「DTの正体」という本が書けそうな気がする。DTという全体がようやく彼の行動によって明らかになってきた。DTの思想や行動が、米国の国益を損ね、世界全体に「悪いもの」であることも明確になりつつある。
スターウォーズやゴータマが言うように、「欲望」というものが人を暗黒面に堕ちていくことを体現しているように見える。
少なくとも、DTは賢くなく、政治を面ではなく、点と線でしか考えていないことは明白だ。壊れていく世界、失われる民主主義を眼前に、ABEを首相とするこの国で傍観するしかないのだろうか…。
トランプ外交の正体、
人気取りとビジネスで世界を変えていいのか
米朝首脳会談をきっかけに、東アジアは「非核化」、対話モードで動き出した。その一方で、「イラン核合意離脱」で中東では緊張が高まり、経済でも世界貿易戦争が起こりかねない雲行きだ。
19日には、「反イスラエル的姿勢」などを理由に国連人権理事会からの脱退を表明した。
「変化」を演出すると同時に主役を演じるのは、これまで政治とは無縁だったトランプ米大統領だ。この特異なキャラクターを持つ指導者を動かしているものは何なのか。
トランプ現象の正体は
人気取り政治と取引外交
トランプ大統領の外交政策の多くは、選挙に勝つための「ポピュリズム(大衆迎合政治)」と「ビジネスマンのディール(取引)手法」で説明できる。
前者の「ポピュリズム」は、トランプ氏自身がロシア疑惑で厳しい追及を受けているがゆえに一層強くなる。そこから「米国第一主義」が出てくる。自分が強いアメリカを再現する(Make America Great Again!)のに必要な人間であることを印象づけ、人々の支持を得ようとするわけだ。
こうした動機を実現させる手法は、「ビジネスマンのディール」であり、アメリカの「力の誇示」だ。相手に制裁措置をちらつかせ、要求をふっかける。もしアメリカの要求をのまなければ、それを躊躇なく実行する。相手が妥協してくれば、それで合意を作る。
そこに、目指すべき世界に関して中長期の戦略的構想があるわけではない。あるのは、ゲーム理論の「脅し戦略」のように当面の自己利益を最大化しようとする、庶民にもわかりやすいディールだ。その自己利益最大化は時として露骨な「自己都合主義」となって現れる。
つまりトランプ政権の特徴は、外交では「米国第一主義」、内政では選挙勝利至上主義となって現れるのである。
こうしたトランプ大統領の外交手法は、知的エリートを軸にして展開されてきた従来の共和党・民主党の政策スタンスとは違ったものなので、外交専門家は驚かされて懐疑と混乱に陥る。
それが「トランプ現象」の正体なのだろう。
選挙勝利至上主義が
貿易戦争を引き起こす
トランプ大統領のこうした手法が生まれた背景は、1990年代のクリントン政権にさかのぼる。
それまで米民主党は自動車・鉄鋼など重化学工業の労働者を中心としたニューディール連合を基盤としていたが、共和党が議会多数派になった状況で、クリントン政権はゴア副大統領を軸に「情報スーパーハイウェイ構想」を立ててIT(情報通信)産業を取り入れ、さらにウォール街からゴールドマン・サックス共同会長だったルービン氏を財務長官に迎え入れて金融自由化へと舵を切った。
相手の支持基盤に食い込む戦略である。
そして、ITと金融をバックに各国に規制緩和と自由化を強いる「グローバリゼーション」を展開していった。
しかし、こうした政策は国内産業を空洞化させ、白人貧困層を作り出し、貧富の格差を大きくしていった。その政策の失敗を象徴するのがリーマン・ショックで、金融業にのめり込んでいったGM(ゼネラルモーターズ)の倒産だった。
そこで2016年の大統領選では、民主党内部で、ウォール街から多額の献金を受け取り彼らの利害代弁者と受け止められたヒラリー・クリントン候補に対し、「民主社会主義者」を自称するサンダース候補が彼女に対抗して支持を広げ、民主党の支持基盤で「分断」が露呈した。
昨年の大統領選では、相手の支持基盤に食い込む「逆転」が始まった。
今度は共和党のトランプ陣営が従来の民主党の基盤であったニューディール連合に食い込み、この不満のエネルギーを「米国第一主義」を掲げて吸収する選挙戦を展開した。
その結果、トランプ陣営はラストベルト(ペンシルベニア州・ミシガン州・オハイオ州・ウィスコンシン州などの重化学工業地帯)で勝利し、得票数で負けながら代理人数で上回り辛勝した。
ロシア疑惑を抱えて、今年11月の中間選挙での勝利が至上命令になっているトランプ大統領は、今まで以上にラストベルトの選挙民の代弁者であることを印象づけねばならない。すでに上院の議席数は僅差であり、下院でも敗北する事態になると、次の大統領選も危うくなるからだ。
そこで展開されたのは、中国など、対米貿易赤字を生み出している国への「攻撃」だ。
今年3月に、米東部の「鉄鋼の街」ペンシルベニア州ピッツバーグ郊外にある連邦下院第18選挙区の補欠選挙で共和党候補が敗北し、2002年以来の議席を失ったのが決定打となったようだ。
新たに鉄鋼関税とアルミ関税25%を課す保護関税が打ち出された。この政策を実行したウィルバー・ロス商務長官は世界一の鉄鋼メーカーのアルセロール・ミタルの役員を務めていたが、そのミタルをはじめ米国内の鉄鋼業は、中国の鉄鋼輸出攻勢によってしばしば打撃を被っている。
さらに続いて打ち出されたのが、知的所有権侵害を理由にした1100品目500億ドルに及ぶ中国への「制裁」関税で、とくに産業用ロボットなどハイテク製品を対象としている。
米キニピアック大の世論調査によれば、鉄鋼・関税に対しては反対が5割に達しているが、中国産品への「制裁」関税については52%の支持(反対は36%)を得ている。
ただ相手国も黙っているわけではない。鉄鋼・アルミ関税に対してはEU、カナダ、メキシコが報復関税計画を発表。中国もアメリカに対抗して、農産品や自動車など659品目、計500億ドル相当の米国製品に25%の輸入関税を上乗せする報復措置を発表した。
状況はしだいに貿易戦争の様相を呈してきている。
既成政党の論理では
できなかった北朝鮮との「取引」
トランプ氏の手法は、北朝鮮問題やイラン核合意の離脱でも貫かれている。
エルサレムをイスラエルの首都として大使館を移転させ、イラン核合意から離脱している。それによって、ユダヤ人ロビーおよびキリスト教原理主義者たちの支持を得ようとするとともに、中東地域に緊張を作り出すことで石油価格を上昇させ、アメリカの石油メジャーやシェールオイル業者の利益を誘導していることは明らかだ。
19日に表明した国連人権理事会からの離脱も、親イスラエルを一段と鮮明にし、国際機関や国際協調を軽視するものだ。
人権理事会は5月に、一方的なエルサレムへの首都移転に反発し、パレスチナ自治区のガザで起きたデモ隊とイスラエル軍の衝突に関し、国際調査団の派遣を可決したが、米国はイスラエル擁護で反対した経緯がある。
また6月12日の米朝首脳会談を含むトランプ大統領の北朝鮮対応について、調査会社IPSOSなどが会談翌日に発表した世論調査によると、米国民の51%が支持している。
支持は、トランプ政権の政策が「緊張緩和」で一貫しているからではなく、実益を重視するビジネスマン的なディールにリアリティを感じている層がいるからだろう。
もちろん北朝鮮は独裁国家であり、トランプ大統領も言うことがころころ変わり、さらに最終的に米朝間で平和条約を結ぶにはアメリカ議会の承認を必要とする以上、楽観論は許されない。
また米韓合同軍事演習を中止したのは中国側を利するという声や、CVID(完全かつ検証可能で不可逆的な非核化)が明記されていないという批判も出ている。
だが、むしろこの点にこそ米朝会談の画期的な意義があると言ってよい。
北朝鮮はいまだに朝鮮戦争の最中にあり、戦時体制の軍事国家だ。彼らを「瀬戸際外交」に走らせてきたのも、イラク戦争やリビアで起きた米国による体制の「暴力的破壊」があったからだ。
それに対し今回が違うのは、戦争状態という条件を取り除くことに一歩踏み出したと言えるからだ。その意味は大きい。
こうした戦争状態を終結させようとする交渉姿勢は、冷戦型の思考が残る「ワシントン・ポリティックスの論理」をとる既存の政治家・外交専門家ではできなかっただろう。
彼らが言うように軍事的圧力を強調すればするほど、北朝鮮を追い込んで、戦争リスクを高めることになるからだ。それでは、この軍事的緊張関係を政治的に利用する軍産複合体とナショナリズムの政治が永遠に続くだけで、問題の根本的解決にはつながらない。
そうではなく世論に忠実な「ポピュリズム」であるがゆえに、知的エリートたちが前提としてきた「ワシントン・ポリティックスの論理」を脱することが可能になるのだ。
(社説)米国と人権 大国の原則軽視を憂う
人権を重んじる大国を標榜(ひょうぼう)してきた米国が、自らその看板を下ろす行動を続けている。国際機関でも米社会でも、トランプ政権の人権軽視が甚だしい。
米国が、国連
人権理事会からの脱退を発表した。
国連総会が選ぶ47の理事国が集い、世界の人権を監視している組織だ。
その活動が偏向しているというのが、脱退の理由だという。実際には、米国の友好国
イスラエルへの肩入れのためだ。
米国はこれに反発したわけだが、そもそも
パレスチナの怒りの原因をつくったのは米国だ。国際批判を無視して、在
イスラエル米大使館を
エルサレムに移したことが騒乱を招いた。
中東の安定を顧みない外交で混乱を招きながら、国連の対応が気に入らないとして、
人権理事会から脱退する。そんなトランプ政権の身勝手さは、世界の失望を買うだけでなく、米自身の影響力を衰えさせている。
人権理事会は、
北朝鮮や
シリアなどの人権侵害にも取り組んできた。これらの国の後ろ盾である中国やロシアは、米国批判を強めている。人権を軽んじる強権国が発言力を増す機会を、米国が提供している。
問題の根本は、
トランプ大統領の人権感覚にある。かねて人種や性差別などで不適切な言動を重ねてきたが、今月は移民への対応が論議を呼んでいる。
拘束した移民の親と子どもを当局が引き離す痛ましい状況が伝えられ、与野党を超えて抗議が広がった。政権はやむなく対応を変えたが、
不法移民を例外なく拘束し、訴追する「不寛容政策」は続けるとしている。
移民政策は各国に共通する難題ではあるが、移民大国の米国が多様な包容力を失う意味は深い。今後も続く移民・難民の波と、米国など受け入れ側の摩擦は、国際的な人権水準を守る上で大きな不安要因となろう。
日本にとっても影響は重い。トランプ氏は今月に会った
北朝鮮の
金正恩(キムジョンウン)氏をたたえ、「彼が話す時、国民は直立して聞く。米国民も同じようにしてほしい」と語った。人権問題をただす決意は見えない。
人権理事会脱退について、菅官房長官は「他国の対応にコメントすべきでない」と述べた。だが日本は、理事会の場で拉致問題にも取り組んできたのだ。米国に対し、復帰と建設的な関与を促す責任がある。
「トランプは合理的、
バカと切り捨てられない」
『国体論』著者・白井聡インタビュー
<敗戦を境に天皇を頂点とする日本の統治体制「国体」は、アメリカへの従属にとって代わられた――注目の新書『国体論』の著者が語る戦後日本の矛盾>
アメリカと米同盟諸国との対立が目立ってきている。6月のG7ではその対立が際立っていた。一方、日本は、6月12日の米朝首脳会談で非核化費用の負担ばかり求められ、北朝鮮をめぐる外交において「蚊帳の外」かと騒がれた。
そんななか、『国体論――菊と星条旗』(集英社新書)が注目を集めている。1945 年の敗戦を境に、天皇(菊)を頂点とする日本の統治体制であった「国体」が、アメリカ(星条旗)への従属にとって代わられた、と歴史的に分析。この特殊な従属体制から脱却しなければ、日本は敗戦に続く二度目の破綻に向かうと警告する。著者・白井聡に本誌編集部・深田政彦が話を聞いた。
***
――ドナルド・トランプ大統領は従来の米政権とは異質だ。その点で、戦後史の考察から日米関係を論じた本書の視点は通用しにくいのではないか。
いや、米大統領が誰になろうとも、日本の側は何にも変わらないということが、この間証明された。大統領がどんな人であろうが、何を言おうが、安倍晋三は迎合するだけだ。しかも、必死に媚びを売る安倍の姿が日本国民を憤激させることもない。むしろ、「よくやっている」などと喧伝されている。だから、『国体論』に書いたことは、より一層明白になったと言える。
つまり、トランプ政権の登場によって「戦後の国体」の矛盾は、いよいよ隠せなくなってきている。「戦後の国体」の頂点たるアメリカに、恭順し、媚を売れば売るほど、日本が収奪の対象とみなされていく構図がはっきりしたからだ。
トランプの言動には、「われわれアメリカは公明正大なのに、その善意に同盟諸国は付け込んでいる」といった被害者意識が感じられる。日本のような、アメリカ頼みの同盟国の付け込みを止めさせれば、「アメリカを再び偉大に」できるというわけなのだろう。
「アメリカを再び偉大に」という、このスローガンの元祖はベトナム戦争後の暗い世相を打ち破ったレーガン大統領だと思う。レーガノミクスは製造業復活を唱えながらドル安誘導をせず、「強いドル」を支持。ブードゥー(いんちき)経済と呼ばれるほど矛盾だらけだったのに、レーガンの颯爽とした姿に米国民は「偉大なアメリカの復活」を見て熱狂した。
その後の大統領も皆、「偉大なアメリカ」を演出しようとした。次のジョージ・ブッシュは宿敵ソ連を崩壊に追い込み、湾岸戦争で「世界の警察官」になったが経済運営に失敗。ビル・クリントンは製造業復活を目論見ながらも、レーガン同様の金融資本主義化でしのいだ。ブッシュ・ジュニアはネオコンのイデオロギーに基づいて対テロ戦争にのめり込む一方、金融資本主義化のツケがリーマンショックによって爆発的に露呈してきた。
ここでいよいよ行き詰まりが酷くなり、バラク・オバマが登場した。オバマはインテリで弁舌さわやかな黒人大統領。人種融和という「アメリカの夢」を象徴する存在だった。彼の姿に世界中が「偉大なアメリカの復活」を期待した。しかしながら、何もできなかった。格差は広がり、荒廃している。つまり、歴代大統領が皆「偉大なアメリカ」を演じながら、繰り返し失敗してきたということだ。
そこで、「偉大なアメリカ」をスローガンとして直接打ち出すことで政権を取ったのがトランプだ。アメリカが衰退局面にあるなか、他国よりも自国中心に、という姿勢で、日本に厳しくあたる。
日本では、特にリベラル派に「トランプ当選にがっかりした」との論調がある。だがアメリカはずっと「アメリカ・ファースト」だったし、「偉大なアメリカの復活」というプロジェクトを繰り返してきただけだ。日本がそんな物語を共有する必要はない。米大統領は偉大でなければ、と期待することこそ、日本が「魂の従属」下にある証拠だ。
――本書ではアメリカ流新自由主義に従属する日本を批判しているが、トランプはTPP(環太平洋自由貿易協定)を離脱。他の先進国と対立している。
この間、TPPについて後押しをしてきた日本の「識者」たちのインチキぶりが白日の下にさらされた。彼らは「TPPは自由貿易の推進だから良いものだ」と言っていた。ところがいま、トランプ政権が日米FTA交渉へ日本を引きずり出すべく圧力を高めてくると「これは困ったことだ」と論評している。けれども、FTAだって自由貿易の推進だろう。何の一貫性もない。
つまり、彼らがTPPを支持していた本当の理由は、「自己利益をゴリ押ししてくるアメリカを多国間で抑え込む」ということだったわけだ。それを隠して、「自由貿易=善」という抽象的図式を喧伝することで、アメリカは「慈悲深い天皇」であるかのように演出されてきた。しかし、もうこんな猿芝居も限界だ。
TPPの交渉過程でせり上がってきたことだが、本質的な問題は、非関税障壁という概念の危険性や、大資本の権力のさらなる肥大化であり、それらが自由貿易推進の大義名分のもとで昂進してきたことなのだ。本当はこれらの問題に目が向けられるべきなのだが、対米従属の「戦後の国体」を仕切っている連中は、「トランプは《アメリカ・ファースト》だから大変だ」と言ってオロオロするしか能がない。『国体論』は、こうした「馬鹿につける薬」だ。
――トランプの問題は政策そのものよりも政策決定がいい加減で、選挙アピールばかりなことにあるのでは。
ただ11月の中間選挙で負ければ、政権運営に支障が出る。ここのところの大統領はみな中間選挙で負けてしまい、指導権を失っている。首尾一貫性がなくても、選挙に勝つことを狙うのはある意味で合理的なところがある。
現時点でトランプを無暗に称賛できないが、「バカ」と切り捨てる議論にもくみしない。米朝交渉でも、リビア方式が持論だったジョン・ボルトン大統領補佐官を抑え込んだことに、トランプの強固な意志を感じた。確かにトランプ政権は官僚のポストが大量に空席で片肺飛行なのに、国家は崩壊していない。驚くべき政権だろう。
――駐留米軍撤退論もトランプ独特の持論だ。
トランプが中長期的にどうするつもりなのかよくわからないが、米韓軍事演習を中止すると言っただけで、日本の親米派は「やめないで」と騒ぎだした。朝鮮戦争が終わるくらいなら、再開して日本に核ミサイルが飛んできた方がマシだというのが彼らの本音だということが明らかになった。「異次元の圧力」というのは、そういうことだ。それもこれも対米従属を続けるためであり、この「国体」を維持するためならどんな犠牲もいとわないというわけだ。第二次大戦中の指導者層と全く同じ発想だ。
――米軍基地問題に関して、トランプの撤退論に期待する声もあった。
対米従属を自己目的化した支配体制を取り除かない限り、日本にはそれをチャンスにできる主体性がない。政官財学メディア全てに言えるが、その主流派は従来の対米従属システムを維持することで自分の権益を守るのが行動原理になっている。「原子力ムラ」という言葉があるが、「安保ムラ」はもっと巨大で、政官財学メディアの主要部分全体が安保ムラだと言えるくらいだ。
「アメリカの一の子分」として戦後復興に邁進した時代には、その問題性が表面化しにくかったし、単なる子分でよいというメンタリティーもなかったはずだ。むしろ復興を支えた日本のエートス(社会規範)は、アメリカに従属しながらも「(経済戦争で)今度こそアメリカに勝つ」という、戦前の教育を受けたリーダー層の複雑な感情にあったと思う。アメリカに反発しながらも、自国の繁栄がアメリカのパワーによって保障されているという矛盾や葛藤がそこにはあった。
ところが世代交代でそうしたエートスが失われ、親米スタンスは、日本の支配層の階段を上る単なるパスポートのようなものになった。そして、復興の成功体験があまりに強烈で、何のための従属が分からなくなってしまった。
だから、無条件に従属のための従属をしている。そこには以前のような葛藤がない。葛藤のない人間は成熟せず、幼児化する。
冷戦以降、アメリカが日本を保護する理由がなくなる一方、東アジアは激動の時代に入った。中国の国力の大幅な増進が第一のファクターだが、それに加えて朝鮮戦争の終結が視野に入ってきた。東アジアにおける冷戦構造の残滓の一大要因がなくなる。これが実現すれば、在韓米軍は不要となり、今度は在日米軍の問題に議論は移行するだろう。一方で中国共産党政権は、台湾を版図に治めないと国家が完成しないという神話を持ち、それを長年国民にプロパガンダしてきた。台湾問題は朝鮮半島問題よりも難しい課題だ。
中国の対米投資が9割減、
米中貿易摩擦は戦争へ?
Chinese Investment In US Drops Precipitously From
2017 Amid Trade War Concerns
2018年6月21日:ニューズウィーク
中国の知的財産権侵害に対し500憶ドルの制裁関税を発動する大統領令に署名したトランプ
(3月22日) Jason Lee-REUTERS
<報復関税合戦で2大経済大国間の取引が収縮すれば、世界経済にも悪影響は避けられない>
米中貿易戦争の懸念が高まる中、中国の対米直接投資が激減している。今年5月末までに中国企業が行った工場用地取得や企業買収などの対米投資は、昨年同期比で大幅に落ち込んだ。世界の2大経済大国である米中両国の貿易関係が急激に悪化したことが背景にある、と専門家は指摘する。
データを公表したのは、中国企業の投資動向専門の米調査会社ロジウム・グループだ。その最新の統計によれば、今年1~5月に中国が行った対米投資はわずか18億ドル。前年同期から92%も落ち込んだ、と米CNNMoneyは報じている。半期では過去7年で最低の水準だ。
中国の対米投資が減少に転じたのは2017年。米中双方における規制強化が原因だ、とロジウム・グループは分析する。中国は対外投資を抑制し、アメリカも中国企業よる企業買収への監視を強化した。
中国の対米投資額は、バラク・オバマ前米大統領の任期の最終年だった2016年に460億ドルと史上最高を記録した。
それが2017年には290億ドルに落ち込み、今年は5月末時点でわずか18億ドルにとどまっている。ドナルド・トランプ政権は6月18日にも、2000億ドル分の中国製品に10%の追加関税を課すと発表、中国側も直ちに同額の関税で報復を誓ったばかりだ。その数日前には、500億ドルの中国製品に25%の追加関税をかけるとして、中国も報復に出たばかり。米中の貿易摩擦は激化こそすれ、沈静化する気配はない。
世界経済にも悪影響
「貿易戦争」の始まりは、トランプ政権が3月に中国製の鉄鋼とアルミに追加関税を課し、中国もお返しをしたこと。以来、米中の報復合戦が繰り返されるたび、世界の株式市場は動揺してきた。
貿易をめぐる米中対立は、石油市場からハイテク産業に至るまで、幅広い産業に悪影響を及ぼしている。特に後者への打撃は深刻だ。中国の通信機器大手の中興通訊(ZTE)は、アメリカの部品の輸入禁止などの制裁措置を受け、操業停止に追い込まれた(その後トランプは態度を変え、制裁を緩和する姿勢を見せている)。
4月にホワイトハウスでトランプと会談した米アップルのティム・クックCEOは、貿易戦争が取り返しのつかないほどエスカレートしたり、中国から輸入する部品のコストが上がってiPhoneが値上がりするようなことはないだろう、と楽観的な見方を示した。
「(貿易戦争に)勝者はいない。どちらも負ける」、とクックはCNNの番組で語った。「負けが分かりきっているのだから、米中両国は問題を解決できるはずだ」
(翻訳:河原里香)
【産経抄】
2018年6月27日:産経新聞
「アメリカの魂」とたたえられるオートバイは1903年、中西部ウィスコンシン州の粗末な小屋で誕生した。マシンの名前は、開発者のウィリアム・ハーレーとダビッドソン兄弟に由来する。
▼日本でも広く知られるようになったのは、69年公開の映画「イージー・ライダー」の力が大きい。無頼な男たちがハーレーダビッドソンにまたがり大陸を疾走する姿は、自由の国・米国を象徴していた。
▼その老舗二輪メーカーが、苦渋の決断を下した。売上高の約16%を占める欧州向けの二輪車生産の拠点を米国外に移すというのだ。騒動の発端は、トランプ政権が打ち出した鉄鋼とアルミニウムの輸入制限である。欧州連合(EU)は、ハーレーを対米報復関税の対象とした。米国から欧州に輸出すれば、二輪車1台あたり20万円以上コストが増えることになる。
▼トランプ大統領は早速、ツイッターで怒りをぶちまけた。「白旗を上げた初めての企業になったことに驚いた」「我慢しろ!」。トランプ氏は昨年2月、ホワイトハウスの前に並んだバイクの横でご機嫌だった。創業以来ずっと国内で生産を続けている、とハーレーを称賛した大統領の面目丸つぶれである。
▼東日本大震災の大津波は、おびただしい漂流物を生み出した。宮城県から流失して太平洋を渡り1年後、カナダの海岸に打ち上げられたハーレーのバイクもその一つである。現在はハーレー社の博物館に収められている。
▼EUの報復関税リストには、ハーレーのほか、ジーンズのリーバイスやバーボンウイスキーなども並んでいる。大津波のようなトランプ政権の強引な通商政策がこのまま続けば、海外への漂流を余儀なくされる米国ブランドは、まだまだ増えていきそうだ。
米、国連人権理事会を離脱
「政治的偏向のはきだめ」と
2018年06月20日:BBC
ニッキー・ヘイリー米国連大使は19日、米国が国連人権理事会を離脱したと発表した。同理事会は「政治的偏見のはきだめ」だと批判している。
ヘイリー大使は、「偽善と自己満足」に満ちた組織が「人権を物笑いの種にしている」と述べた。
同大使は昨年にも、「慢性的な反イスラエル的な偏見」があるとして人権理事会を非難し、加盟を見直すとしていた。
ヘイリー国連大使は、マイク・ポンペオ米国務長官と共同記者会見を行った。ポンペオ長官も過去に、人権理事会を「人権の非力な守り手」と評していた。
しかし人権活動家らは、米国の離脱によって世界での人権侵害を監視し対策を取る努力が損なわれると指摘している。
国連のアントニオ・グテレス事務総長は報道官を通じ、米国には理事会に「残って欲しかった」との声明を発表した。
また、ザイド・フセイン人権高等弁務官は米国の離脱について「驚くべきニュースではないが、残念だ。今日の世界の人権の状況を考えれば、米国は後退ではなく前進すべきだ」と話した。
一方、イスラエルは米国の決定を歓迎している。
今回の離脱劇は、トランプ政権が進める米・メキシコ国境を越えた不法移民の親子を引き離す政策が大きな批判を浴びるなかで行われた。
国連人権理事会とは?
国連は2006年に人権理事会を設立したが、人権侵害の疑いのある国にも加盟を許していることで批判を浴びていた。
47カ国が理事国として選出され、3年の任期を務める。理事会は年3回開かれ、普遍的・定期的レビュー(UPR)と呼ばれるプロセスで全国連加盟国の人権に対する取り組みを評価する。
また、人権侵害があったとする報告に対し、独立した専門家を派遣したり委員会を設置することもできる。これまでにシリアや北朝鮮、ブルンジ、ミャンマー、南スーダンに対してこうした措置が取られた。
なぜ米国は離脱したのか
米国は長年、人権理事会を批判してきた末に離脱を決定した。
米国は2006年の理事会創設当時も加入を拒否していた。理事会の前身である人権委員会と同様、人権侵害の疑いのある国にも加盟を許していたためだ。
加入したのはオバマ政権時代の2009年で、2012年に理事国に再選された。
しかし2013年には、中国やロシア、サウジアラビア、アルジェリア、ベトナムといった国々が選ばれ、理事会は人権団体から非難を浴びた。
さらに、理事会から不当な批判を受けたとしてイスラエルがレビューをボイコットしている。
ヘイリー米国連大使は昨年、反政府デモで何十人もの死者が出ているベネズエラに何の措置も取られていない状況でイスラエルに対する非難決議が採択されたことは「受け入れがたい」と述べていた。
イスラエルは理事会で唯一、常設課題とされている国で、パレスチナへの対応が定期的に調査される。
ヘイリー氏は人権理事会への痛烈な批判をした後、「この離脱で我々の人権への貢献が後退することはないことを明言しておく」と話した。
離脱への反応は?
米国の離脱を受け、いくつかの国や外交官が遺憾の意を示した。
人権理事会のボジスラブ・スツ理事長(スロベニア大使)は、理事会は「世界中の人権問題や状況に対応している」唯一の団体だと話した。
「力強く精力的な理事会を維持することが重要だ」
ボリス・ジョンソン英外相は離脱決定を「残念だ」と述べ、改革は必要なものの、理事会は「世界の国々の責任を問うために必要だ」と話した。
また、多くの慈善団体や支援団体が米国の離脱を批判している。米自由人権協会(ACLU)はツイッターで、「トランプ政権の国連人権理事会からの離脱は、本国での権力乱用と共に我々がすでに知っていることを明確にしただけだ。トランプは最も保護を必要としている人々の基本的人権を侵害する、集団的で攻撃的な活動を主導している」と述べた。
ニューヨークに拠点を置くヒューマン・ライツ・ウォッチも、トランプ大統領の人権政策を「一方的だ」と非難している。
これに対し、イスラエルのベンジャミン・ネタニヤフ首相は米国の決断をいち早く評価し、ツイッターに「イスラエルは、国連人権理事会と名乗る偽善と嘘に対する勇敢な決定について、トランプ大統領、ポンペオ長官、そしてヘイリー国連大使に感謝する」とつづった。
友好国にさらなる打撃 ―ナダ・タウフィクBBCニュース記者、ニューヨーク
これはトランプ政権による新たな多国間主義の否定だ。米国に世界の人権を守り、促進してもらおうとしていた人々を動揺させているだろう。
米国と国連人権理事会との関係は常に摩擦の連続だった。ブッシュ政権は、2006年の理事会設立時に加入をボイコットした。その理由の多くは、今日のトランプ政権が述べているものと同じだ。
当時の国連大使はジョン・ボルトン米国防長官で、彼もまた強力な国連批判者だった。米国が理事会に加盟したのは2009年、オバマ政権になってからのことだった。
多くの米国の友好国が、理事会に残るよう説得を試みていた。米政権が長い間持ち続けている理事会に対する批判に賛同している国でさえ、米国は離脱ではなく、理事会内からその改革に努めるべきだと信じていた。