薄氷を踏む思いでグループリーグを通過し、2大会ぶりに決勝トーナメント進出を決めた日本。次なる対戦相手はタレント軍団のベルギー。昨年11月には親善試合で対戦し、エースのルカクにゴールを決められ、0対1で敗れた相手でもある。現地で取材を続ける河治良幸氏と清水英斗氏は、ベルギー戦のポイントをどう考えているのか? 好評対談の第7弾をお届けします。
河治:グループGは2試合を終えた時点で、1位と2位がベルギーかイングランドになることが決まっていました。そして3試合目でベルギーがイングランドに1対0で勝ち、3連勝で1位通過。グループH2位の日本と戦うことになりました。いざ、ベルギーが相手に決まってどうですか。
清水:ベルギーとは、昨年11月に試合をしているので、イメージは湧きやすいと思います。
河治:ベルギーは当時からはメンバーが少し変わり、グループリーグ3戦目のイングランド戦は、ヤヌザイやバチュアイなど、出場機会の少ない選手が出ていましたね。
清水:イングランドもベルギーもグループリーグ突破を決めていたので、メンバーを代えていました。
河治:途中からコンパニやメルテンスが出場しましたが、フレッシュなメンバーで戦ってイングランドに勝ちました。イングランドも、1位抜けと2位抜けのどちらがいいのか、どちらの山に行けばいいのか、微妙なモチベーションだったようです。
清水:ベルギーの特徴は強力なカウンターです。ボールポゼッションをされるよりも、縦に速いカウンターの方がはるかに怖い。デ・ブライネの強烈なスピードとパスワーク、コンビネーションのうまさ。エデン・アザールの仕掛けなど、どこをとっても怖い。スタイルがはっきりしているチームだと思います。
河治:スペイン人のマルティネス監督は、初期の頃はウィガンなどでボールをつなぐサッカーをしていましたが、プレミアリーグで速いサッカーを覚えて、ベルギー代表ではカウンターだけでなく、ロングボールを入れてセカンドボールを拾って仕掛けるなど、ゴール方向に効率よく運び、タレントが圧力をかけるスタイルを採っています。
「ベルギーは一段上のチーム」(清水)
清水:ベルギーはボールを持ったりもしますけど、それほどボールを保持して運ぶのがうまいチームとは言えませんね。
河治:なぜなら最終ラインが…
清水:最終ラインの能力的に、ポゼッションはあまり得意ではない印象があります。
河治:とはいえ、ルカクやアザール、デ・ブライネ、メルテンスなどタレントがいるので、攻撃の局面でアクセントをつけられるのが、欧州の典型的なパワーチームとは違うところです。日本が昨年の11月に対戦した試合を観ても、ハリルホジッチ前監督はデ・ブライネのところはある種、あきらめていましたよね。
清水:彼が後ろからスピードに乗って出てくるのは、どうしようもなかったというか。
河治:山口蛍と槙野が二段構えで対応してはいましたが、デ・ブライネに行きすぎて他の選手にやられるよりは、他をしっかり抑えて、デ・ブライネに来られたら、その場で対応するしかなかった。
清水:ベルギーは一段上のチームですよね。
河治:ポーランドとベルギーが試合をしたら、結果はどうなるかわかりませんが、日本からすると、ポーランドよりもベルギーの方が厳しい相手であることは間違いないですね。
「キックオフが、21時なのが救い」(河治)
清水:コンディション的にも、グループリーグ3戦目でメンバーをほぼ入れ替えたベルギーの方が良いでしょうからね。試合会場のロストフが暑そうなので、それがどう影響を及ぼすか。
河治:日本がポーランドと試合をした、ヴォルゴグラードと緯度がそれほど変わりません。キックオフが21時というのが、救いかもしれませんが。
清水:日本もポーランド戦で休んだ選手が多かったので、セネガル戦のメンバーに戻すと思いますが、暑い中でセネガル戦のようなアグレッシブなサッカーができるかどうか。そこがポイントだと思います。
河治:セネガル戦のサッカーをそのままやるのは無理かなと思う一方、ポーランド戦には、中盤で相手選手の間に入って、パスを受けてさばける香川がいませんでした。清水さんは以前の対談で、柴崎について「自動車のサスペンション」と言っていましたが、香川のようなトップ下がいないと、柴崎はよりパサーというか、低い位置の司令塔みたいにならざるをえない。
清水:そうですね。
河治:香川がFWと柴崎の間に入って、ボールの中継地点を作れると、攻撃に変化が生まれます。相手のボランチがデ・ブライネとヴィッツェルということで、香川もそう簡単にはパスをつなげないとは思いますが…。イングランド戦でスタメン出場したデンベレとティーレマンスもよかったですが、デ・ブライネとヴィッツェルはさらに上ですからね。ベルギーはデ・ブライネがいてヴィッツェルがいて、その前にメルテンスとエデン・アザールがいて、前線にルカクがいるわけですよ。フェライニはまた違った強さがありますし。
清水: GKもクルトワですからね。高さもあるし、ポーランドのファビアンスキのように、クロスボールをキャッチして止めることができるGKです。
河治:最終ラインはフェルトンゲンとアルデルヴァイレルド。中央がボヤタなのかコンパニなのかはわからないですが。
清水:最高の日本代表をぶつけに行って、どうにかなるか、ならないかというチャレンジをするしかない。
河治:それをやっていいと思います。ベスト8を目指すと言っても、失うものはないですから。
「前からガンガン行くのは得策ではない」(清水)
清水:少なくとも、昨年の11月のような試合はしなそうですね。ポーランド戦のサッカーが良かったなら、何かを変えたかもしれないですけど、うまくはいかなかったので。
河治:ベルギーのフェルトンゲンにしてもアルデルヴァイレルドにしても、ポーランドのセンターバックよりも足は速いです。3バックもオーガナイズされてきているので、昨年11月の対戦と比べても、完成度は上がっていると思うんですよね。タレント揃いなので「個が中心」と言われていますが、バランスは整理されています。ベルギーは3−4−2-1なので、システムの噛み合わせも難しいですね。
清水:W杯アジア最終予選、ホームのオーストラリア戦のように、乾が中間ポジションから出て行くのがわかりやすいですけどね。2トップ系の守備に、もう1枚を後ろから押し出して加わると。乾はそういうゾーン気味の守備がうまいし、ハリルジャパンでも西野ジャパンでもやれている形です。
河治:ただ、ベルギーはそれほど無理にパスを回してこないんですよね。前線にボールを収められるルカクがいるので、前に蹴ってこぼれたボールをデ・ブライネが持ち上がって、エデン・アザールやメルテンスが絡んで勝負する形が特徴的です。
清水:日本は前からガンガン行くのは得策ではなく、セネガル戦のチームを思い出して、行ける時には行く、行けない時には行かないという阿吽の呼吸が必要ですね。
「ベルギーにやりにくさはあるかもしれない」(河治)
河治:日本とベルギーの違いは、日本はスモールでベルギーはラージ。これは体のサイズではなくて、ピッチをどう使って攻撃を組み立てるかという意味です。ベルギーにとっては、日本ほど味方同士が近い距離感で来るチームが、最近の欧州ではほとんど無いので、やりにくさもあるかもしれません。一方で、ベルギーがボールを奪ったときには、日本の選手の距離感が近い分、美味しいスペースがあるかもしれない。
清水:ベルギーも基本的には人を捕まえに行く守備なので、日本はコンビネーションで仕掛けるのは面白いですよね。狭いスペースでやると、効くのではないかと思います。
河治:ベルギーもいわゆる外枠はゾーンだけど、中央部では人への食いつきが速く、1対1の局面で奪い切る強さもあります。
清水:相手に寄せられたときに、香川などがするっとかわすことができれば、穴を突けるのではないかという気はします。
河治:そうしたプレーは、香川もブンデスリーガで慣れていると思います。そこが、欧州の選手にない特徴として、評価されている部分でもありますよね。
清水:香川と柴崎がキーになりますね。
河治:ポーランド戦では、香川と柴崎のホットラインがなかったので、ベルギー相手にどれだけできるか見たいですね。ただし、先程も言ったように、ロストフの暑さがどれほどのものなのか。そこが気になります。
清水:そうですねぇ。1位突破していれば、もっと涼しいモスクワだったけど。まあ、それは言っても仕方がない。
河治:色々言ってきましたが、これもグループリーグを突破したからできる話なわけで、このプレビューも日本がグループリーグで敗退していたら無かったわけですから(笑)
清水:そうですよね。次も期待しましょう。
ベルギー戦後に続く
写真提供:getty images