テクノロジー分野で頂点に位置する企業といえば米グーグルの名が挙がることが多い。検索エンジンで台頭し、自動運転車やスマートフォン(スマホ)、人工知能(AI)など次々と領域を広げてきた。その手段として欠かせないのがM&A(合併・買収)だ。この10年で買収した企業は実に200社近くにのぼる。その中には動画投稿サイト、米ユーチューブのような大当たりもあればハズレも多い。グーグルの「爆買い」の通信簿を検証する。
グーグルは2006年、動画投稿サイトのユーチューブを17億ドルで買収すると発表した。当時、これはグーグルがカリフォルニア州メンロパークのガレージで創業して以来最大の買収案件で、ユーチューブの社員は100人にも満たなかった。
グーグルはそれ以降、財布のひもを大きく緩めている。この10年間で発表したM&Aは200件近くに上る。
このうち買収額が10億ドルを超えたのは、ネット広告大手の米DoubleClick(ダブルクリック、買収額31億ドル、07年)や、カーナビアプリを手がけるイスラエルのWaze(ウェイズ、11億5000万ドル、13年)など6件だ。最近はAIを強力に推進し、「アルファGO」がトップ棋士を破ったことで一躍話題となった英ディープマインド・テクノロジーズ(6億5000万ドル、14年)を取得している。
もっとも、成功もあれば失敗もある。特にハードウエア分野ではその傾向が著しい。
グーグルにとって最大の買収案件である米携帯電話機大手モトローラ・モビリティー・ホールディングス(125億ドル、12年)は結局、14年10月に中国レノボ・グループに売却された。その価格は約29億ドルと買収時の4分の1以下だ。
一方でモトローラに次ぐ大型買収が、あらゆるモノがネットにつながる「IoT」関連のスタートアップ企業、米ネストラボ(32億ドル、14年)だ。17年10月の開発者会議で、スマートスピーカー「グーグルホーム」との連携強化が発表され、これから追い風を受ける可能性がある。
グーグルはハードウエア分野のM&Aの手を緩めたわけではない。17年9月には台湾・宏達国際電子(HTC)のスマホ「ピクセル」事業の一部を11億ドルで買収すると発表した。
グーグルはこれまで、どんな企業にカネをかけてきたのだろうか。CBインサイツはグーグルの大型買収ランキング上位11件のビジュアル年表を作成した。主な内容は次のようにまとめられる。
・グーグルが上位11件の買収に投じた額は260億ドルに達した。
・買収額が最も大きかったのは12年のモトローラ(125億ドル)。
・買収額が最も小さかったのは、メールセキュリティー関連の米Postini(ポスティーニ)とAPI管理プラットフォームの米Apigee(アピジー)で、いずれも6億2500万ドルだった。
・11件のうち買収額が10億ドルを超えたのは6件だった。
・ユーチューブ(17億ドル、06年)は買収額が初めて10億ドルを超えた案件で、今でも4番目に大きい。
・こうした大型買収には、グーグルの戦略の変遷が反映されている。2000年代後半にはデジタル広告(米AdMob〈アドモブ〉やダブルクリック)に注力していたが、10年代に入るとモバイル(モトローラ・モビリティー、アピジー)にシフトした。
■大型買収案件の詳細
グーグルはモトローラの買収で数千件の特許を獲得できるのに加え、モトローラのスマホ生産能力がグーグルのスマホ用OS「アンドロイド」のエコシステム(生態系)確保に役立つと期待していた。
ネストラボの買収で、グーグルはIoT分野への参入を果たした。スマート温度コントロール(サーモスタット)や煙探知機のメーカーを取得したことで、グーグルは家庭向け事業に加え、アンドロイドのエコシステムを拡充する機会を手に入れた。
ダブルクリックの買収額はグーグルとしては当時最大。買収の目的はグーグルの既存の広告システムを補うためだったが、グーグルはこれにより収益性の高いディスプレー広告業界に足がかりを築き、広告媒体サイトと広告代理店などがディスプレー広告をリアルタイムで売買できるプラットフォーム「アドエクスチェンジ」を通じ、自動で広告を配信する運用型広告を推進できた。
ユーチューブの買収により、グーグルはテレビなどの既存メディアからネットでの視聴へのシフトを先取りすることができた。ユーチューブはその後トラフィック量を増やし、広告事業を成長させた。
ウェイズ(11億5000万ドル、13年)の交通データは、予測所要時間や提案経路の精度を向上させるなど、「グーグルマップ」の機能改善に寄与した。
HTCの「ピクセル」部門の取得は、グーグルによる最近のハードウエア事業の買収例だ。生産施設は含まれていないものの、HTCのスマホチームの相当数をグーグルに移籍させ、米アップルのiPhoneとの競争を重視していることを示した。
06年に創業したアドモブ(7億5000万ドル、09年)を買収したのは、モバイル広告が広く普及すると見越してのことだ。
航空関連ソフトの米ITA Software(ITAソフトウエア、7億ドル、11年)を買収したのは、グーグルの検索機能を拡充し、フライト検索エンジン「グーグル・フライト」に組み込むためだった。
ディープマインドはグーグルのディープラーニング(深層学習)分野における最も重要な買収だ。ディープマインドは10年にロンドンで設立された企業で、買収当時の社員数は100人未満だった。
メールセキュリティー関連の米ポスティーニ(6億2500万ドル、07年)を買収したのは、アプリのセキュリティー強化が狙いだった。グーグルは既にGメールの迷惑メールフィルタリング機能でポスティーニのサービスを使っていた。
カリフォルニア州に拠点を置くアピジー(6億2500万ドル、16年)は、グーグルの法人向けサービスを拡充し、クラウドサービスを向上させるために買収された。