パブリーナ・R・チャーネバ 「貧困、失業、そしてジョブギャランティ」(2011年8月9日)

かなり古い記事ですが、MMT(Modern Monetary Theoty:現代金融理論。本サイトでの関連翻訳、経済学101サイトでの関連翻訳)の立場からの政策提案がどのように為されているかの例として以下を訳出
“Poverty, Joblessness, and the Job Guarantee”
New Economic Perspectives, August 9, 2011 by Pavlina Tcherneva
(ttp://neweconomicperspectives.org/2011/08/poverty-joblessness-and-job-guarantee.html)


最近出た「米国の子供の状況」のレポートには悲惨な統計が公表されていた。米国では 5人に1人以上の子供貧困状態に生きていて、国内の年齢層で比較したときに突出して貧しいのが子供たちということだった。 2008年から2009年の間に子供の貧困率は10%上昇していた。これは一年間の上昇率としてデータ史上空前の規模だ。 米国は、GDP(および億万長者)では世界で最も裕福な国だが、子供の相対的貧困率は先進国で最下位だった。

いま米国は4630万人の貧困層(戦後最大)を抱えていて、全人口の14.3%を占めている(2000年以降増加傾向にある)。

この大きな原因は2つあり、収入格差が大きいことと、失業率が高いことだ。

2002年から2008年の期間を通じて、世帯所得で上位0.01%の層の所得は68%増加した一方、下位90%層の所得は4%減少した(豊かな10%の家計が全所得の50%を占めていることにも注意)。私たちはこの数年、過去最大級の大きさで所得と富が最上層に移転するのを目撃していたということになる。

ひどい貧困状況のもう一つの大きな要因が失業率だ。 失業保険は300万人以上の人々を貧困から守ったが、適正な賃金でのフルタイムの雇用こそが、国内の貧困問題に取り組むための本来で唯一の方法だ。そのような政策が存在しない限り、貧困家庭は政府の支援に頼らざるをえなくなるが、現実は政府支援が減額され続けてきた上に、今後数年間も緊縮財政の圧力を受け続けるだろうとみられている。 例えば、大不況が始まって2年後の2010年に、貧困家庭一時扶助制度(TANF)が扶助した子供の人数は1996年よりも56%少なかった(議会が失業保険給付の延長を拒否していることにも注意)。

雇用がある家庭の状況もかなりひどい。年間を通してフルタイムで働く労働者のうち16.4%は貧困から脱出するのに十分な収入を得ていない。 したがって、そのような家庭も勤労所得税額控除(EITC)などの政府プログラムに頼らざるを得なかった。2008年は2,450万人の家庭がEITCの恩恵を受けたが、そのほとんどは低賃金労働者の家庭への支給だった。

貧しい人々の拠り所である政府のプログラムは小さ過ぎるか、なくなりつつある。公共の敵のナンバーワンとは、政府の債務や赤字ではなく失業率・貧困・所得格差であることを、この米国の子供の緊急事態は思い出させてくれる。

ワシントンが作りだした不合理な債務・赤字恐怖症が、この、いま一番差し迫っている経済問題から注意を逸らせてしまっている。 政府債務の利子にせよ、退役軍人への恩給にせよ、年金の支払いにせよ、自国通貨を発行管理している国が支払い義務を果たさずデフォルトしないければならなくなることについて、経済学的にまっとうな理由は存在しない。MMTの経済学者たちはこのことを何十年も論じてきたが、今やウォーレン・バフェットからアラン・グリーンスパンにいたる有名なの専門家たちが同じことを論じるようになり始めている。米国の政府支出はすべてドルでなされている。外国の通貨ではない。従って、連邦政府の財政赤字は常に持続可能だ。ただし赤字財政支出が常になされるべきであるとか常に効果的である、とは限らない。恐ろしい経済状況になっているとわかった今こそは、財政支出政策を再考し方向性を変える時だ。

その出発点として、三方面からのアプローチを提案する。

1. 子供手当制度

子供手当制度は、子供の貧困を軽減する政策として広く認知されているものだ。ほとんどの先進国(米国以外)には、何らかの形での子供手当制度がある。ある年齢以下の子供がいる家庭に対して、一人につきいくらという給付を出す制度だ。米国には子供がいる家庭に対し税控除の制度があるが、これは所得のある家庭の子供だけへの恩恵だ。失業者の子供たちはこの助成の恩恵を受けることができない。また米国の税制度は適応申請が難しいことで有名で、たとえ資格がある場合でも助成や給付を受けていない家庭がある。

2. 社会保障の強化

貧困が増加していなかった唯一の年齢層が65歳以上の層だった。高齢者の貧困率が急激に減少(データの収集を開始した50年代後半は35%以上あった)した原因は社会保障制度に尽きる。70年代半ばに給付額が増大し、それ以来、高齢者の貧困率は約9%で安定していた。それでもまだまだ減らす余地はある状況なのにもかかわらず、今にも行われようとしている社会保障給付の改革や削減は、間違いなくこれまでの成果を奪い取って行くことになるはずだ。 多くの子供たちがこの制度に頼っていることにも注意が必要だ。2009年には、300万人の子供たちが、障害者、退職者、または死亡した労働者に対する社会保障給付の恩恵を受けていた。

3. ジョブギャランティ制度(JG: Job Guarantee)

政策立案者はジョブギャランティ(JG)という提案を真剣に受け入れるべき時だ。政府が、生活可能な額の賃金で直接雇用を行うことは、失業率を下げ、失業者とその子供を貧困から守るための最も直接的な方法だ。直接雇用創出にはマクロ経済安定化機能という重要な性質がある。またその源流にはケインズの財政政策のビジョンがある。広範囲な財政支出による呼び水効果は機能するまでに時間がかかる。とりわけバランスシート不況の時期はそうだ。そこで政府、失業者自身、地域や地域社会の問題を対象として支出する必要がある。満たされていない公的なニーズは無数にある。そして公共部門は貧弱すぎる。公共財の需要は多くあるのに供給がまったく足りていない。JGこそは経済をジャンプスタートさせる最も効果的な方法だ。JGは失業率を直ちに削減し、経済を回すの車輪に潤滑剤を安定供給する。Gは重要かつ必要な公共セクターの雇用を満たすと同時に、失業者にとっては効果的な移行プログラムになるだろう。つまり、民間セクターが雇用を増やすにつれ、公共セクタープロジェクトを完了した多くのJG労働者はそこに雇用を求めることになるだろう。その移行にJGの訓練、教育、就職支援(JGプログラムのすべての援助)が役立つ。このこともJGを実施することが不可欠であるもう一つの重要な理由だ。労働者を探している企業が失業者の雇用をあからさまに拒否している事例はたくさんあるからだ。履歴書の大きな空白、いや、小さな空白でさえも、企業が好意的に扱うことはない。JGは賢明で効果的な財政政策であり、景気後退に見舞われた時の第一選択肢になるべきものだ。そして、私たちは失業率が高水準になることを許容し続けてきたために、2年前に必要だった規模よりもはるかに広範なJGプログラムが必要な状態になってしまっている。それでもなお、JGは私たちの第一の政策オプションであり得る。ウィンストン・チャーチルは言った。「米国人は正しいことをすると期待して良い。ただし、正しいこと以外のすべてをやり尽くした後に。」、と。今こそJGを導入するべき時なのだ。