Marc Jones
[ロンドン 29日 ロイター] - 昨年の金融市場ブームが「ゴルディロックス(適温)」な世界経済によるものだったとすれば、2018年はこれまでのところ、弱気相場に他ならない。世界の株式市場にとっては、2010年以降で最悪のスタートとなっている。
米中貿易摩擦、中銀による金融政策の正常化、欧州などの成長率鈍化といったことがあいまって、世界47カ国で構成されるMSCIオール・カントリー・ワールド・インデックスでは1兆ドル(約110兆円)が吹き飛んだ。
過去3年の上半期でもっとも高水準にあるドル.DXYと、16%上昇した原油価格LCOc1も、特に新興市場に対して痛烈な打撃を与えるのに大きな役割を果たした。
アルゼンチンの通貨ペソARS=は30%、トルコリラTRY=は17%下落。中国株式市場は弱気相場に突入し、 MSCI新興国株指数.MSCIEFは10%、1月の一時的上昇を除けば17%下落した。
「何かが変わったと、人々は気づいた」と、ロンドン・アンド・キャピタルのポー・モリラ・ヒネル最高投資責任者(CIO)は言う。
世界貿易摩擦のエスカレートに加え、「主要中銀はこれ以上、景気を刺激しようとは考えておらず、リセッション(景気後退)にとり得る手段を確保しようとしているとの認識がある」
それでも、凶兆が至るところで見られているわけではない。
米国株の指標の1つであるS&P総合500種指数.SPXはプラス圏を維持。貿易摩擦がダウ平均株価.DJIを下落させてはいるものの、ナスダック総合指数.NDXは今月、最高値を更新した。
これに関連して、「FANG銘柄」と呼ばれるフェイスブック、アマゾン、アップル、ネットフリックス、グーグルも約40%上昇。フェイスブックが約5000万人分の利用者データを不正利用していたことが明らかになった3月に、これら企業の時価総額が総計で4000億ドル吹き飛んだにもかかわらず、だ。
今年、ネットフリックスの株価は2倍以上、アマゾン(AMZN.O)の株価は45%上昇。フェイスブック(FB.O)も完全に回復しており、株価は11%超上昇している。またこの数カ月、中国への圧力が高まっているにもかかわらず、同国の電子商取引大手アリババ(BABA.K)の株価は11%値上がりしている。
<人民元は回避か>
主要通貨の中では、ドルは対ユーロEUR=で約3%、安全通貨とみなされる円JPY= .DXYに対しては2%近く上昇している。
新興市場にとって、ドル上昇は大きな痛手となっている。低迷するリラとペソに加え、ブラジルのレアルは14%、インドのルピーは7%、南アフリカのランドは10%下落。また、原油価格が上昇しているにもかかわらず、ロシアのルーブルも9%下げている。
2017年のスターだったMSCI新興国株指数は8%下落。現地通貨建てとドル建ての新興国債はそれぞれ6%、5%下げている。
だが、もっとも懸念を引き起こしているのは中国だ。
中国株は今週、1月のピークから20%下落し、弱気相場に突入。人民元CNY=CFXS相場も月間ベースで記録的な下げとなった。
中国は工業原材料の最大消費国であり、同国経済の低迷は、銅と亜鉛の価格がそれぞれ9%、15%下落している要因となっている。これら原料はパイプや亜鉛めっき鋼などの製造に使われる。
「もっとも市場を動かす傾向にあるのは中国に関連する問題だ」。こう指摘するのは、ゴールドマン・サックスでプライベート・ウェルス・マネジメントのCIOを務めるシャーミン・モサバー・ラハマニ氏だ。短期的にも長期的にも最大の懸念事項だと同氏は言う。
「米国との摩擦は消えることはない。引いてはまた高まる」と同氏は述べ、中国経済は不均衡で債務残高の水準が非常に高いと付け加えた。
また、2017年に好調だった仮想通貨ビットコインBTC=BTSPも60%下落。過去数カ月にわたり、伝統的に安全とみられている資産でさえ逃避先として機能していない。
2度の米利上げにより、米10年債US10YT=RRは今年3%、独10年債DE10YT=RRと金は共に4%下落している。
一方、イタリア国債はこの四半期で13%下落。反既存勢力による連立政権が樹立したことに加え、欧州中央銀行(ECB)が今年中に国債大量買い入れを終了することを確認したためだ。
今年上半期に堅調だった米国株と日本株とは対照的に、欧州株は約6%下落している。
(翻訳:伊藤典子 編集:下郡美紀)