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ボクは1955年生まれの「鉄腕アトム」&「ひょっこりひょうたん島」世代だ。
どちらも第1回を観たはずなのだが、鉄腕アトムの初回は思い出せない。当時、買ってもらった「鉄腕アトム」の紙版はボロボロになるまで読んで、小学校の友だちが「貸してくれ」と言われて、貸したまま55年たった今でも返してもらっていない。
アニメのアトムは21世紀の円筒型高層ビルの立ち並ぶ東京(?)を飛び回る正義の味方であった。「ロボット憲章」をプログラムされ、人とを傷つけないことと悪人と戦うことの葛藤などの葛藤が印象に残っている。当時の子どもには、50年後の21世紀は「原子力と科学のユートピア」であった。
しかし、21世紀の現実は原子力と科学のディストピアのように見える。ボクたち、もっと幸せになってるはずだったのに…と忸怩たる思いがする。
改めて、手塚漫画を「憲法・平和主義」の視点から読み直すことの意味が重要だろう。手塚治虫が描いた21世紀と現実の21世紀の乖離は大きい。



手塚マンガから読み解く 9
自らの戦争体験が原点
憲法に関連 短編集出版
2018625日:東京新聞・こちら特報部


 「鉄腕アトム」や「ジャングル大帝」で知られ、「漫画の神様」とも称される漫画家、手塚治虫さん(192889年)はどんな憲法観を抱いていたのか。生前の多彩な作品群から憲法9条への思いが強くにじんだ短編7編を選んだ「手塚マンガで憲法九条を読む」(子ども未来社)が、今月出版された。本を企画したのは手塚さん担当の編集者だった野上暁さん(74)。手塚作品に込められた思いを「今の若い人にこそ読み取ってほしい」と訴えている。                         (橋本誠)


 「手塚先生ほど反戦と平和、命の大切さに人生を懸けていた漫画家はいないのでは。憲法が変えられれば、それが無になり、さぞ悲しむでしょう」。野上さんはそう思いをはせた。小学館で1967年~71年に手塚さんの編集者を担当。その後も親交は続き、「戦争に対する深い思い」を感じたという。本書の出版は、改憲の動きの高まりが契機と説明する。反戦・平和をテーマに手塚作品を読み解いた本はあるが、憲法に特化した例は珍しい。


反戦と平和、命の大切さ訴え続け


 野上さんが「原点」とみるのが、本書の冒頭に収録した「神の砦」だ。
 太平洋戦争末期の大阪の中学校に通う男子学生を描く自伝的作品。主人公は教官の暴力を受けながら竹やり訓練や防空壕堀に明け暮れ、「特殊訓練所」に入れられる。動員された軍需工場では描いた漫画が教官に見つからないよう、トイレに貼って仲間に見せる。
 そんな中、45年の大阪大空襲に遭遇。敵機がバラバラまいた焼夷弾で仲間は傷つき、多数の遺体を目撃する。「これみんな人間かい。人形の焼けたんじゃないのかい」。野上さんによると、こうした描写の多くは手塚さんの実体験に基づく。「実際に修練所に入れられ、トイレにマンガを貼っていた。大阪大空襲では仲間を亡くした」
 フィクションでも戦争の本質を見抜いていた。『ザ・クレーター 墜落機』は、墜落死したとされ、「軍神」と英雄視された戦闘機パイロットの話だ。パイロットは生還したが、彼の英雄伝で戦意高揚を図る軍上層部により、英雄伝と同様の死を求められる。
 大ヒット作品にも、戦争関係のエピソードは事欠かない。医療漫画『ブラック・ジャック』の『やり残しの家』では、原爆の後遺症で白血病に苦しむ男性を描いた。SFロボット漫画『鉄腕アトム』の『アトムの今昔物語 ベトナムの天使』では、なんと、ベトナム戦争でアトムが住民の村のために戦う。
 現代人への批判も辞さなかった。『1985への出発』では日本の戦争孤児が現代にタイムスリップし、兵器の玩具で儲ける企業に驚く。「戦後お金持ちになって変わってしまった政治家や財界人に対する思いが込められている」
 こうした作品は声高に護憲を叫んだりはしない。しかし、根底に平和憲法への視線があるとみた野上さんは膨大な作品群から、表現の自由など憲法に関わる4050編を選び、さらに九条の戦争放棄の精神を体現した作品に絞って書籍化した作品に絞って書籍化を企画。手塚プロダクションの協力で実現した。
 子どもの未来社の担当者、堀切リエさんは「九条は、戦争を体験した人たちのさまざまな願いから生まれた。条文だけでなく平和主義をどう生かすかという点でも、手塚漫画からは広く深いものが読み取れる。それで、『読む』というタイトルにしました」と話す。


「今、何が問題か」を描く
改憲の警戒感 敏感に表現


 手塚作品に反戦平和や憲法への思いがしばしば表れるのはなぜか。野上さんは「多感な10代を戦時下で過ごしながら、隠れるようにしてマンガを描いていた」ことを挙げる。
 手塚さんの少年時代は、ちょうど昭和の戦争の歴史に重なる。小学生だった1937年に日中戦争、中学生の41年に太平洋戦争が開戦、敗戦後、日本国憲法が公布された46年、少国民新聞で「マアチャンの日記帳」の連載を始め、17歳でデビュした。47年の作品「新宝島」が40万部も売れ、有名作家に。
 手塚さんにとって、戦争は未来の危機でもあった。米ソの核開発が激化した50年代には早くも戦争をテーマにした作品を描いた。「『来るべき世界』のようなSFの未来戦争もの。水爆など核に対する恐怖を持っていた」(野上さん)


手塚治虫さんと社会の動き
1928年 大阪府で生まれる
 41年 太平洋戦争始まる
 45年 大阪大空襲・原爆投下・敗戦
 46年 「マアチャンの日記帳」でデビュー・日本国憲法公布
 51年 「来るべき世界」発表
 52年 「鉄腕アトム」発表
 54年 米水爆実験で第五福竜丸が被ばく
 65年 米軍が北ベトナム爆撃を開始
 67年 「アトム今昔物語 ベトナムの天使」
 68年 米軍がベトナム住民を虐殺(ソンミ事件)
 69年 「ザ・クレーター 墜落機」
 72年 「ライオンブックス 荒野の七ひき」
 74年 「神の砦」
 75年 ベトナム戦争終結
 76年 「ブラックジャック やり残しの家」
 78年 「ブラックジャック 消え去った音」
 83年 「アドルフに次ぐ」発表
 85年 「1985への出発」
 89年 60歳で死去


改憲への警戒感 敏感に表現


 ベトナム戦争で世界が揺れた6070年代には、現代を舞台に戦争と平和を描く作品が増えていく。ちょうど野上さんが編集者をしていたころだ。いつも週刊誌、月刊誌合わせて45人の編集者が泊まり込みで原稿を待っていた。そんな超多忙の中、どうやって時代をとらえていたのか。野上さんが秘密を明かす。
 「『記者会見に行く途中に打ち合わせをしたい』と称し、たびたび呼ばれた。他の編集者には内緒。洋画を観に映画会社の試写室に行ったり、戦争のドキュメンタリ番組の試写会にテレビ局に行ったりした」
 映画や本の知識の豊かさにも驚いたという。「『2001年宇宙の旅』を見たかとか、ビートルズの『イエローサブマリン』はどうだ、と感想を聞かれる。時間がないのに、星新一の新刊なども読んでる。ベトナム戦争のルポなど、新聞もくまなく見ている」。担当編集者としても、勉強を欠かすわけにはいかなかったという。
 今回の収録作りも、時代背景を強く意識していたことは見て取れる。本書の解説を書いた全国「九条の会」事務局長の小森陽一・東京大教授は「直接メッセージを伝えるのではなく、ニュースなどで報道されていることで読者に記憶のスイッチを入れてもらい、今何が問題なのかを描いていく。漫画雑誌などに発表している作家ならではの感性で、新聞小説家の夏目漱石にかなり近い」と分析する。
小森氏は一連の作品から、太平洋戦争と向き合う姿勢とともに、改憲への警戒感を読み取る。「九条を変えられるかもしれない危険性を常に感じながら、その時の日本で何が問題なのかをタイムリーに表現していた。危機感を持っていたからこそ、時代に対応して描いていけた」
 改憲が現実味を帯びる今、野上さんは戦争を知らない若い世代にこそ読んでほしいと期待する。
 「戦争の怖さを骨身に染みて知っていたから、『火の鳥』でも『アドルフに次ぐ』でもテーマにした。手塚マンガを読み、遠い国で今も戦争が続いていること、続いているのはなぜかということ、日本は無関係ではないことを知ってほしい。そして、九条を読み直し、その意味をしっかり考えてほしい」


デスクメモ
 子どもの頃、親に買ってもらった手塚さんの新書本「マンガの描き方」。漫画の神様は文章も面白く、繰り返し読んだ。その中に、こんな一文があったと思う。「マンガを描くうえで、基本的人権だけは、断じて茶化してはならない」。それが神様の「憲法」だったのだろう。           (歩)

この記事に

教員は、収入は高くはないが、合法化合法化された違法状態で青天井の残業させられ放題であった。それでも僕が教員になった40年前はまだ牧歌的で、夏休みにはのんびりできたし、普段も仕事がなければ、4時頃に帰ることもできた。ボクの父も教員だったが、60年前の高校では、授業のときに行けばよいという高校もあったし、50年前の高校の先生は、生徒と一緒に学校を出る先生も珍しくなかった。学校によっては、研修日と言って、授業の無い日をつくって、学校を休めるという高校もあった。
しかし、1990年代になると“牧歌的”な学校の風景は失われ、“監視・管理”の強化がすすんだ。東京ではタイムカードが導入されたが、適切な勤務時間管理が目的と言いながら、タイムカードは朝しか押してはならないという、珍妙な運用が行われた。
ボクも、勤務時間の適正な管理が必要だと組合でも発言したことがあったが、委員長がそっと「『労慣』で取れているものがある」と言いに来て、取り上げてもらえなかった。ボクは「労働慣行で『与えられて』いるような権利もどきは、すぐに奪われる。制度化を求めるのが筋だ」と言ったが、北海道の教職員組合が裁判に訴えた「時間外勤務手当不支給違法訴訟」は組合が負けてしまった。教員特別という「お涙金」が支払われているから、時間外勤務の賃金未払いは合法化されているという判決だった。
教員の労働は、大昔から「高プロ制度」を先取りしてきたと言っていい。その成れの果てのブラック職場であり、過労死の山だ。人間として大切にされない教員が、生徒を人間として大切に育てることができないのは自明のことだ。



「高プロ法案」強行採決を許していいのか!

高プロの旗振り役竹中平蔵が

グロテスクな本音全開!「残業代は補助金」

「高プロ対象はもっと拡大しないと」

2018622日:LITERA

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竹中平蔵公式ウェブサイト

「残業代ゼロで定額働かせ放題」にする高度プロフェッショナル制度の創設を含む「働き方改革」一括関連法案の参院での採決が近づいている。高プロをめぐっては、労働問題の専門家を中心に激しい批判が殺到しているうえ、次から次へとインチキやデタラメが明らかになっている。

 高プロの必要性について、安倍首相は「労働者のニーズに応えるもの」と主張し、加藤勝信厚労相も「私もいろいろお話を聞くなかで要望をいただいた」と答弁していた。ところが、実際はわずか12人に聞き取りしただけで、しかも法案要綱が示される前におこなわれた聞き取り件数はゼロだったことが判明。聞き取りのほとんどが、この加藤厚労相の答弁後に慌てておこなわれていたことまでわかった。ようするに、「立法事実なき法案」なのに、安倍政権はまたしても数の力でゴリ押ししようとしているのだ。
 高プロは、企業が残業や休日労働に対して割増賃金を一切払わず、労働者を上限なく働かせることができるようになるもので、過重労働や過労死を増加させることは火を見るより明らか。そしてこの法案が恐ろしいのは、対象者が拡大していくことが確実という点だ。実際、その高プロ創設の「本音」は、この男がすでに暴露している。経団連とともに高プロ創設の旗振り役となってきた、竹中平蔵だ。
 竹中は21日付の東京新聞の記事でインタビューに応じ、「時間に縛られない働き方を認めるのは自然なこと」などとデタラメな高プロの必要性を強調する一方で、平然と、こんなことを述べているのだ。
「時間内に仕事を終えられない、生産性の低い人に残業代という補助金を出すのも一般論としておかしい」
 時間内に仕事を終えられない生産性の低い人……? そもそも、残業しなければ終わらないような仕事を課していることがおかしいのであって、問題は雇用者側にある。それを労働者に問題があると責任を押し付け、「生産性の低い人」と断罪した挙げ句、竹中は労働対価として当然の残業代さえ「補助金」と呼ぶ。つまり、竹中にとって残業代とは、「仕事のできない奴のために仕方なく会社が補助金を出してやっている」という認識なのだ。
 もうこの発言だけで高プロ推進派の本音が十二分に理解できるというものだが、当然、高プロが過労死を増加させてしまうのではないかという指摘に竹中は耳を貸さない。「過労死促進法案との批判がある」という質問に、竹中は「全く理解していない」と言ってのけた後、「過労死を防止するための法案だ。その精神がすごく織り込まれている」などと述べて、その理由を「年間百四日以上の休日をとれと。(適用には)本人の同意も要る」と答えている。
 何が「過労死を防止する精神がすごく織り込まれている」だ。じつは竹中は、530日に出演した『クローズアップ現代+』(NHK)でも「ほとんど完全週休2日制」などと喧伝していたが、それはまったくの嘘で、法案は「年104日以上、4週間で4日以上」の休日を与えるというだけ。ようするに、月に4日間休ませれば、そのあとの26日間はずっと連続で働かせることが可能であり、次の4週間の最後の4日間に休みを取らせれば、連続して48日間、124時間労働をさせても合法となる法案なのだ。


竹中平蔵は高プロの適用対象拡大を明言「もっともっと増えていかないと」

 しかも、竹中は「本人の同意も要る」などと言うが、力関係を考えれば企業からの要求に労働者が突っぱねることは容易ではない。さらに、労働者が同意を撤回したり、同意しなかった場合に解雇されたり不利益な扱いを受けたとき、労働基準監督署は指導をおこなうことも罰則を科すこともできない仕組みであることも明らかになっている。労働者の保護など露ほども考えられていないのだ。
 これでよく「過労死を防止する精神」と言ったものだが、竹中はこうした制度の穴には触れず、「なぜこんなに反対が出るのか、不思議だ」とシラを切り、「適用されるのはごく一部のプロフェッショナル。労働者の1%くらいで、高い技能と交渉力のある人たちだ」と畳みかける。だが、これも大嘘で、「年収1075万円以上の一部専門職」を対象とすると言いながら、実質的には年収300万円台の労働者も対象にすることが可能だ(詳しくは既報)。
 労働者のうち1%の人たちの問題ではなく、多くの人が「残業代なし・定額働かせ放題」が適用される恐れがある高プロ制度。実際、竹中は前出の『クロ現+』でも、「(いまの対象範囲は)まだまだ極めて不十分」「これ(高プロ)を適用する人が1%ではなく、もっともっと増えてかないと日本経済は強くならない」と述べており、今回のインタビューでも、本音をこうオープンにしている。
「個人的には、結果的に(対象が)拡大していくことを期待している」
 ようするに、実質的に年収300万円台の労働者に高プロ制度を適用できるだけでなく、法案が成立すれば、さらなる対象の拡大を狙っているのである。しかも、竹中は「(具体的には)将来の判断だが、世の中の理性を信じれば、そんな(二十四時間働かされるかのような)変な議論は出てこない」とまで言っている。
 本サイトのブラック企業被害対策弁護団の連載でも多数レポートされている通り、現状でも過労死や残業代不払いは多発している。それなのに、規制を取り払い対象を拡大しても、「世の中の理性を信じれば」って……。よくもまあこんなことをヌケヌケと言ったものだが、竹中のように労働者を命のない使い捨ての道具として搾取しようとする「理性のない」人間が世の中にはいるからこそ、労働者は強く警戒しなければならないのだ。


学者ヅラして高プロを語る竹中平蔵の正体は、高プロで利益を得る企業の役員

 だいたい、竹中はこの東京新聞のインタビューや前出の『クロ現』では「東洋大学教授」などといったアカデミズムの人間であることを示す肩書きで登場しているが、実態は人材派遣大手のパソナグループの取締役会長やオリックス社外取締役であり、雇用者側の立場だ。しかも、高プロ制度が提案されたのは「経済財政諮問会議・産業競争力会議合同会議」だが、竹中はこの産業競争力会議の民間議員を務めている。
 つまり、竹中は大学教授という肩書きで「日本経済のために」などともっともらしく語っているものの、ようは自分のためだ。だいたい長時間労働がむしろ生産性を低下させることは多くの専門家が指摘していることで、長い目で見れば「日本経済のために」もならない。労働派遣法改悪のときもそうだったが、この人は、規制緩和を提案して自分の目先の利益を得ることしか頭にないのだ。
 そう考えれば、竹中が「個人的には、結果的に(対象が)拡大していくことを期待している」と言っている意味もよくわかる。法案成立後、派遣労働者にまで高プロの適用範囲が広がれば、竹中が「補助金」と憚らずケチっている残業代を気にせず、いくらでも派遣労働者を働かせることができるからだ。派遣労働にまで高プロが適用されれば、それこそ派遣労働者が同意を蹴ることなどできないだろう。
 このように、竹中の隠そうともしない欲望を見れば一目瞭然のように、高プロは働くすべての人にかかわる「地獄」の法案だ。竹中は、自身が推進した小泉構造改革によって非正規社員切りを横行させ、ワーキングプアを生み出し、現在の格差社会をつくり上げた張本人だが、今度は高プロによって労働者を搾取し尽くし、過労死しても「自己責任」だと押し付けられる社会にしようとしている。いま、そんな危険な法案が可決されそうになっている。それが現状なのだ。
(編集部)



「高プロ」不安、裁量ない労働者の声

2018629:毎日新聞

働き方改革関連法が与党などの賛成多数で可決、成立した参院本会議
=国会内で2018年6月29日、川田雅浩撮影



高度プロフェッショナル制度とは?
 働き方改革関連法が29日、成立した。残業時間の上限規制や非正規労働者の待遇改善など、企業にとっては規制が強化されるが、高収入の一部専門職を労働時間規制から外す「高度プロフェッショナル制度」(高プロ)を導入する規制緩和策も盛り込まれた。労働者はそれぞれの立場から、成立をどう受け止めたのか。【市川明代】

 「会社は絶対に高プロを適用してくると思います」。東京都内の外資系IT企業で働くシステムエンジニアの男性(53)は言う。「年収要件が引き下げられ、対象が拡大したら体を壊す人が増えるでしょう。責任感のある誠実な人間ほど、無理をしてしまうんです」

 顧客は金融業界や流通業界。常に複数の仕事を抱え、深夜労働が常態化している。新規プロジェクトの開発やシステムの入れ替え時には徹夜になる。裁量労働制を適用され、何時間働いても「みなし労働時間」分の給与しか支払われない。効率的に仕事を進めれば、次の仕事が回ってくる。「裁量はありません」と言い切る。

 職場では午後10時に「蛍の光」が流れる。賃金の深夜割り増しの合図だ。働き方改革の一環で始まった。だが、誰も席を立たない。割増賃金の受け取りは上司への事前申請が必要だが、「理由を問い詰められるのが苦痛で、出してません」と話す。

 いわゆるバブル世代。何度か大規模なリストラがあり、入社時に200人いた同期は片手で数えられるほどになった。給与も減った。管理職はヘッドハンティングでころころ代わる。若手は「希望を見いだせない」「激務に耐えられない」と辞めていく。

 病気がちの妻と2人暮らしで、家計は楽ではない。「裁量労働制を適用されたのも、会社のコスト削減のためでしかなかった。高プロを突きつけられたら、首を切られるよりマシだと思ってしまうかもしれません」と弱い立場を口にした。

    

 都内で派遣社員として働く女性(38)は「非正規は、チャンスさえ与えてもらえない。努力だけではどうしようもない理由で差別されているんです」と言う。成立した法律が実効性のあるものになることを願っている。

 就職氷河期世代。通信制高校卒業後、フリーターになった。20代後半で簿記の資格を取得し、正社員として零細の輸入販売会社に3年間勤めたが、ドロドロした人間関係に巻き込まれて退職した。その後、専門学校の簿記講師として半年ごとの契約更新を繰り返した。学生数の減少に伴う経営悪化で業務委託に切り替えられ、生活が苦しくなったところで再び転職を決意した。

 以来、正社員、契約社員、派遣社員……とさまざまな雇用形態で働いてきた。どの企業でも経理の仕事をしたが、非正規は主要な会議に出席できず、意思決定にも関われない。正社員と違いキャリアとして認められないことに不満を感じる。細切れの経歴は転職市場でも不利になる。「ハローワークでやっと正社員の仕事を見つけたら、ブラック企業でした」

 正社員との待遇差で納得できないのは賞与だという。働き方改革関連法は同一労働同一賃金で、仕事内容が同じ場合の差別的な扱いを禁じ、さらに仕事内容が同じでなくても「不合理な相違を設けてはならない」とする。基本給の格差解消はハードルが高いというが、手当や賞与にはある程度の効果があると期待される。

 女性は強調する。「賞与が労働者への利益配分なら、派遣社員や契約社員にも還元してほしい。悔しい思いをしながら、みんな頑張っているんです」



「働き方改革」法が成立

 健康と生活を守るために

2018630:毎日新聞



 安倍政権が今国会の目玉としていた働き方改革関連法が成立した。

 過労死の根絶を求める声が高まるなど、雇用の状況や人々の価値観が大きく変わる中での制度改革だ。時代に合わせて、多様な働き方を実現していかねばならない。

 関連法は三つの柱から成り立っている。残業時間規制、同一労働同一賃金の実現、高度プロフェッショナル制度(高プロ)の導入である。

 残業時間については労働基準法が制定されて初めて上限規制が罰則付きで定められた。「原則月45時間かつ年360時間」「繁忙期などは月100時間未満」という内容だ。

 過労死ラインは月80時間とされており、規制の甘さも指摘されるが、現行法では労使協定を結べば青天井で残業が認められている。長時間労働が疑われる会社に関する厚生労働省の調査では、月80時間を超える残業が確認された会社は2割に上り、200時間を超える会社もある。

 甘いとはいえ残業時間の上限を法律で明記した意義は大きい。

労基署は監督の強化を

 日本の非正規社員の賃金は正社員の6割程度にとどめられており、欧州各国の8割程度に比べて著しく低い。このため「同一労働同一賃金」を導入し、非正規社員の賃上げなど処遇改善を図ることになった。

 具体的な内容は厚労省が作成する指針に基づいて労使交渉で決められる。若年層の低賃金は結婚や出産を控える原因にもなっている。少子化対策の面からも非正規社員の賃上げには期待が大きい。抜け道を許さないための厳しい指針が必要だ。

 これらの改革を着実に実行するには、公的機関による監視や指導が不可欠だ。2015年に東京と大阪の労働局に「過重労働撲滅特別対策班(かとく)」が新設された。検察庁へ送検する権限を持つ特別司法警察職員だが、現在は計15人しかいない。これでは全国の会社に目を光らせることなどできないだろう。

 労働基準監督署による指導だけでなく、労働組合のチェック機能の向上、会社の取り組みに関する情報公開の徹底などが求められる。

 最も賛否が分かれたのは高プロの導入だ。年収1075万円以上の専門職を残業規制から外し、成果に応じた賃金とする制度である。本人が希望すれば対象から外れることになったが、上司との力関係で、高プロ適用を拒否できる人がどれほどいるのか疑問が残る。

 残業代を払わずに長時間労働をさせられる社員を増やしたい経営者側の意向を受けて、安倍政権が関連法に盛り込んだものだ。対象の職種や年収の基準を法律で規定することも一時は検討されたが、省令で決められることになった。

 これでは、なし崩し的に対象が広げられる恐れがある。長時間の残業を強いられると過労死した人の遺族が懸念するのはよく分かる。経営側の利益のために制度が乱用されないよう、監視を強めるべきだ。

多様な労働実現しよう

 一方、働く側からは柔軟な働き方を求める声が高まっている。介護や育児をしながら働く人は増え、地域での活動や副業、趣味などにもっと時間をかけたい人も多いはずだ。

 求められるのは、コスト削減のための制度ではなく、働く人が自分で労働時間や働き方を決められるような制度である。

 時代とともに単純労働は減り、付加価値の高い仕事が増えている。もともと創造的な仕事は労働時間で賃金を決めることが難しい。特に専門性の高い仕事をしている高収入の社員は、経営者に対してもっと発言力を持てるようにすべきだ。

 企業にとっては、労働時間が減り、非正規社員の賃金が上がることで生産性の向上を迫られることになる。長時間労働につながる職場の無駄を見直すことから始め、人工知能(AI)やロボット、ITによって省力化できるものは進めていかねばならない。設備投資の余力のない中小企業への支援策も必要だ。

 政府は今後、自宅での勤務を認めるテレワークなどについても検討する予定だ。今回の改革は初めの一歩に過ぎない。

 労使ともに意識を変える時だ。

 柔軟な働き方を広げていくには、時代のニーズに合った知識やスキルを個々の労働者が身につけられるよう、大学など高等教育や公的職業訓練を充実させないといけない。中高年の労働者も含めて、社会全体でバックアップしていくべきである。



(社説)
働き方法成立 懸念と課題が山積みだ
2018630日:朝日新聞


 安倍政権が今国会の最重要テーマに位置づけた働き方改革関連法が、多くの懸念と課題を残したまま成立した。
 制度の乱用を防ぐための監督指導の徹底など47項目もの参院での付帯決議が、何よりこの法律の不備を物語る。本来なら、議論を尽くして必要な修正を加えるべきだった。
 国会審議で浮き彫りになったのは、不誠実としか言いようのない政府の姿勢だ。比較できないデータをもとに、首相が「裁量労働制で働く方の労働時間は一般労働者よりも短い」と誤った説明をし、撤回に追い込まれた。その後も、法案作りの参考にした労働実態調査のデータに誤りが次々と見つかった。
 一定年収以上の人を労働時間規制から外す高度プロフェッショナル制度高プロ)の必要性も説得力に欠ける。政府は当初、「働く人にもニーズがある」と説明した。しかし具体的な根拠を問われて示したのは、わずか12人からの聞き取り結果というお粗末さ。審議終盤、首相は「適用を望む労働者が多いから導入するのではない」と説明するほかなかった。
 一方、これから答えを出さねばならない課題は山積みだ。
 「この制度は本人の同意が必要で、望まない人には適用されない」と、首相は繰り返す。それをどのように担保するのか。
 高プロと同じように、本人同意が条件になっている企画業務型の裁量労働制の違法適用が、野村不動産で昨年末に発覚したばかりだ。しかも、社員が過労死で亡くなるまで見抜けなかった。実効性のある歯止めをつくらねばならない。
 省令など今後の制度設計に委ねられる部分は、ほかにも多い。政府は、高プロを「自由で柔軟な働き方」とするが、使用者が働く時間や場所を指示してはならないという規定は法律にない。適用対象業務を含め、労働政策審議会での徹底した議論が必要だ。
 今回の法改正で、これまで労使が協定を結べば事実上無制限だった残業時間に、罰則付きの上限を設けることになったのは、働き過ぎ是正に向けた第一歩だろう。だが、この上限も繁忙月では100時間未満と、労災認定の目安ぎりぎりだ。さらなる時短の取り組みが欠かせない。
 今回の改革の原点は、働く人たちの健康や暮らしを守ることである。その改革の実をどのようにあげるか。それぞれの職場の状況に応じた、労使の話し合いが重要となることは言うまでもない。



働き方改革法 残業代削減の還元考えよ
2018630日:産経新聞


 安倍晋三政権が今国会の最重要法案としてきた「働き方改革関連法」が成立した。
 長時間残業の是正や正社員と非正規社員の待遇格差の解消、高所得の一部職種を労働時間規制から外す「高度プロフェッショナル制度(高プロ)」の創設が柱だ。
 労働者の心身の健康を守る上で残業時間に罰則付きで上限を設ける意義は大きい。ただ、残業が減ればその分、収入は減少する。従業員に対する還元策も同時に考えるべきである。
 働き方が多様化する中で、一部の専門職を対象に仕事の成果で賃金を支払う高プロは、労働生産性の向上に資する制度と位置づけられる。柔軟な働き方を促す選択肢としたい。
 働き方を大きく変えるものだけに、政府は産業界への周知徹底を図り、働く現場で混乱が起きないようにしてもらいたい。
 残業規制の導入は、日本の労働法制で初めてとなる。現在は労使で協定などを結べば事実上、青天井で残業時間を延ばせる。これを年720時間までに制限する。
 違反すれば企業に罰金などを科す。大企業は来年4月、中小企業には2020年4月の導入だ。
 各企業が順守するためには、業務を効率化し、無駄な残業を排する取り組みが不可欠だ。必要に応じて、労働者を増やす対策なども求められよう。
 それ以上に、残業規制による残業代の減少への目配りは欠かせない。減少分は産業界全体で5兆円に上るという試算もある。
 収入の目減り分をそのままにすれば日本経済に悪影響を与える。それを避けるには、浮いた人件費を従業員に再配分する仕組みが求められる。ボーナスによる還元などの制度設計を急ぐべきだ。
 高プロは、年収1075万円以上の金融ディーラーやコンサルタントなど高度専門人材を対象とする。立憲民主党などは「過労死を招く」などと反対した。本人同意が適用の条件とされ、年104日の休日取得も義務化した。
 国会審議を通じ、高プロの対象者となった後でも、本人の希望で元の雇用条件に戻れるようにした。現実的な修正といえよう。
 仕事の多様化に伴い、労働時間で賃金を決める方式が合わない職種も増えている。国民の懸念を払拭しつつ、高プロに幅広い理解を得る努力が欠かせない。



経団連、

早くも「次」の規制緩和に期待 働き方改革

2018630日:朝日新聞


 「(戦後の労働基準法制定以来)70年ぶりの大改革だ。長時間労働を是正し、非正規という言葉を一掃していく法制度が制定された」。働き方改革関連法の成立を受け、安倍首相は29日、記者団に胸を張った。「最重要」の法成立に、首相周辺は「何とか乗り切った。一段落だ」と息をついた。
 株高や雇用改善を政権の支えとする首相にとって、働き方を多様にするとした今回の改革は、人手不足や非効率を解消して経済成長を図るアベノミクスの一環でもあった。「成長戦略に必要。是が非でも成立させないといけない」(官邸幹部)と「働き方改革国会」と銘打ってまで政権の最優先課題にすえた。
 中でも高プロの導入は、第1次政権の2007年に「ホワイトカラー・エグゼンプション」として打ち出して以来のこだわりのある規制緩和だった。そのため裁量労働制の拡大は、労働時間データの異常値問題で国会が紛糾すると早々に撤回を決断。政府関係者は「首相は『法案は何がなんでも通す』と言っていた。こだわるメニューを通すために早々と切り離した」と打ち明けた。
 法成立を受け、早くも次の規制緩和を目指す動きも出ている。経団連の中西宏明会長は法成立を歓迎する29日のコメントで「残念ながら今回外れた裁量労働制拡大は早期の法案再提出を期待する」と早速、注文をつけた。政府は、再提出に向けた議論の前提となる働き手の実態調査の準備に、今秋にも取りかかることも視野に入れる。(岡本智、松浦祐子)



「これが、あなたを追い詰めた日本」

 過労死遺族の無念

2018629日:朝日新聞


「過労死が防げない」と過労死遺族たちが反対する中、参院本会議で29日に成立した働き方改革関連法。残業時間に上限は設けるものの、労働時間に関する保護から外れる人も出てくる。そんなちぐはぐなルール作りが過労死防止に逆行すると、遺族は無念さをあらわにした。
 「これがあなたを追い詰めた日本の姿だよ」
 広告大手・電通の新入社員で過労自殺した高橋まつりさん(当時24)の母幸美さん(55)は、働き方改革関連法が参院本会議で成立した直後、傍聴席に持参したまつりさんの遺影にこう語りかけた。この日は、ほかの遺族らとともに黒い服を身にまとった。
 過労死が減らない日本で、高年収の専門職を労働時間に関する保護から外す高度プロフェッショナル制度高プロ)が導入される。「長時間労働を助長する」と幸美さんは撤回を訴えてきたが、かなわなかった。
 昨年2月、安倍晋三首相と首相官邸で面会した。首相は過労死をなくすとの決意を口にしたが、その後はほかの遺族が求めた面会に応じなかった。国会でも、遺族や野党の懸念に対して、答弁を避けたと感じた。
 法の成立後に国会内で開いた会見では、こう注文をした。「過労死防止と矛盾する内容で大変残念だ。仕事で命と健康をなくさないよう、これからも働き方改革の審議をしてもらいたい」
 「全国過労死を考える家族の会」の寺西笑子代表(69)は、4年前に成立した過労死防止法を引き合いに出した。「よもや過労死防止に逆行するような法律の成立を目の当たりにするとは思わなかった。悔しくてたまらない」(贄川俊、山田暢史)

当事者の期待と不安

 働き方改革関連法の成立を、当事者らはどう受け止めているのか。
 「企業が悪用し、働き手を使い捨てにすることも大いにあり得る」。高年収の一部専門職に適用される高プロについて、大手企業でコンサルタントとして働く30代の男性は懸念を抱く。
 政府は「会社との交渉力がある労働者にしか高プロは適用されない」と説明しているものの、仕事量を自分で決めるのは不可能だと感じる。「リーマン・ショック後のような不景気になれば、会社は給料の高い社員に高プロの適用に同意するよう迫り、こなせないほどの仕事を課す可能性がある」と言う。
 仕事の進め方や業務量を自分で調整できる外資系コンサルタント会社で働く30代男性も、働き過ぎへの懸念には理解を示す。「どんな成果を出したら十分かを、あらかじめ労使で合意しておくことが大事ではないか」と言う。
 関連法では、残業に「月100時間未満」などの罰則付きの上限が設けられることにもなった。神奈川県のシステムエンジニアの男性(37)は働き過ぎが抑えられると期待する。システム更改などの繁忙期には残業時間が月約80時間という状況が半年ほど続く。月100時間を超えたこともある。3時間ほど寝て始発で出社。激務で体調を崩したことも。ニュースをみる時間がなく、首相の交代にも気付かなかったという。「仕事の量が減らなければ、終わらない仕事は翌月に回る。会社が無駄な仕事を見直すようになればいい」と話す。
 一方、企業活動に悪影響が出かねないと、トラック運転手らには残業時間の月の上限はなく、年間の上限のみが約6年後に適用となる。茨城県つくばみらい市の男性運転手(35)は、週のほとんどを関東から関西、九州まで往復し続ける。運転は1日約9時間だが、配送先で荷下ろしに9時間待たされたこともある。自宅に帰れるのは週1回だけ。「働き方が楽になるとは思えない。クタクタになるまで働かせないような手立てを一刻も早く作って欲しかった」
 関連法には、非正社員の待遇改善をめざす「同一労働同一賃金」も盛り込まれた。定年後に再雇用されたトラック運転手が賃金を下げられたのは違法だと訴えた裁判で、代理人をつとめた宮里邦雄弁護士は「パートや有期労働者、派遣労働者について正社員との均等・均衡待遇をはかる規定ができたのは評価したい」と話す。
 ただ、いくつもの法改正が「抱き合わせ」で進んだ国会審議では、問題点が十分に解消されなかったと感じている。「待遇格差については、企業が合理的な理由を立証すべきなのに、そうした規定を設けるなどの議論が深まらなかった」と残念がった。(末崎毅、村上晃一)


残業も年休消化も大きく変化?

 働き方改革法を徹底解説

2018629日:朝日新聞


 働き方改革関連法が成立した。労働時間規制の強化や緩和、正社員と非正社員の格差是正など、様々なメニューが盛り込まれている。働く時間の長さはもちろん、休み方、健康、賃金、企業経営などに大きく影響する内容だ。私たちの「働き方」は、どう変わるのか。残業や年次有給休暇(年休)消化など、主な7項目を詳しく解説する。

残業時間の上限規制 労使協定に「天井」、超えたら罰則

 過労死や過労自殺で労災認定される人は、毎年200人前後で横ばいが続いている。働く人の命や健康を守るために長時間労働を抑える仕組みとして始まるのが、残業時間の罰則つき上限規制だ。今は事実上、青天井になっている残業時間に、初めて法的な拘束力のある上限が設けられる。
 労働基準法が定める労働時間は1日8時間、週40時間。これを超えて働かせることは本来は違法だが、経営側と働き手が時間外労働に関する労使協定(36協定)を結べば延長が認められる。その場合も、厚生労働省告示は「月45時間、年360時間」までと基準を定めるが、強制力はない。
 今回の残業の上限は、まず原則として「月45時間、年360時間」と明記した。繁忙期などに臨時に超える必要がある場合でも、45時間を超えて働かせられるのは年に6カ月までとし、年間上限は720時間以内としている。
 ただこれらは休日労働を含めない場合の上限だ。含めた場合は「月100時間未満」とし、2~6カ月の平均なら「月80時間」となる。働き過ぎで倒れた人が労災に認定されるかの判断基準となる「過労死ライン」の水準になっている。
 こうした上限を超えて働かせた企業には、6カ月以下の懲役か30万円以下の罰金が科される。大企業は2019年4月から、中小企業は20年4月からの適用となる。当初は一律に19年4月から施行予定だったが、中小企業は準備が間に合わないとの声が与党から出たため遅らせた。
 また、人手の確保が厳しい建設業やドライバーなどは適用を5年間猶予する。ドライバーは年間上限を960時間とするなど上限を緩くするものもある。新技術・新商品などの研究開発は、適用が除外された。

高プロ制度 年収高い一部専門職で時間規制なくす

 高度プロフェッショナル制度は、年収が高い一部の専門職について、労働時間規制の対象から完全に外すものだ。19年4月に導入され、適用される人は残業時間や休日・深夜の割増賃金といった規定から外れる。
 対象の年収は、1年間に支払われると見込まれる賃金が「平均の3倍を相当程度上回る水準」と規定する。仕事は、高度の専門的知識などが必要で、働いた時間の長さと仕事の成果との関連性が通常は高くないものを対象としている。
 政府は年収を1075万円以上と想定している。年収1千万円を超す給与所得者は管理職を含めて全体の2・9%という。職業の想定は、金融商品の開発・ディーリング業務、アナリスト、コンサルタント、研究開発業務などだ。ともに今後、省令で正式に定める。
 こうした条件に合ったとしても、本人の同意と労使による委員会での決議がないと適用はされない。また、本人が適用後に撤回できる仕組みもつくられる。
 企業には適用者の労働時間を把握する義務はなくなる。一方で、「健康確保措置」が義務づけられる。年104日、かつ4週間で4日は休ませなければならない。また、在社時間と社外で働いた時間を足した「健康管理時間」を把握し、法定労働時間にあたる週40時間を上回った分が月100時間を超えたら医師と面談させる。加えて、健康管理時間の上限設定など四つから一つを選んで実施することになる。
 また、加藤勝信厚生労働相は国会審議で、企業側が適用者に働く時間や場所を指示できないとする規定を、省令で定める考えを示している。

同一労働同一賃金 待遇差には理由の説明義務

 パートや契約社員、派遣社員といった非正社員はいま、雇用者の約4割を占める。こうした人たちの待遇改善を図るため、正社員との不合理な待遇差の是正を企業に促すのが「同一労働同一賃金」の法改正だ。大企業が20年4月、中小企業が21年4月に施行される。
 正社員と非正社員は今でも、仕事の内容や責任の程度、転勤・異動の範囲などが同じなら待遇も同じにする必要がある。今回の法改正では、待遇ごとの性質や目的などに照らして不合理かどうか判断すべきだと明確にした。企業に、待遇差の内容やその理由を非正社員に説明する義務も課す。
 具体的にどんな待遇差が違法かは「ガイドライン」で定める。今後、労働政策審議会(厚労相の諮問機関)で議論され、施行と同時に適用される。厚労省が16年12月に公表したガイドライン案では、通勤手当などの手当や、食堂の利用などの福利厚生では原則、待遇差を認めていない。一方、基本給や賞与は、経験や能力の差などに応じて違いを認めている。

勤務間インターバル制度導入に努力義務 過労死防ぐ「切り札」期待

 「勤務間インターバル制度」は仕事を終えてから次に働き始めるまでに、あらかじめ決めた時間を空けさせて働き手の休息を確保する制度だ。例えば11時間の場合、午前0時まで働くと始業は午前11時以降になる。不眠不休で働く事態を防げるため、過労死対策の「切り札」と期待されている。この制度の導入が、19年4月から企業の努力義務となる。
 欧州が発祥で、欧州連合(EU)は1993年、最低でも終業と始業の間に連続11時間の休息をとるよう加盟国の企業に義務づけた。一方、厚生労働省の17年の調査では、日本での導入企業は1・4%。今春闘では、日本郵政グループ日立製作所など同制度の導入を決める大手企業が目立ちだしたが、まだ浸透はしていない。
 政府は今夏に閣議決定する新たな「過労死防止大綱」で、導入企業の割合を20年までに10%以上にするとの数値目標を初めて盛り込む。今後、導入を後押しする政策に取り組んでいく。
 必要な休息時間については、政府はEUのように具体的に示さず、労使の協議で決めることになる。導入しても時間が短ければ、長時間労働を防げない「名ばかりインターバル」になる可能性がある。

有給休暇の消化、企業の義務に 年休5日未消化なら罰金

 仕事を休んでも賃金が支払われる年次有給休暇(年休)。年10日以上の年休が与えられている働き手に最低5日は消化させることが、19年4月から企業に義務づけられる。
 年休は正社員、非正社員に関わらず同じ会社に6カ月勤めると与えられることが法律で決まっている。例えば、正社員ではまずは年10日で、働く期間が長くなると増え、6年6カ月以上になると最大の年20日になる。
 ただ、厚労省などの調査では年休の取得率は00年以降、5割を下回り続けていて、16年で49・4%。1年間で1日も消化できていない人も11年で16・4%いた。政府は「取得することへのためらいが一因」とみて、企業に消化を義務づけることにした。
 働き手が自主的に5日以上、消化している場合はさらに消化させる必要はない。5日未満しか消化していない場合に、日程を指定して消化させる必要がある。達成できなければ、働き手1人あたり最大30万円の罰金が企業に科される。
 年度末などになって実質的に職場の都合で決められてしまい、働き手が自ら望む日程を休む年休の本来の趣旨を果たせなくなる可能性もある。このため政府は省令で、働き手の意思を尊重するよう努めることなどを定める方針だ。

フレックスタイム制 残業計算の基準を延長、3カ月に

 働き手が始業と終業の時刻を自由に決められる「フレックスタイム制」では、残業などを計算する際の基準となる「清算期間」が、最長1カ月から3カ月に延長される。施行は19年4月だ。
 フレックス制は、労使で事前に清算期間とその期間内に働くべき時間数を決め、働き手がその範囲内で自由に働くことができる仕組みだ。この期間全体で残業の有無などを判断する。
 清算期間を長くすると、働き手が仕事をする時間を選ぶ自由度が高まる一方、企業が特定の時期に集中的に働かせても残業代を払わずにすむ余地も広がる。
 このため1カ月を超す清算期間を定めた場合は、1週間当たりの労働時間が50時間を超えないように定めた。それを超えて働いた分については、25%の割増賃金が支払われることになる。

中小企業の残業代 月60時間超は50%増、2023年4月から

 週40時間を超える仕事に支払われる残業代は通常の賃金の25%増だが、月60時間を超える部分については50%増とすることが労働基準法で定められている。中小企業はいまこの適用が猶予されているが、23年4月からほかの企業と同じ50%増に引き上がる。
 月60時間超の残業代の割増率は、10年4月に25%から50%になった。企業が働き手に長時間労働をさせるコストを高くし、残業を抑えようという狙いからだ。ただ経営環境の厳しさに配慮するとして、中小企業への適用は「当面の間」猶予されることになり、60時間超も割増率は25%に据え置かれてきた。
 今回の変更は、中小企業で長時間労働を強いられてきた働き手にとってはメリットがある。一方で、企業は人件費がかさむ可能性がある。与党から経営への悪影響を指摘する声が上がり、施行時期は当初予定の22年4月から1年先送りされた。(村上晃一、松浦祐子)



外国人受け入れ 「安価な労働力」は誤りだ
2018627日:産経新聞


 安倍晋三政権が外国人労働者の受け入れ拡大へ、政策の舵(かじ)を大きく切り始めた。
 一定の専門性や技能を有し、日本語能力を身に付けた人を対象に在留資格を新設する。
 帰国後に母国で活躍する人材の育成-を名目とした技能実習制度や留学生が、実質的には低賃金の単純労働者を確保する手段として悪用される例が多い。
 新制度には、こうした状況を改善する側面があるものの、真の狙いは少子高齢化に伴う恒常的な人手不足への対応だろう。
 なし崩しに受け入れを拡大してきたこれまでの手法は、さまざまな課題をはらんできた。どの分野でどれだけ受け入れるのか。安倍首相は早急に、中長期的な戦略を示す必要がある。
 当面は農業、介護、建設、宿泊、造船の5分野で、2025年頃までに50万人を超える人材の受け入れを目指すという。
 もっとも、少子化による人手不足はこの5分野だけにとどまらない。日本の勤労世代が1千万人単位で減っていくことを考えれば、すぐにわかることだ。
 要望のある職種について、すべて受け入れていくことが果たして可能なのだろうか。
 安倍首相は「移民政策とは異なる」との立場は変えていない。在留期間の上限を通算5年にするという点に示されるが、それは若い労働力を循環させようという発想だ。家族の帯同も認めない。
 だが、外国人労働者を必要としている国は少なくない。日本の都合だけで、安定的な人数をどこの国から確保できるのだろうか。
 外国人労働者への依存度が高まった段階で、当て込んだ人数が来日しないことも考えておかなければ、社会は大混乱する。
 多くの人材を送り出している国と外交上の衝突などが起これば、労働者が一斉に引き揚げてしまう事態もあり得るのだ。
 それ以前の問題として、彼らを「安価な労働力」と見なすのは大きな誤りだ。技能実習生をめぐる違法残業、賃金未払いなどの法令違反は後を絶たない。
 新制度が過酷な単純労働の受け皿に変質することのないよう、厳しい監視が必要である。
 互いに生活ルールや習慣の違いを乗り越えなければ、対立や分断が生じる。外国人へのさらなる寛容さを持てるか、も問われる。

残業代ゼロ「過労死増える恐れ」

 「働き方」法成立

2018630:東京新聞
 政府が今国会の最重要法案と位置付ける「働き方」関連法案が二十九日の参院本会議で採決され、与党の自民、公明両党と、野党から日本維新の会、希望の党、参院会派の無所属クラブが賛成して可決、成立した。高収入の一部専門職を労働時間規制から外す「高度プロフェッショナル制度(高プロ、残業代ゼロ制度)」の創設が盛り込まれるなど、働く人たちを守る労働法制が大きく変わることになる。 (木谷孝洋)
 野党の国民民主、立憲民主、共産、社民、自由の各党と、参院会派の沖縄の風は反対。参院会派・国民の声は藤末健三氏が賛成、平山佐知子氏が反対した。
 成立を受け、安倍晋三首相は官邸で記者団に「七十年ぶりの大改革だ。これからも働く人の目線に立って改革を進めたい」と語った。立憲民主党の枝野幸男代表は記者会見で「高プロが運用されれば過労死が増えかねない」と訴えた。
 高プロは、労働基準法で「一日の労働時間は八時間」と定める規制を撤廃し、働いた時間と賃金の関係を一切なくす制度。適用されれば、残業代や深夜・休日の割増賃金は支払われなくなる。労働組合や過労死遺族らは「過労死の増加につながる」と反対。野党は法案から撤回を求めたが、政府、与党は応じなかった。
 政府は「柔軟で多様な働き方につながる」と強調。対象に年収千七十五万円以上の金融ディーラーやコンサルタントなどの専門職を想定する。ただ具体的な年収要件や業種は今後の労働政策審議会(厚生労働相の諮問機関)に委ねる。適用には本人の同意が必要。
 関連法はこれまで労使で合意すれば上限がなかった時間外労働に初めて罰則付きの上限規制を導入。非正規社員の待遇改善を図る「同一労働同一賃金」など、労働者保護につながる内容も盛り込まれた。
(東京新聞)
社説
[「働き方」法成立]疑問も不安も消えない
2018630日:沖縄タイムス


 法律が成立したからといって、疑問や不安が消えたわけではない。
 安倍政権が今国会の最重要課題と位置付けた働き方改革関連法が、労働者側の強い反対を押し切って

この記事に

「高プロ制」を含む「働かせ放題法」やら「過労死推進法」と呼ばれる「働き方法」が国会で強行成立した。
ボクが「還暦」を迎えたころから、ABE政権が「目玉法案」、「重要法案」と位置付けた法律案は押しなべて、生煮えのまま強い反対を押し切って強行採決されたり、強行成立させれたりしてきた。今国会も安倍一族のご都合で延長された。この国会延長は議論のための延長でなく、採決強行のための延長でしかないことが問題だ。
「重要法案」と言いながら、その「重要法案」を大切に扱わず、議論も、理解も、納得も十分に得られないままに、国会の数の力で強引に成立させられる場面が続いている。
ボクも、「どうせ強行採決だよね…」と慣らされてしまいそうだ。
法案は法律として成立し、施行されて運用される。実際の運用がどうなるのか、最近の法案は国会での審議が不十分なため、どうなるのか不安だ。


浜矩子「『重要法案』成立に

透けて見える退廃の都『ソドムとゴモラ』」

2018628日:AERA


 経済学者で同志社大学大学院教授の浜矩子さんの「AERA」巻頭エッセイ「eyes」をお届けします。時事問題に、経済学的視点で切り込みます。

*  *  *
 国会の会期が延長された。政府・与党が、彼らにとって「重要法案」の位置づけにある参議院未通過案件を、何とか成立に持ち込もうとしている。「重要法案」の一つに、カジノを含む「統合型リゾート(IR)実施法案」がある。

 皆さんはソドムとゴモラをご存じだろう。旧約聖書に登場する退廃の都だ。そのすさみ方に対して、硫黄と炎の天罰が下った。映画やアメコミ好きの皆さんは、ゴッサム・シティもまたご存じだろう。これも退廃の大都会である。正義の味方、バットマンが、そこに蠢く悪と戦う。

IR実施法案」が、筆者にソドムとゴモラを連想させ、ゴッサム・シティを想起させる。このイメージにさらに重なってくるのが、自民党の「時間市場創出推進議員連盟」なるものが打ち出している「ナイトタイムエコノミー」育成構想だ。

「日本の夜はつまらない」のだそうで、夜通しで遊べる街づくりの必要性を主張している。彼らがいう夜遊びの中には、美術館や博物館などの夜間営業も入るらしい。だが、一方で「デジタルダーツ」など現状では深夜営業を禁じられている遊びの解禁も模索しているのだという。

「ナイトタイムエコノミー」の追求とIR法案の間に直接的な連動関係があるわけではないだろう。だが、両者からは、よく似た怪しげな香りが漂ってくる。何とも気持ちが悪い。

 一方で、政府・与党のもう一つの「大重要法案」である「働き方改革関連法案」の中には、彼らの目玉商品である「高度プロフェッショナル制度」と「長時間労働の是正」および「同一労働同一賃金の実現」が同居している。何とも乱暴な束ね法案だ。テーマが異質すぎる。ただ、彼らの発想の中では、これらのテーマを束ねてしまうことに矛盾はないらしい。なぜなら、彼らにとって「働き方改革」はそのどの部分をとっても、働く人々のための政策ではない。あくまでも成長戦略であり、労働生産性引き上げと競争力強化のための目論見なのである。

 昼間は超効率的に労働させる。夜間は、退廃の不夜城活動で経済活性化に貢献させる。この枠組み確立のために、国会会期が延長される。何ということか。

浜矩子

浜矩子(はま・のりこ)/1952年東京都生まれ。一橋大学経済学部卒業。前職は三菱総合研究所主席研究員。1990年から98年まで同社初代英国駐在員事務所長としてロンドン勤務。現在は同志社大学大学院教授で、経済動向に関するコメンテイターとして内外メディアに執筆や出演



延長国会
「働き方」法案・対論・「残業代ゼロ」の是非は
2018621日:東京新聞・核心


 政府・与党が延長国会で成立を目指す「働き方」関連法案。論戦の最大の争点となっているのが、高収入の一部専門職を労働時間規制から外す「高度プロフェッショナル制度(高プロ、残業代ゼロ制度)」創設の是非だ。創設を主導する竹中平蔵・東洋大教授と、撤回を求める棗一郎・日本労働弁護団幹事長に理由を聞いた。                              (編集委員・上坂修子)


創設 経済成長 議論の出発点


 なぜ高プロ導入が必要なのか。
「働いた時間で生産量を測れない知識集約型産業のウェートが高まっている。そういう人たちに、時間に縛られない働き方を認めるのは自然なことだ。時間内に仕事を終えられない、生産性の低い人に残業代という補助金を出すのも一般論としておかしい」
 柔軟な働き方は現行制度では実現できないのか。
 「(高プロを提唱した)産業競争力会議の出発点は経済成長。労働市場をどんどん改革しなければならず、高プロはその第一歩だ。(労働力が)生産性の低い部門から高い部門に移っていくようにインセンティブ(誘因)を与える働き方が必要。時間ではなく、成果で評価する高プロで、労働生産性を上げるインセンティブは間違いなく働く」
 高プロを含む「働き方」関連法案は、過労死促進法案との批判がある。
 「全く理解していない。過労死を防止するための法案だ。その精神がすごく織り込まれている。例えば年間104日以上の休日を取れと。(適用には)本人の同意も要る。なぜこんなに反対が出るのか不思議だ」
 4週で4日以上の休日も定めているが、裏を返せば24日間、24時間働かせても違法ではない。
 「そういう言い方はいくらでもできるが、休みを義務付けているわけだから、しかも、適用されるのはごく一部のプロフェッショナル。労働者の1%くらいで、高い技能と交渉力のある人たちだ。個人的には、結果的に(対象が)拡大していくことを期待している」
 拡大すれば、交渉力のない人たちも対象になる。
 「そうならないように一定の歯止めは必要。年収と職種の基準をきちんと定める。(具体的には)将来の判断だが、世の中の理性を信じれば、そんな(24時間働かされるような)変な議論は出てこない」


東洋大教授・竹中平蔵氏
たけなか・へいぞう 1951年、和歌山県生まれ。一橋大卒。小泉内閣で経済財政担当相など。2014年に高プロ導入を打ち出した産業競争力会議で民間議員を務めた。人材派遣大手パソナグループ会長。


撤回 24時間働け」でも合法


 高プロは「過労死促進法案」「定額働かせ放題」などと批判されている。
 「長時間労働を抑制している労働基準法の規制を取り払い、歯止めがかからなくなるから過労死促進法案。成果主義の賃金制度に変えるとは法案のどこにも書いておらず、定額働かせ放題になる。か
 政府は「自律的に働ける」と説明している。
 「最大のウソ。労働者が出退勤時間や休みを自由に決められるという裁量も、法案のどこにも書いてない。24時間働けという業務命令に従わず、「帰ります」と言ったら解雇、懲戒処分になる」
 高プロ適用は本人の同意が必要。法案修正で、いったん同意した人が撤回できる規定も加わった。
 「意味がない。会社から『おまえ、高プロな』と言われて断れる人がどれだけいるのか。撤回にしても『高プロから外れるなら、やってもらう仕事はない。降格、減給だ』と言われるに決まっている」
 政府は適用される労働者の数を明示せず、極めて限定的と説明している。
 「対象が誰か、何人になるか分からないなんて、無茶苦茶。財界がすぐに広げろと求め、ドンドン拡大する」
 健康確保措置は十分か。
 「年間104日以上の休日のどこが厳しい規制なのか。今でも週休二日制が当たり前だが、これだけ人が死んでいる。4週で4日以上の休日についても、『残り24日間は24時間働け』という業務命令でも合法になる」
 政府は、高プロ導入が生産性向上につながるとも主張している。
 「長時間労働を抑制し、労働時間を短縮したほうが、時間当たりの労働生産性はよほど高まるはずだ」


日本労働弁護団幹事長・棗一郎
なつめ・いちろう 1961年、長崎県生まれ。中央大卒。弁護士。日本マクドナルド名ばり店長事件、リコー・リストラ出向命令事件、日本郵便労働契約法20条事件など労働に関わる多くの事件を担当。


高度プロフェッショナル制度
 高収入の一部専門職を、労働基準法が定める「18時間」などの労働時間規制から外す。残業代や休日、深夜の割増賃金は支払われなくなる。政府は年収1075万円以上の研究開発職やコンサルタントなどを想定しているが、具体的には省令で定める。適用は本人の同意が必要。健康確保措置として年104日以上、かつ4週で4日以上の休日を義務化。勤務インターバル健康管理時間の上限設定2週間連続の休日臨時の健康診断のいずれかを実施する。


(社説)延長国会 政権の都合むきだしだ
2018626日:朝日新聞


 延長国会最初の本格論戦だというのに、加計・森友問題の真相解明は全く進まず、重要法案や当面の政策課題をめぐる議論も深まらなかった。残る1カ月の会期を、政権が疑惑にフタをしたまま、問題の多い法案を強引に成立させる舞台にしてはいけない。
 きのう参院予算委員会の集中審議があった。獣医学部新設をめぐり、加計学園の加計孝太郎理事長が記者会見して以降、初めて安倍首相が答弁に臨んだ。
 加計氏は愛媛県文書に記された2015年2月の首相との面会を否定、学園事務局長がウソを伝えたと説明したが、説得力のある根拠は示されなかった。
 首相は改めて、加計氏との面会を否定。加計氏の会見内容については「政府としてコメントする立場にない」と繰り返した。一国のトップの言動が「捏造(ねつぞう)」されたというのに、このひとごとぶりには驚く。野党が求める加計氏の証人喚問にも、「国会でお決めになること」と、取り合わなかった。
 森友問題でも、政権の後ろ向きな姿勢が際立った。
 先週の参院決算委員会で、共産党議員が独自に入手した内部文書を明らかにした。財務省国土交通省のすり合わせを記したもので、学園との国有地取引をめぐるやりとりを「最高裁まで争う覚悟で非公表とする」、大阪地検刑事処分について「官邸も早くということで、法務省に何度も巻きを入れている」などの記載があった。事実なら、見過ごせない大問題だ。
 集中審議で石井国土交通相は、指摘から既に1週間がたっているというのに「出所不明で、体裁も行政文書とは思えない」などと答えるだけで、文書が本物かどうかの調査を確約することすらも避けた。首相がしばしば口にする「ウミを出す覚悟」はどこに行ったのか。
 一方で、きょうにも参院厚生労働委員会で与党が採決を強行しようとしている働き方改革法案について、首相は「多様で柔軟な労働制度へと抜本的に改革する70年ぶりの大改革」と自賛した。長時間労働を招かないか、高度プロフェッショナル制度の妥当性が問われていることなど、全く眼中にないようだ。
 政権・与党は、数々の問題点が指摘される「カジノ法案」や、与党の党利党略もあらわな参院選挙制度改革法案も、会期内に成立させる構えをみせる。
 熟議を通じ国民の懸念に応える。法案に問題があれば立ち止まり、必要なら修正を施す。それが会期を延長した政権・与党の責任だ。



麻生氏はなぜ「自由」なのか

 おひざ元でも分かれる評価

2018627日:朝日新聞


 財務省をめぐる一連の不祥事で責任を問われている麻生太郎財務相。周囲の目を意に介さない振る舞いはどこから来るのか。有権者はどうみているのか。おひざ元の福岡県飯塚市を歩いた。
 麻生氏は、炭鉱で財を成した福岡・筑豊の財閥出身。地元のJR新飯塚駅周辺は、麻生グループ内の企業が運営する「飯塚病院」や「スーパーASO」などが並ぶ。この土地で50年近く営業している中華料理店は、麻生氏の行きつけだという。
 「テレビでモノの言い方や表情を見ていると、そりゃ『いかんな』とは思いますよ」。長年、麻生氏を応援している店主の田中雅寿さん(77)は言う。ただ、むしろ不思議に思う気持ちの方が強い。自分が知る「気さくな性格」とまったく重ならないからだ。
 「要するに、モリカケ(森友・加計)問題で首相を守ろうと無理してこうなっとるだけ。なんでそんなことするかって? そんなの知らんって」
 同じ新飯塚駅近くにある居酒屋「佐助」。大将の花元聡さん(44)は「筑豊の人ってよくしゃべるんですけど、麻生さんも同じなんですよ。批判されるのは、言い方がヘタクソなだけ」
 花元さんは高校生のとき、選挙運動中の麻生氏と握手したことがある。「これからの日本は君たちが支える」と言われた。「それ以来、僕のヒーローです。ボルサリーノ(の帽子)なんかかぶって格好いいじゃないですか。経済通で実績だってありますし」
 飯塚市内の商店街にも入って話を聞いた。
 一緒にいた女性から「あまりしゃべらんとき!」とクギを刺されながら語り続けたのは、商店街の60代の男性店主。「この辺じゃあ、そらみんな、麻生さんの味方ですよ。地元から出た初めての首相で、誇りに思っとりますから」
 繰り返される失言、放言には、筑豊独特の気質も感じるという。「荒っぽいと言われりゃそうかもしれんけど、表裏はない。ポッと言葉が出るのは、筑豊の人の特徴でしょ」
 ただ、男性も「少し言い過ぎだ」と思うことは頻繁にある。なぜ言い過ぎるのか?
 「有権者も同僚の政治家も、それくらいのことで引きずり降ろそうとは思わないから、ここまで自由な振る舞いなんでしょう」
 その「自由な振る舞い」に好意的な人ばかりでなかった。商店街の別の店の60代女性は「飯塚市民として恥ずかしい」と厳しい。
 「ずっと嫌な気分だった」というのは、麻生氏の国会での態度。しばしば、目をつむって薄笑いを浮かべているかのようにも見える。「相手を馬鹿にしとるとですかね。親が子どもに教えるような基本的なことが欠落しているみたい」
 質問する記者への対応についても、女性は理解できずにいる。「突っかかったり、すごんだりしとられますよね。視聴者や読者に言葉を届ける意思が感じられんから、不快感しか残らん。目の前の相手をやり込めることしか頭の中にない。あれ、誰も注意できんとやろね」
 別の店の女性は、こうした麻生氏の言動について「いいとこの坊ちゃんだから、攻撃を受ける立場になるとどう応じていいんか分からんのでしょ」。最近、麻生氏がテレビに映るだけでチャンネルを変えるようになった。「不支持」の思いをさらに強めている。
 麻生氏をよく知る人物が取材に応じてくれた。「坊ちゃん育ちでねえ。とにかくやんちゃ坊主の怖い物知らずって感じでしたよ」。子どものころの麻生氏についてこう話すのは麻生セメントの元監査役で、飯塚市在住の時任英雄さん(87)だ。
 時任さんが早稲田大の学生だったとき、新聞記者だった兄の紹介で当時中学生だった麻生氏の家庭教師として、東京・渋谷の邸宅に出入りするようになった。約40年の会社員生活では、グループ内のまとめ役として選挙にも関わった。
 誤解を招きかねない表現でも、ためらいなく発する。悪気なく本心を相手にぶつける。しばしばそのように評される麻生氏だが、時任さんには根底にあるのが「麻生家の長男として身につけた帝王学」ではないかとみている。
 ひいき目になるかもしれない、と断りながら時任さんは話した。「変わらないことや、自信を持って行動することなんかは、麻生家の帝王学なんでしょう。誤解を招くこともあるけど、僕なんか逆に芯が通っていると思いますよ」(小田健司)
〈麻生財務相の最近の発言〉
・それが分かれば苦労しない。それがわからないからみな苦労している(6月4日。記者会見で公文書改ざんの理由を問われて)
・全体の組織で日常的に行われているわけではないという意味では組織的ではない(日本時間6月3日。訪問先のカナダで)
・白を黒にしたとかいうような、いわゆる改ざんとか、そういった悪質なものではない(5月29日。衆院財務金融委員会で)
セクハラ罪っていう罪はない(5月4日。訪問先のフィリピンで)
・はめられて訴えられているんじゃないかとか、ご意見はいっぱいある(4月24日。記者会見で、福田淳一・前事務次官について)



新宿区 デモ規制強化

 「騒音」理由出発公園41に

2018628:東京新聞
 騒音などへの苦情を理由に、東京都新宿区が、区立公園の使用基準を見直し、デモの出発地にできる区立公園を現在の四カ所から一カ所に減らすことを決めた。区は「要望に迅速に対応した」と説明するが、開かれた議論のないまま区長と職員だけで決定したことに、反発が広がっている。(増井のぞみ)
 区立公園の使用基準の見直しは、二十七日の区議会環境建設委員会で報告された。住宅街にない公園で、面積は千平方メートル以上、園内に百平方メートル以上の広場があること-などの現在の基準に「学校・教育施設、商店街に近接しない」という条件を加えた。八月一日から実施する。
 これにより、デモに使える区立公園は現在の柏木、花園西、新宿中央、西戸山公園の四カ所から新宿中央公園一カ所となる。
 二〇一四~一六年度はそれぞれ一年間に五十~六十件台だった四公園でのデモが昨年度は七十七件、本年度も四~五月だけで十五件と急増している。五月から六月にかけ、柏木・花園西の両公園の周辺住民からはデモの制限を求める要望書が出され、区は関係部署で協議。今月二十日、部長決裁で基準見直しを決めた。
 議会委では、共産、立憲民主などの四人から異論が出た。雨宮武彦区議(共産)は「八月から実施ではなく、きちっと議会に諮って検証するべきだ。規制が先にありきではないか」と区の拙速な対応を批判。区みどり土木部の田中孝光部長は答弁で「私自身、住んでいる家の近くの公園に警察がしょっちゅう来て、デモがあるのは嫌だ」と述べた。
 住宅街が広がる世田谷区は、四百二十カ所の区立公園でのデモを禁止する基準はない。開催のたびに、内容を判断し許可している。国会を抱える千代田区は、滞在時間は十五分、拡声器は使用しないなどのルールを守れば、区立公園をデモの出発地にすることを認めている。若者の多い渋谷区は、唯一、デモの出発地に使えた宮下公園が工事で閉鎖されている。
◆表現の自由揺るがす
 山田健太・専修大学教授(言論法)の話 デモのための公園使用が、場合によっては周辺の住民にとって迷惑であることは予想されたとしてもデモ規制を行ってよい理由にはならない。すべてのデモは、何らかの市民生活に支障を及ぼす可能性があり、それだけが理由で不許可になるなら、すべてのデモが規制の対象になってしまう。憲法で保障された表現の自由を根本から揺るがすものであって許されない。
◆「ヘイトとは違う」「ビルの上に響く」
 新宿区の区立公園使用基準の見直しで八月からデモの出発地として使えなくなる柏木公園で二十七日、改憲反対などを訴えるデモがあり、参加者からは「デモは表現の自由だ」「公園を使わせてほしい」との声が上がった。
 デモの実行委員会メンバーの木村隆さん(76)は「ヘイトスピーチと一般的なデモを一緒にされてはかなわない」と憤慨。柏木公園は、JR新宿駅西口に近く、あまり歩かなくても多くの人に訴えをアピールできるため、高齢者も参加しやすく、利便性が高いという。「自己満足ではなく、声を聞いてもらうためにやっている。公園が使えないのは、デモの死活問題だ」と語気を強めた。
 一方、公園近くの住民や商店の反応はさまざまだ。デモ規制の要望書を区に提出した商店会「新宿広小路会」の石川謙一会長(69)は「われわれの公園がデモの中心地になり、音がビルの上に響く。近くに保育園やホテルもあるし、デモは全部やめた方がいい」と話した。
 近所に住む女性(67)は「うるさい時もあるけど、全てやめさせるのはやりすぎではないか。言いたいことを言える環境は必要だ」と疑問を呈した。(清水祐樹)
(東京新聞)

http://www.tokyo-np.co.jp/s/article/images/2018062899070617.jpg

8月からデモの出発地として使えなくなる柏木公園に集まった参加者=東京都新宿区西新宿で

この記事に

ボクは40年前からの「嫌煙派」だ。「嫌煙権」という言葉出来たころから嫌煙族に属している。
喫煙者には同情はするが、ボクにその煙を吹きかけないでくれと、ズ~ット言ってきた。
喫煙は社会全体にとってネガティブな行為であって、何ら得るところはない。非喫煙者は喫煙しなくても平常に暮らしているのだから、喫煙のメリットをいう喫煙者のメリットはすべて消失する。
やっと、受動喫煙防止法が成立するが、これは喫煙防止法ではない。
喫煙者が、喫煙という「病気」を治すサポートをもっとすべきであるが、そのレベルには達していない。
禁煙治療には保健が適用されるのだから、喫煙は立派な病気である。
阿片窟のような喫煙サティアンがそこここにできるのも勘弁してもらいたい。
最終的解決は喫煙者のいない無煙社会だが、道のりはまだ遠い。


従業員いれば「食べながら」ダメ

加熱式たばこ現状のまま分煙

 受動喫煙防止、東京都条例可決

2018627日:産経新聞


 東京都議会で成立した受動喫煙防止条例は、従業員を雇用している場合、原則屋内禁煙とするなど独自の厳しい規制を敷いた。健康志向の高まりや若者のたばこ離れを背景に現在、大手外食チェーンなどを中心に店舗内分煙が進んでいるが、条例施行後はこうした対応も通じなくなる。条例で何が変わるのか。
 国に比べ厳しい規制になるのが紙巻きたばこだ。従業員を雇っている飲食店では原則屋内完全禁煙で、外に煙が漏れない喫煙スペースを設置すれば喫煙が可能だが、この中での飲食の提供は禁止。「飲食しながらのたばこ」という風景は、従業員を雇っていない店舗以外では見ることがなくなる。喫煙専用室を設ける場合、都は費用の9割を補助するが、小規模店舗でのスペース確保が課題だ。中小の飲食店からは「商売が成り立たなくなる」との悲鳴も上がっている。
 一方、利用者が広がっている加熱式たばこについて、都は当初、紙巻きたばこと同内容の規制を検討したが、「受動喫煙による影響が未解明」などとして、国と同様の規制内容に緩めた。都は分煙の手法について国の動向を見守るとしているが、国、都ともに専用室を設ければ飲食しながらの喫煙が許されるため、加熱式に限れば現状の分煙対応で事足りるとみられる。


 小池百合子知事は今後、隣県も含めた共通の店頭ステッカーを作る方向で調整しており、都内では来年のラグビーワールドカップ(W杯)開催までに店頭表示を義務化する。条例完全施行は平成32年4月だが、実質的にはラグビーW杯前に体制が整いそうだ。
 喫煙室が設置されていない建物では、屋外で喫煙することになるが、都内には路上喫煙などを禁じている自治体も多い。都条例施行による路上喫煙増加を懸念する声を受けて、区市町村が公衆喫煙所を整備する際の都からの補助も、対象を広げ補助率を100%に引き上げる。
 取り締まりを担う各保健所では戸惑いが広がる。業務拡大によって人手不足に陥る可能性もあり、実効性の担保に向けた体制強化が急務だ。また、仕事や観光で都外から来た人への条例周知も課題となる。(石井那納子)

受動喫煙防止条例案

 千葉市長方針「飲食店は原則禁煙」

2018622:東京新聞・千葉版
 千葉市の熊谷俊人市長は二十一日、制定を目指している受動喫煙防止条例案について、飲食店は面積に関わらず原則禁煙とし、罰則付きとする方針を示した。今後、条例案の内容を細かく検討し「できるだけ早く骨子案を出したい」と述べた。 (中山岳)
 熊谷市長は市議会閉会後、報道陣の取材に「罰則がなければ実効性はなく、店舗の大きさは関係ない」と述べた。加熱式たばこの規制については、紙巻きたばこと比べて有害性を証明するデータが不十分だとして「同じように規制するのは難しいのではないか」との考えを示した。
 国会で審議中の健康増進法改正案は、客席面積が百平方メートル以下の既存の飲食店で、例外的に喫煙を認める内容。東京都が今月五日に発表した受動喫煙防止条例案は、従業員を雇っている飲食店は原則禁煙で、紙巻きたばこは飲食不可の喫煙専用室でのみ喫煙できるとしている



受動喫煙の防止対策

 東京が全国のけん引役に

2018628:毎日新聞



 2020年の東京五輪・パラリンピックに向けた東京都の受動喫煙防止条例が成立した。人口でも飲食店の集積でも突出している東京が踏み出した意味は大きい。

 条例の特徴は、従業員を雇う全ての飲食店を原則禁煙としたことだ。喫煙するには専用室を設ける必要がある。従業員を雇っていなければ経営者が禁煙か喫煙可かを選べる。

 都内に16万軒ある飲食店の84%が規制対象で、違反すれば5万円以下の過料が科される。小中学校などは屋外の喫煙場所の設置も認めない。

 学校や病院を先行させ、20年4月から全面的に施行される。

 喫煙専用室を設けても煙は漏れることがある。「完全禁煙」でなく不十分との指摘はあるが、受動喫煙を防ぐ対応としては現実的だろう。

 世界保健機関(WHO)などが進める「たばこのない五輪」の実現を迫られての条例だ。

 もっとも、五輪は都内だけで開かれるわけではない。条例の趣旨を広げるためにも、会場となる他県も同様の対応を考えるべきだ。

 五輪に限らず、受動喫煙防止は国民の健康のために必要な施策だ。

 政府も受動喫煙を防ぐ健康増進法改正案を策定し、国会で審議中だ。しかし、政府案は自民党が中小規模の店舗に配慮するなど抵抗した結果、都条例に比べて規制がゆるい。客席面積100平方メートル以下で個人などが営む既存の店は喫煙が可能で、規制対象も45%ほどだ。

 飲食店が最多の東京で、厳しい条例が施行されれば影響は大きい。都がけん引役となり、この条例が全国標準となることを期待したい。

 条例施行後は状況のチェックが課題になる。区や市の保健所が調査を担うが、かなりの人手がかかる。態勢強化が不可欠だ。

 他方で、屋外での喫煙者対策はなお不十分だ。路上喫煙防止条例は各地で定められているが、実効性に乏しいと指摘される。喫煙者のマナー順守が重要だ。

 市町村レベルでは独自の対策が進んでいる。禁煙の飲食店を紹介したり、職員に喫煙後のエレベーター使用を禁止したりした自治体もある。

 国内では受動喫煙で年間1万5000人が死亡しているという推計がある。効果のある対策が急務だ。

たばこない五輪へ 独自基準

 受動喫煙防止 都条例あす成立

2018626:東京新聞
 従業員を雇っている飲食店を原則禁煙とする東京都の受動喫煙防止条例案は、二十五日の都議会厚生委員会で賛成多数で可決された。二十七日の本会議で成立する見通し。国会で審議中の国の健康増進法改正案は、客席面積が百平方メートル以下で資本金五千万円以下の既存店では喫煙可能で、都の案は規制がより厳しい。東京五輪・パラリンピック前の二〇二〇年四月に全面施行する。 (榊原智康)
 採決では、都民ファーストの会、公明、共産が賛成した。自民は「中小飲食店の雇用状況は流動的で、(従業員がいるかどうかという)基準は分かりにくい」などと反対した。
 自民は、客席面積百平方メートル以下の飲食店で従業員の同意があれば規制対象外とする修正案を、共産は加熱式たばこへの罰則を盛り込んだ修正案を出したが、ともに否決された。
 都の条例案では、従業員を雇う飲食店は原則的に禁煙となる。また従業員を雇わず、個人や家族で経営する飲食店は、禁煙か喫煙かを選択できる。罰則は五万円以下の過料。
 また小中学校などは敷地内禁煙となり、屋外の喫煙場所も設置しないよう努力を求めている。
 火を使わない加熱式たばこは、専用の喫煙室を設けて「完全分煙」にすれば飲食しながら喫煙できる。紙巻きたばこと異なり、受動喫煙による健康被害が明らかになっていないとして、当面の間、罰則は適用しない。
◆国よりも厳しく
 二十七日の東京都議会で成立する見通しとなった受動喫煙防止条例案は、どんな内容なのか。
 Q そもそもなぜ今、この条例をつくるの?
 A 世界保健機関(WHO)と国際オリンピック委員会(IOC)が進める「たばこのない五輪」を実現するためだ。最近の五輪開催都市は、罰則付きの受動喫煙防止対策を講じている。都は、国の法案は規制が甘いとみており、五輪を機に、より国際的な基準に近づけようと考えた。
 Q 特徴は?
 A 条例案は「人」を基準にしていて、従業員を雇う飲食店は面積にかかわらず原則的に屋内禁煙。従業。


員を雇っていなければ経営者が禁煙か喫煙可かを選択できる。
 Q 国会で審議中の国の健康増進法改正案とはどう違う?
 A 国の法案は「面積」が基準になっている。客席面積が百平方メートル以下で資本金五千万円以下の既存店は、喫煙か分煙かを掲示すれば喫煙は可能となる。規制対象の飲食店は、国の法案では全国の約45%、都条例では都内の84%で、都の方が規制が厳しい。
 Q 従業員を雇っている店ではたばこはまったく吸えないの?
 A 紙巻きたばこは、喫煙専用室を設けない限り吸うことはできない。専用室を設けた場合、専用室内で吸うことはできるが、その専用室内で飲食はできない。
 Q 店は対応が大変そうだが?
 A 都は規制対象の飲食店が喫煙専用室を設ける場合、補助金の割合を80%から90%に引き上げる。区や市などが屋外に喫煙所を設置する場合も、費用の全額を補助する方針だ。
 Q 違反は誰がチェックする?
 A 二十三区と八王子、町田両市は各区市の保健所それ以外の市町村は都の保健所が担当する。
(東京新聞)

http://www.tokyo-np.co.jp/s/article/images/2018062699070508.jpg



喫煙に甘い永田町

 駆け込む議員や職員「働くスイッチ」

2018626日:朝日新聞


 国会と東京都議会で、受動喫煙対策を定めた国の法改正案と都条例案の議論が進んでいる。ともに今会期中に成立する公算が大きく、法改正案の議論の舞台である国会内や中央省庁の敷地内も規制対象になる。現時点では率先して対策を取っているとは言えない状況で、今後、対応を迫られそうだ。
 6月中旬の昼過ぎ、東京・永田町の国会議事堂内。衆院本会議の開会10分前、予鈴が鳴り響くなか、本会議場入り口脇の喫煙所に議員らが次々と入っていく。7、8人が入ればいっぱいに。国会内には外部と壁で完全に仕切られた喫煙所が多いが、この喫煙所は壁の一部が空いており、煙を吸引する機器があるものの、煙が漏れる恐れがある。
 衆参それぞれの広報担当によると、国会内には、議事堂や、各議員の事務室がある「議員会館」など計80超の喫煙所がある。一方、政党ごとに議員が集まる各党の「控室」はそれぞれの党の裁量に委ねられ、議員会館の事務室内も各自の判断で喫煙できる。喫煙する議員の秘書だった30代の女性は「事務室で窓をこっそり開けたりしていたが、苦痛だった」と打ち明ける。
 国の健康増進法改正案や都の受動喫煙防止条例案が今会期中に成立すれば、国会は2020年4月から、オフィスビルと同じ扱いで「原則屋内禁煙」(屋内に喫煙専用室の設置可)になる。厚生労働省などによると、喫煙専用室は煙が漏れない構造にする必要があり、現在の国会内の一部喫煙所は撤去か設備の更新を求められる可能性がある。議員会館の事務室内は喫煙が禁止される。違反者には罰則が適用される予定だ。
 衆参の各広報は今後の喫煙所のあり方について、現段階では決まっていないとしている。まだ正確に規制の内容を認識していない議員もおり、議員会館事務室で喫煙しているという議員は「個室であれば、これからも吸えるのではないか」と話した。(石井潤一郎、斉藤寛子)

受動喫煙防止の対応、中央省庁で温度差

 14の中央省庁では、敷地内禁煙となっているのは4省庁のみ。他には屋内喫煙所がある。
 その一つの文部科学省。午後1時前、喫煙所に職員が駆け込む。「午後からまた働くぞというスイッチになる」。一服を終えた男性職員(36)はそう話した。
 文科省は19カ所ある喫煙所を7月に6カ所に減らす予定で、今後は屋外喫煙所の設置も検討するという。別の40代男性職員は「喫煙者にはつらい世の中。外に行くのも面倒だから禁煙も考えないと」と漏らした。
 法改正後は、中央省庁など行政機関は敷地内禁煙となり喫煙所は屋外にしか設置できない。現状でこれをクリアするのは健康増進法を所管する厚労省外務省など4省庁。法改正されると、来夏ごろまでに対策をせねばならない。だが対応には温度差がみられる。
 「外務省の中でモクモクと煙が充満するのはよくない」。河野太郎外相は4月下旬、省の建物内を完全禁煙にする方針を示し、5月の大型連休明けに6カ所の喫煙所を撤廃。屋外に喫煙スペースを設けた。
 「20年に向け喫煙所を順次撤廃していきたい」とするのは総務省。76カ所と最も多くの喫煙所がある防衛省は、「法案の趣旨に沿って対応したい」。数が多い理由に東京・市谷の約24万平方メートルの広大な敷地に主要な庁舎だけで7棟あり、自衛官ら約1万人が勤務することをあげる。そのほか多くの省庁は「法案の推移を見守りたい」などと回答するにとどまる。
 人事院は03年、庁舎内では少なくとも空間分煙を確保できる具体策をとり、可能な範囲で全面禁煙に向けて改善に努めるとする指針を出した。朝日新聞の今年5月の調査では、議会に喫煙所があるところを含むものの、都道府県の約8割にあたる38道府県は庁舎内を完全禁煙にしていた。
 禁煙推進学術ネットワークの藤原久義理事長は「分煙では受動喫煙は防げない。中央省庁や国会で対応が遅れているのは信じられない。受動喫煙対策の見本となるべき場所のはずだ」と話す。(黒田壮吉)

屋内喫煙所の数

内閣府   6
復興庁   0
総務省   13
法務省   1
外務省   0
財務省   16
環境省   0
防衛省   76
警察庁   5
2018年6月現在。復興庁が入る庁舎には、共用スペースに屋内喫煙所がある


喫煙を目撃したら実名で報告を

 堺市教委の教職員調査

2018622日:朝日新聞


 大阪府堺市教育委員会が、学校園の敷地内で禁じている喫煙があったという情報を受け、市立学校や幼稚園の全教職員に調査票を配り、同僚の喫煙を目撃した場合、名前を挙げて回答するよう指示していたことがわかった。現場からは「『密告』ではないか」と反発が出ている。
 市教委教職員人事部によると、1日付で計149校・園の校長・園長を通じ、非常勤講師らを含む全教職員約4500人に調査票を配布。回答は校長・園長が回収し、8日夕までに市教委に持参するよう指示した。
 調査票では、2017年度以降、学校園の敷地内で喫煙(電子たばこを含む)をしたことがあるか、同僚が喫煙しているのを見たことがあるかを尋ね、見たことがある場合は時期と学校園名、喫煙していた教職員名を書くよう求めている。
 同部は回答を「任意ではなく必須」とし、長期休暇中などの教職員についても校長らが聞き取るよう指示。既に4千人以上の回答が市教委に届いたという。
 堺市教委は04年度から、学校園の敷地内を完全禁煙としてきた。敷地内や勤務中の喫煙は市の服務規律違反となるが、過去に処分された教職員はいないという。
 調査の理由について、教職員人事部は朝日新聞の取材に対し、「敷地内で喫煙があったという信憑(しんぴょう)性の高い情報があり、こうした調査が必要だと判断した」と説明している。
 児童らの受動喫煙を防ぐため、回答で喫煙を自ら認めた人や、名前が挙げられた人に対して市教委が直接聞き取りをし、処分も含めて「必要な対応をとる」という。回答を拒んだ教職員には、拒否した事情を聴く意向だ。
 今回の調査について、堺市内の教職員らが加入する大阪教育合同労働組合は今月上旬、市教委への申し入れで「自白を強要し、同僚の密告を奨励するような調査だ」と抗議し、調査の中止を求めた。同組合堺支部の幹部は「教育現場の同僚同士が疑心暗鬼に陥る可能性もある。こうした調査が繰り返されれば、大きな問題だ」と話している。(加戸靖史)

教職員同士の疑心暗鬼招く

 《小野田正利・大阪大大学院教授(教育制度学)の話》 教職員の喫煙について情報が寄せられたなら、その学校を絞り込んで調べればよく、教職員全員への調査は明らかに異様で行き過ぎだ。調査の目的と手段を取り違えているというしかない。他人のあいまいな記憶に基づいて喫煙の疑いをかけられたら、著しい人権侵害になる。互いに信頼し、協調して働かなければならない学校現場で「チクリ」をさせることは、教職員同士の疑心暗鬼を招き、弊害の方がはるかに大きい。



たばこ規制で路上喫煙増える?

 都、屋外喫煙所には補助

2018628日:朝日新聞


 2020年東京五輪パラリンピックを見すえ、国の規制案より厳しい東京都受動喫煙防止条例が成立した。都内の飲食店の大半が対象になり、大手チェーンも対応を検討し始めた。
 条例成立により、都内の飲食店の約84%にあたる約13万4千店が、屋内を完全禁煙とするか、喫煙専用室を設置するか判断を迫られる。2年後の全面施行を前に大手チェーンは対応を検討し始めている。
 「時代の流れですね」
 ファストフード大手「ロッテリア」の広報担当者は話す。今は都内37店のうち30店が分煙型で、喫煙しながら飲食できる。条例を踏まえ、原則全席禁煙にする方向で検討を進めている。
 喫煙する客が離れる不安は「正直ある」。だが、条件は他店も同じで「家族連れなどたばこを吸わない方々の来店を期待したい」とも言う。国の法律で禁煙の対象外となる東京以外の100平方メートル以下の店については「全国一律で都条例に合わせるという議論も出ているが、未定」という。
 完全禁煙を避ける店もある。加熱式たばこ専用の喫煙室内での飲食は認められるため、ある大手コーヒーショップ会社はすでに、都内の店で、紙巻きたばこ用の喫煙室だけでなく加熱式たばこ用の喫煙室も試行的に設けた。担当者は「このような形態を広げることになるだろう」という。「たばこを吸う人、吸わない人の双方に快適な空間を提供したい」(広報担当者)
 一方、区市町村からは「屋内の規制が厳しくなった結果、路上喫煙が増えるのでは」と懸念する声がある。歩きたばこなどが増えるのを防ぐため、小池百合子東京都知事都議会で、屋外公衆喫煙所の設置費を区市町村に全額補助する考えを表明した。
 02年から路上喫煙を禁止している千代田区は、屋外の用地確保が難しいとし、補助金で空き店舗などを公衆喫煙所に改修して喫煙所拡充を目指す方針だ。
 施行後、飲食店などへの指導は各地の保健所が担うことになり、人手の確保も課題だ。杉並区の路上喫煙防止の担当者は「『なぜうちだけ指導されるのか』と不公平感が出ないよう、人員を投入する必要がある。だが保健所の職員だけでは足りない」と話す。都は今後、自治体と協議し、指導方法を検討するという。
 日本たばこ産業(JT)は「受動喫煙防止の取り組みに賛同している」(IR広報部)とし、今後、分煙コンサルティングなどのノウハウを生かして受動喫煙対策に協力する方針だ。ただ、都条例について「飲食業者の声を反映しておらず、残念。店側の選ぶ権利、そのうえでお客が選択する権利を尊重すべきだ」と指摘している。(木村浩之)


この記事に

DTの正体」という本が書けそうな気がする。DTという全体がようやく彼の行動によって明らかになってきた。DTの思想や行動が、米国の国益を損ね、世界全体に「悪いもの」であることも明確になりつつある。
スターウォーズやゴータマが言うように、「欲望」というものが人を暗黒面に堕ちていくことを体現しているように見える。
少なくとも、DTは賢くなく、政治を面ではなく、点と線でしか考えていないことは明白だ。壊れていく世界、失われる民主主義を眼前に、ABEを首相とするこの国で傍観するしかないのだろうか…。


トランプ外交の正体、

人気取りとビジネスで世界を変えていいのか

2018627日:週刊ダイヤモンド


 米朝首脳会談をきっかけに、東アジアは「非核化」、対話モードで動き出した。その一方で、「イラン核合意離脱」で中東では緊張が高まり、経済でも世界貿易戦争が起こりかねない雲行きだ。19日には、「反イスラエル的姿勢」などを理由に国連人権理事会からの脱退を表明した。
「変化」を演出すると同時に主役を演じるのは、これまで政治とは無縁だったトランプ米大統領だ。この特異なキャラクターを持つ指導者を動かしているものは何なのか。

トランプ現象の正体は
人気取り政治と取引外交

 トランプ大統領の外交政策の多くは、選挙に勝つための「ポピュリズム(大衆迎合政治)」と「ビジネスマンのディール(取引)手法」で説明できる。

 前者の「ポピュリズム」は、トランプ氏自身がロシア疑惑で厳しい追及を受けているがゆえに一層強くなる。そこから「米国第一主義」が出てくる。自分が強いアメリカを再現する(Make America Great Again!)のに必要な人間であることを印象づけ、人々の支持を得ようとするわけだ。


 こうした動機を実現させる手法は、「ビジネスマンのディール」であり、アメリカの「力の誇示」だ。相手に制裁措置をちらつかせ、要求をふっかける。もしアメリカの要求をのまなければ、それを躊躇なく実行する。相手が妥協してくれば、それで合意を作る。
 そこに、目指すべき世界に関して中長期の戦略的構想があるわけではない。あるのは、ゲーム理論の「脅し戦略」のように当面の自己利益を最大化しようとする、庶民にもわかりやすいディールだ。その自己利益最大化は時として露骨な「自己都合主義」となって現れる。
 つまりトランプ政権の特徴は、外交では「米国第一主義」、内政では選挙勝利至上主義となって現れるのである。
 こうしたトランプ大統領の外交手法は、知的エリートを軸にして展開されてきた従来の共和党・民主党の政策スタンスとは違ったものなので、外交専門家は驚かされて懐疑と混乱に陥る。
 それが「トランプ現象」の正体なのだろう。

選挙勝利至上主義が
貿易戦争を引き起こす

 トランプ大統領のこうした手法が生まれた背景は、1990年代のクリントン政権にさかのぼる。
 それまで米民主党は自動車・鉄鋼など重化学工業の労働者を中心としたニューディール連合を基盤としていたが、共和党が議会多数派になった状況で、クリントン政権はゴア副大統領を軸に「情報スーパーハイウェイ構想」を立ててIT(情報通信)産業を取り入れ、さらにウォール街からゴールドマン・サックス共同会長だったルービン氏を財務長官に迎え入れて金融自由化へと舵を切った。
 相手の支持基盤に食い込む戦略である。
 そして、ITと金融をバックに各国に規制緩和と自由化を強いる「グローバリゼーション」を展開していった。
 しかし、こうした政策は国内産業を空洞化させ、白人貧困層を作り出し、貧富の格差を大きくしていった。その政策の失敗を象徴するのがリーマン・ショックで、金融業にのめり込んでいったGM(ゼネラルモーターズ)の倒産だった。
 そこで2016年の大統領選では、民主党内部で、ウォール街から多額の献金を受け取り彼らの利害代弁者と受け止められたヒラリー・クリントン候補に対し、「民主社会主義者」を自称するサンダース候補が彼女に対抗して支持を広げ、民主党の支持基盤で「分断」が露呈した。


 昨年の大統領選では、相手の支持基盤に食い込む「逆転」が始まった。
 今度は共和党のトランプ陣営が従来の民主党の基盤であったニューディール連合に食い込み、この不満のエネルギーを「米国第一主義」を掲げて吸収する選挙戦を展開した。
 その結果、トランプ陣営はラストベルト(ペンシルベニア州・ミシガン州・オハイオ州・ウィスコンシン州などの重化学工業地帯)で勝利し、得票数で負けながら代理人数で上回り辛勝した。
 ロシア疑惑を抱えて、今年11月の中間選挙での勝利が至上命令になっているトランプ大統領は、今まで以上にラストベルトの選挙民の代弁者であることを印象づけねばならない。すでに上院の議席数は僅差であり、下院でも敗北する事態になると、次の大統領選も危うくなるからだ。
 そこで展開されたのは、中国など、対米貿易赤字を生み出している国への「攻撃」だ。
 今年3月に、米東部の「鉄鋼の街」ペンシルベニア州ピッツバーグ郊外にある連邦下院第18選挙区の補欠選挙で共和党候補が敗北し、2002年以来の議席を失ったのが決定打となったようだ。
 新たに鉄鋼関税とアルミ関税25%を課す保護関税が打ち出された。この政策を実行したウィルバー・ロス商務長官は世界一の鉄鋼メーカーのアルセロール・ミタルの役員を務めていたが、そのミタルをはじめ米国内の鉄鋼業は、中国の鉄鋼輸出攻勢によってしばしば打撃を被っている。
 さらに続いて打ち出されたのが、知的所有権侵害を理由にした1100品目500億ドルに及ぶ中国への「制裁」関税で、とくに産業用ロボットなどハイテク製品を対象としている。
 米キニピアック大の世論調査によれば、鉄鋼・関税に対しては反対が5割に達しているが、中国産品への「制裁」関税については52%の支持(反対は36%)を得ている。
 ただ相手国も黙っているわけではない。鉄鋼・アルミ関税に対してはEU、カナダ、メキシコが報復関税計画を発表。中国もアメリカに対抗して、農産品や自動車など659品目、計500億ドル相当の米国製品に25%の輸入関税を上乗せする報復措置を発表した。
 状況はしだいに貿易戦争の様相を呈してきている。

既成政党の論理では
できなかった北朝鮮との「取引」

 トランプ氏の手法は、北朝鮮問題やイラン核合意の離脱でも貫かれている。


 エルサレムをイスラエルの首都として大使館を移転させ、イラン核合意から離脱している。それによって、ユダヤ人ロビーおよびキリスト教原理主義者たちの支持を得ようとするとともに、中東地域に緊張を作り出すことで石油価格を上昇させ、アメリカの石油メジャーやシェールオイル業者の利益を誘導していることは明らかだ。
 19日に表明した国連人権理事会からの離脱も、親イスラエルを一段と鮮明にし、国際機関や国際協調を軽視するものだ。
 人権理事会は5月に、一方的なエルサレムへの首都移転に反発し、パレスチナ自治区のガザで起きたデモ隊とイスラエル軍の衝突に関し、国際調査団の派遣を可決したが、米国はイスラエル擁護で反対した経緯がある。
 また612日の米朝首脳会談を含むトランプ大統領の北朝鮮対応について、調査会社IPSOSなどが会談翌日に発表した世論調査によると、米国民の51%が支持している。
 支持は、トランプ政権の政策が「緊張緩和」で一貫しているからではなく、実益を重視するビジネスマン的なディールにリアリティを感じている層がいるからだろう。
 もちろん北朝鮮は独裁国家であり、トランプ大統領も言うことがころころ変わり、さらに最終的に米朝間で平和条約を結ぶにはアメリカ議会の承認を必要とする以上、楽観論は許されない。
 また米韓合同軍事演習を中止したのは中国側を利するという声や、CVID(完全かつ検証可能で不可逆的な非核化)が明記されていないという批判も出ている。
 だが、むしろこの点にこそ米朝会談の画期的な意義があると言ってよい。
 北朝鮮はいまだに朝鮮戦争の最中にあり、戦時体制の軍事国家だ。彼らを「瀬戸際外交」に走らせてきたのも、イラク戦争やリビアで起きた米国による体制の「暴力的破壊」があったからだ。
 それに対し今回が違うのは、戦争状態という条件を取り除くことに一歩踏み出したと言えるからだ。その意味は大きい。
 こうした戦争状態を終結させようとする交渉姿勢は、冷戦型の思考が残る「ワシントン・ポリティックスの論理」をとる既存の政治家・外交専門家ではできなかっただろう。
 彼らが言うように軍事的圧力を強調すればするほど、北朝鮮を追い込んで、戦争リスクを高めることになるからだ。それでは、この軍事的緊張関係を政治的に利用する軍産複合体とナショナリズムの政治が永遠に続くだけで、問題の根本的解決にはつながらない。
 そうではなく世論に忠実な「ポピュリズム」であるがゆえに、知的エリートたちが前提としてきた「ワシントン・ポリティックスの論理」を脱することが可能になるのだ。



(社説)米国と人権 大国の原則軽視を憂
2018622日:朝日新聞


 人権を重んじる大国を標榜(ひょうぼう)してきた米国が、自らその看板を下ろす行動を続けている。国際機関でも米社会でも、トランプ政権の人権軽視が甚だしい。
 米国が、国連人権理事会からの脱退を発表した。国連総会が選ぶ47の理事国が集い、世界の人権を監視している組織だ。
 その活動が偏向しているというのが、脱退の理由だという。実際には、米国の友好国イスラエルへの肩入れのためだ。
 先月、パレスチナのデモ隊にイスラエル軍が発砲し、多数が死傷する事件がおきた。人権理事会は調査団の派遣を決め、国連総会イスラエルによる攻撃を非難する決議をした。
 米国はこれに反発したわけだが、そもそもパレスチナの怒りの原因をつくったのは米国だ。国際批判を無視して、在イスラエル米大使館をエルサレムに移したことが騒乱を招いた。
 中東の安定を顧みない外交で混乱を招きながら、国連の対応が気に入らないとして、人権理事会から脱退する。そんなトランプ政権の身勝手さは、世界の失望を買うだけでなく、米自身の影響力を衰えさせている。
 人権理事会は、北朝鮮シリアなどの人権侵害にも取り組んできた。これらの国の後ろ盾である中国やロシアは、米国批判を強めている。人権を軽んじる強権国が発言力を増す機会を、米国が提供している。
 問題の根本は、トランプ大統領の人権感覚にある。かねて人種や性差別などで不適切な言動を重ねてきたが、今月は移民への対応が論議を呼んでいる。
 拘束した移民の親と子どもを当局が引き離す痛ましい状況が伝えられ、与野党を超えて抗議が広がった。政権はやむなく対応を変えたが、不法移民を例外なく拘束し、訴追する「不寛容政策」は続けるとしている。
 移民政策は各国に共通する難題ではあるが、移民大国の米国が多様な包容力を失う意味は深い。今後も続く移民・難民の波と、米国など受け入れ側の摩擦は、国際的な人権水準を守る上で大きな不安要因となろう。
 日本にとっても影響は重い。トランプ氏は今月に会った北朝鮮金正恩(キムジョンウン)氏をたたえ、「彼が話す時、国民は直立して聞く。米国民も同じようにしてほしい」と語った。人権問題をただす決意は見えない。
 人権理事会脱退について、菅官房長官は「他国の対応にコメントすべきでない」と述べた。だが日本は、理事会の場で拉致問題にも取り組んできたのだ。米国に対し、復帰と建設的な関与を促す責任がある。



「トランプは合理的、
バカと切り捨てられない」
『国体論』著者・白井聡インタビュー
2018626日:ニューズウィーク


<敗戦を境に天皇を頂点とする日本の統治体制「国体」は、アメリカへの従属にとって代わられた――注目の新書『国体論』の著者が語る戦後日本の矛盾>
アメリカと米同盟諸国との対立が目立ってきている。6月のG7ではその対立が際立っていた。一方、日本は、612日の米朝首脳会談で非核化費用の負担ばかり求められ、北朝鮮をめぐる外交において「蚊帳の外」かと騒がれた。

そんななか、『国体論――菊と星条旗』(集英社新書)が注目を集めている。1945 年の敗戦を境に、天皇(菊)を頂点とする日本の統治体制であった「国体」が、アメリカ(星条旗)への従属にとって代わられた、と歴史的に分析。この特殊な従属体制から脱却しなければ、日本は敗戦に続く二度目の破綻に向かうと警告する。著者・白井聡に本誌編集部・深田政彦が話を聞いた。

***

――
ドナルド・トランプ大統領は従来の米政権とは異質だ。その点で、戦後史の考察から日米関係を論じた本書の視点は通用しにくいのではないか。
いや、米大統領が誰になろうとも、日本の側は何にも変わらないということが、この間証明された。大統領がどんな人であろうが、何を言おうが、安倍晋三は迎合するだけだ。しかも、必死に媚びを売る安倍の姿が日本国民を憤激させることもない。むしろ、「よくやっている」などと喧伝されている。だから、『国体論』に書いたことは、より一層明白になったと言える。
つまり、トランプ政権の登場によって「戦後の国体」の矛盾は、いよいよ隠せなくなってきている。「戦後の国体」の頂点たるアメリカに、恭順し、媚を売れば売るほど、日本が収奪の対象とみなされていく構図がはっきりしたからだ。
トランプの言動には、「われわれアメリカは公明正大なのに、その善意に同盟諸国は付け込んでいる」といった被害者意識が感じられる。日本のような、アメリカ頼みの同盟国の付け込みを止めさせれば、「アメリカを再び偉大に」できるというわけなのだろう。
「アメリカを再び偉大に」という、このスローガンの元祖はベトナム戦争後の暗い世相を打ち破ったレーガン大統領だと思う。レーガノミクスは製造業復活を唱えながらドル安誘導をせず、「強いドル」を支持。ブードゥー(いんちき)経済と呼ばれるほど矛盾だらけだったのに、レーガンの颯爽とした姿に米国民は「偉大なアメリカの復活」を見て熱狂した。
その後の大統領も皆、「偉大なアメリカ」を演出しようとした。次のジョージ・ブッシュは宿敵ソ連を崩壊に追い込み、湾岸戦争で「世界の警察官」になったが経済運営に失敗。ビル・クリントンは製造業復活を目論見ながらも、レーガン同様の金融資本主義化でしのいだ。ブッシュ・ジュニアはネオコンのイデオロギーに基づいて対テロ戦争にのめり込む一方、金融資本主義化のツケがリーマンショックによって爆発的に露呈してきた。
ここでいよいよ行き詰まりが酷くなり、バラク・オバマが登場した。オバマはインテリで弁舌さわやかな黒人大統領。人種融和という「アメリカの夢」を象徴する存在だった。彼の姿に世界中が「偉大なアメリカの復活」を期待した。しかしながら、何もできなかった。格差は広がり、荒廃している。つまり、歴代大統領が皆「偉大なアメリカ」を演じながら、繰り返し失敗してきたということだ。
そこで、「偉大なアメリカ」をスローガンとして直接打ち出すことで政権を取ったのがトランプだ。アメリカが衰退局面にあるなか、他国よりも自国中心に、という姿勢で、日本に厳しくあたる。
日本では、特にリベラル派に「トランプ当選にがっかりした」との論調がある。だがアメリカはずっと「アメリカ・ファースト」だったし、「偉大なアメリカの復活」というプロジェクトを繰り返してきただけだ。日本がそんな物語を共有する必要はない。米大統領は偉大でなければ、と期待することこそ、日本が「魂の従属」下にある証拠だ。
――本書ではアメリカ流新自由主義に従属する日本を批判しているが、トランプはTPP(環太平洋自由貿易協定)を離脱。他の先進国と対立している。
この間、TPPについて後押しをしてきた日本の「識者」たちのインチキぶりが白日の下にさらされた。彼らは「TPPは自由貿易の推進だから良いものだ」と言っていた。ところがいま、トランプ政権が日米FTA交渉へ日本を引きずり出すべく圧力を高めてくると「これは困ったことだ」と論評している。けれども、FTAだって自由貿易の推進だろう。何の一貫性もない。
つまり、彼らがTPPを支持していた本当の理由は、「自己利益をゴリ押ししてくるアメリカを多国間で抑え込む」ということだったわけだ。それを隠して、「自由貿易=善」という抽象的図式を喧伝することで、アメリカは「慈悲深い天皇」であるかのように演出されてきた。しかし、もうこんな猿芝居も限界だ。
TPPの交渉過程でせり上がってきたことだが、本質的な問題は、非関税障壁という概念の危険性や、大資本の権力のさらなる肥大化であり、それらが自由貿易推進の大義名分のもとで昂進してきたことなのだ。本当はこれらの問題に目が向けられるべきなのだが、対米従属の「戦後の国体」を仕切っている連中は、「トランプは《アメリカ・ファースト》だから大変だ」と言ってオロオロするしか能がない。『国体論』は、こうした「馬鹿につける薬」だ。
――トランプの問題は政策そのものよりも政策決定がいい加減で、選挙アピールばかりなことにあるのでは。
ただ11月の中間選挙で負ければ、政権運営に支障が出る。ここのところの大統領はみな中間選挙で負けてしまい、指導権を失っている。首尾一貫性がなくても、選挙に勝つことを狙うのはある意味で合理的なところがある。
現時点でトランプを無暗に称賛できないが、「バカ」と切り捨てる議論にもくみしない。米朝交渉でも、リビア方式が持論だったジョン・ボルトン大統領補佐官を抑え込んだことに、トランプの強固な意志を感じた。確かにトランプ政権は官僚のポストが大量に空席で片肺飛行なのに、国家は崩壊していない。驚くべき政権だろう。
――駐留米軍撤退論もトランプ独特の持論だ。
トランプが中長期的にどうするつもりなのかよくわからないが、米韓軍事演習を中止すると言っただけで、日本の親米派は「やめないで」と騒ぎだした。朝鮮戦争が終わるくらいなら、再開して日本に核ミサイルが飛んできた方がマシだというのが彼らの本音だということが明らかになった。「異次元の圧力」というのは、そういうことだ。それもこれも対米従属を続けるためであり、この「国体」を維持するためならどんな犠牲もいとわないというわけだ。第二次大戦中の指導者層と全く同じ発想だ。
――米軍基地問題に関して、トランプの撤退論に期待する声もあった。
対米従属を自己目的化した支配体制を取り除かない限り、日本にはそれをチャンスにできる主体性がない。政官財学メディア全てに言えるが、その主流派は従来の対米従属システムを維持することで自分の権益を守るのが行動原理になっている。「原子力ムラ」という言葉があるが、「安保ムラ」はもっと巨大で、政官財学メディアの主要部分全体が安保ムラだと言えるくらいだ。
「アメリカの一の子分」として戦後復興に邁進した時代には、その問題性が表面化しにくかったし、単なる子分でよいというメンタリティーもなかったはずだ。むしろ復興を支えた日本のエートス(社会規範)は、アメリカに従属しながらも「(経済戦争で)今度こそアメリカに勝つ」という、戦前の教育を受けたリーダー層の複雑な感情にあったと思う。アメリカに反発しながらも、自国の繁栄がアメリカのパワーによって保障されているという矛盾や葛藤がそこにはあった。
ところが世代交代でそうしたエートスが失われ、親米スタンスは、日本の支配層の階段を上る単なるパスポートのようなものになった。そして、復興の成功体験があまりに強烈で、何のための従属が分からなくなってしまった。
だから、無条件に従属のための従属をしている。そこには以前のような葛藤がない。葛藤のない人間は成熟せず、幼児化する。
冷戦以降、アメリカが日本を保護する理由がなくなる一方、東アジアは激動の時代に入った。中国の国力の大幅な増進が第一のファクターだが、それに加えて朝鮮戦争の終結が視野に入ってきた。東アジアにおける冷戦構造の残滓の一大要因がなくなる。これが実現すれば、在韓米軍は不要となり、今度は在日米軍の問題に議論は移行するだろう。一方で中国共産党政権は、台湾を版図に治めないと国家が完成しないという神話を持ち、それを長年国民にプロパガンダしてきた。台湾問題は朝鮮半島問題よりも難しい課題だ。



中国の対米投資が9割減、
米中貿易摩擦は戦争へ?

Chinese Investment In US Drops Precipitously From

2017 Amid Trade War Concerns

2018621:ニューズウィーク









中国の知的財産権侵害に対し500憶ドルの制裁関税を発動する大統領令に署名したトランプ

322日) Jason Lee-REUTERS



<報復関税合戦で2大経済大国間の取引が収縮すれば、世界経済にも悪影響は避けられない>
米中貿易戦争の懸念が高まる中、中国の対米直接投資が激減している。今年5月末までに中国企業が行った工場用地取得や企業買収などの対米投資は、昨年同期比で大幅に落ち込んだ。世界の2大経済大国である米中両国の貿易関係が急激に悪化したことが背景にある、と専門家は指摘する。
データを公表したのは、中国企業の投資動向専門の米調査会社ロジウム・グループだ。その最新の統計によれば、今年15月に中国が行った対米投資はわずか18億ドル。前年同期から92%も落ち込んだ、と米CNNMoneyは報じている。半期では過去7年で最低の水準だ。
中国の対米投資が減少に転じたのは2017年。米中双方における規制強化が原因だ、とロジウム・グループは分析する。中国は対外投資を抑制し、アメリカも中国企業よる企業買収への監視を強化した。
中国の対米投資額は、バラク・オバマ前米大統領の任期の最終年だった2016年に460億ドルと史上最高を記録した。
それが2017年には290億ドルに落ち込み、今年は5月末時点でわずか18億ドルにとどまっている。ドナルド・トランプ政権は618日にも、2000億ドル分の中国製品に10%の追加関税を課すと発表、中国側も直ちに同額の関税で報復を誓ったばかりだ。その数日前には、500億ドルの中国製品に25%の追加関税をかけるとして、中国も報復に出たばかり。米中の貿易摩擦は激化こそすれ、沈静化する気配はない。

世界経済にも悪影響

「貿易戦争」の始まりは、トランプ政権が3月に中国製の鉄鋼とアルミに追加関税を課し、中国もお返しをしたこと。以来、米中の報復合戦が繰り返されるたび、世界の株式市場は動揺してきた。
貿易をめぐる米中対立は、石油市場からハイテク産業に至るまで、幅広い産業に悪影響を及ぼしている。特に後者への打撃は深刻だ。中国の通信機器大手の中興通訊(ZTE)は、アメリカの部品の輸入禁止などの制裁措置を受け、操業停止に追い込まれた(その後トランプは態度を変え、制裁を緩和する姿勢を見せている)。
4月にホワイトハウスでトランプと会談した米アップルのティム・クックCEOは、貿易戦争が取り返しのつかないほどエスカレートしたり、中国から輸入する部品のコストが上がってiPhoneが値上がりするようなことはないだろう、と楽観的な見方を示した。
「(貿易戦争に)勝者はいない。どちらも負ける」、とクックはCNNの番組で語った。「負けが分かりきっているのだから、米中両国は問題を解決できるはずだ」
(翻訳:河原里香)



【産経抄】
2018627日:産経新聞


 「アメリカの魂」とたたえられるオートバイは1903年、中西部ウィスコンシン州の粗末な小屋で誕生した。マシンの名前は、開発者のウィリアム・ハーレーとダビッドソン兄弟に由来する。
 日本でも広く知られるようになったのは、69年公開の映画「イージー・ライダー」の力が大きい。無頼な男たちがハーレーダビッドソンにまたがり大陸を疾走する姿は、自由の国・米国を象徴していた。
 その老舗二輪メーカーが、苦渋の決断を下した。売上高の約16%を占める欧州向けの二輪車生産の拠点を米国外に移すというのだ。騒動の発端は、トランプ政権が打ち出した鉄鋼とアルミニウムの輸入制限である。欧州連合(EU)は、ハーレーを対米報復関税の対象とした。米国から欧州に輸出すれば、二輪車1台あたり20万円以上コストが増えることになる。
 トランプ大統領は早速、ツイッターで怒りをぶちまけた。「白旗を上げた初めての企業になったことに驚いた」「我慢しろ!」。トランプ氏は昨年2月、ホワイトハウスの前に並んだバイクの横でご機嫌だった。創業以来ずっと国内で生産を続けている、とハーレーを称賛した大統領の面目丸つぶれである。
 東日本大震災の大津波は、おびただしい漂流物を生み出した。宮城県から流失して太平洋を渡り1年後、カナダの海岸に打ち上げられたハーレーのバイクもその一つである。現在はハーレー社の博物館に収められている。
 EUの報復関税リストには、ハーレーのほか、ジーンズのリーバイスやバーボンウイスキーなども並んでいる。大津波のようなトランプ政権の強引な通商政策がこのまま続けば、海外への漂流を余儀なくされる米国ブランドは、まだまだ増えていきそうだ。



米、国連人権理事会を離脱

 「政治的偏向のはきだめ」と

20180620BBC



ニッキー・ヘイリー米国連大使は19日、米国が国連人権理事会を離脱したと発表した。同理事会は「政治的偏見のはきだめ」だと批判している。



ヘイリー大使は、「偽善と自己満足」に満ちた組織が「人権を物笑いの種にしている」と述べた。
同大使は昨年にも、「慢性的な反イスラエル的な偏見」があるとして人権理事会を非難し、加盟を見直すとしていた。



ヘイリー国連大使は、マイク・ポンペオ米国務長官と共同記者会見を行った。ポンペオ長官も過去に、人権理事会を「人権の非力な守り手」と評していた。
しかし人権活動家らは、米国の離脱によって世界での人権侵害を監視し対策を取る努力が損なわれると指摘している。
国連のアントニオ・グテレス事務総長は報道官を通じ、米国には理事会に「残って欲しかった」との声明を発表した。
また、ザイド・フセイン人権高等弁務官は米国の離脱について「驚くべきニュースではないが、残念だ。今日の世界の人権の状況を考えれば、米国は後退ではなく前進すべきだ」と話した。


一方、イスラエルは米国の決定を歓迎している。
今回の離脱劇は、トランプ政権が進める米・メキシコ国境を越えた不法移民の親子を引き離す政策が大きな批判を浴びるなかで行われた。

国連人権理事会とは?

国連は2006年に人権理事会を設立したが、人権侵害の疑いのある国にも加盟を許していることで批判を浴びていた。
47カ国が理事国として選出され、3年の任期を務める。理事会は年3回開かれ、普遍的・定期的レビュー(UPR)と呼ばれるプロセスで全国連加盟国の人権に対する取り組みを評価する。
また、人権侵害があったとする報告に対し、独立した専門家を派遣したり委員会を設置することもできる。これまでにシリアや北朝鮮、ブルンジ、ミャンマー、南スーダンに対してこうした措置が取られた。



なぜ米国は離脱したのか

米国は長年、人権理事会を批判してきた末に離脱を決定した。
米国は2006年の理事会創設当時も加入を拒否していた。理事会の前身である人権委員会と同様、人権侵害の疑いのある国にも加盟を許していたためだ。
加入したのはオバマ政権時代の2009年で、2012年に理事国に再選された。
しかし2013年には、中国やロシア、サウジアラビア、アルジェリア、ベトナムといった国々が選ばれ、理事会は人権団体から非難を浴びた。
さらに、理事会から不当な批判を受けたとしてイスラエルがレビューをボイコットしている。
ヘイリー米国連大使は昨年、反政府デモで何十人もの死者が出ているベネズエラに何の措置も取られていない状況でイスラエルに対する非難決議が採択されたことは「受け入れがたい」と述べていた。
イスラエルは理事会で唯一、常設課題とされている国で、パレスチナへの対応が定期的に調査される。
ヘイリー氏は人権理事会への痛烈な批判をした後、「この離脱で我々の人権への貢献が後退することはないことを明言しておく」と話した。

離脱への反応は?

米国の離脱を受け、いくつかの国や外交官が遺憾の意を示した。
人権理事会のボジスラブ・スツ理事長(スロベニア大使)は、理事会は「世界中の人権問題や状況に対応している」唯一の団体だと話した。
「力強く精力的な理事会を維持することが重要だ」
ボリス・ジョンソン英外相は離脱決定を「残念だ」と述べ、改革は必要なものの、理事会は「世界の国々の責任を問うために必要だ」と話した。
また、多くの慈善団体や支援団体が米国の離脱を批判している。米自由人権協会(ACLU)はツイッターで、「トランプ政権の国連人権理事会からの離脱は、本国での権力乱用と共に我々がすでに知っていることを明確にしただけだ。トランプは最も保護を必要としている人々の基本的人権を侵害する、集団的で攻撃的な活動を主導している」と述べた。


ニューヨークに拠点を置くヒューマン・ライツ・ウォッチも、トランプ大統領の人権政策を「一方的だ」と非難している。
これに対し、イスラエルのベンジャミン・ネタニヤフ首相は米国の決断をいち早く評価し、ツイッターに「イスラエルは、国連人権理事会と名乗る偽善と嘘に対する勇敢な決定について、トランプ大統領、ポンペオ長官、そしてヘイリー国連大使に感謝する」とつづった。


友好国にさらなる打撃 ナダ・タウフィクBBCニュース記者、ニューヨーク

これはトランプ政権による新たな多国間主義の否定だ。米国に世界の人権を守り、促進してもらおうとしていた人々を動揺させているだろう。
米国と国連人権理事会との関係は常に摩擦の連続だった。ブッシュ政権は、2006年の理事会設立時に加入をボイコットした。その理由の多くは、今日のトランプ政権が述べているものと同じだ。
当時の国連大使はジョン・ボルトン米国防長官で、彼もまた強力な国連批判者だった。米国が理事会に加盟したのは2009年、オバマ政権になってからのことだった。
多くの米国の友好国が、理事会に残るよう説得を試みていた。米政権が長い間持ち続けている理事会に対する批判に賛同している国でさえ、米国は離脱ではなく、理事会内からその改革に努めるべきだと信じていた。

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