(写真は三井本館)
銀行の建物を立派だと感じたことはないでしょうか。
15時には窓口が閉まるにもかかわらず、豪華な外装の銀行のビルはまだ多数残っています。
なぜ、銀行の建物は見栄えが良いものにしているのでしょうか。
なぜ、銀行の本店は巨大なのでしょうか。
銀行業は儲かるから立派な建物を建てるのでしょうか。立派な建物を建てるから銀行業は儲かるのでしょうか。
今回は、このような素朴な疑問を考察してみましょう。
スポンサーリンク
事例
銀行の建物は日本のみならず、海外でも立派なものが多いといえます。
少し事例を見ておきましょう。
①日本銀行本店
②三菱UFJフィナンシャル・グループ本店
③三井住友銀行(住友本館)
④JPモルガン
⑤ドイツ銀行 本社
⑥その他
ちなみに赤字となっている島根銀行がつい先日完成させた本店が以下となります。
(写真 時事通信)
以上、事例として画像をお示ししました。
各銀行の共通項はどのようなものかお分かりでしょう。
単純です。
立派な、豪華な建物であるということです。
銀行の本質は何か
なぜ、銀行は見栄えの良い建物を使っているのでしょうか。
これは、実際には、銀行というビジネスの本質にかかわる観点なのです。
銀行の機能は様々にありますが、筆者は銀行業が巨大な産業になった要因は「信用創造」を発明したことあるものと考えています。
この信用創造とは、銀行が貸し出しを繰り返すことによって、銀行全体として、最初に受け入れた預金額の何倍もの預金通貨(※)をつくりだすことをいいます。この信用創造機能により銀行は多額の貸出を行うことができ、収益を上げているのです。
(※預金通貨とは、銀行に預けてある流動性の高い預金のことをいいます。 流動性の高い預金とは要求払預金のことで、当座預金、普通預金などがあります。 要求払預金は、預金口座からいつでも引き出せるため、現金と同じ決済機能を有しています。 現金通貨に預金通貨を含めたものを通貨といいます。)
今回の観点において信用創造は大事な概念ですので、全国銀行協会の説明資料から以下引用します。
皆さんが銀行に預けたお金は、どこへ行くのでしょう。そのまま金庫に眠っているわけではありません。
預金は企業や国・地方公共団体へ貸し出されます。もちろん家計へも住宅ローンやクレジットなどの形で貸し出されますし、銀行どうしでも貸し借りをしています。
銀行に預けられたお金はいっせいに引き出されることはないため、預金は必要な分を残して貸出にまわすことができるのです。
預金した人も、貸出を受けた人も、その金額分を使用できることになりますから、世の中のお金は貸し出された分だけ増えることになります。たとえば1 0 0 万円の預金に対し、引出しに備えて1 割残す(支払準備金)とすると、9 0 万円を貸し出すことができます。貸し出された9 0 万円は経済活動で使われて他の人に渡ります。その人が9 0 万円を預金すると、この時点で預金は1 9 0 万円あることになります。預けられた9 0 万円は、さらに1 割を残して貸し出されていきますから、これを繰り返して最終的には1 0 0 万円の預金が1 , 0 0 0 万円の預金となります。
これは経済社会を円滑に機能させる銀行の重要な役割で、銀行の信用創造機能といいます。
①A銀行は100 万円の預金を受け入れる。A銀行は1割を支払準備のために残し、90万円を企業Pに貸し出した。
②企業Pは商品の仕入れ代金90万円を企業Qの取引銀行であるB銀行の口座に振り込んだ。
③B銀行は企業Qの口座に振り込まれてそのまま預金されている90万円の1割を残し、81 万円を企業Rに貸し出した。
④企業Rは81 万円を、企業Sに支払うため、企業Sの取引銀行であるC銀行の口座に振り込んだ。このように、100万円の預金は最終的に1,000 万円の預金を創り出すことになる(支払準備が1割の場合)。https://www.zenginkyo.or.jp/fileadmin/res/education/material/bank_highschool/pdf/dl_sd/05_3rdstage.pdf#page=2
これは「お金がお金を生んでいく」仕組みに他なりません。
但し、銀行の場合は無制限に貸出を増やし、預金通貨を増やせる訳ではありません。
誤解を恐れずにいえば、銀行には自己資本比率規制(流動性規制含む)があり、預金者が銀行に預金の払い出しを求めてきたとしても対応できるだけの手元資金を銀行は準備しておかなければなりません。
すなわち、銀行の金庫には預金額と同じ量の現金がある訳ではありません。
預金者が一斉に預金を引き出さないことを統計的、経験則的に銀行は知っているからです。
これは裏を返せば、預金者はいつでも銀行が自分の預金を現金に替えてくれると信用しているから成り立つのです。
これが銀行のビジネスモデルのポイントであり、銀行の本質は「信用」なのです。
銀行が信用を得るには
では、どのような銀行が信用されて預金を預けてもらえるでしょうか。
どのような銀行だったら預金者から預金を一斉に引き出されないでしょうか。
儲かっていそうなところ、立派に思えるところ、格式高そうなところ、歴史がありそうなところ、そんな銀行だったら、預金者にきちんとお金を返してくれそうではないでしょうか。
銀行には目に見える商品はありません。
銀行が信用されるためには、立派な建物に入り、格式で預金者を圧倒し、
この銀行にお金を預けても安心と思わせる必要があったのです。
筆者は若い頃、銀行の本店・店舗が立派なのは、儲かっているからだと思っていました。その要因は当然にあるでしょう。
しかし、本質は預金者から信用されるためなのです。そして、債務者に対しても雰囲気で圧倒することができます。
銀行が立派な建物を使うのは理にかなっているのです。緻密な戦略の結果といえるでしょう。
しかし、今後は建物では信用を獲得できないかもしれません。
少なくとも銀行取引がネットを中心としたものに移行していくのは間違いないでしょう。
そこで信用を獲得するのは実物(リアル)の建物の立派さではありません。
スマートフォンのアプリの使いやすさだったり、画面の見やすさ、外部サービスとの連携等が銀行の信用を左右することになるでしょう。
Amazon、facebook、Googleも「本社が立派」だからといってユーザーから信用された訳ではありません(AppleにはiPhoneという実物がありましたが)。
銀行の今後の戦略は本店・店舗というリアルのみならず、 一昔前のコーポレート・アイデンティティようなものをネット上でも確立していくということだと思います。
Appleのロゴを見ると様々なイメージが湧くのではないでしょうか。
古いかもしれませんが、SONYのCMにはそのような違いがありました。カッコ良さ・革新性があったのです。
今後、銀行が信用されるには、このような他の要素が必要になってきます。
将来には、銀行の本店・店舗が立派だったことが信じられない時代が来るのかもしれません。