光を妖気で吹き飛ばした。
それを見て恐慌状態に陥るクレイマン。勝負あったな。
「皆さん、こんなヤツの暴挙を許しても良いのですか!?
コイツは、魔王を舐めていますよ。全員で制裁すべきです!
これでは、やられてしまったカリオンも浮ばれまい!」
目を血走らせて、見学している魔王達に応援を求めだした。
俺達が戦闘状態になると同時、円卓から瞬時に結界で隔絶されていたのである。
まあ、円卓を蹴飛ばしてスペース作った時点で、こうなるという予想だったんだけど。
しかし、面倒なヤツだ。
自分が勝てないと判断すると、即座に応援を求め始めやがった。
ダグリュールとディーノが発言しようとしている。
俺の援護をしてくれるつもりのようだ。先に会って話せたのは良かった。
だがその時、
「おいおい。俺がいつ死んだって?
というか、そのリムルって魔物とは、今日初めて会うんだが?」
と、渋い低音の声が響く。
クレイマンと同時に入って来た翼の生えた女魔王の配下で、鷹の翼の生えた男だった。
格好いいマスクをつけていて、素顔は見えなかったのだが…。
おもむろにマスクを外した。同時に溢れ出す迸る程の妖気。
はあっ!!!
瞬時に、服装が変換され、出現する獣魔王カリオン。
俺の持つ"封魔の仮面"よりも、妖気を封じ込める事に特化したマスクだったらしい。
意識して見ていれば気付いたかも知れないが、そもそも魔王カリオンに会った事が無いので正体までは判らなかっただろう。
え、でも…。これってどういう事だ?
「な、馬鹿な! 何故お前が生きている!!!
……。
さては……、裏切ったな! フレイ!!!」
血走った目で、フレイと呼ばれた羽の生えた女魔王を睨みつけるクレイマン。
状況を見るに、裏切ったというよりも…。
「あら? いつから私が貴方の味方になったと錯覚していたの?」
しれっと、そんな事を言い出すフレイ。
女って、怖い。
「ふざ、ふざけるな! き、貴様ら!!!
もういい。もう判った。もう許さんぞ」
急に冷静さを取り戻すクレイマン。
何か吹っ切れたのか?
クレイマンは、薄く酷薄な笑みを浮かべて、
「ミリム。ここにいる者、全て皆殺しにしろ!!!」
そう、高らかに言い放った。
場は一瞬で緊迫し、魔王達に緊張が走る。
もっとも、何名かは相変わらず悠然と構えたままであったが。
俺もミリムに目を向ける。
奥の手。
それは、ミリムを操っているという自信だったのか。
やはり操られて…。
しかし、非常に不味い。クレイマンは雑魚だが、ミリムはヤバイ。
今の俺でも分が悪いかも知れない。それに、何とかして助けたい。
いや、助けるのだ!
今、開放して……
そう考えたその時、
「何でそんな事をする必要があるのだ? リムルは友達だぞ?」
と、何事も無かったように問い返すミリム……。
えーと、え? どういう事???
混乱しているのは、俺だけでは無い。
魔王にも、え? だってさっき殴られてたのに反応しなかったじゃん! みたいな驚きを浮かべている者がいる。
一体どういう事なんだ?
そんな俺達にお構いなしに、
「おい、フレイ! あれ、ちゃんと大切に持ってきてくれているんだろうな?」
「はいはい、コレでしょ?
というか、アンタ拳握り締めてガッツポーズしたり、口元がにやけてたり……
全然演技出来てなかったわよ。まあ、二発殴られて切れなかったのだけは褒めてあげるわ」
「しょうがなかろう。リムルがワタシの為に怒ってくれているのがわかって嬉しかったのだ。
もう少し、クレイマンの精神を弱化させれば、黒幕を吐かせる事が出来たのだがな!」
そんな会話の遣り取りをして、フレイが何かを懐から取り出してミリムに渡す。
それは、俺がプレゼントしたドラゴンナックル。
嬉しそうに受け取り、そそくさと嵌めるミリム。そしてニッコリと微笑んだ。
「もう少し怒りを溜めたかったが、まあいい。覚悟は出来ているんだろうな、クレイマン!」
そう言って、クレイマンを睨みつけた。
ええと、つまり演技だったという事か?
あまりの出来事に、呆然となった魔王達もようやく事態が飲み込めてきたようだ。
やっぱりね。
だと思った。
そりゃ、そうだよな。
そういう心の声が聞こえてきそうである。
だが、
「ちょ、ちょっと待て、ミリム。おま、お前、操られてなかったの?
すると、ノリノリで俺をいたぶってくれた訳?
尚且つ、俺たちの霊峰を吹き飛ばしてくれたのも、君の意思って事?」
魔王カリオンが、こめかみに青筋を浮かべてミリムに問う。
「む? お前、そんな小さな事どうでも良かろう!
さあ、今はクレイマンを追い詰めたのだ。さっさと黒幕を吐かせるぞ!」
「小さな事じゃねーよ! お前、下手したら俺様が死ぬ所だったんだぞ!
って、もういいや。どうせ聞いちゃいねー」
何だか、ちょっと可哀相だと思った。
何か、涙目のカリオンを見ていると慰めたくなってくる。
騙された者同士、何か感じるものがあるのだろう。
だけどまあ、グルーシスが喜んでいるし、生きてて良かったよ。
そうか…。
ミリムは、クレイマンを操る黒幕を突き止める為に、あえて操られているフリをしていたのか。
何故ミリムがそんな事を? そういう疑問が浮んだが、まずはクレイマンだ。
全ては、クレイマンを始末した後に考える事にしよう。
状況は既に詰んでいる。
後は、仕上げをするだけなのだから。