“パビリオン”とは「展示会や博覧会などに用いられる仮設の建築物、テント、展示館のこと。日本では1970年の大阪万博で一般化した言葉」だそうだ。今回は、そんなパビリオンを再び万博をきっかけに作りたいという大阪大学医学部4回生、山田達也さん(inochi学生プロジェクト代表)にお話を聞く。
iPS細胞に興味をもって医学部へ
――医学部を目指した理由を教えてください。
山田 高校2年生のとき、通っていた東進で夢作文を書こうというプログラムがあって、ちょうど再生医療、iPS 細胞が新聞に載っていたので、色々調べて書いたら iPS 細胞をやりたいなと思い始めました。
先生に聞いたらそのために医学部に行かないといけないとわかり、関西で1番目指せそうな医学部・・・。厳しかったけど、阪大医学部を置いておいたら受験生になっていて、そのままどうしても行かなければならないっていうジレンマに陥ってしまって・・・。
――それわかります。
山田 結局、現役は前期後期どっちも医学部に出して、現役は落ちたのですが1浪の前期で阪大医学部に合格しました。
突出した成績としては・・・阪大模試で生物が1位でしたね。
――医学部で生物1番っていったらすごいですよね。
山田 医学部って物理選択が多いんですよ 。100人ぐらい受かって大体8割ぐらいが物理選択、2割ぐらいしか生物選択が受からない。
阪大の入試は日本一生物が難しいといわれていて、それは東大に次いで記述が多いかつ、東大より癖のある問題が出てくるからです。元々 iPS 細胞をやりたかっただけあって、生物が得意科目ですね。
inochi学生プロジェクト2018年代表、山田達也さん
inochi学生プロジェクトの活動
山田さんが今1番楽しいことは、ヘルスケア課題解決のための論文を読んだりニュースを見たりしながら考えていくことだという。ヘルスケアの課題解決というのは、山田さんが代表を務めるinochi学生プロジェクト(http://inochi-gakusei.com/2018)の理念でもある。
山田 inochiは理念がふたつありまして、
・“Innovate Innovation”
・“若者の力でヘルスケアの課題を解決する”
と分かれています。Innovate Innovation は、より上位の、僕たちが1番大切にしている概念です。
今までヘルスケアの課題解決はどちらかというと、イノベーションよりも単なるコンビネーションに近く、技術先行で、それをニーズに当てはめようとしてきたと思っています。
そうではなくて課題をちゃんと掘り下げていく、問題から課題に掘り下げるフェーズを経た上で、そこに当てはまる解決するような技術・テクノロジーはなんだろうというのを考えてミックスしていくのがイノベーションだと思うので、今までのイノベーションを刷新するというのも含めてInnovate Innovationという理念にしています。
inochi学生プロジェクトロゴ
もうひとつの軸について、inochiの特徴は
・ヘルスケア
・課題解決
・若者
という3つの要素で成り立っています。
まず医療とヘルスケアは分かれていて、医療は病院の中で行われるもの、医者・医療者がすることならば、僕たちが「糖尿病のために運動しましょう」「体にいいものを食べましょう」とか、「認知症の方が地域で生活できるようにしましょう」というのはヘルスケアの分野です。
より生活に近いヘルスケアの概念を、医療にも当てはめるべきだと思っています。
たとえば、日本の糖尿病の方では予備軍を含めた20%しか適切な糖尿病治療が受けられていないんです。つまり適切に薬が服用できていない。
これだけ医療へのアクセスが近い日本ですし、薬も発展しているのに、その恩恵が受けられない。恩恵が受けられているのはたった20%だと。
だからそもそも病院の中でできる医療っていうのに限界があるんじゃないかと思いました。
「課題を解決する」と書いてありますが、僕たちの団体が他の団体と違うところは、課題解決にすごく注力しているところかなと思っています。
――そこまで考えて理念を設定されているんですね。医学生が集まる普通のサークルとは違うものを感じます。
山田 勉強のためのサークルではないということは押していて、医療研究会とかと違うところは、僕たちは現地に行き、ちゃんと本人の話を聞き、プロダクトを作って解決を図り、最後までやりきるというところです。
「課題を解決する」というのはこだわっているところですね。
inochiの中で万博の事業とヘルスケアの事業に分かれているが、ヘルスケアの事業は、以下のものがある。
・中高生、大学生、大学院生がヘルスケアの事業について数ヶ月討論するプロジェクト(inochi学生フォーラム)
・独自プロダクト(心臓突然死をテーマにVR教材、働く女性のメンタルヘルスをテーマに、認知行動療法に基づいた医療者としての手法を学べるWEBサイト、タイの薬剤に対する取り組み、認知症の服薬管理に対するプロジェクトなど)
毎年11月のinochi学生フォーラム(今までのテーマ:心臓突然死、認知症、自殺)は約400人の卒業生がいる。
また、落合陽一、松井知事など著名人も登壇した。
2018年inochi学生フォーラム
メンバーは阪大だけでなく和歌山県立医科大、京大、各プロジェクトになると東京にもいる。神戸芸術工科大学の学生がプロダクトのデザインをしたり、高校生がチームにジョインしながらアイデアを進めていくなど多様な構成になっている。
大阪万博って、ぶっちゃけどうなん?
山田 inochiのフォーラムの事業案で1位だったのが「学生が万博の企画に入る」というもので、それがWAKAZO(若者万博検討会)のはじまりです。
もし大阪で万博開催となったとき、若者が参加したくなる万博にしたいという思いがありました。僕たちが次の時代を担っていく存在としてやらなければと。
そこで、学生として100の万博で成し遂げたいアイデアを冊子にまとめて、大阪府に提言しました。
大阪万博誘致若者100の提言書(http://inochi-gakusei.com/forum/teigen.pdf)
WAKAZOパビリオン――若者が活躍できる場を作るのが最終目標です。
各国の若者がその国の課題を抽出して、それを若者の声で各国の万博担当(日本なら経済産業省)に提言し、
課題解決→形にするまでができるようになることが理想だと思っています。
世界各国にいるメンバー
――ちなみに、現代において、なぜ万博なのでしょうか?インターネットで世界中のものは見れる時代ですし、これで大阪が盛り上がるの?という疑問もあります。
山田 説明するために『万博の歴史』という本を持ってきました。
~『万博の歴史』より~
- 【万博1.0】未来の技術の提示だった(馬車より早い車など!)。例:パリ万博
- 【万博2.0】モノだけじゃなく物語へ。例:大阪アジア初万博→6000万人集客。発展途上国が先進国入りするきっかけにも!
しかし、この段階では技術の展示にとどまっていた。
現地に行かないと感動が得られないということが次第になくなっていく。
- 万博再興(大阪)、低迷期(大阪後)、2010上海万博は集客は多いもお祭り的要素大。
国際的に万博に力を入れるか?大阪でピークを過ぎたという声も。アメリカは脱退する。
工夫なくプロダクトに頼っているという批判・・・。
これからの万博に求められるのは・・・問いの強度→【万博3.0】
若者がやるからには、たとえば移民問題とか、大人では扱えないようなシリアスな問題を見せるのが強度だ。これを突き付けられるのは大人ではなく若者だという。
メディアの注目度も高い。
山田 ここまでは本に書いてあることですが、僕たちは問いの強度だけではダメで、これを解決までいかなければいけないと思っています。
愛知万博では「環境」という問いを投げかけてはいるけど、答えを出していませんでした。僕たちは、その場で答えが生まれるような環境を作りたいんです。
――たとえばどのような企画を考えていますか?
山田 ケンセルプロジェクト(献血)などですね。iPS細胞って、色々な人の細胞があればあるほど良いんです。
万博に来た人の細胞をストックしておくと、それが未来のインフラになります。
世界中の研究者が「この患者に適用する細胞がほしい」となったとき、日本の万博から生まれたiPS細胞から作られた臓器、というような医療の問題解決ができるのが万博3.0だと思っています。
問いを立て、それを解決するようなアイデアを万博のプラットフォームに組み込んでしまう。どうやって問いを設計するのかっていうのは本には書いてなくて、僕たちが考えなければならない。それがオリジナリティの出しがいがあるところだと思います。
――なるほど。。私は万博1.0の技術の展示のイメージだけで止まっていましたが、もう時代は万博3.0で、課題解決の万博にしたいんですね。
関西のリーダーを輩出したい
――しかし、医学部の勉強と両立大変そうですね。。。
山田 それはそうですね。ただ、医学生の良いところとして、6年間あるので代表がコロコロ変わってしまう問題はなくて代表は2年周期で変わるくらいなのが、他の団体よりも強みではあります。
学生としての成長は、長く続けられるという意味でも他の学生団体よりも大きいかなと思っています。立ち上げてから5年で1期メンバーが今年研修医になったばかりなので、まだ卒業後も両立できている事例はないのですが、その彼も今のところちょいちょい顔を出してくれてはいます。
――山田さんは卒業後も携わるつもりなんでしょうか。普通の医者になりたいというわけではなさそうですね。
山田 そうですね、医者はやりつつ副業もしたいし、研究もアリだと思っています。初期研修後、もしかしたら海外の大学院に行くかもしれないし、医者をやめて会社をおこすかも。
inochiはずっと続けたいですね。万博が成功したら、WAKAZOとinochiは独立させることも考えています。
WAKAZOはinochiの中に入っているからには理念を踏襲していないということはないのですが、
課題解決、若者ではありながらヘルスケアの部類ではないので、若干のコンフリクトはあります。どちらかというと、課題解決というのを上位概念に置いて、その中でヘルスケアがあるからです。
――inochi学生プロジェクトのメンバーがWAKAZOという万博誘致もやっている・・・しかし、両団体の理念のつながりが見えず謎だったのですが、いま漸くわかりました。
WAKAZOが、万博を契機に若者が活躍できる場を作るためにしていることを、詳しく教えてください。
山田 2025年を担うようなリーダーが、関西から生まれるべきだと考えています。
関西から東京に人がどんどん流れていっているのは、東京に企業が多いから半分は仕方ないこともあるけど、やはりもったいない。
WAKAZOを契機に、若者のプラットフォームへと変化していけたらと。
――万博で終わりということではなく、その後も考えていらっしゃるのですね。
山田 2025年にリーダーとなるようなプロセスをWAKAZOで踏み、若者が万博をつくることに対して世の中が価値を置いてくれる仕組みを作れれば、成功だと思っています。
関西の文化として、若者に投資することがCSRになりえるというのが万博、WAKAZOを契機に生まれれば目標が達成できたという思いです。
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山田さんは、高校2年生のときのiPS細胞への関心からはじまり、inochiやWAKAZOでの活動まで、とても一貫性があるように感じられた。
iPS細胞の保険適用がニュースにもなったが、時代的にも医療に追い風があり、関西は今後ヘルスケア産業で押していくとはいわれている。
もし、阪大生で興味がある人がいれば、入ってみてはどうだろうか。また、WAKAZOオンラインから万博賛同者を集めているのでそちらも良かったら賛同くださいとのことだ。
inochi学生プロジェクトホームページ http://inochi-gakusei.com/2018
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WAKAZOホームページ http://wakazo-expo.com/
お問い合わせ:inochigakusei2018@gmail.com