転生者エーリクの栄光   作:タッパ・タッパ

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2016/5/6 「帝国のよう権力の」 → 「帝国のように権力の」 訂正しました
2016/5/18 「態度の保つ」 → 「態度を保つ」 訂正しました


転生者エーリクの栄光

 一面に広がる鈍色の穂先が光を返し、さざ波のように揺れている。

 上へと掲げた穂先の下、長槍を手にする者達はお世辞にも良質とは言えない粗末な鎧に身を包み、その顔はとてもこの後に控える戦いへの闘志を燃やすものではなく、ただ自らの命が繋がる事だけを望むものだった。

 

 一人一人の囁き声や鎧のたてるわずかな音も、それが大勢のものであれば、空気を震わす地鳴りのようにその場にいる者の耳朶を打つ。

 

 そんな騒がしさに負けぬようすこし大きな声で、インギャルド・イエルク・ロキア・クルベルクは自分のすぐ脇に位置する黒馬に騎乗した愛息子、エーリク・スルト・ロキア・クルベルクに声をかけた。

 

「よいか、エーリク。今日はお前の初陣であるが、緊張することは無いぞ」

「はい、父上。大丈夫、落ち着いておりますよ。安心してください」

 

 その若さに反し、落ち着き払った堂々とした声に、インギャルドは満足げに兜の向こうの目を細めた。

 

 彼の自慢の息子、エーリクはその非凡な才能を広く知られている。

 若干16歳ながら、今まで領内に現れた幾多の怪物(モンスター)を退治し、その名をはせてきた。

 

 この息子は必ずや今日の戦で活躍し、そして、その名は王国全土へと広がるだろう。

 

 そんな父の視線を受けながら、エーリクの眼は遥か彼方、丘に陣取った王国軍の向かいに位置する帝国の大軍へと向けられていた。

 

(くくっ。雑魚どもがたくさんいるぜ。今日こそが、俺がこの世界にその名を轟かせる、またとない機会だ)

 

 そう兜の面頬の奥でほくそ笑む彼、エーリク。

 彼の正体は普通の人間ではない。

 

 彼は異世界からの転生者であった。

 

 

 

 ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇

 

 

 

《聞こえますか?》

 

 その声。

 鈴が鳴るようなという表現がぴったりくるほど美しい女性の声。

 それが葉山(はやま)幸助(こうすけ)の耳に届いた。

 

 微かなうめき声をあげて目を開けるが、そこは白一色に包まれた何もない世界だった。

 

 なんだ、こりゃ?

 

 思わず声に出した。いや、出そうとした。

 長年の生活で独り言は癖になっていたのだが、実際には声は出ず、ただそんな意識を発したという感覚だけが残った。

 

《申し訳ありませんが単刀直入に言います。葉山幸助さん。あなたは死亡いたしました》

 

 は?

 

 突然の宣告に間抜けな声しか出なかった。

 

《憶えていませんか? ここで目覚める前の事を》

 

 言われて記憶を探る。

 

 たしか、近所のコンビニに行こうとしたはずだ。缶コーヒーにつくおまけがどうしても欲しくて、家にあった親の財布から千円を抜き、家を出た。そして、床屋のところの大きな通りで、交差点を渡ろうとしたら、トラックがスピードを落とさず右折しようとして……。

 

 おい……。

 俺、死んだのかよ……。

 

《はい。ですが、本来、あなたは死ぬ予定ではありませんでした》

 

 なんだって?

 

《本来、その時トラックが轢き殺すのは野良猫だったはずなのです。たまたま因果律にほころびが生じ、あなたが代わりに轢かれてしまったのです》

 

 なんだそりゃ? じゃあ、俺は死に損かよ。どうしてくれんだよ

 

《申し訳ありませんが、時間を巻き戻すことは出来ません。ですので、お詫びとしてあなたに何らかの才能を与えて、もう一度、この世界に生まれ変わらせようと思います》

 

 生まれ変わりか……。

 まあ、正直腹は立つが、あのまま過ごしても良いことはなさそうだしな……。

 何か特別な才能をくれるっていうなら、それもありか……。

 

 ……いや、待て!

 もしかして、その生まれ変わりって、別の世界に生まれ変わる事は可能か?

 

《別の世界ですか? 可能ですが》

 

 お、おい。じゃあ、例えば中世ファンタジーの世界に生まれ変わるとかは?

 ほら、剣と魔法の世界っていうやつ。

 

《まあ、出来ますが。あまりお勧めはしません》

 

 あん? なんでだ?

 

《あなたが元いた世界、そしてあなたが元いた国はとても安全で幸福なところです。命の危険にさらされることもほとんどなく、飢えることもなく、医療も発達しています。そんなところと比べて、生命の危険と隣り合わせの剣と魔法の世界というのは、明らかに劣悪な世界だと思うのですが……》

 

 何をふざけたことを言ってるんだ?

 幸福?

 あんな世界がか?

 真綿でゆっくりと首を絞め続けられるようなあのゴミみたいな世界が?

 

 俺ははっきり言って落ちこぼれだった。

 運動は駄目、かと言って勉強も駄目。人に誇れるようなものは何もなかった。

 何とか高校は底辺に滑り込んだものの、クラスの馬鹿どもにいじめのターゲットにされ登校拒否。そして、通信制に進むと言いながらも何もせず、親のすねをかじりながら、世間の目に脅かされながら生きる毎日。あんな世界に戻るとかもう御免だった。

 せっかく才能をくれるっていうんだから、ゲームのような世界で面白おかしく暮らしたかった。

 

 おれはそう要望を出したところ、その声は思案気な様子で黙り込み、《ではここなどはどうですか?》という声とともに、俺の脳内に情報が流れ込んできた。

 

 俺の希望通りの剣と魔法の中世ファンタジー世界。そして、何故だかゲームのようなスキルなどが存在し、世界の法則もゲーム準拠なのだそうな。

 

 うん。

 ここがいい。

 この世界でチート性能持ちなら、楽しく生きていけるだろう。

 

 そうして、転生する先を決め、その声がくれると言った才能を確認したのだが――正直、それは大したものではなかった。

 武器ダメージや防御力を数%あげるとか、少しだけ魔法に抵抗しやすくなるとか、そんな程度のものだった。

 

 そんなものしか無いのかよ。もっとチート級の才能とかくれよ。

 

《しかし、あなたの魂総量では、この程度しか……》

 

 なんだ? 魂総量って?

 

 聞くと、人が持つ魂には総量が決められている。そして、その総量によって、付与できる才能の種類が変わるんだとか。

 要するにスキル取得のために使用するスキルポイント、それが俺は少ないって事か。

 

 なんだよ、それ!

 つまり、俺はどこまで行っても、生まれ変わっても、凡人のままって事か?

 なんとかなんないのかよ!

 

《しかし、これ以上だと転生の為の魂まで使ってしまいますし……》

 

 また、知らない言葉が出た。

 なんだよ、転生の為の魂って。

 

 声の語るところによると、魂の総量によって様々な才能を付与するが、その時も転生用の分のリソースは残しておくものらしい。それがあれば、例え死んでも、また別の世界に生まれ変われるのだそうな。

 

《ごくまれですが、来世などいらないという方が、その転生分のリソースを現世での才能に回したりもしますね。あと、それだけでは足りないという方は来世分の前借なども行ったりするらしいですが》

 

 なんだ?

 その来世分の前借って?

 

《厳密にいえば転生した来世ではないのですが、今世を終わった後、前借した魂分、役務を担うという感じですか。魂の役務というのは説明しづらいですが、分かりやすく言うなら、死んだら地獄に落ちて無限の苦しみを受けると思っていただければ》

 

 ふうん。そうか。それをやればチート分の魂は手に入るんだな。

 じゃあ、それで。

 

《!? あなたは何を言っているか分かっているのですか!?》

 

 ああ、分かってるよ。

 生きている間は凄い才能を持てるけど、死んだら地獄に落ちるってんだろ。

 本人である俺がいいって言ってるんだ。

 さっさとやれよ!

 

 

 

 ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇

 

 

 

 そうして、葉山幸助は転生を果たした。

 リ・エスティーゼ王国の貴族インギャルド・イエルク・ロキア・クルベルクの次男、エーリク・スルト・ロキア・クルベルクとして新たな生を受けた。

 

 幸助が死後、地獄に落ちる契約をしてまで手に入れた能力は、〈上位物理無効化Ⅲ〉、〈上位魔法無効化Ⅲ〉、〈毒無効〉、〈危険察知〉、〈魔法習得適正Ⅲ〉、〈白兵習得適正Ⅲ〉、〈賢者の知〉等々……。 

 まさにこの世界においては、圧倒的と言う他はないほどの強力なものだった。

 

 

 その能力を得るための代償が、死んだ後、地獄に行くことだったが、その点も考えてある。

 

 死んだら魂は地獄行き。

 だが、それに対する方法は簡単である。

 

 死ななければいいのだ。

 

 幸助はこの世界に決める際に触れた情報により、この世界の事を理解している。

 様々な種族や魔法の事も。

 

 つまるところ、なんらかの手段で不老不死となればいいのだ。

 魔法の奥義によって寿命を延ばす。はるか長命種のエルフなどにその身を変える。もしくはアンデッドになるなど……。

 

 そのために魔法の習熟に関連した能力をとっておいた。

 これがあれば必ずや、寿命が尽きる前に不老を達成できるだろう。

 

 それに〈上位物理無効化Ⅲ〉、〈上位魔法無効化Ⅲ〉、〈毒無効〉等の防御用のものも保有している。

 この世界の人間及び怪物(モンスター)はおしなべてレベルが低い。強者でも普通は10レベル程度、英雄級でも30レベルほどしかない。

 つまり、エーリクを傷つけられるものはほぼいないと言ってもいい。

 これならば、不老達成までの間に訪れる不慮の事故による死もないだろう。

 

 

 しかし、転生という都合上、最初の数年間はつらかった。

 赤ん坊の為、何も出来ず暇を持て余すことになったのだ。

 だが、立って歩けるようになり、そして文字の読み書きが出来るようになると、瞬く間にその才能は知れ渡った。

 剣を握ってはわずかな鍛錬だけで熟練の戦士並みに操り、魔法に至っては文字を読み始めると同時に簡単な魔法を使用し始めた。

 誰もがその才に驚き、この子供はいずれ歴史に名を残す大人物になるに違いないと噂した。

 

 その期待にたがわず、エーリクはわずか8歳にしてゴブリンを倒し、12歳の時には一人でオーガまで倒して見せた。

 そして16歳となった今では、王国戦士長ガゼフ・ストロノーフに匹敵するのではと囁かれている。

 さらにはすでに第2位階魔法まで使用できることが公言されていた。実際は第4位階魔法まで使用出来たのだが。

 

 

 およそ、エーリクは何でも出来た。むしろ不可能なことを探すことの方が困難なほど。

 彼の周りには常に賛美と嗟嘆(さたん)がついて回った。

 

 かつては誰かに注目されることを恐れていた。良い意味だろうと、悪い意味だろうと。

 だが、天才エーリクとして過ごし、自分の方が他者より圧倒的上位者であると思ったら、それがなんということはないように感じられた。いざとなったら魔法を使っても物理的な力を使ってでも、そして貴族の立場を利用してでも、いかようにでもなると思ったら心に余裕が生まれた。むしろ、誰かの注目を集めたくてしょうがなくなった。

 

 そうして強者の風格を漂わせるようになり、今までよりその感情を抑え、外面を取り繕う術を学んだ。

 以前は、自分の思い通りにならなかったときに感情を爆発させていたが、今では自分の思い通りにならないことの方が少ない。そうしてある程度満たされた環境の中で過ごすうち、心の傲慢さを表向きの面の内に隠す術を身に着けた。

 

 また、女の味も知った。

 端正な外見、生まれは貴族、そして剣も魔法もどちらも才能があるとくれば、女の方が放っておかなかった。かつてのように、歩くだけで嘲り笑われ、嫌がらせをされていた頃とは違う。

 16才の現在において、すでに恋人のようなものが各地に複数いる。

 さすがにまだ片手で数えられるほどではあるが。

 彼女らはいずれエーリクが、正妻とまではいかなくとも、寵姫として召し上げに来る日を夢見ている。もっとも、エーリクにはそんな気はない。あくまでただの遊びでしかなく、面倒なことになる前に始末する気でいる。貴族としての立場と自分の実力をもってすれば、もみ消すことなど簡単なはずと思っていた。

 

 

 それに今のエーリクにはお目当てがいる。

 

 王国第3王女ラナー・ティエール・シャルドルン・ライル・ヴァイセルフ。

 

 黄金と呼び讃えられるほどの美貌の持ち主。

 貴族の会合で王城に来た時に初めて目にした、その美しい姿。

 その瞬間、欲望が膨れ上がるのを感じた。是が非でも自分の物にしたくなった。

 あの女を自分の妻とする。

 それがエーリクの最近の執心事であった。

 

 そのためにも、この戦で大戦果をあげなくてはならない。

 かつてガゼフ・ストロノーフも、この帝国との戦において名をあげたという。

 王国軍が陣形を乱し崩壊しかけたときに、追撃してきた帝国騎士の一団へと突入し、反撃の一矢を放った。そうして国を救ったばかりでなく、当時の帝国4騎士のうち2人を倒すという戦果を挙げ、その実力は周辺諸国すべてに鳴り響いた。

 

 エーリクもまた同じように、味方が劣勢に陥ったときに救いの救世主として颯爽(さっそう)と現れることで、その箔をつけようとしていた。

 

 その為には先ず王国側に劣勢に立ってもらわなくてはならないのだが――彼のいる左翼側、そこを指揮するボウロロープ侯が陣形を動かし、槍衾を作る歩兵たちを後ろに下がらせ、自らの指揮する精兵たちを前へ出そうとしている。

 

 これには顔をゆがめた。

 ボウロロープ侯の配下である精兵団は、ガゼフ率いる戦士団に並ぶと称されるほどの実力を持つ。

 あまり、あれらに活躍されては、自分が功績を得る機会が減ってしまうではないか。

 

 一瞬、胸に浮かんだ身勝手な怒りを、この地に生まれ変わってからの年月で身に着けた鷹揚(おうよう)さで流した。

 

 まあ、別にあれくらいはいいか。

 いかに精兵だと言っても、あくまで普通の人間レベルでの事。そんな連中が働いたとしても、チート性能を持つ自分の活躍には及ぶまい。

 

 それに最近、エーリク自身が属する貴族派閥の力は目に見えて衰えている。

 つい先日、王都であった悪魔ヤルダバオトの侵攻の際、エーリクは遠く離れた自分の領地にいたのだが、貴族たちは屋敷に立てこもって出てこなかったのに対し、王は自らが危険な前線に立ち皆を鼓舞した。

 それによって派閥争いの潮目が変わった。

 王派閥はその発言力を増し、ほんの少し前までは優勢だった貴族派閥は、劣勢に立たされている。

 このままでは、せっかくエーリクが活躍しても、王派閥に勲功をもみ消される可能性もある。その為、少しくらいは貴族派閥に盛り返してもらわなくてはならない。

 

 ここで自分が活躍すれば、落ち目の貴族派閥の中に現れた英雄として、貴族派閥の旗手(きしゅ)ボウロロープ侯はエーリクを担ぎ上げるだろう。

 特に彼が普段から苦々しく思っている王の側近、ガゼフに対抗するように。

 

 その先にあるのは輝かしい名誉と栄光の日々だ。

 

 エーリクとしては、ボウロロープ侯の側近、王国の重鎮で終わる気はない。いずれ自分が王になろうと思っている。

 だが、今のリ・エスティーゼ王国を乗っ取ってしまうというのは旨みが少ない。せっかく自分が王冠を頭にしたのに、現在のように派閥争いに苦慮する羽目になったのでは、何故王になったのかが分からない。

 どうせなら帝国のように権力の全てを牛耳りたい。

 いっそのこと、リ・エスティーゼ王国をつぶして、新しく国を作ってもいいかもしれない。

 その際、自分の隣に並ぶ妻には旧王国の血を引くラナーがふさわしかろう。

 

 その自分の未来予想図に、満足げにうなづいた。

 

 

(さあ、お前ら、せいぜい俺の踏み台になってくれよ)

 

 エーリクは自分の周りにいる騎兵たち、整列している長槍を持った歩兵たち、そして赤茶けた大地をはさんで対峙する帝国騎士たちを眺めた。

 帝国兵の陣地に掲げられているのは、いつもの4つではない、6つの紋章。

 すなわち帝国8軍の内、4分の3にあたる6軍団が集結している。明らかに、伝え聞くところの例年の戦争、両軍ともに形式的に軽く(ほこ)を交える程度の戦闘とは異なる様相を呈していた。

 例の変な名の魔法使いを味方に引き入れたためだと思うが、敵が強ければ強いほど、味方が劣勢になり、自分が活躍する場が増えるというものだ。

 

 エーリクは兜の下で笑みを浮かべた。

 

 

 

 そうしていると、王国の兵士たちのあいだにどよめきが走った。

 なんだろうと思い顔をあげると、向こうに布陣している帝国兵の前に、奇妙な怪物たちが並んだのが兜の隙間から見えた。

  

 周囲の兵士、徴兵された農民である槍兵だけでなく、(きら)びやかな鎧に身を包んだ貴族である騎兵たちですら、その身を恐怖に震わせた。

 

 そんな中、エーリクは身じろぎ一つしなかった。

 

 見るからに邪悪なアンデッド達だが、圧倒的に数が少なすぎる。

 それにどんな相手だろうと、自分の〈上位物理無効化Ⅲ〉、〈上位魔法無効化Ⅲ〉を突破できるはずがなく、自分には命の危険はないと考えたためだ。

 

 身体に走る怖気(おぞけ)を止めることが出来ない周囲の者達は、あんな化け物どもを目の前にしても、怯えるようなそぶり一つ見せず、堂々とした態度を保つエーリクに崇敬(すうけい)の目を向けていた。

 

 

 だが、次の瞬間。

 そんなエーリクの顔が歪んだ。

 

 突然、頭の中に鐘がなるような音が響いたのだ。

 

(な、なんだ? これは?)

 

 急に襲ってきた謎の現象にエーリクが戸惑いの表情を見せる中、眼前の帝国陣地の前で、また新たな動きがあった。

 奇妙な仮面をつけた魔法詠唱者(マジック・キャスター)(おぼ)しき人物が前へと立ったのだ。その脇にはフード付きローブを着た小柄な人物。帝国の鎧を着た騎士もそれに続く。

 

 やがて魔法詠唱者(マジック・キャスター)が腕を一振りすると、彼を中心にドーム状に青白い光を放つ魔方陣が出現した。

 その光景を、その場にいた者達は帝国兵、王国兵の区別なく呆けた様に見つめていた。

 

 

 そんな中、エーリクの頭の中では相変わらず、鐘の音が響いていた。

 

(くそ! なんなんだよ! あいつの魔法か? でも、〈上位魔法無効化Ⅲ〉があるから、効かないはずだろ!)

 

 今、エーリクの頭に響く音の正体。

 それは他のだれによるものではなく、彼自身に原因があった。

 

 彼が転生した時に入手した能力、〈危険察知〉である。

 

 今までこの世界に転生してから、エーリクは危険な目にあったことは無かった。

 保有する〈上位物理無効化Ⅲ〉、〈上位魔法無効化Ⅲ〉、〈毒無効〉などのため、いかなる者であろうとその身を傷つける事など出来ず、彼の活躍を妬んだ者が食物に混ぜた毒ですら、彼の脅威になりえなかった。

 

 その為、転生してから初めて発動した〈危険察知〉による警告が理解できなかったのだ。

 

(ええい。うるさい! 止まれよ! 考えがまとまらない。 やっぱりあの魔法詠唱者(マジック・キャスター)の仕業か? あの魔方陣はいったい何なんだ?)

 

 エーリクは頭を押さえながら、その目を再び、帝国側に立つ魔法詠唱者(マジック・キャスター)に向けた。

 

(? なんだ? 魔方陣が消えたと思ったら、黒い何かがこっちに向かって……)

 

 

 

 ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇

 

 

 

 その日、王国の被害は十数万人に上ったという。

 

 その被害は甚大であり、その後王国は衰退、そして内乱へと進んでいくことになる。

 

 

 エーリク・スルト・ロキア・クルベルクはその時の犠牲者、十数万人の中の1人でしかなかった。

 その名は後世に残ることなく、近親者や彼と親しかった女性の記憶にのみとどめられた。

 

 

 葉山幸助の魂が本当に地獄に落ちたのか?

 それは分からない。

 

 

 だが、戦場に転がるその死体は他の者達と同様、回収され、魔導王アインズ・ウール・ゴウンの手によって、デスナイト作成の素体となった。

 

 そのデスナイトは、その後ナザリックに仕えたが、魔導国と法国との戦闘の際、漆黒聖典の番外席次『絶死絶命』の実力を計るための威力偵察として使われ、彼女の振るう戦鎌(ウォーサイズ)の斬撃をその特性を持って耐えたが、続く石突での一撃を受け、塵一つ残さず消滅したという。

 

 

 

 

 

 




 怯えながら山羊に踏みつぶされるのもいいかと思いましたが、さすがにくどい感じがしたので、最初の時点で即死させました。






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