小学生の頃・・・
よくみんなで公園に遊びに行った。
鬼ごっこをするためだ。
でも・・
その日の公園はいつもとチョット違った。
友人の一人が小声で言った。
「へんなひといる」
友人が指さす方を見ると・・・
ベンチに汚いオッチャン。
地面には叩きつけられた白米。
・・・・なんだなんだ??
この光景を見た幼い私たちは
ついワクワクしてしまった!
まいにち、まいにち、
公園で繰り返す鬼ごっこに飽きてたんだと思う。
みんな刺激が欲しかったんだ。
私達は汚いオッチャンに話しかけた。
「ねえねえ!!」
呼ばれたオッチャンはこちらを振り返った。
友人たちは遠慮なくオッチャンに質問をする。
「なんでゴハン捨てたの!?」
「食いたくねえからだよ!」
オッチャンは笑顔で答えてくれた。
どうでもいい答えなのに・・・
何故か私たちは感心してしまった。
私達とオッチャンは少し世間話をしてバイバイした。
・・それからオッチャンは
まいにちのように公園に居るようになった。
どうも仕事はしていないらしい。
私達はオッチャンを見かけるたび話しかけた。
そして・・・・気づけば私達だけでなく、
公園に来る子供達全員が
オッチャンに話かけるようになっていた。
「オッチャン!」「オッチャン!」と。
オッチャンは話しかけると、
たまにお菓子をくれた。
しかし・・・しばらくすると・・・
オッチャンは普通にお菓子をくれなくなった。
オッチャンは「ほらっ!」と
お菓子を遠くに放り投げる。
すると私達は、一斉に走り出し・・
お菓子を必死に奪い合った。
犬みたいに。
わんわん
当たり前だけれど・・
オッチャンの要求は
少しづつエスカレートしていった。
「100円やるから、そこから飛び降りろ!」
みんな競い合って、遊具から飛び降りた。
もちろん私も・・・・
「ほら、飛んでみろ!」とオッチャンが言う。
ドンっと飛び降りると・・足がビリビリする。
みんなドンッドンッと遊具から飛び降りる。
しかし中には上手く出来ない子もいる。
一人飛び降りてケガをしてしまった子供がいた。
オッチャンは半泣きの子を見て言う。
「お前がドジだから悪い!」
みんな「そうだ!そうだ!」と同調する。
オッチャンが「危険だから止めよう!」
なーんて言い出したら大変だからね。
「お金をくれるオジサンがいる」
そういう噂が立つと・・・
公園に来る子供は少しづつ増えていった。
しかし増えているのは子供だけじゃなかった。
汚いオッチャンの数も増えていた。
ある日、私が公園に行くと・・・
汚いオッチャン達が
「いいぞ!がんばれ!」と
大きな声を出していた。
・・・・何がなんだかわからない。
私がオッチャン達が見ている崖を見上げると・・・・
驚いた。
上級生たち数名が・・
『崖』を必死によじ登っていた。
ヤモリのように。
崖といっても、石垣のようなもので
大きな石がごつごつと飛び出している。
・・・・しかし頂上まではかなり高い。
10数メートルはある。
子供には過酷すぎる。
下から見てもゾッとした。
もし落ちたら・・・
ケチャップゴハン
(なんでこんな危険なことをしてるんだ?)
・・・・という疑問はすぐに打ち消された。
「登りきったら千円だぞ!」
とオッチャンが大声で叫んだからだ。
(千円!?)
小学生の我々にとって千円は大金。
プラモデルだって買える。
千円と聞いて私は納得した。
いや・・・・
(千円なら・・やりたい!)
そう思った。みんなそう思っただろう。
オッチャン達がさらに大きな声をあげる。
「さぁもう少しだ!がんばれ!」
まるで・・・・
競馬か競艇を楽しんでいるかのように・・・
オッチャン達はガハハと笑い合っていた。
この汚いオッチャン達による
命がけの『子供レース』は
しばらく開催され続けた。
が・・・・
学校か誰かの親が文句を言ったらしく、
気付けばオッチャン達は居なくなっていた。
きっと・・・・
また別の公園に行ったんだろう。
・・これは子供の頃にたまたま出会った
『特殊な変人達の話』だと思っていた。
・・・でもよく考えてみると
大人になっても私の世界は
あの公園と何も変わらなかった。
汚い上司が私にこう言うんだ。
「さぁ飛べ!飛んだら100円だ!」
無茶ぶりもほどほどだよ・・・・
・・・・・・・
・・お金を出して無茶ぶりをする大人。
そして誰も幸せにならない不毛な仕事。
そんなことを十数年・・・
ずっと繰り返していたなぁと思う。
今おもえば、あの公園の子供レースは
とてもためになる茶番だったんだ。
『こうなっちゃいけない』が
あの公園にはたくさん詰まっていた。
おわり
【寄稿のお知らせ】
▼NHKとの不毛な争いについて書きました。
めちゃくそよく書けたから読んでください!