2011年にドラムの高橋久美子がバンドを脱退したあとも、パートにこだわらず2人がさまざまな楽器を用いて演奏する自由なスタイルやサポートメンバーを入れた編成、打ち込みを軸とした“メカスタイル”など、柔軟な発想で音楽に向き合ってきたチャットモンチー。7月をもって“完結”する彼女たちは3回目となる日本武道館公演でラストアルバムを軸とした第一部、新たに“変身”を遂げた姿や原点であるスリーピース編成で懐かしいナンバーも披露した第二部で、バンドのさまざまな表情を見せた。
客電が落ち、ステージを覆う緞帳に映し出されたのは「私たちのこれまでと、皆さんのこれからが交わる、輝かしい1日になりますように」というチャットモンチーからのメッセージ。ゆっくりと幕が上がると“メカスタイル”の楽器を備えた360°開放型のステージが現れ、ラストアルバム「誕生」のオープニングを飾るナンバー「CHATMONCHY MECHA」が場内に流れた。観客の期待や緊張が高まる中、「CHATMONCHY」と大きく記されたステージ後方のプレートが左右に開き、橋本絵莉子と福岡晃子が恐竜をモチーフとした衣装をまとい、堅く手をつないで登場。2人は大きな歓声に驚きつつもオーディエンスに手を振り、福岡はシンセサイザー、橋本はマイクの前へとそれぞれの配置についた。ヘッドホンを付けた橋本が深く息を吸い込み、ハイブリッドなサウンドに乗せて歌い始めたのは「たったさっきから3000年までの話」。そして重厚感のあるギターと美しい鍵盤の音が繊細な世界観を作り上げた「the key」を経て、橋本は「皆さんこんばんは。チャットモンチーです」と口を開き、言葉に迷った様子を見せたあと「最後までがんばります。応援してください」と挨拶した。
その後も彼女たちは、福岡がバンドのこれまでを歌詞に込めた「裸足の街のスター」をカリンバや鍵盤ハーモニカを用いてゆったりと演奏。かつてのメンバーである高橋が作詞した「砂鉄」では、思いを込めるように丁寧にメロディを紡ぎ上げる2人の姿をオーディエンスが固唾をのんで見守っていた。「ここでスペシャルゲストを呼びたいと思います!」という言葉と共に、ステージに登場したのはラストアルバムに参加したDJみそしるとMCごはん。最後のワンマンライブということもありどこか緊張した面持ちだった橋本と福岡だが、彼女の姿を見ると顔をほころばせ、場内に和やかな空気が広がっていった。おみそはんが「大好きな2人と一緒に曲を作れて、ライブもやらせてもらえてうれしいです!」と話すと、3人は共に作り上げたユニークなナンバー「クッキング・ララ」を披露。福岡のシンセベースに乗せて、橋本とおみそはんは温かなクラップに包まれながらゆるやかにこのナンバーを届けた。
おみそはんを見送ったあと、「なんか今まで味わったことない気持ちやない?」と福岡に問いかけられた橋本は「とっても不思議な気持ち。何て言ったらいいんだろう?」と首を傾げ、福岡は「形容する言葉が見つからないんですけど、みんなに見守られている感じがします」と最後のワンマンを迎えての心境を語った。ここまでラストアルバムの収録曲を立て続けに披露してきたチャットモンチーだったが、橋本が「昔の曲やるね」とフランクに客席に告げ、手に取ったのはアコースティックギター。彼女たちはアコギとベースのみのシンプルな編成で、インディーズ時代から存在する楽曲「惚たる蛍」を目を見合わせながら披露した。演奏を終えると福岡はドラムセットへ移動し、橋本もアコギからエレキギターに持ち替える。暗闇の中、スポットライトに照らされた2人が演奏し始めたのは「染まるよ」。感情を叩き付けるような力強いドラムと切なげな歌声が響き渡り、アウトロでゆっくりとステージに幕が下ろされた。
再び彼女たちがステージに登場するまで、場内にはチャットモンチーの13年間の歴史を振り返るヒストリー映像が流れる。ライブの模様やレコーディング、ミュージックビデオの撮影の様子、そして高橋の脱退後も止まることなく歩み続けた彼女たちの姿をオーディエンスは映像で振り返った。映像が終わると、ステージを覆う緞帳に指揮棒を持った福岡のシルエットが映し出される。オーディエンスが驚いている間に幕が上がり、白いワンピースに身を包んだ2人、そしてバイオリン、ビオラ、チェロの6人からなる弦楽器隊“チャットモンチーアンサンブル”が姿を現した。福岡が指揮を務め、優美なストリングスアレンジを施して届けたのは「majority blues」。続く「ウィークエンドのまぼろし」では弦楽器のほか、橋本と福岡が用いるギロやマラカスといったさまざまな楽器が楽曲を彩り観客を楽しませる。小説家の西加奈子が作詞を手がけた「例えば、」を演奏し終えたところで、福岡は「すごくない? チャットモンチー、ついにストリングスと共演です。こういう音楽ができたことを幸せに思います」と目を輝かせ、この日のために指揮を練習したことも語った。
ここでメカセットと入れ替わりでドラムセットがステージ下から現れ、“男陣”としてチャットモンチーのサポートメンバーを務めてきた恒岡章が登場。バンドはストリングスとドラムを含めた9人編成で、上京したときの気持ちを歌ったナンバー「東京ハチミツオーケストラ」を披露した。ここでチャットモンチーアンサンブルが一度ステージをあとにし、バンドはギター、ベース、ドラムのシンプルなスリーピース編成に。「さよならGood bye」では芯のあるドラムのビートやグルーヴィなサウンドが響き渡った。橋本が言葉を言い捨てるように歌った「どなる、でんわ、どしゃぶり」では、重く生々しいバンドサウンドが場内を渦巻く。さらに熱を帯びた力強いベースが印象的な「Last Love Letter」で会場を盛り上げた彼女たちは、「真夜中遊園地」で疾走感のあるビートと突き抜けるような歌声を届け、ロックバンドとしての強靭さを見せつけた。「真夜中遊園地」のアウトロを3人で楽しそうに向かい合い演奏し終えると、再びチャットモンチーアンサンブルがステージ下から現れ、軽やかなドラムのビートで本編のラストナンバー「ハナノユメ」がスタート。メジャーデビュー曲でオーディエンスと明るくコール&レスポンスを広げ、彼女たちは晴れ晴れしい表情で本編を終えた。
熱のこもった拍手に呼ばれ、チャットモンチーの2人と恒岡は再びステージに登場した。言葉が挟まれることなく4つ打ちのバスドラが鳴り響き、演奏されたのは「シャングリラ」。シンプルなスリーピース編成でバンドの代表曲を届け、3人は会場を大きく沸かせた。そのまま恒岡が力強いドラムでつなぎ、彼女たちはライブの終わりに向かって駆け抜けていくように疾走感のあるナンバー「風吹けば恋」へ。みずみずしいサウンドを場内いっぱいに響かせ、恒岡は彼女たちと抱き合ってステージを去っていった。再び2人だけとなった福岡と橋本はステージ前方の段差に腰かけて話し始める。観客の歓声を受けて福岡が「今優しい声をかけられたら、えっちゃん泣いちゃうよ」と笑うも、「大好き!」や「ありがとう!」といったどんどん大きくなるオーディエンスの声に、橋本より先に福岡が思わず涙をこぼすという一幕もあった。
福岡が「ほんまに楽しかった。ありがとう!」と観客に感謝を告げると、橋本も「本当に皆さん、13年間応援してくれてありがとうございました……!」と涙を流しながらも精一杯思いを伝え、最後の楽曲を演奏するために福岡はグランドピアノ、橋本はマイクの前へとそれぞれ進む。「みんなで歌ってほしいなと思う曲です」と橋本が呼びかけ、ピアノが奏でるチャイムの音階でスタートしたのは卒業ソングとして人気の高い「サラバ青春」。橋本は360°を囲むオーディエンスをゆっくりと見渡しながら楽曲を歌い始めるが、途中で涙で声を詰まらせ歌えなくなってしまう。オーディエンスの合唱は彼女の背中を押すように一層大きくなり、その間橋本は穏やかな表情でその歌にじっくりと聴き入っていた。観客と共にこの歌を最後まで歌い切った彼女は「ありがとう!」と満面の笑みを浮かべ、涙を流すファンであふれる客席に向かって、福岡と手をつないで深々とおじぎをする。頭を上げると彼女たちは向き合い、温かな拍手の中力強く抱き合った。ゆっくりとステージを一周し観客に別れを告げたところでステージ後方のプレートが左右に開き、2人は最後まで大きく手を振りながら扉の向こうから放たれる光の中へ。彼女たちが去ったあと、ステージに下ろされた緞帳には「CHATMONCHY is FOREVER」の文字が輝いていた。
チャットモンチーは7月21、22日に地元徳島のアスティとくしまで主催イベント「チャットモンチーの徳島こなそんそんフェス2018 ~みな、おいでなしてよ!~」を開催。このイベントが彼女たちにとって、最後のライブとなる。