ピニスンの割と短いお話   作:コモリモリオ
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アウラちゃんとピニスン

 ナザリック大墳墓第六階層でのある日の光景である。

 

 アインズから勧誘を受けてナザリック大墳墓に移住したドライアードのピニスンは

 今日も第六階層にて、仕事であり趣味(あるいは本能の命じる使命)でもある

 樹木の世話に興じていたが、少し離れた所にあるマンドレイク畑から聞こえて来る、

 やる気があるのかないのかテンポだけはきびきびとした、

 死人のようなテンションでの大声の合唱がどうしても気になってしまい、

 嫌な予感を覚えつつその発生源へと足を向ける事にする。

 

 そこにはアウラの指示の元、懸命に唱和の訓練を行うマンドレイク達が居た。

 アウラはチラ、とピニスンの方へと顔を向けると訓練の成果を自慢するかのように

 テンションを先ほどまでの五割増しにしてマンドレイクへの号令を発した。

 

「はいっ、万歳!」「「「アインズ・ウール・ゴウン万歳!」」」

「うりゃっ、アインズ様万歳!」「「「アインズ・ウール・ゴウン様万歳!」」」

「それっ、魔導国万歳!」「「「アインズ・ウール・ゴウン魔導国万歳!」」」

 

 楽しそうなダークエルフの美少女アウラと端的に言えば気持ち悪い見た目のマンドレイク達。

 彼らはまるで人気アイドルの満員御礼のコンサートのような、

 傍からは見るに堪えない奇妙なコントラストを醸し出していた。

 ゲンナリとしたピニスンであったが、かろうじて気を取りなおしアウラに声を掛ける。

 

「ねぇ、アウラちゃん………何してるの、これ」

 

 上下関係としては明確にピニスンよりもアウラの方が上であるものの、

 ピニスンの方が年上であり、幾度か会話を重ねる内に気が合うようになったので

 敬称ではなく愛称に近い呼び方でピニスンから名前を呼ばれる事にしたアウラである。

 

「ほら、この掛け声って三種類の状況に対応してるのよ」

 

「はあ」

 

「アインズ・ウール・ゴウンと言うお名前はアインズ様の事でもあり、

 アインズ様が率いる組織の事でもあり、アインズ様が治める国の事でもあるんだけれど」

 

「ふむふむ」

 

 ピニスンにはその違いはいまいち解り辛かったがここはアウラに同意しておく。

 

「状況によって適切に掛け声が出来ないといまいち使い辛い、

 と言うよりか不敬になりそうな事に気付いちゃってさ。

 だからあたしの指示でひとまずは三種類だけでも切り替えられるようにしているんだ」

 

 マンドレイク達を背にし、ぱっと手を広げて自分の業績に満足した表情を見せるアウラ。

 

「でもこいつはダメかなぁ」

 

 くるっと姿を後ろ向きにひるがえすと、アウラは一匹のマンドレイクを指差す。

 昏い瞳をしたアウラに見詰められたマンドレイクを残し、

 周囲のマンドレイク達が小声で万歳三唱をしたままさっと散開した。

 孤立し、身じろぎひとつ出来ない内に

 アウラによって持ち上げられたマンドレイクは必死になって連呼する。

 

「アインズ・ウール・ゴウン万歳!アインズ・ウール・ゴウン万歳!」

 

「全くもう、お前はそれしか言えないんだから。

 間引かないと他に影響が出そうだし、仕方がないよね」

 

 なおも万歳を続けるマンドレイクを見て困ったように肩をすくめるアウラ。

 

「締めるにしても万歳したままだとちょっと不敬かな?」

 

 アウラが息を吹きかけると、その吐息に麻痺や睡眠の効果があったのか

 万歳三唱を辞めてぐったりと脱力していくマンドレイク。

 その頭部をマンドレイクの全身を損なわない程度にアウラがぐしゃっと叩き潰すと、

 身体を大きく振るわせた後に全く生命の躍動感が無いただの人面の野菜と化した。

 

「いっちょあがりっと、ピニスン、こいつ副料理長の所に持ってってくれない?

 あのひと前から締めたてのマンドレイクを欲しがってたからちょうど良かったんだよね、

 必要なモノの貸し出しと階層間移動の許可は出しておくから、なるはやでよろしく!」

 

 快活な笑顔をピニスンに向けたアウラは、

 野菜にしては巨大で重量感のある死んだマンドレイクを

 手紙を入れた封筒でも差し出すのように軽々とピニスンへと渡そうとする。

 

「あ、はい。承知しました」

 

 思わず敬語でアウラへと返答をしてしまうピニスン。

 ピニスンも年を経たドライアードであり、異形種としてそれなりに腕力はある。

 か弱い見た目に反し、この程度の物を持ち運べない事など無いが、

 それでも先ほどアウラの行為と眼前の怪力にはちょっと腰が引けてしまった。

 ああ、このナザリック大墳墓にやって来たばかりにこのマンドレイクも可愛そうに。

 願わくば明日は我が身となりませんようにと、そっと大地に祈りを捧げるピニスンであった。








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