W杯で消費増も長期トレンドには影響なし? ロシアのビール事情
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【7月2日 AFP】サッカーW杯ロシア大会(2018 World Cup)の開幕から2週間ほどがたつ中、ロシア国内のバーやビアガーデン、クラフトビールを出すパブには、世界各国のサッカーファンが大挙して訪れ、熱戦で乾いた喉を潤している。ところがロシア人の間では、ビールは清涼飲料という認識が公式に覆されて以来、ビール消費が長らく低迷している。そして専門家は、W杯に伴う一時的なブームだけでは、業界の復活には至らないと考えている。
世界保健機関(WHO)によると、ロシアの1人あたりのアルコール消費量は世界14位。しかしそれは、ロシア人の暮らしと密接に結びついているウオッカなどのスピリットを含めた数字で、日本の飲料大手キリンホールディングス(Kirin Holdings)の調べでは、ビールに限った順位は32位まで急落するという。
理由としては、ロシアの人たちが2000年代初頭ほどビールを飲まなくなったことや、ビールの販売と広告に制限が課されるようになったことが挙げられる。税率の上昇や、消費者の購買力低下も響いた。しかし最大の転換点は、2011年にビールは清涼飲料ではなく酒類だと正式に認定されたことだった。以来、ロシアでは夜間に、あるいは町のキオスクでビールを大量販売することは禁止されている。
経済危機が猛威を振るう中、2013年以降で国内のビール市場は24パーセント以上も縮小し、調査会社の試算によれば、2023年までにさらに11パーセントが失われる見込みだという。
「2007年から2017年の間に、ビール税はほぼ10倍になりました。加えてこの不況ですから、市場が影響を受けるのも当然です」と話すのは、国内ビール最大手のバルチカ(Baltika)で事業開発上級部長を務めるパベル・エランケビッチ(Pavel Yerankevich)氏だ。同氏は、国内にまん延するアルコール依存症への対策は必要だと認めつつ、国のやり方は極端だったと考えている。
「妥協点を見つける必要があります。一方では、アルコール中毒の減少や、販売に占める強いお酒の割合の削減という適切な目標の達成に向け、行動を起こす必要がある。しかしその一方で、産業の発展を妨げる不自然な障害は取り除かなくてはなりません」
エランケビッチ部長は、W杯が売り上げ増の「原動力」になる可能性はあるが、「今回の需要増は期間限定で、1年を通じた傾向には変化はないでしょう」と話した。モスクワ郊外にビール工場を持つオチャコボ(Ochakovo)社の社長も、バーや家庭でのビール消費はW杯を前にして増加したが、長期的には減少傾向にあると指摘し、「市場がすぐに安定するとは思いません。今後も衰退は続くでしょう」と述べた。