NHKブランドが日本国内において、ニュース分野でも圧倒的な存在感を示している。伝統メディア(TV、ラジオ、プリント)のみならずオンラインメディアにおいてもだ。
前回のブログで紹介したロイターの「Digital News Report」2018年版でも 、日本人回答者2033人に伝統メディアやオンラインメディアでどのニュースブランドに接しているかを問うており、その結果でもNHKブランドが特出していた。ここで言うニュースブランドは、オリジナルのニュースコンテンツを作り出しているニュースパブリッシャーである。オンラインでのアグリゲーターやソーシャルメディアは対象としていない。
日本のニュースユーザーがよく接するニュースブランドが、伝統メディアでは図1のように、オンラインメディアでは図2のようになった。メディア環境が激動した2年間の変化を追うために、2016年と2018年の調査結果を掲載した。
伝統メディアでは、テレビ局ブランド(青色)が上位を占め、その後を新聞ブランド(黄色)が続いている。2年前の2016年には、トップを走っているNHK newsに回答者の57%が週(Weekly)1回、回答者の25%が頻繁(main)に接していた。それが2年後の今年は、週1回程度接する人の割合は変わっていないが、頻繁に(週に3回以上)接する人は44%とほぼ倍増している。NHK newsの人気はともかく高くなっている。
(ソース:Reuters Institute)
図1 伝統メディア(TV、ラジオ、プリント)の人気ニュースブランド。背景の青色がテレビ局ブランド、黄色が新聞ブランド。
オンラインニュースでもNHKブランドがトップに
次にオンラインメディアを見ていこう。今年のロイターの調査は世界37か国のニュースユーザーを対象に同時期に一斉に実施しているが、ニュースブランドの利用調査では日本を含めYahoo! Newsもニュースパブリッシャーとして分類していた。米国などのYahoo! Newsではオリジナルコンテンツの割合が高いためであろう。でも米トラフィック解析会社Parse.lyのようにYahoo! Newsをアグリゲーターとして分類している会社も少なくない。日本のYahoo! Newsもオリジナルコンテンツに注力し増やしてきているが、まだまだアグリゲーターの役割が大きい。そこで、オンランメディアのニュースブランド・ランキングで、図2のようにYahoo! Newsがトップに立っているが、ここではアグリゲーターと見なして外すことにした。
そこでランキングを見直すと、オンラインメディアでも上位にテレビ局ブランド(青色)が占めている。ここでも、この2年間で一段と人気急上昇したNHK news onlineがトップを独走している。オンラインニュースサイトでは新聞ブランド(黄色)が先行していたはずなのに、テレビ局ブランドが上位を占めているとは・・・。動画コンテンツが充実していることや、TVニュース番組と連携することもあるので、テレビ局ブランドがオンラインでも目立ってきているのか。また日経ビジネスや東洋経済のような雑誌ブランドが顔を出してきたのも興味深い。
(ソース:Reuters Institute)
図2 オンラインメディアの人気ニュースブランド。背景の青色がテレビ局ブランド、黄色が新聞ブランド
人気ニュースブランドが頻繁に利用され一段と躍進
図1と図2のロイター調査で興味深かったのは、この2年間の激動のニュースメディア環境において、人気ニュースブランドを頻繁に利用するユーザーが増えていることだ。これは海外でも同様の傾向が見られ、ニュースニーズが確実に増しているのであろう。
そこで、頻繁に利用される、つまり週に3回以上利用されるニュースブランドのランキングに着目してみた。図3に伝統メディアのランキングを、図4にオンラインメディアのランキングを示した。グラフでも示したように、この2年間で、人気ニュースブランドを頻繁に接するユーザー数が急増している。
伝統メディアでは、NHKブランドが2016年の25%から2018年の44%に、TV朝日ブランドが同8%から25%へと躍進している。またオンラインメディアでは、NHKブランドが5%から13%に、日経ブランドが4%から7%へとアップしていた。
(ソース:Reuters Institute)
図3 伝統メディアで頻繁に利用されるニュースブランドは? 世界のトップクラスの発行部数を誇る保守系新聞の読売新聞(856万部)は回答者の10%しか、またリベラル系新聞の朝日新聞(626万部)は回答者の12%しか、頻繁に閲読されていなかった。完全に、TV局ブランドの後塵を拝している。
(ソース:Reuters Institute)
図4 オンラインメディアで頻繁に利用されるニュースブランドは? 新聞の日経ブランドが2位に。twitterフォロワー数ランキングでも、297万人の日経新聞に256万人のNHKニュースが迫ってきている。
公共放送の信頼性を武器にTVニュースの視聴率で圧勝し、オンラインでも優位に
TVニュースでNHKが圧勝していることは疑いの余地がない。ビデオリサーチ社の視聴率(6月11日(月)~6月17日(日)でも、関東地区の報道部門の視聴率ランキングのトップ10は、テレビ朝日の報道ステーションを除いてすべてがNHKブランドであった。NHKニュースおはよう日本・首都圏やNHKニュース7が常連で、約11%~約15%の世帯視聴率を得ている。
伝統メディアでは、NHK以外の民放ブランドもプリントの新聞ブランドよりも多くの人に接触されている。ビデオリサーチのデータを見ても、コメント中心の民放のニュース番組の人気は高く、教育・教養・実用【関東地区】部門で、TBSのサンデーモーニング、日本テレビの真相報道バンキシャ!、テレビ朝日の羽鳥慎一モーニングショーといった番組は10%台の視聴率を得ていたりする。バラエティーなども含む全番組のランキング(例えば「放送研究と調査」)でもニュース番組が数多く上位に食い込んでおり、TVニュースの人気は根強い。
TVニュースが人気が高いのは、なんやかんや言われながらも、信頼されているということか。ロイターの調査でニュースブランドの信頼度ランキングを国別に発表していたが、日本で最も信頼度の高いニュースブランドはNHKとなっており、テレビ局ブランドも上位にランクされている。新聞系は日経と地方紙は高かったが、全国版一般紙の新聞ブランド、特にリベラル系はあまり信頼されていない。
NHKは2~3年前までは、前会長の「政府が右というを左といえぬ」発言もあって、信頼性が揺らいだ時期が続いた。だが最近は、優れたドキュメンタリーを連発し、NHKコンテンツの信頼感がぐんと高まっている。図3と図4のように、オーディエンスのNHKブランドに接する頻度が上昇しているのもそのせいであろう。
予算や人材が潤沢な公共放送だからできる技かもしれない。ヨーロッパの主要国でも、英国のBBCのように公共放送のニュースが大きな役割を果たしてきた。英、独、イタリア、オランダ、スウェーデンなどでは、伝統メディアで人気トップのニュースブランドは、公共放送ブランドとなっている。でも公共のメディアブランドが、伝統メディアだけではなくて新しいオンラインメディアまでも支配する国となると少ない。自由なオンラインメディアでは、公共ブランドが劣勢に立たされれても不思議でない。たとえば ドイツでは、伝統メディアは公共のARDがトップであるが、オンラインメディアでは雑誌ブランドのSpiegelなどが優位に展開している。
でも英国のBBCは、伝統メディアだけではなくてオンラインメディアでも圧倒的に優位に立っている。視聴料を払っている国民から信頼を得るために、絶えず政権から距離を置き独立性を堅持しようと努めている。同じように日本のNHKも、今年のロイターの調査結果によると、伝統メディア(TVニュース)だけではなくてオンラインメディアも支配する勢いを見せている。政治報道に偏りが見られるとの批判もあるが、日本人は権威を信頼する傾向が強いとロイターに言われるように、オンラインニュースもNHKに支配されていくのか。
NHKとしても、 若者のTV離れ伴い、若者のTVニュース離れ対策も打たなければならない。NHKの目玉のNHKニュース7の視聴率(2017年)は、50代男性が8%、50代男性が14%、70歳以上男性が33%と高齢者に支持されているものの、10代~30代男性の視聴率が1%~2%に落ち込んでいる。NHKも若年層にはオンラインで攻めるほかはないのだ。
オンラインニュース利用がTVニュース利用を下回る
モバイル化、ソーシャル化が加速するに伴いオンラインニュース利用が増え続け、一方で、TV離れに伴いTVニュース利用が減っている。グローバルに共通のトレンドと思っていたのだが・・・。ところが国によっては、必ずしもそうではなさそう。
どうも日本ではTVニュースの利用が相対的に多そうだ。ロイターの調査でも、先週接したニュースのソースがどのメディアであったかを問うたところ、65%の回答者がTVメディアと答え、59%のオンラインメディアを上回った(複数回答)。
図5にここ数年の推移を示しているが、目に付くのがオンラインでニュースに接する利用者比率が2013年の85%から今年の59%と下降線を辿っていることだ。この背景については、「日本人のニュースメディア接触、先進国の中で際立つ特異性、ロイター調査が浮き彫りに」で述べたが、スマホ・ソーシャル全盛時代を迎える前まで、日本のオンラインメディアはパソコン主体のヤフーポータルが完全制覇していたことが響いている。スマホ化、ソーシャル化が加速するに伴い、パソコン中心のオンラインメディアの利用比率が下がっていった(利用時間は必ずしも減っていない)。
(ソース:Reuters Institute)
図5 日本人回答者が先週、どのメディアを介してニュース・ソースに接したか?(複数回答)。TVメディアが65%と最も多く、オンラインメディアを上回った。
日本以外の大半の国では、オンラインでニュースソースに接する人の割合が約80%~90%の高レベルに維持させている。ここ数年、ソーシャルメディアを介してニュースソースに接する人が急増しているからだ。ソーシャルメディアを飛躍台にしてニュースパブリッシャーが育っていく環境が、海外ではかなり整備されてきたといえる。
一方で日本は、ソーシャルメディアを介してニュースソースに接する人の割合が21%と、今年のロイター調査の対象国37か国の中でもずば抜けて低かった。その結果としてオンラインでニュースソースに接する人も最も低い59%となっている。低いのに、オンラインによるニュースソースの接し方が特異で、アグリゲーターの利用が極端に多いことだ。Yahoo! Newsやスマートニュース、グノシーなどのアグリゲーターを介してニュースソースに接している人が40%と、今年もロイターの調査でトップを独走している。海外のユーザーのようにコミュニティーを通してニュースに接するよりも、お勧めのニュースを受動的に接するほうを好むということか。
この日本のニュースアグリゲーターの特徴はユーザーの高齢化が顕著なことだ。Yahoo! Newsは言うまでもなく、スマートニュースは50代以上が5割以上を占め(20代以下は11.9%)、グノシーのニュースパスは50代以上が45%(20代以下は9%)となっている。選ばれるニュースも、本来の報道モノよりも、エンターテイメント性の高い情報ものが増えている。アグリゲーターでニュースっぽいコンテンツを楽しむ一方で、真っ当なニュースを受動的だがNHKブランドで抑えておく。高齢者が多数派の日本では、オンラインでもNHKに頼っていくという流れになるのか。
◇参考
・Reuters Institute Digital News Report 2018(Reuters Institute)
・テレビ・ラジオの視聴の現況~2017年6月全国個人視聴率調査から~、放送研究と調査、Sep.2017