2018.07.03
杉山氏、酔いしれる。全てのエンタメを
超えた「考えうる最高の敗戦」
- 杉山茂樹●文 text by Sugiyama Shigeki 藤田真郷●写真 photo by Fujita Masato
W杯はサッカーの万国博覧会。出場各国が披露するサッカーを、世界中のファンが品評しあう舞台だ。勝ち負けを競う舞台でもあるが、優勝チームは32カ国中1チームだけ。たいていのチームは敗者として大会を後にする。勝ち上がる姿以上に、敗れ去る姿が問われる。
そこにこそ、その国のサッカーの色が映し出されるというのが、長い間、W杯を観戦してきた実感だ。勝ち方より負け方なのだ。
「敗れるときは美しく」。これは、ヨハン・クライフが語った名言だが、決勝トーナメントが行なわれているW杯の現場にいると、それは説得力のある言葉として迫ってくる。
当初32を数えた出場国は、グループリーグ終了とともに半減。その多くが敗退の瞬間を万人に確認されることなく、ひっそりW杯の舞台から去っていく。寂しい終わり方をするのだが、決勝トーナメント進出チームは違う。
行なわれるのは1日2試合。スポットライトを浴びやすい。敗者の記憶もその分、残りやすい。
日本は2002年と2010年、過去に2度、ベスト16に進出している。日本サッカーを世界に宣伝する絶好の機会に恵まれた。しかしトルシエジャパン、岡田ジャパンはいずれも地味な戦いに終始。消化不良のような敗れ方をした。
今回は3度目の正直だった。幸いなことに、西野朗監督にもその認識はあったようだ。このベスト16の戦いにかけていたとさえ言いたくなる。11人中6人を入れ替えて臨んだグループリーグ第3戦、ポーランド戦のスタメンを見てそう思った。
敗れればその瞬間、グループリーグ敗退の可能性があったにもかかわらず、先の戦いを見据えた選手起用をする冒険に出た。そして、フェアプレーポイント差で2位に滑り込むという劇的ストーリーのおまけ付きで、賭けに成功した。