海外コメンタリー

「オープンソース開発に重大危機」--GitHubがEUの著作権法改正に反対する理由 - (page 2)

Scott Fulton III (Special to ZDNet.com) 翻訳校正: 編集部 2018年07月02日 06時30分

 この指令案には数多くの修正案が出されていたにも関わらず法務委員会で可決された現状の指令案では(なかには関係者全員の手に渡らないまま決議もされずに退けられた修正案もあった可能性があると関係者は述べる)、YouTubeやSpotifyのような配信サイトと、GitHubやGitLabのようなソースコードのレポジトリが区別されない可能性がある。そのため、コンテンツフィルタリングの義務化によって、オープンソースソフトウェアの配布や品質を維持するための、世界でもっとも効果的な手段が大打撃を被るのではないかと、多くの組織が恐れている。

「適切かつバランスのとれた」

 「電子商取引指令(E-commerce Directive)」案のなかでコンテンツフィルタリングに関連する部分(第13条第1項)は初期の草案で次のようになっていた。

ユーザーによりアップロードされた大量の作品またはその他の題材を保存し、一般の人々にそれらのコンテンツを提供する情報社会サービス提供者は、権利保有者と協力しながら、権利保有者の作品もしくは他の題材の利用に関して権利保有者と結んだ契約が正しく機能するよう確実を期すための手段、そして、サービス事業者との協力を通じて権利保有者が特定した当該サービス上にある作品もしくは他の題材の利用を防ぐための手段を講じなくてはならない。コンテンツ認識技術の利用などをはじめとするこれらの手段は適切かつバランスのとれたものでなくてはならない。当該サービス提供者はこれらの手段の機能ならびに実装について権利保有者に適切な情報を提供しなくてはならない。また権利保有者の作品やその他の題材の認識および利用について適切な報告を行わなくてはならない。

 ここで問題なのは「情報社会サービス提供者(Information Society Service Provider:ISSP)」という言葉が何を指すかがよくわからないことである。EUの法律ではこれまでこの言葉が非常に広範囲に適用されていた。2002年に発効した法律では、「情報社会サービス(Information Society Service)」について、離れた場所にいる当事者同士の間で資金移動が生じる可能性のあるすべてのサービスと規定されていた。「デジタル」なトランザクションでなくても、電話も対象になり得るのだ。

 これまでは、第三者によるアップロードで著作権侵害が発生しても、ISSPはセーフハーバーの規定で保護されていたため法的責任を問われることはなかった。そしてサービス提供者という言葉で定義される対象の範囲が非常に広いため、どのサービス提供者もこのセーフハーバーの規定によって保護されていると主張することができた。皮肉なのは、セーフハーバーによる保護が実にさまざまな対象に適用されてきたため、逆の対応が求められる法令も同じく広範囲に適用されてしまうことだ。理屈で言えば、GitHubには、ISSPとして、人気の音楽ビデオの証拠を見つけ出すためのコンテンツフィルタと連動するメカニズムとして、著作権者と収益を分け合い、著作権料を支払うためのメカニズムを強制的に実装させられる可能性があるということになる。著作権料受け取りの権利を主張する者などいないサービスだというのに。

 「ソフトウェア開発者がコードという著作権で保護される成果物を生み出すという点、そしてオープンソースライセンス(によるコードの配布)を選んだ開発者はコードが共有されることを望んでいるという点を考え合わせると、アップロードフィルタはソフトウェア開発者にとってとりわけ心配なもの」と、GitHubのAbby Vollmer氏(政策関連の連絡担当者)は3月にブログに記している。

 Vollmer氏の指摘の要点は、オープンソースライセンスと著作権の2つが法的に正反対に位置するものではないというのもの。また実際に、他の開発者に配布の自由を認めるためのツールとして著作権が使われる場合もある。著作物の特定を目的とするフィルタリングの仕組みが、GitHubやGitLab、あるいは他のコードレポジトリで導入されれば、これらのサイト上では確実に著作権のある作品や題材が見つかることになるだろう。だが、そんなことをしても大した役には立たない。オープンソースライセンスでの配布を選択したコードの権利保有者は、自分の選んだ配布方法の正統性を保護するためにコードの著作権を主張しているはずだからだ。

 EU指令の初期のドラフトには「説明のための覚え書き(Explanatory Memorandum)」という書類が付されていた。そのなかには次のような記述がある。「第13条は、ユーザーによりアップロードされた大量の作品またはその他の題材を保存し、一般の人々にこれらのコンテンツを提供する情報社会サービス提供者は、適切かつバランスのとれた手段を通して、権利保有者と結んだ契約が正しく機能するよう確実を期さなくてはならない。また、サービス事業者との協力を通じて権利保有者が特定した当該サービス上にある作品もしくは他の題材の利用を防ぐための手段を講じなくてはならない」。

価値のギャップ

 この指令を支持する人々は、彼らが「価値のギャップ(value gap)」と呼ぶものを支持の理由として挙げている。欧州の情報経済にみられるこのギャップは、サービス提供者がコンテンツの配布を通じて手にする収入と、アーティストや原作者が当該コンテンツから得る売り上げとの差を指す。上述の覚え書きでは、コンテンツを一般に公開するだけでもこの価値のギャップが生まれ、アーティストにマイナスの影響を与えると示唆している。

 指令には含まれなかったものの、この「価値のギャップ」に関する欧州議会の定義が5月後半に公開された。その内容をみると、GitHubや同じカテゴリに分類される他のサービスが例外とされる可能性も残っているように思える。具体的には「オンラインでの小売を主たる活動とし、著作権で保護されたコンテンツへのアクセスを提供しないオンラインマーケットプレイス」として言及されるカテゴリだ。

 「EU指令のアップロードフィルタに関する提案が是正、解決しようとしている『価値のギャップ』の問題は、コードの共有によって発生するものではない」とGitHubのLinksvayer氏は主張している。具体的にいうと、オープンソース経済のなかで売り上げはコードの配布では発生しない。そうしたコードの自由な流通こそが、ソフトウェア開発者がソフトウェアをサポートする機会、そして彼らが収入を得る機会を生み出している。そのことは間違いない。

 「問題の指令(の対象)からソフトウェア開発用プラットフォームを除外するのは実現可能なことであり、また必要なことである」とLinksvayer氏は続けている。「ソフトウェア用のアップロードフィルタは、ソフトウェア開発にとって悲惨な結果を招くものであり、その導入義務づけが決まれば欧州経済の将来にも悪影響が生じることになる」

この記事は海外CBS Interactive発の記事を朝日インタラクティブが日本向けに編集したものです。

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