「自然で愛のある出産なら、オーガズムを得られる」「出産が官能的なものだと、母が知ることは大切」ーー医療介入のない自然分娩がいかに素晴らしいかを前面に押し出しながら、そんな謎の持論を語る、ドキュメンタリー映画『オーガズミックバース 気持ちのよいお産のヒミツ』。自然派出産の周辺には、科学的根拠のない精神論でしかないトンデモがはびこっている印象がありますが、これまたすごかった!
米国人女性であるデボラ・パスカリ・ボナロが監督をつとめた同作に登場するのは、分娩中に快感を得た体験を語る数組の男女。自身の出産体験を「スピリチュアルで官能的!」「強烈な感覚が全身に打ち寄せた」とうっとり語り、自宅での分娩シーンも堂々公開。
陣痛のあいだは、パートナーとキスをしたり抱き合ったり。平たく言えば、ライトな前戯ってとこでしょうか。そうやって愛を深め、リラックスできる環境で安心して医療介入のないお産に挑むと、人によってはオーガズムを得られる! というのです。
そして医師や助産師が登場し、陣痛促進剤や帝王切開など、この界隈の言う「不必要な医療介入」のあるお産を大批判。その主張は次のようなものでした。
病院で産んだカップルとの露骨な対比
・オキシトシンは子宮の収縮を促すホルモンで、オーガズムに深く関わる。
・出産時には陣痛を促すためにも働くが、オキシトシンが分泌されているのだから、愛があふれるリラックスできる環境であれば、オーガズムが起こるというのも説明がつく。
・ところが陣痛促進剤などの合成オキシトシンを投与すると、ナチュラルなオキシトシンの分泌を減らし分娩のトラブルにつながり、お産が危険なものになる。
・陣痛促進剤で死亡率も上がる! すべての女性は薬品を投与されるべきではない!
無痛分娩をはじめ、病院でのお産を否定しまくるという流れです。
「(分娩の瞬間は)一番自然なハイ状態よ!」とあふれんばかりの多好感を漂わせるカップルと、その裏付けを語る医師たち。それを引き立てる材料に使われるのは、病院で出産をしたカップルです。「吸引分娩になった」と暗~く語る夫の出産に対する感想は、「地獄を見ているようで恐ろしかった」。自宅で自然派の流儀にのっとって産み、ハイテンションに出産の素晴らしさを語る人たちとの、演出の落差が凄まじい。
前者が「出産でエクスタシーを経験してこそ、幸せで堂々した母になれる!」とドヤっているように見えてきてしまいます。自然出産の〈気持ちよさ〉を謳い、「痛みは儀式! 健康なら耐えられる」とうっとり語る姿は、産後ハイで記憶が上書きされまくっている可能性もあるのでは? というレベルにおかしなものを感じました。
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