第198話 最強賢者、鑑識する
「イリス、ちょっと今の槍からこれに持ち替えてみたらどうだ?」
「試してみます!」
そう言ってイリスが、新しい槍を振り回し始める。
……新しい槍とはいっても、作られたのは数千年前だが。
「うーん……前のよりちょっとだけ重い感じがしますが、威力とかは的がないと……」
「じゃあ、俺がこれを持って代わりになるか」
そう言って俺は、イリスがさっきまで持っていた槍を拾い上げる。
調整作業は終わったので、あとは魔道具の魔力が安定するのを待つだけだ。
それまで30分くらいかかるし、イリスの相手になろう。
「分かりました! ……全力でやっていいですか?」
「防御魔法にあまり魔力を使いたくないから、全力の半分くらいでやってくれ。それでもこの槍の強さは分かるはずだ」
そう言って俺は、イリスがさっきまで持っていた槍を構える。
……やっぱり重いな。
「半分くらいですね! ……行きます!」
そう言ってイリスが槍を振り下ろす。
俺は身体強化や防御系の魔法を使いながら、その槍を受け止めたが……激突と同時に俺が持った槍は砕け、破片は遠くに飛んでいった。
……これが槍の力の差だ。
「こ、こんな鉄塊が簡単に……」
そう言ってルリイが、折れた槍の断面を見つめる。
イリスが前使っていた槍(というか鉄塊)は、新しい槍と当たった場所から砕けて粉々になっていた。
「強度が極端に違う武器がぶつかると、こうなるんだ。前の槍は、強度重視で刃もついてないしな」
「す、すごい槍ですね……これって、どのくらい頑丈なんですか?」
「素材だけ見ればここの壁より頑丈だ。折れる心配はせずに戦っていいぞ」
そんなことを話していると……アルマが、地面から何かを拾い上げた。
「矢が落ちてる! これって、ボクにも使えるかな?」
金属製の、やや長い矢だ。
……こんなものまで落ちていたか。これは割と当たりだな。
残念ながらこの矢は保存状態が悪く、魔道具としての機能は失われてしまっているようだが……素材は優秀だ。
威力も高いが、なにより魔道具との親和性が高い。
「えっと……その槍にはまってる魔石、壊れてませんか?」
「ああ。もう魔道具としては機能してないな。だが、ここまで魔力の通りがいい矢は中々手に入らない。ルリイが魔石を入れ替えて付与すれば強力な矢ができる。……あと、先端は研いだほうがいいな」
この矢は耐久性より魔力親和性重視で作ったので、強度は今の技術で作れる矢より少し高い程度だ。
だからこそ研ぎ直しや加工が効いて、扱いやすい。
……この矢は使い捨てにせず、できれば戦闘が終わった後で回収して使い回したいな。
「私が付与するんですね! ……ちょうどいいサイズの魔石、用意しないと!」
それからも俺達は落ちているものを見ていったが、そのまま使えそうなものは最初に見つけた槍と矢くらいだった。
あと材料に使えそうなオリハルコンなどが少し落ちていたので、それも回収しておいた。
成果としては、まあまあといったところか。
一番欲しかった武器は落ちていなかったが、あれは作った数が少なかったはずなので、最初からあまり期待していなかったし。
そんなことをしているうちに、探知用魔道具の魔力はほとんど安定したようだ。
……広域探索に使うにはあと5分ほどかかりそうだが、簡単な作業になら使えそうだな。
「試しに、これを分析してみるか」
そう言って俺は、収納魔法からごく小さい金属片を取り出した。
「これ、何ですか?」
「フォルキアにあったランキン魔鉱石精錬装置の破片だ。これを分析すれば、フォルキアの亜魔族に精錬装置を渡した奴が分かるかもしれない」
探知用魔道具に金属片を乗せて操作しながら、俺はルリイ達に説明する。
ここにあるのは広域魔力探索用に作った魔道具だが、探索のために高性能な魔力探知装置を積んでいる関係で、うまく使えば微少な魔力を探知できるのだ。
こんな金属片に残っている魔力は微量すぎて普通では見つけられないが、この魔道具を使えば金属片に触った者の魔力反応を全員分洗い出すことも難しくはない。
この魔道具に改造を加えた者の反応くらい、すぐに割出せるだろう。
その中に魔族らしき魔力反応があれば、それが精錬装置の供給元だ。
「さて……ちゃんと動くかな」
そう言って俺は探知用魔道具の上に小さな魔石を置いてから、魔道具を起動した。
すると魔道具から大量の魔力が放出され、遺跡全体が振動し始める。
これは探知用魔道具としての、正常な動作だ。
この余波を受け止め、周囲への影響を最低限に抑えるために、遺跡はこれだけ頑丈に作られている。
……そして、数十秒後。
探知用魔道具の上に置いた小さな魔石が淡い光を放ち、遺跡の振動が収まった。
「止まりましたね……」
「ああ。上手くいったみたいだ」
そう言って俺は、小さな魔石を手に取る。
魔石には、今まであの金属片に関わった人間全ての魔力が書き込まれていた。
その中で、魔族らしきものを探せばいいわけだが……それはすぐに見つかった。
というか――。
「これ、迷宮都市の魔族に命令を出していたのと、同じ魔族だぞ」
「同じって……ボク達がこの魔道具で探しに来た魔族が、あの装置を作ったってこと?」
「作ったんじゃなくて、改造しただけだろうけどな。……頻繁に爆発するくらい不完全な改造だが、とりあえず動くように改造するだけでもけっこうな技術が必要だ」
もちろん、一から作るのに比べれば難易度は桁違いなのだが。
「迷宮都市から、魔力爆弾まで……他にも色々やってそうですね……」
「ああ。迷宮都市にいた魔族と亜魔族は、ほとんど接点がないはずだ。その両方を掌握しているとなると、桁外れに強力で魔族全体に名を知られるような魔族だな……。下手をすると、世界中で国を滅ぼすような計画を動かしているかもしれない」
迷宮都市で見た時、黒幕の魔族にはそこまでの力があるようには見えなかった。魔力の質が、そこまで高くなかったのだ。
しかし魔力の質は、いくつかの方法で偽装が可能だ。
偽装以外でも、封印されていたり病気だったりすると、魔力の質は落ちる。
魔力反応の信頼度はその程度なので、そこまで信用していた訳ではないが……厳しい戦いになるかもしれないな。
そんなことを考えつつ、俺は探知用魔道具に持ってきた魔石を置いた。
本命の、例の魔族の魔力が収められた魔道具だ。
「……よし、本番行くぞ」
もちろん、書き下ろしありです!
是非読んでください!
下のリンクから、関連ページに飛べます!
ほぼ同時に、コミック版2巻も発売です! コミックもすごく面白いので、よろしくお願いします!
新作『第二の職業を得て、世界最強になりました』、連載開始し始めました!
勇者と魔王が争い続ける世界。勇者と魔王の壮絶な魔法は、世界を超えてとある高校の教室で爆発してしまう。その爆発で死んでしまった生徒たちは、異世界で転生することにな//
神様の手違いで死んでしまった主人公は、異世界で第二の人生をスタートさせる。彼にあるのは神様から底上げしてもらった身体と、異世界でも使用可能にしてもらったスマー//
あらゆる魔法を極め、幾度も人類を災禍から救い、世界中から『賢者』と呼ばれる老人に拾われた、前世の記憶を持つ少年シン。 世俗を離れ隠居生活を送っていた賢者に孫//
※タイトルが変更になります。 「とんでもスキルが本当にとんでもない威力を発揮した件について」→「とんでもスキルで異世界放浪メシ」 異世界召喚に巻き込まれた俺、向//
放課後の学校に残っていた人がまとめて異世界に転移することになった。 呼び出されたのは王宮で、魔王を倒してほしいと言われる。転移の際に1人1つギフトを貰い勇者//
この世界には、レベルという概念が存在する。 モンスター討伐を生業としている者達以外、そのほとんどがLV1から5の間程度でしかない。 また、誰もがモンス//
4/28 Mノベルス様から書籍化されました。コミカライズも決定! 中年冒険者ユーヤは努力家だが才能がなく、報われない日々を送っていた。 ある日、彼は社畜だった前//
異世界へと召喚され世界を平和に導いた勇者「ソータ=コノエ」当時中学三年生。 だが魔王を討伐した瞬間彼は送還魔法をかけられ、何もわからず地球へと戻されてしまった//
◆カドカワBOOKSより、書籍版13巻+EX巻、コミカライズ版6巻発売中! アニメBDは3巻まで発売中。 【【【アニメ版の感想は活動報告の方にお願いします!】】//
アスカム子爵家長女、アデル・フォン・アスカムは、10歳になったある日、強烈な頭痛と共に全てを思い出した。 自分が以前、栗原海里(くりはらみさと)という名の18//
東北の田舎町に住んでいた佐伯玲二は夏休み中に事故によりその命を散らす。……だが、気が付くと白い世界に存在しており、目の前には得体の知れない光球が。その光球は異世//
地球の運命神と異世界ガルダルディアの主神が、ある日、賭け事をした。 運命神は賭けに負け、十の凡庸な魂を見繕い、異世界ガルダルディアの主神へ渡した。 その凡庸な魂//
書籍化決定しました。GAノベル様から三巻まで発売中! 魔王は自らが生み出した迷宮に人を誘い込みその絶望を食らい糧とする だが、創造の魔王プロケルは絶望では//
34歳職歴無し住所不定無職童貞のニートは、ある日家を追い出され、人生を後悔している間にトラックに轢かれて死んでしまう。目覚めた時、彼は赤ん坊になっていた。どうや//
魔王を倒し、世界を救えと勇者として召喚され、必死に救った主人公、宇景海人。 彼は魔王を倒し、世界を救ったが、仲間と信じていたモノたちにことごとく裏切られ、剣に貫//
突然路上で通り魔に刺されて死んでしまった、37歳のナイスガイ。意識が戻って自分の身体を確かめたら、スライムになっていた! え?…え?何でスライムなんだよ!!!な//
辺境で万年銅級冒険者をしていた主人公、レント。彼は運悪く、迷宮の奥で強大な魔物に出会い、敗北し、そして気づくと骨人《スケルトン》になっていた。このままで街にすら//
世界最強のエージェントと呼ばれた男は、引退を機に後進を育てる教育者となった。 弟子を育て、六十を過ぎた頃、上の陰謀により受けた作戦によって命を落とすが、記憶を持//
『金色の文字使い』は「コンジキのワードマスター」と読んで下さい。 あらすじ ある日、主人公である丘村日色は異世界へと飛ばされた。四人の勇者に巻き込まれて召喚//
※ヤングエースアップ様にてコミカライズがスタート。無料で掲載されています ――世界そのものを回復《ヒール》してやり直す。 回復術士は一人では戦えない。そんな常識//
記憶を無くした主人公が召喚術を駆使し、成り上がっていく異世界転生物語。主人公は名前をケルヴィンと変えて転生し、コツコツとレベルを上げ、スキルを会得し配下を増や//
平凡な若手商社員である一宮信吾二十五歳は、明日も仕事だと思いながらベッドに入る。だが、目が覚めるとそこは自宅マンションの寝室ではなくて……。僻地に領地を持つ貧乏//
クラスごと異世界に召喚され、他のクラスメイトがチートなスペックと“天職”を有する中、一人平凡を地で行く主人公南雲ハジメ。彼の“天職”は“錬成師”、言い換えればた//
ゲームだと思っていたら異世界に飛び込んでしまった男の物語。迷宮のあるゲーム的な世界でチートな設定を使ってがんばります。そこは、身分差があり、奴隷もいる社会。とな//
突如、コンビニ帰りに異世界へ召喚されたひきこもり学生の菜月昴。知識も技術も武力もコミュ能力もない、ないない尽くしの凡人が、チートボーナスを与えられることもなく放//
柊誠一は、不細工・気持ち悪い・汚い・臭い・デブといった、罵倒する言葉が次々と浮かんでくるほどの容姿の持ち主だった。そんな誠一が何時も通りに学校で虐められ、何とか//
俺、一之丞は就職100連敗、さらに記録更新中の無職だった。 面接に向かう途中、トラック事故に巻き込まれ、あえなく死亡。 そして、女神から常人よりも400倍//
唐突に現れた神様を名乗る幼女に告げられた一言。 「功刀 蓮弥さん、貴方はお亡くなりになりました!。」 これは、どうも前の人生はきっちり大往生したらしい主人公が、//