村上世彰氏の娘、絢さんに聞くNPO支援の理由

「お金が循環する社会になれば、日本はもっと良くなる」

2018年7月2日(月)

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6月21日、東京・千代田区にあるグロービス経営大学院の教室。児童虐待ストップを訴えるNPO代表者らの記者会見の壇上に、一人の女性の姿があった。村上絢さん。村上ファンドを率いる投資家・村上世彰氏の長女であり、自身もシンガポールを拠点に株式や不動産売買などを手掛ける投資家だ。2015年、父・村上氏が手掛ける株取引に絡む強制調査では、絢さん自身も調査の対象になった(2018年5月に告発見送りの決定が下された)。そんな彼女は日本の非営利組織の活動を資金面で支援する村上財団の代表理事という顔も持つ。2人の子どもの母でもある絢さんに、非営利組織を支援する理由と思いを聞いた。

(聞き手は日経ビジネス副編集長村上富美)

今すぐ動くべき問題に村上財団として、必要な活動資金を支援する

今回、このキャンペーン「なくそう!子どもの虐待プロジェクト2018」に村上財団として支援を決めた理由は?

慶應義塾大学法学部政治学科卒業。モルガンスタンレー証券会社債券部に勤務。その後、投資家として活動する傍ら、株式投資を通じて日本の上場企業におけるコーポレートガバナンスの必要性、徹底を訴える。高校時代はスイスに留学。海外の社会貢献活動の在り方にも影響を受ける。NPO法人チャリティ・プラットフォーム代表。村上財団の代表理事。

村上財団理事長・村上絢さん(以下、村上さん):児童虐待の問題への対応や解決が、一刻も早くなされるべきだと考えたからです。基本的には、行政が動き、予算を確保して対策をとるべきだと思いますが、それには時間がかかります。けれど、今、この瞬間にも救いを求める子どもたちがいることを考えると、時間の余裕はありません。村上財団はファミリー財団であり、寄付や支援の決定を早急に下すことができます。こうした財団としての強みを活かし、対応を急ぐべき問題、行政が対応しきれない社会問題について、機動的に支援していきたいと考えています。

投資家である村上さんが、日本の非営利団体の支援をするのはなぜですか?

村上さん:そもそも日本社会全体の中で、お金が循環していないことが問題だと思っています。経済活動でもそうですが、お金は世の中を循環してこそ意義があると思うのです。私は投資家としての活動の中でも、例えば株式投資の場合、必要以上に内部留保が多い会社に対しては、設備投資など将来の事業のための投資に使う、中期的に有効な投資が見つからない場合には株主へ還元するなど、資金をため込まずに使うように求めています。ですが、日本の企業も家計も資金を必要以上にため込む傾向があり、資金が必要な非営利セクターには、資金が流れていっていない。日本全体におけるお金の循環を考えたときに、日本の上場企業が抱える問題を解決するだけでは足りず、非営利セクターにもきちんと必要な資金が流れていくことがとても重要だと思うようになりました。その結果、日本における非営利活動のあり方や支援の仕方について問題意識を持ち始めました。社会の隅々まで資金が流れてこそ、日本経済の持続的な成長につながると思っているからです。

非営利セクターにお金が回っていないと。それは、非営利団体の活動にも影響を及ぼしているとお考えですか?

村上さん:はい。日本では欧米に比べ寄付文化が根付いておらず、非営利団体の活動に資金が流れにくい状況があります。まず、個人からの寄付が少なく、ファミリー財団の数も少ない。欧米の場合には、例えばNPO・NGOと民間セクターや行政の連携が積極的に図られています。例えば、ソーシャル・インパクト・ボンド(行政が非営利団体などに社会的事業を担ってもらい、その資金を行政が民間から調達。事業の進み具合に応じて、行政が資金提供者に返済・利子の支払いなどを行う仕組み)の活用もどんどん増えています。2010年にイギリスで開始し、これまでに2億ドル以上の資金が調達されたと聞いています。一方で日本では、昨年初めての事例が生まれたばかり。

 このように資金が流れにくいという事情もあり、多くのNPOは行政からの委託事業を行って活動資金を確保していますが、それも決して多くはない。私は日本における非営利団体がより多くの寄付金を継続的に集めるためにも、ソーシャル・インパクト・ボンドのような資金の流れる仕組みを定着・拡大させていくためにも、非営利団体が創出する社会的価値をきちんと数値で公に示すことが重要だと考えています。そしてそれによっていろいろな仕組みを活用し、もっと個人を中心に寄付を増やしていくことで、非営利団体の数も活動の幅ももっと広げていけると思います。

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「村上世彰氏の娘、絢さんに聞くNPO支援の理由」の著者

村上 富美

村上 富美(むらかみ・ふみ)

日経ビジネス副編集長

日経ビジネス編集委員を務めた後、リアルシンプル日本版副編集長、日経ヘルス・プルミエ編集長、エコマム編集長など女性向けの雑誌づくりを経験。2017年4月から日経ビジネスに副編集長として復帰。

※このプロフィールは、著者が日経ビジネスオンラインに記事を最後に執筆した時点のものです。

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