51話 人間の町へ
ヨウム達が滞在するようになって、2週間経過した。
街道は順調に整備されていた。
思いの他、辺境警備隊の隊員達は真面目に働いていたのだ。
現に、町の警備の
町の魔物は、俺の作ったルールを順守していて、人に対しても案外フレンドリーに接していた。
警備隊の隊員達も、魔物だからと見下す者もいないようで、気軽に接しているようだ。
元は荒くれ者やならず者だったという話だが、変われば変わるものである。
ヨウムという男に、人を惹きつけるオーラのようなものが有るのかも知れない。
ヨウムには、確かな
お互いが協力関係を築くという意思があるからか、意外な程スムーズに役割分担も出来てきた。
町周辺はゴブリン
それ故か、村々の要請で出動する辺境警備隊に、応援としてゴブリン
彼等にしても願っても無い事だったらしく、素直に好意を受け取ったらしい。
警備隊側としても、助けてもらってばかりではいられない! とばかりに、彼等の集団戦闘術や剣術、個人格闘技といった様々な技術を指導してくれた。
中でも、サバイバル技術や、彼等流の食事のメニュー等は好評であった。
食事のメニューが豊富とは言え無いので、有難い話である。
こうして、お互いの信頼関係は徐々に結ばれていったのである。
信頼関係も出来てきた頃、彼等から提案というよりお願いを受けた。
曰く、彼等の装備の手入れを行って欲しいとの事。どう見ても、此方の魔物の装備の方が優れているのが気になっていたらしい。
「そもそも、魔物が高等な装備を着用するなんて、反則だろ!」
とは、彼等の隊員のセリフではあるが、全員の思いを代弁していたようだ。
俺もそう思う。
ドワーフを技術指導に来て貰ったのだが、俺の想像を超えて素晴らしい装備を産出しだしている。
「フフン! まあよ。俺達、ドワーフの武具は超一流だからな!」
カイジンがご機嫌で応えているが、
「いやいや・・・そもそもどうして、ガルム師まで、この町にいるんですか? それが変でしょ!」
とカバルの奴も不思議がっている。
ドワーフの中でも一流の防具職人のガルム。鍛冶師のカイジンも腕は確かだが、今ではクロベエという名人もいる。
この町の武具のレベルは、王都に比べても劣っていないのだ。
しかも、素材は定期的に洞窟からガビルが運搬してきてくれる。高ランク魔物の素材も豊富にあるのである。
考えるまでもなく、この町の武具の品質の高さが判って貰えると思う。
これを宣伝したら、買いたい者も多いだろうが、これは売りには出せない。
まだまだ
クロベエがユニークスキル『研究者』のコピー能力を持ってはいるけれど、『大賢者』を併用しないと時間がかかる。
手作りよりは早いのだが、一人で頑張っても仕方ない。
という訳で、職人志望の若者を弟子として扱き使い、全部工房で作成しているのである。
いずれは、若者達の中からも職人が生まれてくるかもしれない。
そう考えると、一人の職人に全てを任せるより、今のやり方の方が後々に良いと考えている。
「まあ良いじゃねえか、そんな事は! 特別に、暇を見て手入れしてやってもいいぞ!」
カイジンが気安く請け負っていた。
指導の合間に、部下の教育の一貫として整備練習させるつもりなのだろう。
お人好しに見えるが、抜け目の無いおっさんなのだ。
「うおおおおぉ! 流石、カイジンさん! 話せるぜ!」
「おいおい、いいんですか!?」
「じゃあ、俺のも頼みます!!!」
という具合に、大歓声に包まれていた。
仲良くやれているようで、一安心という所である。
ドス、ズシャ、ボコ、バゴン!
そんな音とともに、俺達はボコボコにされて倒れている。
俺、ベニマル、ソウエイ、シオン、の4名である。
「わははははは! むだむだむだむだぁぁぁ!!!」
高笑いを浮かべている相手。当然、魔王ミリムであった。
4人掛かりで相手して貰ったのだが、話にならなかった。
拳にはドラゴンナックル。標準装備である。飯時にも着けたままだったので、怒って外させたら拗ねていた。
俺が悪いのか? いや、そこは怒るところだと思う。
今回は着けていて貰って良かった。
修行中はキッチリ着用をお願いしている。飯時とは違うのだ。
俺達は毎日の日課のように、午後の運動にミリムの組手相手をしていたのだ。
冗談のように強いミリム相手では、1vs1では話にならない。そこで1vs4で毎回戦っていた。
出鱈目なパワー。インチキのような身ごなし。底なしのスタミナ。
敵じゃ無くて良かった。
まともに組み合えるのは、ハクロウだけである。残念ながら、ハクロウの攻撃は一切通用しないけど避ける事が出来るだけでも凄い。
ドワーフ王との試合の時に感じた威圧と、ミリムから受ける威圧。
面白い事に全く異なる。これだけ一方的に連続でやられて、逆に良くわかった。
もしドワーフ王との試合で、『大賢者』の自動迎撃を起動させていたら、恐らく勝てたかも知れない。
しかし、ミリムとの戦闘では意味が無いだろう。これは小手先での技術でどうこうなる話では無いのだ。
強さには色々あると言う事か・・・。
毎日3セット。御蔭で、皆2週間前に比べて格段に強くなっている。
ハクロウは、審判の役を任せていた。実際、彼は技術的には完成している。伸びしろは少ないのだ。
俺達は、技術的には全然駄目だからこそ、この2週間で成長出来たと言える。
「なかなか良くなって来たぞ! 今なら、リムルが魔王になると言い出しても、反対しないぞ!」
ミリムはご機嫌でそんな事を言っている。
魔王になる気なんて、無いっての!
そもそも、今日も4人で20分も持たなかったのだ。駄目過ぎる。
こんなので魔王を名乗ったって、録な事には為らないだろう。
ベニマル、ソウエイ、シオンは、ハクロウの指導の元で修行を再開する。
彼等も元気なものである。
彼等の修行風景を眺めながら、
「ところでさ、ミリムって、何で魔王になったの?」
不意に気になったので聞いてみた。
「うーーーん、そうな……何でだろ? 何か、嫌な事があって、ムシャクシャしてなった?」
「いや、俺に聞かれても……」
「そうだな。良く思い出せん。大昔の事だし、忘れたのだ!」
何故か、ミリムが少し苦しそうな嫌な事を思い出したくないかのような、そんな風に見えた。
「そっか。まあ、忘れたなら、思い出さなくてもいいよ。」
子供の様な外見、しかし、中身は生粋の魔王なのだ。
聞いた話では、若い魔王でも200年前に生まれたらしい。
それが、俺の敵のレオン・クロムウェル。コイツは俺の獲物である。
それ以外でも何人か若いと言われる魔王がいるが、その基準が500年前の大戦を経験しているかどうか。
ミリムは古参の魔王の1人らしい。
という事は、驚く程長い年月を生きてきたのだろう。
もしかしたら、友達もいなかったのかもしれない。長すぎる寿命は、仲の良い者を奪っていっただろうから…。
「お前ってさ、家族というか、心配してる人は居ないのか?
ずっとここに居るけど、誰かに連絡しなくて大丈夫か?」
ふと心配になって聞いてみた。
すると、
「あ!!! 忘れておったな。そうだな…。ちょっと行って来る!
ひょっとすると、長引くかもしれん。だが、遅くとも2〜3年したら、また来るぞ!」
突然そんな事を言い出した。
「なんだと? 突然だな、おい。今すぐか?」
「む、そうだな。まあ、これで会えなくなる訳でもないのだ! このまま行く!」
そう言い、一瞬でゴシックドレスへと着替えた。
これは俺も教わったけど、実際には自然に出来るのでそこまで重用していない。
装備が沢山ある人にオススメな魔法らしい。もっとも、装備を収容しておく〈空間魔法〉を先に覚える必要があり、難易度は意外に高いのだ。
着替えが終わると、ミリムはこちらを向き微笑むと、
「じゃあ、行ってくる!」
と一言告げて飛び立った。
そのまま、音も衝撃も残さずに音速を超える速度で去って行く。
来た時同様、突然に。
「あれ? ミリム様、どこかへ行かれたのですか?」
シオンが問うてきた。
「うむ。何か、用事を思い出したらしい。遅くとも2〜3年したら、また来るってさ。」
「2〜3年ですか? えらく気軽に旅立たれましたが、結構長いですね。」
「でも、寿命が長いと、2〜3日的な感覚なんだろ?」
「それもそうですね!」
「もしかしたら、友達に服やドラゴンナックルの自慢をしに行っただけだったりして……」
シオンがボソっと呟いたセリフに、鬼人達も頷いている。
有りそうだ。
世界各地にいる知り合いに自慢しまくるなら、2〜3年はかかるのかも知れない。
その光景が目に浮かぶようで、間違っているかも知れないが俺達の中ではそういう事で落ち着いたのだった。
ミリムにしんみりとした感情は似合わない。
居なくなると、途端に寂しくなるものだ。たった二週間程度で、えらく馴染んだものである。
不思議な
しんみりばかりもしていられない。
ミリムが居ないならば、逆に今はチャンスでもある。
今の内に人間の町見学に行っておこう。様子を見て、大丈夫なようならミリムも連れて行ってやりたい。
下見は大事である。
3
討伐証明になるらしい。しかし、こんなズルしてて大丈夫かコイツ等?
まあ、俺の知った事では無いのだが、黙っていてやる代わりに町の案内をさせようと思う。
「という事で、案内は頼んだぞ?」
俺がそう言うと、引き攣った顔で、
「判ってますよ、旦那!」
「勿論、案内しますよぅ! ついでに、王都も行ってみます?」
「裏町なら、結構伝がありやすぜ?」
と請け負ってくれた。
任せよう。
2日後に出発予定である。
リグルドにそう告げた所、段取りのいい彼の事、既に荷物は纏められていた。流石である。
魔方陣でガビルの所に向かい、出来上がった中回復薬の保管場所に案内して貰う。
「おお、リムル様! お待ちしておりましたぞ!」
「これはこれは、リムル殿! ここは素晴らしい環境ですぞ!」
案内を受けた先では、ベスターが研究に没頭していた。
全体の指揮も見なければならないカイジンと違い、研究だけに打ち込んでいる。
ここはベスターにとって天国のような環境だったのだろう。
「お前、飯はちゃんと喰ってるのか? そもそも、寝てるのか?」
心配になって尋ねると、
「大丈夫ですとも。ここの料理は質素ですが、慣れると大変に美味です。
きっちり頂いておりますよ。
寝る間は惜しんでおりますが、ここに簡易ベッドを設けて貰いました。
ギリギリまで我慢して寝るのも良いものです!」
良くは無いだろ…。
そう思いはしたが、本人が好きでしている事だ。程ほどにな! と、注意するに留めた。
「クロベエにコピーして貰うのと、ここでの量産と、どちらが効率がいい?」
そう問うと、
「ここでの量産速度の方が速くなりそうですな。
今は設備が少ないですが、人手と設備を増産すればクロベエ殿に頼らずとも大丈夫になるでしょう。」
との事だった。
ヒポクテ草の生産そのものに時間がかかるのだ、そこまでの量産速度は期待しなくても良い。
「じゃあ、5人くらい研究員を回して貰うか?」
「そうですな…、最初は教育もありますし、10人は欲しいですな。
ここで教育した者を、後継の育成に回したいですし。」
現在の生産速度は、回復薬を3時間に1個。クロベエのコピーでは1時間に1個のみである。
俺なら即座に可能だけど、それはしない。何でも俺抜きで出来るようにしておきたいのだ。
こういう事は、緊急時以外は、皆に任せておくようにしている。
出来た回復薬は20個の中位回復薬に薄めて完成である。これは魔法による〈皮膜作成〉で行うので、ベスターの仕事だ。
1人では大変なので、ガビル達も手伝っているようだ。
3人でベスター1人の代わりを出来るようになったら、3倍の速度にはなるのか。
1時間で1個の回復薬。つまり、20個の中位回復薬が出来る。一日に8時間働くとして、160個位ははストックが出来る計算になる。
十分な生産体制であると言えた。
若手が育ったら、雑用は任せて、ベスターは研究に打ち込みたいのだろう。理にかなっている。
俺は了解した。リグルドに伝えておく事にする。
現在は、ベスター寝る間も惜しんで作成し、一日80個の中位回復薬が貯め込まれていた。
町に予備は必要だろう。俺は500個だけ保管庫から取り出し、胃袋に収めた。
これを町で売り、魔石等を購入する予定なのだ。
カイジンと相談し、売値を決めておかねばならない。
「では、引き続き頼みます。ベスター
「お任せ下さい! このガビル、身を粉にして働きまする!」
「では、10名の件、お願いしますぞ!」
俺は見送られ、その場を後にした。
その後、カイジンと打ち合わせを行い、中位回復薬の最低価格を決める。
下位回復薬が普通に言う所のポーションなのだが、これが、市場価格で銀貨3枚らしい。
意外に高い。下手したらその日の稼ぎが回復薬で消えてしまうのだ。
だが、20%の怪我の治療というのは、かなりの大怪我でも治るという事。
初級魔法の〈
倍以上の効果の中位回復薬。上品質なので50%回復なのだが、さて値段をどうしよう?
「いいか、旦那。倍の値段じゃ安すぎる。最低、銀貨15枚。
これは、駆け出しが買う品じゃない。Bランク以上の冒険者をターゲットにするんだ。
多少高めで売った方がいいぞ! 可能なら、銀貨20枚を目指そう。」
カイジンは熱弁してくれた。
確かに。この薬はかなり便利だし、安いからと大量に注文が入っても問題だ。
利益が出ない事には、魔石も買えないのだし、銀貨20枚も有りだろう。
一つ二つは、俺の作った回復薬を出してみるのもいいかも知れん。
俺は了承し、打ち合わせを終えた。
準備は整った。
翌朝、3
準備を終えた3人は俺を待っていた。
街道経由で行くとファルムス王国に出る。ヨウム達の国であり、伯爵領に入る事になる。
伯爵は強欲だという話なので、パスしよう。
という訳で、森を突っ切る方面に進む。
まずは小国ブルムンドを目指すのだ。
自由組合のギルドマスターに会い、今後の方針を決めようと思う。
この世界に転生して1年以上経った。
ようやく、人間の町を目指す事が出来るのである。