What Links Macedonia to Japan

なぜ津田大介は炎上するのか?

ネット炎上常連の津田大介。もはや発言しないことじたいが“炎上”原因になっているかれが、“ネット世論”をかんがえる。

文・津田大介

Photo: Getty Images

本誌の鈴木編集長から「津田はよくネットで炎上しているようなので、反論の場を提供したい」というありがたい申し出をいただき、このコラムを書いている。

だが、いざキーボードに向かってみると、特に「反論」したいことなどないことに気づく。そもそも筆者は性格的に目立つのが好きな人間ではないし、いわゆる「炎上マーケティング」にも興味がない。筆者の「炎上」は、たいていの場合、他愛もない「個人としての素朴な所感」を述べたときに起きる。

いや、それどころか、最近は筆者が何も発言しなくても「津田はなんでいま問題になっている○○について言及しないのだ!」と燃やされることも増えた。筆者ほどの炎上上級者になると、発言などしなくても炎上できるということだ。発言しても発言しなくても炎上する。生きてるだけで丸儲け。もはや、手を触れずに相手を吹き飛ばす気功の達人の域である。どうせえっちゅうねん!!

さて、特に反論したいと思わないのには、もう1つ理由がある。なぜここまで自分自身が炎上するのか、2016年以降、背景にある構図が見えてきたからだ。

同年の英国のEU離脱をめぐる国民投票や、トランプ大統領が誕生した米大統領選で、なりすましアカウントや自動投稿プログラム(bot)により、ツイッターやフェイスブック上でロシアによる「世論工作」が行われていたことが、ここ2年間の各種報道や研究機関の調査で明らかになった。

他方で、米大統領選期間中には、虚偽の事実を元にトランプ候補を応援する記事─フェイクニュースがネット上を席巻した。フェイクニュースサイトの多くは、欧州の小国・マケドニアのヴェレスという小さな町で作られていた。地場産業が壊滅し、働ける職もなく、経済的な困窮に悩む若者たちが、広告料目当てで耳目を集めるフェイクニュースを大量作成し、アクセスを集めることで大量の収入をゲットしていたのだ。報道によればその金額は一日30万円にも及ぶという。「炎上」を煽ることは「仕事」になるということだ。

これらの事実を踏まえると、日常的にネット上で「炎上」を演出する勢力は主に①権力による世論工作を「仕事」として請け負う業者、②情報を歪めて発信することでアクセスと広告費を稼ぐ業者・個人、③それらの誤情報や炎上を真に受けて信じた善意の拡散者─これら3つに分けられることがわかる。

ネット世論の形成や炎上に「業者」が深く関係している可能性については、以前より識者から指摘されてきたことだが、ここにきて日本でもそれを裏付ける報道や研究結果が次々と公開されている。ドイツのエアランゲン=ニュルンベルク大学のファビアン・シェーファー博士が2017年12月に発表した論文によれば、2014年の衆議院選期間中における日本のツイートを統計分析した結果、83.2%のツイートがコピーであり、botを利用した拡散も確認されたという。シェーファー博士は、2014年の衆議院選の安倍政権には「ナショナリズム」という隠れたキーワードがあったと推測。2016年の米大統領選のような世論工作活動が日本でも行われていた事実を示した。

2017年11月13日にNHKで放送された「クローズアップ現代+」では、日本の上位まとめサイトの管理人が出演し、月間広告収入が700万円に及ぶことが明かされた。この収入で彼は11人のスタッフを雇い、日々サイトを更新しているという。マケドニアのフェイクニュース運営者と手にする収入がほぼ同じなのも偶然ではないだろう。情報を歪めてアクセスを稼ぎ、広告収入を得ることを「業務」にしている人間は日本にも存在するということだ。むしろ、大手のまとめサイトは、ほとんどがそうした「業者」である可能性が高い。

いかがだろうか。ネットは確かに不特定多数の多様な人たちとコミュニケーションが取れる素晴らしいツールだ。しかし、現在のネットは世論への影響力が増大した結果、世論工作と金目当てで炎上させる業者の草刈り場となってしまっている。彼らは政治的あるいは金銭的な目的を達成するため、炎上を利用しているに過ぎない。そんな彼らに、真正面から「反論」することにどれだけの意味があるのか。

炎上も日常化して慣れてしまえば、サウナみたいなものだ。いま言論人に求められているのは、日常的に接している「ネット世論」が組織的もしくは金銭的に著しく歪められているという事実を認識した上で、炎上を気にせず淡々と自身の意見を表明し続ける鈍感力を持つことであろう。その意味で、本誌のような紙媒体の役割も今後は重要になってくる。炎上が怖くてネットでは意見表明できない繊細な表現者たちをサポートできるのは、紙媒体だけだからだ。雑誌こそが多様な意見を世の中に送り出す存在の中心になり、ネット世論を真に受けない読者を育ててほしい─筆者自身が雑誌ライター出身であるがゆえに、強くそう思うのである。

津田大介
1973年生まれ、東京都出身。ジャーナリスト/メディア・アクティビスト。早稲田大学社会科学部卒。早稲田大学文学学術院教授。大阪経済大学情報社会学部客員教授。メディア、ジャーナリズム、IT・ネットサービス、コンテンツビジネス、著作権問題などを専門分野に執筆活動を行う。主な著書に『ウェブで政治を動かす!』(朝日新書)、『動員の革命』(中公新書ラクレ)、『情報の呼吸法』(朝日出版社)、『Twitter社会論』(洋泉社新書y)などがある。

 

Share on:
Author:
津田大介
Recommended
こちらもおすすめ
CAR
2018.06.19
レクサスLC「Structural Blue」vs.永瀬正敏 ── 二律双生なヒトとクルマの出会い
PROMOTION
FASHION
2018.06.25
安藤政信「悩んで悩んで、やっぱり、俺のスーツは黒にする」(前編)
GQ A-xperience by GIORGIO ARMANI
「熱、水、油……どんな厳しい環境でもグランドセイコーは問題なく動いてくれる」 川手 寛康(シェフ)
PROMOTION
Recommended
こちらもおすすめ
WATCH
2018.06.28
千住 博とのコラボレーションでブルガリは何を表現したのか?
PROMOTION
LIFE
2018.06.22
Leicaのトリプルカメラ搭載! ドコモからデビューした HUAWEI P20 Pro で辿る「ふたり日記」
PROMOTION
「熱、水、油……どんな厳しい環境でもグランドセイコーは問題なく動いてくれる」 川手 寛康(シェフ)
PROMOTION
Specials
Recommended
こちらもおすすめ
CAR
2018.06.19
レクサスLC「Structural Blue」vs.永瀬正敏 ── 二律双生なヒトとクルマの出会い
PROMOTION
WATCH
2018.06.25
G-SHOCKが35周年を記念してkolorとコラボレーション!
PROMOTION
CAR
2018.06.26
ホンダ・レジェンドで旅をする──清水和夫の2000km走破記
PROMOTION