19話 村への帰還
ようやく、村へ向けて旅立てました。
軽く説明回かも。
森の入口にてリグル達と合流した。
中で過ごしたのは、結局五日。
概ね予定通りの日数である。
色々ごたごたがあったが、ともかく目的は達成できた!
欲を言えば、この街での冒険者ギルドっぽい存在である、自由組合にも行って見たかった。
居ないとは思うが、ひょっとしたら"異世界人"がいたかもしれないし・・・。
また、せっかくドワーフの国なのだから、細工物や防具関係なんて物も見学したかったのだが、今となっては仕方ない。
作れる人を仲間に出来たのだ。それで満足すべきだろう!
金貨も20枚稼いだ事だし、収穫はあった。
リグル達と、カイジン達をお互いに紹介しあい、挨拶を交わす。
今後、仲間となるのだ。仲良くやっていって欲しい。
そういえば、ドワーフには差別意識など余り見受けられない。
半妖精族というのもあるだろうが、今後の事を考えても良い事であろう。
さて、旅立つ段になって一つの問題が生じた。
俺を乗せる気満々で尻尾を振って懐いていたランガに、三兄弟の内二人を乗せるように言ったのだ。
ランガは、嬉しそうな表情だったのが一気に無表情になり、ヨロヨロと後ずさり座り込む。
そして、『このボケ共が居なくなったら、問題解決じゃね?』とでも言いたげにドワーフを見つめる。
その、今にも食い殺してやんよ! と言いたげな表情にドワーフ達が怯えていた。
そもそも、最初にランガを見た瞬間、
「「「げぇええーーー!!! 何で…こんな…」」」
などと、大げさに驚いて見せていたけども。
彼らの持ち芸の一つだろうか?
ちょっとよくわからんが、どこかに笑いの壷があるのかもしれない。
「まあ待て、ランガよ! 実はな、俺も黒狼に擬態してみたのだが、その性能を確かめたいのだ。
そういう訳で、ドワーフ二人はお前に任せた!」
という俺の言葉に、シャキーーーン! となり、
「心得ました! 我が主よ!!!」
と、了承したのである。
カイジンと長男のガルムを俺の背中に。
次男のドルドと三男のミルドをランガの背中に。
ランガに二人が乗ったのを確認し、『粘糸』でランガに固定する。
何しろ、時速80kmなんて、バイクも無いこの世界では、ちょっとした恐怖体験だろう。
俺がその速度で走れるかわからないので、そこまでスピードを出す気もないのだが…。
次は、俺だ。
擬態:
俺の擬態が完了した。その姿を見て、
「素晴らしい!!! 流石は我が主!!!」
「ふはは! そうだろうとも! お前もこの姿に進化出来るように、励めよ!」
と、ランガの賞賛に答える俺。
「はは! その期待に応えてみせましょう!」
新たな目標に、ランガの瞳が赤く輝いていた。
そのランガの心に触発され、嵐牙狼達も興奮しているようだった。
皆やる気が出たようだ。実に良い事である。
さて、カイジン達を乗せようと見てみると…
何故だろう? 泡を吹いて気絶していた。
…何やってるんだ? この、
まあいい。
日頃の練習の成果! 俺は、背中から『粘糸』を出す。そして、カイジン達を引っ張りあげた。
成功だ! コツコツと、糸を出して操る練習をしていたのだ。
こうして、気絶したカイジン達を乗せ、俺達は出発した。
余談だが、最初、軽く走ったつもりで100kmオーバーの速度を出してしまった。カイジン達が気絶していたのは僥倖であったと言えるだろう。
多分、最初の加速で気絶していただろうから…
ランガの上のドワーフ二人、ドルドとミルドを見る。
彼らは根性あるのか、大丈夫…では、ないな。あれが噂の、目を開けたまま気絶する! というヤツだろう…
ご愁傷様である。
気絶したドワーフ達を放置し、帰りの道を進む。
多分、気絶してるほうが舌を噛まずに済むだろう。
実際、俺が彼らの立場だったら、起こされてまた恐怖体験は嫌である。
寝てる間に全て終わっててくれたほうが、幸せだ。
まあ、飯時には起こすけども!
やはり、俺は人が悪いのだ(笑)
そう言えば…
「リグルよ! 聞くが、お前、黒狼の召喚に成功したか?」
「いえ、お恥ずかしい話ですが…、未だ成功しておりません…。」
ふむ。
リグルでもまだ成功していない…とは。
他のゴブリン達も悔しそうにしている。同様に、ペアの黒狼達も悔しそうだ。
となると、ゴブタだけ?
「いや、ゴブタのヤツが成功させたみたいでな?」
「なんと! ゴブタよ、本当か?」
「はいっす! 呼んだら、来てくれたっす!」
その言葉に、他のゴブリン&黒狼が闘志に燃えた眼つきをした。
「だが、有り得るな。何しろ、ゴブタはこのドワーフ王国とゴブリン村を、徒歩で往復しているのですから!」
なるほど、そう言えば!
バカだバカだ! とは思っていたが、やる時はやる男なのだな。
まあ、ゴブタはバカだが、無能ではないのだろう。
考えてみれば、往復4ヶ月、食べ物を調達しながらこの距離を歩いて旅をする、なかなか出来る事ではない。
弱いとはいえ、この辺には魔物も出現する事があるのだし…。
俺の中で、ゴブタの評価が何段か上昇した。まあ、すぐに落ちるだろうけどな…!
夜になり、一旦休憩に入る。
俺は全く疲れてはいないのだが、他の者には休憩が必要だ。
皆に休憩を取らせ、俺は能力の確認だ。
迸るほど力が溢れてくる感覚。
軽く地を蹴ると、一瞬で跳躍する。地を駆けると、飛ぶような速度で疾走する。
俺の反応速度と併せると、その性能を容易に引き出す事が可能のようだ。
そもそも、今までの戦いは"水刃"で、スパ! っと敵を斬ってお終いだった。
だから余り意識していなかったが、筋力や瞬発力といった能力も戦いの重要な要素なのである。
その点、この
恐らく、『大賢者』補正があるからだろうけど、俺の擬態した黒狼なら、黒蛇を瞬殺可能である。
特殊能力を使用せずに、だ。
町で受けた説明。
トカゲが"B-"だった。
他の魔物も、『大賢者』のシュミレーションを利用し、おおよそのランクを割り出す。
そのランクで言うなら、黒蛇はAには届かない。
ムカデ10匹には勝てるだろうから、"A-"というところか…。
同様に、俺の操らない
いや、待てよ…、『黒稲妻』という怪しげなスキルがある…
俺の本能が、これはヤバイんじゃね? と訴えかけてくる。
スライムに戻ってから、一度試しに撃ってみる事にしよう。
そして、
ピカッ! ………チュドーーーーーン!!!
ふふふ…。
試し撃ちの的に選んだ、川辺の大岩が砕けて消えた。
無かった事にしよう! 俺は即座に判断する。
そう。
俺は今、何もしていない! たまたま雷が落ちたのだ!
そういう事にしておこう。
このスキルも黒蛇の『毒霧吐息』同様、封印しよう。少なくとも、威力調節出来るようになるまでは!
何より、ゴッソリ魔素を持っていかれてしまった。調節出来ないと、乱発出来ないのだ。
ただし、その威力は言うまでもなく、効果範囲も広大であったが…!
岩のあった場所を中心に、半径20mの範囲が高熱でガラス状になっているのを眺めながら、俺はそう考えた…。
何事か! と駆けて来たリグル達に、
「いやー、目の前に雷が落ちてさ! ビックリしたよ!」
と、誤魔化した。
彼らの休憩を妨げてしまったようだ。悪い事をした。
今後、ヤバそうな実験は、こっそり出来る場所で行わなければならないだろう。
だがまあ、データは取れた。
脳内シュミレート再開である。
あの『黒稲妻』、あれを使用するならば、俺が操らなくても黒狼が10匹の黒蛇に勝てそうだ。
という事は、
Aランクの魔物は、小さな町を壊滅可能なレベル。"災害"指定種である。
今後、町付近での黒狼への擬態は、控えた方が良さそうだ。
こうして、俺の研究は夜が明けるまで続けられた…。
………
……
…
翌朝。
起き出したドワーフ達は、いまだ青ざめた顔をしている。
大丈夫だろうか?
「大丈夫か?」
「あ、ああ…、ここは?」
意識がはっきりするにつれ、周囲が見慣れぬ景色である事に戸惑い始めた。
ゴブリンの村へ向けて旅をしている事を告げると、
「何だと!? 普通、2ヶ月くらい掛かる旅になるぞ! どこかの町を経由して馬車を調達したりしないと、食べ物も足りんぞ!!!」
などと、今更な驚きようである。
何を言って…、そう言い掛けて。
よく考えると、ここまでどうやって来たとか、移動速度など、まったく説明していない事を思い出した。
急ぐ事もない。
そういう訳で、ドワーフ達に俺達の状況を説明する事にした。
リグル達は、朝食の支度をしている。
ゴブリンの料理は、焼く! オンリーなのだ。
今はいい。俺に味覚はないからな!
だが、いずれ味覚を手に入れたら、料理というものを叩きこまねばなるまい。
ゴブリンが文化的な生活に馴染めるのか?
俺は、可能だと考えている。
どうなるかは解らんけど、俺は出来る事全て、試すつもりでいるのだ。
料理で躓かれたら、困るのである!
朝食を摂りながら、今後の予定を話した。
後二日ほどで村に着くと、説明すると、
「「「ありえん…!」」」
納得していなかったけど。
だが、二日で着く=それだけの速さでの移動、という図式に思い至り、頭を抱えて蹲ってしまった。
少し可哀相だが、我慢してもらおう。
安心しろ! 60kmくらいに速度を落としてやるよ!
と、慰めた。嘘だけど!
移動を再開した。
さて、『思念伝達』を使用し、会話出来る環境を整える。
ドワーフ達にも有効なようで、助かった。
『思念伝達』は念話の上位版のようなもので、リンクさせ複数との会話も可能になるのが魅力である。
同時に作戦行動を行う際にも、役立つだろう。最も、有効範囲は1km程度のようである。
二度目であるし、心構え出来ていたのか、気絶する事もなく背中にしがみつくドワーフ達。
風圧で目を開ける事が出来ないようだったので、糸で薄っすらと膜を作ってみた。
案外、上手くいった。
思念で、ある程度操れるようになって来ている。
魔素の操作に慣れれば、ある程度の事は可能なようだ。
適当に、ドワーフ達に常識を教えてもらい、道を進んだ。
ドワーフの話を、ゴブリン達も熱心に聞いている。
そして、自分達の常識とすり合わせ、話は弾んでいる様子。
上手く馴染めたようで一安心だ。この様子なら、村でも上手くやっていけるだろう。
ドワーフも、ゴブリンも、根は同じなのだそうだ。
半妖精で長寿のドワーフ族。
半魔族で短命のゴブリン達。
進化の過程で差がついた。最も、ゴブリンは進化ではなく、退化ではなかろうか?
そのゴブリンが進化した、ホブゴブリンは、言うなれば、ドワーフの魔族版のような存在なのかもしれない。
進化に伴って、寿命も延びているかもしれないし!
まあ、あまり器用そうではないし、魔物と妖精という違いはあるのだけれども…。
同じ半妖精でも、ドワーフは、エルフよりも魔物に近い種族。
だからこそ、慣れれば違和感なく馴染む事が出来そうだった。
ふと思い出したので聞いてみる。
「カイジン、今更だが、良かったのか? お前、ドワーフ王の事、尊敬していたんだろ?」
「ああ、その事か。尊敬していた! ドワーフであの方を尊敬していない者はいない。なんせ、御伽噺の英雄が自分達の王なんだぜ?」
確かに。
寝物語に聞かされる、御伽噺の英雄。
その英雄が生きていて、自分達を支え守る、自分達の王なのだ。言われてみれば、皆が憧れて尊敬するのは、当然だろう。
皆が、王の役に立ちたいと望む。
絶対に正しい事を行い、間違いを許さない。理想の王の姿である。
これを現実で続けるのだとすれば、どれだけ自分を犠牲にしているというのだろう…。
ある意味、恐怖すら覚える。凄まじい精神力だろうから。
だからこそ、皆が王を信じるのか…
俺にそこまでの覚悟はあるか?
流れでゴブリン達の主になった。だが、その先は?
「なあ、カイジン。何で俺についてきたんだ? どう考えても、王様の元に戻るのが正解じゃないか?」
この質問に、カイジンは、
「ガハハハハ! 旦那も案外、繊細なんだな! そんなの、面白そうだからだ!
直感で感じたんだ。コイツは、何かしでかすヤツだ! ってな。理由なんてそんなもので十分だろ?」
そんなもので十分…か。
十分だ。間違いない!
「ふん。後で泣き言、言うなよ? 俺様は、人使いが荒いので有名な男だぜ?」
そう。なんせ、自分では何もしないから。
人に任せて、人に頼って。でも、頼られたら、助けたい。
そうあれるような、自分でありたいと願う。
「知ってるよ!」
返ってきた答えに、俺は満足して頷いた。
二日後、予定通り村に着いた。
俺達は目的を果たし、村に帰りついたのだ!
ステータスに変更無かったので、削除しました。
変更があったら載せる感じにします。