2018年6月30日16:00、オンラインゲーム『フィギュアヘッズ』のサービスが終了した。
“ストラテジックシューター”という新ジャンルを打ち出し、自機を操作しつつ僚機に指示を出していくユニークなゲーム性が話題になったタイトルだ。2016年3月4日に正式サービスを開始し、約2年2ヶ月で幕を閉じた。
オンラインゲームがサービス終了することは珍しいことではない。これまでも多くのタイトルがサービスを終了してきた。ただ、本作が何よりユニークなのは「ゲームの最後をみんなで見届けよう」という趣旨でオフラインイベントを開催したことだ。
サービス開始前にゲームを盛り上げる意味でオフラインイベントを開催するタイトルは多くある。だが、サービス終了のタイミングで開催されるのは非常に珍しいのでリポートしたい。
イベント内容は大半がトークで構成され、MCの近村望実さん、『フィギュアヘッズ』運営プロデューサーの織田英治氏、『フィギュアヘッズ エース』のアシスタントプロデューサーで前プロデューサーの石川岳氏、ディレクターの熊谷崇宏氏、そして運営スタッフの小澤亮氏が出演。
「フィギュアヘッズの歴史を振り返る」という名のぶっちゃけトーク大会のような様相だった。
その中でもとくに興味深かった点についてトーク内容を紹介していこう(文中では敬称略)。
石川 いろいろありましたよ。立ち上がったのが2013年とかで。
熊谷 「スマホでロボットものを作りたい」という企画書を持っていったら、そのまま続けようかってなったんですけど、このタイミングで企画書を書き直したんですね。
そして気がついたらプラットフォームがPCに変わっていて、“ストラテジックシューター”という単語が生まれていた(笑)。
石川 そもそもふつうのシューターにならないと思ってて、「ふつうのことじゃないことをしたいね」って言ってて。
熊谷 それで、ほぼ初対面で『MechWarrior Online(カスタマイズしたロボットを操作して戦うオンラインゲーム)』の動画をいっしょに見るという(笑)。
第1回のクローズドβテストが2015年7月8日開始なので、企画が生まれてからプレイできるまでは約2年。新ジャンルであるがゆえに、本当にいろいろあったんだなぁと思わせる話だ。
そこから3ヶ月後の10月2日からクローズドβテスト2、先行オープンβテストが年を明けての2016年2月25日、オープンβテストが3月4日。かなり時間をかけて開発・調整されてきたタイトルということがわかる。
そんな数々のテストと調整を経て2016年の3月4日に正式にサービスインとなった。
織田 1年目は激動で、サービス開始直後にすぐにプレイヤーが離れる事態に。チュートリアルが終わっても試合に行かない人が8割くらいいましたね。
石川 わけわかんないし、離脱多いし、バグは多いし……みたいな(笑)。
熊谷 僚機のAIをカスタマイズするというゲームは諦めつつ……それでも現場のスタッフはたいへんでした。ほかにないゲームで手本もないので、時間がない中で開発していきました。
そして迎える2年目。
織田 プレイステーション4版のサービスが始まって、1年目は土台を広げる、2年目は遊びかたの幅を広げるという方針でした。
小澤 モードを増やしたり、新しい武器を追加したりしてましたね。
織田 プレイステーション4版のローンチの後のオフイベで意見書をもらいました。「PvEに寄せていくんですか、対人戦を捨てるんですか」って言われて、そんなつもりはなかったんですが、心苦しくて……。
小澤 チュートリアルが終わって対人戦に行かずに脱落してしまうのを改善したかったのですが、既存のプレイヤーの方には不安にさせたんだなぁって。
石川 そこの真意は伝わりづらいですよね。過疎ってきてマッチングがうまくいかない、新規が入らないという状況で。どうしてもメッセージが伝わらなくて歯がゆかったですね。
本作は多くのコラボレーションを実施してきた。“NO MORE映画泥棒”とのコラボでは、作っているデザイナーも思わず「何だこれ」と言ってしまったそうだ。石川氏によると、このコラボがきっかけで「2足歩行ならなんでもコラボできる」となったという。ちなみに、この後『みんなでスペランカーZ』ともコラボしている。
話題はニコニコ生放送についても波及。おもに生放送中に行なわれたキスの感想戦が行われた。石川氏と小澤氏は番組中2回キスしている。かなり精神的なダメージは大きいらしく、石川氏によると「帰り道を間違えるくらい辛い」とのこと。
東京ゲームショウで実施した大会はとくに印象的だったという。筆者としても、Intelブースで行われた大会の様子は印象に残っている。その後の公式大会などでカメラを担当しているゲーム実況・解説者の“一条さん♪”はこのときが初担当だったそうだ。
その後はプレイヤーからの質問に答えるコーナーに移行した。
熊谷 ジレンマですよね。僚機指示がきっちりできるギリギリ。インターフェースとかを調整することもできたかなぁとは思いますが、ストラテジー部分も大事しないとなので……。
移動速度と爽快感と戦略性はどのゲームも悩むんじゃないかなと思います。
織田 あとIntelさんは離脱してないです。新しいゲームを応援したいってことで声がけをいただいて、もともと3回までの予定でした。離脱されたわけではないですし、Intelさんがいなくなったことがサービス終了の理由ではないです。
この質問もかなり攻めている。ちなみに正式に決まったのは2018年2月頃で、ログイン数の推移はさすがにNGとのことだが、サービスを維持していくためのプレイヤー数の母数を確保するのが困難だったのがサービス終了の理由だという。
どの出演者も思い思いのお気に入りがあるので白熱した質問。織田氏はヨランダ、モリィ、澄香とのこと。レティシアのCVを担当する近村さんの横であえて外してくる織田氏に、石川氏は「あの人は性癖で選んでいる」という鋭いツッコミを入れていた。
織田 いちばん多い質問でしたね。
石川 そりゃそうだよ(笑)。
織田 ただ現時点では(予定は)ないです。やる気はありますが、我々も職人ではなくて会社員なのでやりたい気持ちだけでは作れないんです。ただ時代が変わったり、今回のほとぼりが冷めたタイミングで何かあれば……というところです。
石川 体が闘争を求めている人もいるしね(笑)。
その後、イベント定番のプレゼント大会を終えたところで、いよいよサービス終了が目前に迫る。プレーヤーとしては2年間、クローズドβテストを入れると3年近く遊んできたゲームがついにプレイできなくなってしまうのだ。
石川氏はサーバーの管理者に電話をかけ、サーバーをシャットダウンする最後の確認を行なう。そして参加者全員でカウントダウン、「5・4・3・2・1……ゲームセット!」。この瞬間、『フィギュアヘッズ』のサービスは終了した。
最後に開発者からすべてのプレイヤーへのメッセージ、そして「Thank You For Playing!」というひと言とともにランクス(本作のプレイヤーのこと)の名前が入ったムービーが放映された。
配信には映っていないが、近村さん、織田氏、小澤氏もグッとくる表情をしていたのが印象深い。というか筆者も泣きそうになった。
イベント終了後に、改めてミニインタビューをさせていただいたので、その内容も掲載したい。
――おつかれさまでした。イベントの感想を教えていただけますか。
熊谷 作り始めから運営やってプレイヤーさんと会うのは初めての経験だったので、熱いものとか考えさせられるものがあって、これからのゲーム開発人生に生きてくるだろうなという風に感じました。
本当に大変だったんですけども、ここまで人に伝わるものを運営・開発・プレイヤーのみんなで作れたというのはよかったなと思います。またぜひイベントをやりたいなという気持ちがありますね。
石川 うれしいというと変ですが、プレイヤーのみなさんに集まっていただいて、温かい顔が見れてうれしかったのが大前提で……だからこそこうなってしまったのが本当に悔しいなって思います。
いろんな反省点があったり、判断に失敗したなって思ったこともあるのですが、そういうものをひっくるめて、改めてみなさんの思いとともにつぎへ持っていけたらなと思います。
織田 こうやってオンラインゲームの終了にイベントをやったのは初めてなのですが、やってよかったなっていうのが本当のところです。ゲームを通じて知り合って、リアルで仲よくなって、そこから先の人生で友だちになるということもあると思います。誰かにとって『フィギュアヘッズ』がそういうゲームだったら、このゲームを世に出した価値はあったと思います。
――イベント中の話にもありましたが、改めて『フィギュアヘッズ』の開発・運営を通じて印象に残ってることを教えてください。
織田 じつは本作のウリのひとつの僚機システムについて迷っていた時期がありました。「難しいからなくすべきなんじゃないか、ふつうのハイスピードロボットアクションにすればよいのではないか」という話になったこともあるんです。
ただ、そうしてしまうと、このゲームならではの体験ができないし、このゲームを作ってきた意味がないなと。そこでゲームの方向性を変えずに挑戦する決断をしたのは大きなターニングポイントだったのかなと思います。
熊谷 そうですね。ゲームのスピードは落としたいけど、移動速度は上げたいというジレンマの中で開発は進めていました。
織田 あとは基本ルールが僕たちがおもしろいと思えるところまで2年くらいかかってしまって、それ以外のコンテンツをあまり作れなかった。それが初期の離脱につながってしまった。
熊谷 現場サイドとしてはその調整をとにかくトライし続けていて、とにかくギリギリまでゲームをいじり続けたので、そういう意味では開発の現場スタッフも相当がんばりましたね。議論を続けてドラスティックに直そう、直そうと続けていたので。ギリギリのタイミングで僚機が1体なくなったりとか。
石川 サービス開始1ヶ月前に僚機が1機減ったりとかね。
あとは東京ゲームショウで大会を開催したんですけども、1位と2位の戦いがデッドヒートして本当にギリギリの試合だったんですね。プレイヤーさんにそんなところまで来てもらえると思ってなくて、もうちょっと手前でいなくなっちゃうのかなって思ってたんですけど、その試合を観た瞬間が自分たちの作ったゲームの限界値に来ちゃった、という瞬間で、ジワッと来ましたね。
熊谷 我々の想像の向こう側というか、プレイヤーさんに作ってもらったというところはかなりありますね。
その反面、奥行きがあるので、手前で入ってきちゃった人がわからないまま倒されてしまう状況で。この戦場で戦うにはかなりの学習と練習が必要という形がわかってきて、さらに入り口を整備しないと、入ってきたユーザーさんのほとんどが慣れる前に離脱されてしまうという事態にはなってしまいましたね。
――また改めての質問になって恐縮なのですが、本当に今後の計画などは本当にないんですか?
石川 “いまのところ”予定がないという感じです。
織田 ただ、ご存知のとおり、スクウェア・エニックスは続編とリメイクが大好きなので……(笑)。
熊谷 個人的には“ストラテジックシューター”っていうのはまた作りたいよね、とは思ってます。
石川 商標でも取っときましょうか(笑)。
熊谷 やっぱりシューティングしながら盤面を考えるというゲーム体験は代えがたいと思うので、そこへのアプローチは探っていきたいかな、とは思います。
石川 そもそもストラテジックシューターっていうものを作っているときに、「対戦ゲームで駒が勝手に動くのはない。そんな思いやりはうざいだけだ」っていう葛藤があって、それこそクローズドβテストのときは僚機が勝手に動いていたので、それを一切やめようと割り切った結果、難しいゲームになってしまったっていう。
熊谷 あれをもっと料理して、外側でAIをカスタマイズして、その結果どうだったのかというフィードバックをもとにつぎのプレイに活かす……というゲームサイクルにできればと思ったのですが、技術的に難しい状況だったので、マニュアルに動かす方向で調整していった結果ですね。
反省点も多かったし、違う選択肢を選んでいたら変わったのかも……とは思いますけど、本当にやりきった感がすごいですね。いろんな数字を見ながら、いろんな手を入れていこうというところで、やれるだけは開発一丸となってできたたかなって思います。
――ありがとうございました。
最後に、ひとりのオンラインゲームファンとして思ったことを少し書かせてほしい。
オンラインゲームはいつかはサービスが終了する。それは避けられないことだ。これまでもサービスを終了してしまったタイトルは数多くある。ただ、そっと告知を出し、そっと終了していくタイトルが多い中、あえてオフラインイベントを開催し、運営・開発メンバー、そして何より多くのプレイヤーたちが、オフラインイベントの会場で、配信の向こう側で、ゲームの中で最後の瞬間まで、本作に対する“愛”を発信していくのはすごく珍しいし、感動的な最期の迎えかただった。
さすがにイベント終了後はしんみりとした空気になるのかなと思っていたのだが、不思議と悲しさや寂しさのようなものは感じなかった。ある参加者が帰り際に言ってくれた「これが『フィギュアヘッズ』のコミュニティなんですよ!」という言葉がすごく印象的で、たとえこのイベントがサービス終了を見届けるというイベントでも、全ての参加者が精一杯楽しく、盛り上がる。素晴らしいコミュニティだと感じた。
たしかにゲームがプレイできなくなるのは寂しい。ただ、本作に関わったすべての人の中に、『フィギュアヘッズ』というゲームがあって、そこで過ごした楽しい記憶が消えなければ、決して寂しいことではないのだろう。最後の瞬間まで楽しんでもらおうというという開発・運営からのメッセージが伝わる、非常に粋なイベントだったと思う。
ちなみに本日のイベントの模様は下記のアーカイブから閲覧可能だ。
フィギュアヘッズ ラストイベント ~Underground Festa~
筆者が泣いたエンディングムービーはこちら。