日本の伝統的な製法で生産したしょうゆをタイで売り、タイで生産したタイカレーを日本で売る—―。前例のない、日タイの「食」の相互乗り入れ現象を演出しているのがヤマモリだ。
創業から約130年。1889年にみそ・しょうゆの醸造を始め、袋詰め液体スープやレトルト殺菌した「釜めしの素」など、いくつもの業界「初」を送り出してきた総合食品メーカーはタイにどっかりと根を下ろし、日本の食文化をタイ人に伝えると同時にタイの食の魅力を日本人の間で広めている。
1988年の進出当時はOEMの缶詰製造をしていた
ヤマモリがタイに進出したのは1988年。この時点では日系企業2社との合弁を機にOEMの缶詰製造を行っていたにすぎないが、1995年にタイの企業と合弁でしょうゆの生産をスタート。しょうゆの仕込みには最低でも半年ほど掛かるため、タイでしょうゆの販売を開始したのは2年後の1997年。ここからヤマモリの快進撃が繰り広げられていく。
タイ国内でしょうゆや調味料などを販売するヤマモリトレーディングカンパニー(以下YTC)のマネージングディレクター・長縄光和氏はこう振り返る。
「今でこそタイでは日本食ブームに沸いていますが、当時は日本食レストランといっても300店ほどあった程度。タイで鶏の唐揚げを生産している日系の工場など、日本食の冷凍・加工食品の原料用しょうゆが売上げの75%を占めていました」
専用調味料の卸売りで富士レストランと売上げを伸ばす
タイでのヤマモリの成長を押し上げた要因の1つが、タイ人の間で絶大な人気を誇る日本食レストランチェーンの富士レストランだ。ヤマモリは富士レストランがまだ5、6店の時代に、店のテーブルに置く専用調味料としてしょうゆの卸売りを開始。それから20年を経て、現在、富士レストランの店舗数は約100店にまで増えている。ヤマモリは富士レストランの成長と足並みをそろえて売上げを伸ばしていった。
店舗を増やせたのは富士レストランばかりではない。JETROバンコク事務所の調査によれば、日本からの出店や日本語の店名を掲げる店、日本食のメニューが過半を占める店の数は年々増えて、2017年度で2774店。タイ人中間層が利用する日本食の店も急増している。
高まりを見せる日本食ブームを背景に、2013年にヤマモリは独資でヤマモリタイランドを設立。しょうゆやつゆなど日本食に欠かせない調味料を日本クオリティで生産している。
このヤマモリタイランドはしょうゆの海外工場としては初のJAS認定工場でもある。生産している「こいくち」「うすくち」2品種については、JAS格付検査を行い、合格した製品はJASマークを付けている。