神話・民話クロスオーバー、とでもいうべきジャンルがあるような気がします。
つまり、実際に存在する神話や民話、あるいは伝説的な実在の人物をゲームに、あるいは創作に登場させて活躍させる。かつ、複数の神話や民話を様々に交錯させて、登場人物同士に関連や人間関係を作る。舞台の時間軸は、現代であることもあれば、神話時代の当時である場合も、全然別の世界、別の時代である場合もあります。
世界史なり、おとぎ話なり、絵本なりで馴染みのあるキャラクターが、具体的な形をとって舞台上で活躍する、その「この人知ってる!」「この話知ってる!」的な既知感が、そういったジャンルの魅力の根源の一つになっている、というのはおそらく間違いないでしょう。
最近で言うと、言わずと知れた「Fate」やFGOなどのシリーズの他、遺物や遺跡を擬人化したようなソーシャルゲーム、一部の無双シリーズ、ヴァルキリープロファイルやゴッドオブウォーのような神話をテーマにしたゲーム、平野耕太先生の「ドリフターズ」やら女神転生やら大神やら、まあ枚挙に暇がないと思います。皆さんがお好きな「神話・民話クロスオーバー」作品は何でしょうか?
ところで、ことゲームの世界に限った話で言うと、この流れには割と明確なルーツがあるのではないかなあ、と私は思っています。
実際の神話・民話・伝説を下敷きにしている、というだけであれば、例えば「ドルアーガの塔」や「バベルの塔」「ソロモンの鍵」「元祖西遊記スーパーモンキー大冒険」あたりの話もしないといけないかも知れないですが、私が考える限り、コンシューマー機で明確に「神話・民話クロスオーバー」をやった最初の作品は、恐らく「ヘラクレスの栄光」だと思うんです。
ヘラクレスの栄光は、1987年6月、データイーストから発売された作品です。ギリシャ神話を題材にしており、主人公はギリシャ神話の英雄ヘラクレスですし、ギリシャ神話の神々が山ほど出てきて色んな活躍をします。
基本的にはヘラクレスの「12の功業」を題材にしてはいるのですが、流石デコというべきなのか、その神話アレンジっぷりはかなりのものです。ヘパイストスは何故かアイテム扱いだし、ヘラクレスはバーの女の子に「ヘラちゃん」呼ばわりされるし、なんかヴィーナスがハーデースに捕まってるし、ラスボスはどういう訳かそのハーデースです。元ネタのギリシャ神話では、ヘラクレス別にハーデースと喧嘩してないんですけどね。「ケルベロス捕まえるけどええか?」「まあええで、ただし怪我させんなよ」っていう会話しただけで。そもそもハーデースとヘラクレスって叔父と甥の関係ですしね。
ところで、この「1987年」という年には、神話・民話クロスオーバージャンル的に、決して見過ごせない作品がもう2本出ています。
ひとつが、87年9月に発売された、「デジタル・デビル物語 女神転生」。この作品、ストーリー的には神話や民話要素はあんまり濃くないんですが、イザナギ・イザナミという日本神話要素を導入していること、色んな仲魔が神話や伝説からもってこられていること、様々な神話や伝説の登場キャラクターを戦わせることが出来ることを考えると、「クロスオーバー」のルーツとしてはかなり大きな作品だったんじゃないかなあと私は思っているんです。ベルゼブブやルシファーとクリシュナが戦うんですよ、この作品。超神話クロスオーバーじゃないですか?
まあ女神転生についてはまた改めてじっくり書くとして、もう1本。「神話・民話クロスオーバー」ジャンルの、割と根っこの方にある代表的な作品として「桃太郎伝説」があるんじゃないかと。私はそんな風に考えている訳なんです。
「桃太郎伝説」。1987年10月26日、ハドソンから発売。ゲームシステム的には「ドラクエ」を下敷きにしたスタンダードな2DRPGなんですが、日本の「昔話」を主要な題材とした世界観で、民話や伝説の要素が密接に世界観に取り込まれているのが大きな特徴です。
開発の指揮をとったのは言わずと知れたさくまあきらさんで、氏がこの作品以降、「桃太郎」のキャラクターを縦横無尽に展開し、「ターボ」「外伝」「新・桃太郎伝説」のような後継作RPGの他、「桃鉄」シリーズを世の中に送り出したことは皆さんご存知かと思います。また、イラストを担当した土居孝幸さんも含めて、「週刊少年ジャンプ」の読者投稿コーナーだった「ジャンプ放送局」との関連、相互影響がかなり大きかったタイトルでもあるでしょう。このゲームのネタ部分はかなりの部分ジャンプ放送局テイストだったと思います。
私が考える桃太郎伝説の特徴を箇条書きにしますと、こんな感じになります。
・実際の民話・伝説を巧みにゲーム展開やイベントに取り込んだ、舞台立てとシナリオ構築の巧みさ
・初心者を意識したナビゲーションの工夫
・ほんわかした雰囲気にも関わらず、ゲームの難易度は正直かなり高い
・その為、一部のシステムで無理やりバランスをとっている感は正直ある
・ネタ部分は多分好みが分かれる
・希望の都が死ぬほど広い
・音楽めっちゃいい(特にパスワード入力画面(てんのこえ)が)
・初心者を意識したナビゲーションの工夫
・ほんわかした雰囲気にも関わらず、ゲームの難易度は正直かなり高い
・その為、一部のシステムで無理やりバランスをとっている感は正直ある
・ネタ部分は多分好みが分かれる
・希望の都が死ぬほど広い
・音楽めっちゃいい(特にパスワード入力画面(てんのこえ)が)
いくつかピックアップして補足してみます。
〇実際の民話・伝説を巧みにゲーム展開やイベントに取り込んだ、舞台立てとシナリオ構築の巧みさ
まず、なんといってもこれです。これあっての桃太郎伝説、これあっての神話・民話クロスオーバーです。
桃太郎伝説は、勿論その中核にあるのは「桃太郎」のお話であって、鬼ヶ島にいる鬼を退治する為に桃太郎が旅立つところが、そのお話の淵源です。
ところが、この「桃太郎伝説」の世界観は、決して桃太郎の世界にとどまらず、ものすごい勢いで脱線していくんですね。世界地図をモチーフにした世界のあちらこちらで、日本の民話・童話・伝説を元にしたお話が、これでもかこれでもかと展開していくんです。
例えば、「金太郎」「浦島太郎」などの、メジャー童話の主人公たち。今作では、桃太郎は基本的に一人旅(+オプション3匹)である為に単なる「サブキャラクター」だった彼らですが、後のシリーズではメインキャラクターに昇格することになります。
例えば「花さか爺さん」。花さか爺さんが飼っていた犬が、桃太郎にお供する犬になる、なんて、まさに「ザ・民話クロスオーバー」って感じですよね。
例えば「おむすびころりん」のおむすび村や、「三年寝太郎」を舞台とした寝太郎の村。「舌切り雀」をモチーフにしたすずめのお宿は、あちらこちらで回復ポイントとなっていますし、「並び地蔵」は重要なヒントを教えてくれます。さるかに合戦のさるかに村、「やまんば」の話などなど、実に自然にゲーム展開に吸収されていくんです。
私が特にうまいなーと思っているのは、「クリアに必要なアイテム集め」という要素を、「かぐや姫」のエピソードとくっつけたところです。ドラクエであれば「もんしょう」や「あまぐものつえ」といった必須アイテムが、火鼠の衣や、燕の子安貝といった、竹取物語のエピソードのアイテムに化けるわけです。これ、おとぎ話を聞いたことがある人なら、誰でも「あーーっ!」ってなるエピソードだと思うんですよ。
各地で「鬼」をボスに据えることによって桃太郎の味は確保した上で、色々なエピソードに民話要素を絡める。特に、ラスボスかつ鬼たちの元締めを「えんま大王」に設定したのは、世界観をビシッと絞める上での特筆すべきポイントだと思います。この辺りは、さくまあきら氏の妙技といっていいでしょう。
「ドラクエ」や「ゼルダ」のようなファンタジー世界観を、日本民話の世界に引き込んでしまう。それによって、子どもから大人まで、シームレスに遊べる世界観をデザインしてしまう。
とにかく、ゲーム全編にわたって「おとぎ話」ベースで世界観が統一されていることが、「桃太郎伝説」の味わいの根源であることは間違いありません。このゲームを、「神話・民話クロスオーバー」の重要なタイトルであるとみなす理由です。
また、このゲーム、術を基本的に「仙人」からの修行で教わるという要素があるんですが、これもなかなか、イベントとしてのバラエティに富んでいます。最強術であるろっかくやきんたんの術はまだしもとして、ひえんの術の習得滅茶苦茶大変でしたよね。これもいい思い出です。
〇ほんわかした雰囲気にも関わらず、ゲームの難易度は正直かなり高い
〇その為、一部のシステムで無理やりバランスをとっている感は正直ある
〇その為、一部のシステムで無理やりバランスをとっている感は正直ある
一方このゲーム、難易度は正直かーなーりー高いです。特に戦闘バランスは相当厳し目で、
・回復の術のコストが高い
・お供の三匹がランダム行動で殆ど頼りにならない
・桃太郎が一人旅である割りに状態異常でハメてくる敵が存在する
・敵の攻撃も割とエグい上にちょくちょく奇襲してくる
・アイテムが持てる個数も限定されている
この辺りについては指摘しておく必要があるでしょう。特に、「氷の塔」や「鬼の爪痕」といった難所では、相当ハマったプレイヤーも多いのではないでしょうか。
この為に、例えば「回復ポイントをあちこちにばらまく」であるとか、「段(レベル)が上がるとその場でステータスが全回復する」といった救済要素でなんとかバランスをとっている、というような印象は正直あります。当時のバランシングが相当渋い方向に寄っていたのではないかという印象もあり、ここは桃太郎伝説の敷居を若干上げていたところかも知れません。
あまりにも攻略難度が高い為、一部の隠しパスワード(「ふ」とか)に頼らざるを得なかった、という人も中にはいるかも知れません。あれ、かぐや姫のアイテムが全部入手済になってるので、個人的にはあんまり好きじゃないんですが。やっぱかぐや姫イベントはちゃんとやりたい。
とはいえ、攻略ヒントがかなり親切であること、段自体はそれなりにサクサクと上がることも含めて、初心者にも遊べるようにという試行錯誤は相当積まれたのだろうと拝察します。その点も桃太郎伝説の丁寧なところです。
〇ネタ部分は多分好みが分かれる
特にほほえみの村周辺では、上でも書いた「ジャンプ放送局」ノリのギャグネタが方々に現れる部分があり。これについては、「おとぎ話世界観」から若干浮いているなーと感じる人もいるかも知れません。当時メインターゲットであったろう小学生男子には大うけだったのではないかとは思うのですが。個人的には、きんぎんパールプレゼントのおにが好きです。あと勉強の鬼とか。
また、何故か後々の桃太郎シリーズで欠かさず「女湯」が作品中に出てきたことも、本作品がスタート地点であることは見逃せない事実です。本作品は、攻略スピードによって桃太郎の年齢が上がっていくのですが、「8歳までなら女湯に入れる」というのが割と絶妙な条件でして、相当早解きで進めないと8歳までに希望の都にはたどり着けません。こういうご褒美的なお遊び要素を入れるのも、さくま先生お得意の手法であるように思います。
ちなみに、「貧乏神」「福の神」「すりの銀二」など、のちの桃鉄でレギュラーになるキャラクターたちも、大体このゲームで登場しています。この辺のキャラクター展開も桃伝の特色の一つです。
〇音楽めっちゃいい(特にパスワード入力画面(てんのこえ)が)
冗談抜きでめっちゃいいです。ちょっと久々に聞いてみてください。
この、哀愁の中にもメロディアスな旋律、いつまでも耳に残る特徴的なフレーズといい、妙にかっこいいベースラインといい、パスワード入力画面としてはドラクエIIの「ラブソングさがして」に匹敵する超良曲だと思うんですが、皆さんどう思いますか?
勿論、戦闘曲やら希望の都の曲やら、「和風」の中にもコミカルさやかっこよさが隠されている印象的な曲ばかりなのですが、やはり「桃太郎伝説」屈指の名曲といえば「てんのこえ」だと言い切ってしまいたい気分です。作業用BGMとしても極めて優秀です。
ということで、長々書いてしまいました。
実のところ、桃太郎伝説の話はファミコン版だけでは完結しませんで、SFC版の「新・桃太郎伝説」も含めて語らない訳にはいかないのですが、大概長くなったのでそちらについては項を改めたいと思います。何はともあれ、桃太郎伝説は面白いので未プレイの方はぜひ遊んでみてください。
今日書きたいことはそれくらいです。