東京新聞のニュースサイトです。ナビゲーションリンクをとばして、ページの本文へ移動します。

トップ > 社説・コラム > 社説一覧 > 記事

ここから本文

【社説】

<北欧に見る「働く」とは>(4) 就労を後押しするお金

 人は収入があっても働くか。

 フィンランド政府が実施しているベーシックインカム(BI)という現金給付は、それを探る社会実験だ。

 BIは就労の有無や収入などに関係なく国民全員に定期的に生活に最低限必要なお金を配る制度である。いわば国による最低所得保障だ。古くからこの考え方はあるが、フィンランドで行われている実験は対象者も金額も絞っている。限定的なBIである。

 昨年一月から二年間、長く失業している現役世代二千人を選び、失業給付の代わりに無条件で月五百六十ユーロ(約七万三千円)を支給している。

 BIを受ける人に聞いてみた。

 新聞社を解雇されてフリージャーナリストとして働くトゥオマス・ムラヤさんは収入が安定しない。「生活保護を受けていた時は、恥ずかしいという気持ちがあったが、BIは自分からお願いしなくても支給を受ける権利としてもらえるものだ。ストレスがなくなった」と好評価だ。

 働き始めると給付をカットされる失業給付と違い、働いて収入があってもBIは受け取れる。「講演などして少し報酬をもらう仕事も安心してできる」と話す。

 二年間失業中だったITエンジニアのミカ・ルースネンさんはやっと再就職が決まった直後に実験対象者に選ばれ喜んだ。

 「新たな仕事の給与はそんなに高くない。給付は家のローンに充てている。失業中に再就職に向け勉強してきたボーナスのようだ」

 生活保護だと毎月、求職活動や収入などの報告書を出さねばならず「煩雑な作業で抵抗感があった。政府から監視され信用されていないようにも感じた。そこから解放された」と話す。

 ムラヤさんが実験参加者数人に取材したところ就活に前向きだという。

 BIが失業者の働く意欲を高めるか、逆に失わせるか調べる。裏を返せば、今の社会保障制度が社会変化に対応できていないことの表れだ。 (鈴木 穣)

 

この記事を印刷する

東京新聞の購読はこちら 【1週間ためしよみ】 【電子版】 【電子版学割】