いよいよ世界中が注視する運命の7月6日がやって来る。
サッカー・ワールドカップの話ではない。世界の2大経済大国であるアメリカと中国が、共に相手国に対して340億ドル規模もの経済制裁を課す米中貿易戦争の火ぶたが切って落とされるのだ。「米中冷戦時代」の始まりと言い換えてもよい。
これによって米中両国はむろん、世界中が大なり小なり巻き込まれていくことになる。あのリーマン・ショックから丸10年を経て、またもや人類は懲りずに人為的な巨大リスクを背負い込んでしまうのだ。
中国中央テレビ(CCTV)はこのところ、2018年上半期に、中国経済がどれほど好調で、どれほど各種のデータが伸びているかを、連日これでもかというほど報道している。これまでは、7月中旬に上半期の速報データが発表された際に、この種の報道は行われてきた。それが1ヵ月前倒しで報道されるということは、本当は中国経済が悪化しているから、それを覆い隠すために、いわゆる「豊作報道」を連発しているのではないかと勘ぐりたくなってくる。
そもそも、毎年6月下半期は、中国経済のアキレス腱となる時節だ。なぜなら銀行など金融機関が、上半期のデータを遜色なくするため、一斉に貸し渋りに走るからだ。2015年6月下半期の株式暴落も、そのような中で起こった。
おそらく、そのような周期を見越した上で、米トランプ政権は6月15日に、対中経済制裁の7月6日からの発動を宣言したのではないか。「敵」(中国)のアキレス腱を狙えというわけだ。
中国の経済関係者に中国経済の現状について聞くと、次のように答えた。
「中国経済を牽引してきた消費、投資、輸出の『三馬馬車』が、三頭とも動きが鈍くなってきている。これまでは輸出だけは好調だったが、中米貿易摩擦のあおりを受けて、急速に悪化しているのだ。
おそらく、2018年の中国経済は、『前高後低』の状況になるだろう。すなわち、上半期の調子で下半期を考えてはいけないということだ。
すでに、金融機関の貸し渋りによって、民営の中小企業の資金繰りが、急速に悪化している。この分では、下半期は中小企業の倒産ラッシュが起こるだろう。
業界用語で言う『三殺』も起こっている。株式市場、債券市場、為替市場の3つの市場が、すべて落ち込むことを指す。このことは、中国の金融システムの脆弱性を示しており、金融当局はいま、火消しに躍起となっている」
実際、6月24日に、中国人民銀行(中央銀行)は、預金準備率を7月5日から、16%を15.5%に0.5%下げると発表した。中央銀行が市中の銀行から強制的に預かっている預金の比率を下げて、市中に出回る資金を増やすことによって、銀行の貸し渋りを緩和させようという措置だ。
今回の引き下げによって、計7000億元(約11兆8000億円)が市中に出回るようになる。実施日を、米中貿易戦争が始まる前日の7月5日に設定したところも微妙だ。
そんな中、6月25日に、中国政府内部で、一篇の経済論文が発表された。タイトルは、『金融恐慌の出現を警告する』。その内容は、「いまや中国に、かなり高い確率で金融恐慌が出現するだろう」と断言した驚愕のものだった――。
中国国務院(中央官庁)傘下の中国社会科学院に2015年6月、国家金融・発展実験室という官製シンクタンクが創設された。通貨金融政策、金融改革と発展、金融イノベーションと監督管理、金融安全とリスク管理、全世界コントロールと政策協調の5分野について、中国政府に提言していく専門機関だ。スタッフは、専属の研究員が約30名、兼職の研究員が約50名、共同研究者が約40名の計120名あまりである。
国家金融・発展実験室を率いるのは、中国で著名な金融専門家である李揚理事長(66歳)。安徽省淮南の出身で、安徽大学経済学部を卒業後、復旦大学で修士号を、中国人民大学で博士号を取得。中国社会科学院に入り、金融研究所長、副院長などを歴任。中国人民銀行(中央銀行)の通貨政策を決める通貨政策委員も務めた。
そんないわば「習近平政権の金融ブレーン」とも言うべき経済学者が、部下の尹中立、李拉亜、殷剣峰の3人の研究員と共同で執筆した論文が、『金融恐慌の出現を警告する』である。この論文は中国政府内部で大反響を呼び、インターネット上にも転載されたが、直ちに中国当局によって削除された。
私も入手して読んでみたが、李揚理事長らは、学者生命を賭けて警鐘を鳴らしたのだろうと思えてきた。