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ストーカー被害という究極の理不尽、進まぬ加害者の精神科受診

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『午後には陽のあたる場所』扶桑社

 女優の菊池桃子さん(50)が再びストーカー被害の憂き目に遭った。菊池桃子さんの自宅に押し掛けるなどの付きまとい行為をはたらいたとして、警視庁池袋署は624日、ストーカー規制法違反の容疑で56歳の男を逮捕した。男は元タクシー運転手であり、菊池桃子さんを偶然タクシーに乗せたことがきっかけで自宅を知り、昨年秋以降、複数回自宅に押し掛けていた。

 男は今年3月にもストーカー規制法違反で現行犯逮捕され、4月に罰金30万円の略式命令を受けて釈放されたが、再犯の恐れがあるとしてと都公安委員会から禁止命令を受けていたという。その懸念が現実になってしまった。男は容疑を認め、「いけないと分かっていたが、どうしても会いたくなった」と供述しているとのことだ。

 昨年11月頃、男は菊池桃子さんの所属事務所公式サイト宛に「バスツアーでのお土産のシクラメンの花とチーズロールケーキがありまして、是非、受け取って欲しいのです」「クリスマスもありますが、こういうイベントごとを仕切るのは苦手でして、夜景の綺麗なレストランで食事するくらいしか思いつかない。予定は空いております」「大みそかに年越しそばを菊池さん家族と一緒に食べたい」などと記したメールを送っていたという情報もある。被害に遭った菊池桃子さんは、自宅外に避難して生活しているものの、精神的に疲弊しているとのことだ。その心労はいかばかりかと思うと、気の毒でならない。

 619日には、元AKB48で女優の岩田華怜さん(20)につきまとい行為を繰り返したとして、42歳の無職の男がストーカー規制法違反の容疑で逮捕されている。逮捕された男は、2012年頃から岩田華怜さんへのストーカー行為を行い、握手会でプロポーズやイベント会場でのつきまとい、ブログ上で岩田華怜さんの家族を脅迫したこともあり、所属事務所も注意していたという。岩田華怜さんサイドから相談を受けた警視庁が男に警告した際も男は「ストーカーと言われることに納得がいかない」と話し、ストーカー行為は止むことがなく、逮捕に至った。

 また、610日には乃木坂46の運営委員会が、公式サイト上で「ファンの皆様へのお願い」と題し注意喚起する文書を発表。一部のファンによるストーカー行為があったため「警戒を強化せざるを得ない事態」となっているとして、「メンバーに対する車両・徒歩等による追走、メンバーの居住エリアでのストーカー行為等の迷惑行為はただちに警察に通報いたしますとともに、全ての活動において出入禁止処分とさせていただきます」「メンバー本人に対して直接手紙・プレゼント等を手渡しする行為も禁止とさせていただきます」とあった。

 ストーカー被害に遭っている当人としては、いつ、どのような危害を加えられるかわからないという点で非常に不安な生活を送らざるを得なくなる。拒絶してもつきまとわれ、強く抗議の態度を示した場合には逆上される可能性すらあり、逃げるために被害者が引っ越しをしたり職場を変えたりといった対応を取らねばならず、とにかく理不尽だ。

 2016年5月には、東京都小金井市のライブハウスで、ストーカーの男がシンガーソングライターの女性をめった刺しにするという凶行に及んだ。女性はこの男の危険性を警察などに相談していたが、事件を未然に防ぐことは出来なかった。ストーカーに対象への接触を禁止する命令を出しても、ストーカー自身が従わなければどうしようもない。かといって、凶行に及んでいない段階では、ストーカーを逮捕し拘束することも不可能。被害者は遠くへ引っ越すなどして逃げても、追われているのではないかという不安に苛まれ、身の回りを警戒しながら生活していくことになる。これだけ不利益を被るにもかかわらず、ストーカー側に引越し費用の請求も難しいという。そうまでして身の安全を求めても、誰も安全を保証してはくれない。本当に理不尽としか言いようがない問題だ。

 では、ストーカーからは逃げる以外にないのか。いや、ストーカーが治療によって更生するケースもないわけではない。626日放送の『スッキリ!』(日本テレビ系)では、自身もかつてストーカー行為を行っていたが入院やカウンセリングなどの治療を経て更生、現在、ストーカー加害者の更生支援団体の代表を務める52歳の男性が、ストーカーの心理について解説した。3年前までストーカー行為をしていたという男性は、対象に1100200通のメールやSNSを送る、電話をひっきりなしに一晩中かけるといった行為を繰り返していたといい、当時の心理について、「見捨てないでよ」「自分はそんな人間じゃないから自分を誤解しないでよ」「苦しいからとにかく電話出てよ」と追いすがり、自身の一連の行為は相手が悪いと考えていたと振り返った。

 被害女性が通報し、警察から任意同行を求められ文書警告を受けた男性は「ここまで俺を追い詰めやがったな」と怒りを覚え、ストーカー行為をエスカレートさせ、相手に殺意さえ覚えたという。ただ、相手への殺意を自覚した男性は、このままではまずいと思い任意入院を決意。カウンセリングを受けたり心理学を学んだりすることによって、相手の気持ちが考えられるようになり更生したのだそうである。

 2015年度の警視庁調査によると、ストーカー行為を行い文書警告を受けた176人のうち約1割に当たる19人が再びストーカー行為に至っている。男性は自身の加害経験と更生、そして加害者更生の支援活動を通し、ストーカーの再犯を防ぐには、罰則の強化・GPS装着(ストーカーの監視強化)・更生支援(カウンセリングや治療の義務化)が必要だと訴える。ストーカー加害者には、人間関係を築くのが苦手で相手との距離感をつかめない人も多いため、カウンセリングや治療が必要であり、また被害者もひとりで抱え込まないようサポートが必要だとも。加害者にも被害者にも、ケアが求められている。

 実際に、全国の警察機関では、2016年度より、ストーカー加害者に任意・自己負担による精神科受診を働きかけている。しかし、警視庁のまとめによると、2017412月、警察から受診を進められたストーカー加害者522人のうち、7割が拒否、また同意した162人のうち実際に受診したのは全体の20.7%にあたる108人。加害者に治療を決意させるのがいかに困難かうかがえる。ストーカーは恋愛の延長のようなカジュアルなものではなく、治療の必要な病態であると周知していく必要がるだろう。また、自己負担ではなく国が経費を負担してでも治療に取り組ませることも検討すべき時期なのかもしれない。

中崎亜衣

1987年生まれの未婚シングルマザー。お金はないけどしがらみもないのをいいことに、自由にゆる~く娘と暮らしている。90年代りぼん、邦画、小説、古着、カフェが好き。

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