セックスレスだけが欠点の彼氏と別れた。
その他は完璧だった。どんな時も一緒にいて楽しかった。息をするように彼といると心地いいという気待ちが溢れ出た。泉のようにその気持ちは沸き上がり、結婚したいと思っていた。本当に大好きだった。
それでもダメだった。セックスレスは想像を絶する悲しみだった。彼が大好きなのに、別れを告げたのは私からだった。
新宿駅東口のくそみたいな居酒屋で、「セックスを求める度に私のプライドは死に、それが原因で涙を流すことは、あなたを責めているようでとても辛い」と話した瞬間、どんだけだよというくらい涙が出た。別れ話をもちかけたのは私なのに、なんで私が泣いてんだよ。バカかよ。悲劇のヒロイン気取りですか寒いわ。
号泣したままタクシーで家まで帰り、ダイソンドライヤーの暴風で涙を吹っ飛ばすが出てくる出てくる涙たち。もうこれは明日仕事どころではないと思い、休む連絡を入れた。「今日は仕事休みます。」をOLになってから始めて発動したわ。
セックスレスは果てしない悲しみだ。どちらのせいでもないからだ。きょうだいのようになってしまった恋人たちなんてこの世に何千といるだろうに、私はそれを乗り越えられなかった。
辛かった。彼も辛かっただろうけど、拒否される方が何倍も辛いんだぞと思ってしまった。
一番好きな異性に、女として見れないと言われるこの悲しみが分かるか。
自分からセックスを持ちかける情けなさが分かるか。
そしてセックスを断られた時、あなたの寝息を聞きながら真っ黒な天井を見つめて静かに嗚咽を噛み殺している、女でも彼女でも婚約者でもない私の底知れぬこの悲しみが分かるか。
分かるはずない。
分かるはずないんだよ。
こんなに深刻に悩んでいるとは思わなかったと彼は言ったけど、私は何度このことで泣いて訴えたことか。私の今までの涙はただの塩水だったのか? 辛いから泣くに決まってんだろ。耐えられないから話したに決まってんだろ。
レスになってから持ってすらいなかった、「コンドームを買ってきてよ」とお願いしたとき、私のプライドはズッタズタのボロ雑巾以下だったよ。切実すぎて恥じらいなんてくそくらえでしたから。
好きな人としたい。そう思うことをただの性欲と片付けられたことがとても悲しかった。
好きな人としかできないつまんない女で悪かったな。
セックスで愛情を感じる簡単な女で悪かったな。
そんな単純なことで安心してあなたの隣にいられると思ってしまう感情セックス型で悪かったな。
私が割り切れなかったせいですよねそうですよね。
彼は、私に安心感や居心地の良さだけ求めていたみたいだけど、私は彼をちゃんと異性として好きだった。そこからきっとずれていたんだろう。
好きなのに別れるなんて経験するとは思わなかったよ。腐る程読んだ少女漫画なんて微塵役に立たなかった。
私が気持ちを割り切って一緒にいればよかったの? 私が耐えれば保てる関係だったの? それとももっと泣いて懇願すれば、あなたは変わってくれた? それとも私が変わるべき?
もうお手上げです。ずっと同じところを回ってるメリーゴーランドのようなこの状態に、疲れ果ててしまいました。
別れ話をしたとき、泣いている彼なんて初めて見た。別れ話をして別れると決めた後になんでキスをしたの? 辛くて涙が出た。好きだった。でも好きだけじゃどうしようもない壁があった。
私はきっとこの先も後悔して生きていく。この選択が良かったと思える日がいつかくるだろうか。
頬を叩く。目を開ける。家に帰る。食べる。風呂に入る。寝る。仕事に行く。働く。生きていく。
ふとしたことで彼を思い出し夜は慟哭するでしょう。
辛いことを言わせてごめんと彼はあやまっていたな。公共の場で手も繋いでくれなかったのに、帰り際キスをされた。なんでいまなんだよ。それを付き合っていたときやってくれれば。そんなことを思って悔しくなった。
私はしばらく、誰にも別れたことを言わない。現雑味のない世界をクラゲのように漂って、別れた事実を時間をかけて噛み砕いていくだろう。
私は最終的に彼の彼女でも女でも婚約者でもなく、きょうだいになってしまったけれど、私は彼のことを、男として好きだった。ありがとう。幸せになって。誰よりも幸せになってね。ありがとう。
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