つれづれイタリア~ノ<117>日本の道路が本当に狭いのか イタリアの例と比較し、自転車と車の共存を考える
日本国内を自転車で走っていると、いつも妙な違和感に襲われます。道路が狭い。私が身長180cmで東京という巨大な都市に住んでいるため、最初は仕方ないと思っていました。だが、東京を出ても道路が狭くて走りづらいという感覚は変わらないです。広いはずの多くの国道も驚くほど道幅が狭く、接触しそうな距離で車と大型トラックに追い越されるたびに、身の危険を感じます。車側から見ても道が走りづらいのに、目の前で遅い自転車があると、きっと苛立つでしょう。なぜ日本の道路を狭く感じるか、気になって、その原因を分析してみました。
欧米諸国は国土が広く山がない神話
「欧米と比べて、日本が狭いから仕方ない」とよく耳にしますが、本当なのかと調べてみました。多くの方は「欧米」という言葉で広い世界を片付けてしまいがちです。確かにアメリカ、ロシア、中国、カナダという広大な国土を持っている国と比べて、日本の国土は狭い。一方、ヨーロッパ諸国と比べると、ドイツとスペインのちょうど間です。国土交通省のデータによると、日本の国土は急峻であり、諸外国と比べて、国土面積に占める可住地割合が小さい。(日本:27.3% 、イギリス:84.6% 、フランス:72.5% 、ドイツ:66.7% )。
非可住地の定義
標高500m以上の山地及び現況の土地利用が森林、湿地等で開発しても居住に不向きな土地利用の地域。可住地の定義非可住地以外の地域。具体的には、標高500m以下で現況が市街地、畑地、水田、草地、果樹園等 (疎林、かん木、まばらな木又はかん木を含む草地、まばらな植生(草、かん木、木)、農地と他の植生の混合)の土地利用の地域。
日本列島の70%以上が、火山地・丘陵を含む山地が占めており、ドイツとフランスと比べて、広い道路が作りやすい平坦な場所が極めて少ない。しかし、自転車王国であるイタリアは日本も類似点がたくさんあります。イタリアも歴史が古く、海に囲まれ、70%以上の国土は山が占めています。主な産業は自動車や自動車部品の輸出関連であるため、自転車を意識した政策は後伸ばしされてきました。
国の面積順リスト(日本外務省のデータによると)
50位:フランス 55.1万平方キロメートル(人口:6690万人)
52位:スペイン 50.5万平方キロメートル(人口:4656万人)
62位:日本 37.8万平方キロメートル(人口:1億2700万人)
63位:ドイツ 35.7万平方キロメートル(人口:8267万人)
72位:イタリア30.1万平方キロメートル(人口6060万人)
でも日本ほど狭苦しい思いはしません。主に二つの政策が関係しています。
・道路幅に関する法整備
・自転車と車の分離政策
1980年代に入り、好景気に沸くイタリアでは交通量が増えすぎて、どこでも慢性的な交通渋滞が発生していました。実はイタリアは自動車王国でもあるため、自動車そのものの売れ行きに悪影響を与えかねないため、1992年に交通法が改定され、大掛かりな道路拡張工事と建設が始まりました。まずは、道路の定義とその幅が見直されました。
イタリアにおける道路の種類と車線の幅
Aタイプ(高速道路、Autostrada)有料道路:3.75m
Bタイプ(自動車専用道路、Superstrada)通行料無料:3.75m
Cタイプ(都市間幹線道路、Strade Extraurbane secondarie) :3.50〜3.75m
Dタイプ(市内幹線道路、Strade urbane di scorrimento):2.75〜3.25m
Eタイプ(都市一般道路、Strade urbane di quartiere):3m
Fタイプ(農村部一般道路、Strade locali):3m
しかし、日本の交通省が定める規定によると、日本の新規建設の道路もさほど変わらないはずです。(日本の高規格幹線道路の車線幅員3.50〜3.75m、小型道路の車線幅員2.75〜3.50m)
何が違うかというと、日本では地権者との交渉が長引くことが多く、新しい道路の建設と拡張工事はなかなか進められません。結果的に日本は慢性的な道路不足です。そして、日本であまり重要されない路側帯を取り入れることです。実はこの路側帯こそ、自転車が安全に走れる鍵となっています。
イタリアにおける路側帯の幅
Cタイプ(都市間幹線道路):1.25〜1.75m
Dタイプ(市内幹線道路):0.50〜1.00m
Eタイプ(都市一般道路):0.50m
Fタイプ(農村部一般道路):0.50m
路側帯の存在で自転車と自動車との距離が広がり、接触の可能性が低くなりました。
交通量の軽減政策
2000年代に入り、健康志向の再認識とリーマンショックの影響で節約志向が高まり、自転車通勤が再評価されはじめ、増える自転車の数と自動車の共存が急務となりました。イタリアが取った政策は、市内にあふれる自動車の流れを食い止めることです。自動車産業を経済の柱とするイタリアにとってはかなり思い切った選択でした。
まずは市内のZTL(一般車侵入規制エリア)が大幅に拡大されました。登録された車両以外は、街の中心に乗り入れることができなくなりました。そして自動車専用道路と大型駐車場の建設。周辺自治体と主要な都市をつなぐ無料の自動車専用道路(最高速度90km)の建設が急ピッチに進められると同時に、街の手前に大型で格安の駐車場の建設が進められました。駐車場と街の中心部をつなぐ公共手段(バス、路面電車)のネットワークを拡充することで、市内の交通量が減り、自転車が安全に走ることができるようになりました。
自動車が激減したことで、自転車専用道路の建設が可能になりました。イタリアはヨーロッパの中でも市内における自転車専用道路の建設が大幅に遅れていましたが、こうやって見える形で増えています。
一方、日本の国土交通省は次のように自転車道路を定義しています。
「歩道・自転車道、歩道は都市部においては単に歩行者のための空間としてだけではなく、都市景観の形成、都市施設の地下埋設、沿道サービス空間としても大きな役割をもっている。歩道、自転車道等の確保にあたっては車道と独立して歩行者空間や自動車空間のネットワークを形成するとともに、歩行者、自転車、自動車の分離を図ることが望ましい。また、高齢者、身体障害者等を含む様々な歩行者の多様な利用形態に対応する必要がある。(後略)」
つまり、縛りがないので、各自治体の努力次第で自転車専用道路が作られることになっています。日本では自転車専用道路に関する本格的な法的整備はいつになって見られるのかな? 国の重い腰に驚かされるばかりです。
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【質問】どれぐらい自転車を使っていますか。
2005年:滅多に:31%、時々:28%、毎日:30%、週末のみ:11%
2011年:滅多に:5%、時々:13%、毎日:81%、週末のみ:1%
リーマン・ブラザーズショック(2009年)の後は、節約の新しい道具として自転車が見直された結果、使用が増えた。
【動画】2018年6月20日現在、東京の道路の様子。搬入や路肩で駐車している車が多く、自転車が3車線のうち、真ん中の車線を走らざるを得ません(Marco Favaro撮影)
東京都在住のサイクリスト。イタリア外務省のサポートの下、イタリアの言語や文化を世界に普及するダンテ・アリギエーリ協会や一般社団法人国際自転車交流協会の理事を務め、サイクルウエアブランド「カペルミュール」のモデルや、欧州プロチームの来日時は通訳も行う。日本国内でのサイクリングイベントも企画している。ウェブサイト「チクリスタインジャッポーネ」