経済産業省が4月に「キャッシュレス・ビジョン」を公表して以降、三菱UFJ、三井住友、みずほの国内三大メガバンクが銀行口座直結のスマホ決済へ、QRコード規格統一に合意し地方銀行にも参加を呼び掛けるなど、モバイル決済への動きが一気に加速している。低金利の長期化と現金扱いのコストにはさまれて収益が低下する銀行業界、レジ精算と現金扱いの作業負担やカード手数料負担が重い小売業界のニーズが合致して国策発動となり、いよいよわが国も中国や北欧のようなキャッシュレス決済に移行するのだろうか。
キャッシュレス化のメリットは絶大
キャッシュレス=モバイル決済とは限らず、専用端末と決済回線を使うクレジットカード(ポストペイ)やデビットカード(リアルタイムペイ)、ICカード(プリペイド)もキャッシュレスで、QRコードなどによるモバイル決済はこれらにつなぐID認証手段にすぎない。AlipayやWeChatPayはオンラインの第三者決済(銀行口座直結の一時預りウォレット)からオフラインに広がったもので、回収リスクがなく中国では手数料率が0.6%に収まっているが、日本国内では既存の決済回線を経由して高コストになる。
スマホ決済でもクレジットカードにひも付けてはコストも手間もわずかしか改善されないが、銀行口座直結引き落とし(デビット)のバンクペイが統一規格になって普及すれば、銀行はもちろん小売業者にも消費者にもメリットが大きい。「J-Debit」(銀行のキャッシュカードがそのまま使える)ではATM稼働時間帯に限定されていた利用時間も24時間365日に広がり、店舗に限られていた利用範囲もネットに広がり、加盟店の手数料負担も軽減されると期待される。
[銀行のメリット]現金扱いと警備の費用、とりわけ負担の大きいATM網の維持管理コストと窓口人件費を削減できる。キャッシュレス化しても残るATMニーズは小売店レジからの「キャッシュアウト」に移行するが、レジ内現金を圧縮したい小売店とキャッシュレス化したい小売店で対応が分かれるだろう。ちなみに2018年4月2日から始まったキャッシュアウトは上限5万円まで、小売店の手数料収入は1万円以下は税抜き100円まで、1万円以上は税抜き200円までの任意。
[消費者のメリット]現金を持ち歩く必要も幾つもの決済アプリをスマホにそろえる必要もなく、決済が速やかでレジ待ちのストレスも相応に軽減され(スマホのアプリ決済はクレカ決済と大差ない手間を要し、FeliCa決済の方が格段に速い)、個人間の送金も手軽になると期待される。
[小売店のメリット]決済が素早くセルフ化も容易になるからレジ作業が減ってレジ待ちも解消され、キャッシュアウトをしなければ現金の管理も警備も不要になる。クレジットカードひも付けを除けば決済手数料も安くなると期待されるが、現行のスマホ決済は大手三社(スクエア/コイニー/楽天スマートペイ)が横並びの3.24%、「J-Debit」決済も都市銀行が2.5%で上限250円〜下限50円、信金が2.0%で上限200円〜下限40円と、0.38〜0.50%の中国銀聯とは格差が大きい。Alipayとて日本国内では取扱額が限られ、回線使用料やアクワイアラーの手数料もあって2.0%前後と高止まりしている。
野村総合研究所が575社に対して行ったアンケート調査(17年12月〜18年1月)ではキャッシュレス決済の手数料率は3〜3.5%に集中して平均は3.09%だったが、テナント出店の多いアパレル小売業ではデベ経由の決済も多く平均3.44%とやや高めで、クレジットカードが総売上げの6割近くを占めることもあって決済手数料負担は売上げの2.2%にも達する(18年6月のSPACメンバーアンケート)。19年10月の消費税増税に的を合わせて国策で1.0%を切らせるという動きもあるが、銀行救済というスタンスなら2.0%止まりではないか。それでも4%前後という従来のクレカ決済に比べれば“2.0%”浮く計算になる。