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転生したらスライムだった件 作者:伏瀬

地位向上編

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18話 騒動の結末

次回で旅立つと言ったような記憶があるのですが、きっと気のせいでしょう…

 さて、と。

 当たり前の話ではあるが、大臣を殴ったのは非常に不味い。

 当たり前なのだ・・・。


「兄貴・・・、何をやっているんだよ?」


 警備兵を引き連れてやってきた、カイドウのセリフであった。

 流石に毎日サボれないのか、今日は姿を見ていなかった。

 飲みに行くのを誘ったのだが、用事がある! と断られたのだ。

 それなのに、自分が用事でいない間に騒ぎを起こしているとなれば、呆れるのも当然だろう。

 逃げるだけなら簡単なんだが、それは悪手だろうな・・・。


「フン! そこのバカが、俺の客であり恩人のリムルの旦那に失礼な事をしやがるから、ちょいとお灸を据えただけの事よ!!!」


 と、引き連れていた四人の騎士に介抱されている、ベスター大臣を指差す。

 ベスター大臣は、今だに驚きとショックから立ち直れていない。

 鼻血をボタボタ垂らしながら、呆けた顔でこちらを睨んでいる。

 殴られる等、まったく想像もしていなかったのだろう。驚き過ぎて、痛みも感じてはいない様子だ。


「おいおい・・・、ちょいとお灸って、大臣相手にそれは不味いだろ・・・」


 溜息まじりに、カイドウが呟いた。


「ともかく・・・、兄貴達の身柄は、一旦拘束させて貰う!」


 そう言って、部下に指示を下すカイドウ。

 だが、俺達にだけ聞こえるように、


「悪いようにはしないから、大人しくしておいてくれよ!」


 と、呟いていた。

 無論、俺に騒ぎを起こすつもりなどない!

 俺はママさんの元へコソっと移動し、ママさんに金貨五枚を握らせた。

 え? と、驚くママさんに、


「迷惑料も入ってるから! また来るよん!」


 と挨拶する。

 ここは質のいい店だった。こんな事で、二度と来れなくなっては面白くないのだ。



 こうして俺達は連行される事となった訳だが・・・、何かを忘れている。

 そう! ゴブタである。

 あのバカは、店に連れてきていない。

 度重なるヤツの愚行に対し、お仕置き"蓑虫地獄"を執行中だったのである。

 最初は逆さ吊りにしようかとも思ったが、流石にそれは不味い。

 という訳で、『粘糸』でグルグル巻にして、部屋にぶら下げてきたのだ。


「ちょ! これ酷いっす! 自分も連れてって欲しいっす!!!」


 などと、悲痛な声で喚いていたが、甘い顔をすれば付け上がりそうだ。

 という訳で、


「バカめ! 貴様の日頃の行い、目に余るわ! 悔しかったら、相棒(嵐牙狼)でも召喚して助けてもらいやがれ!!!」


 と、出来もしないだろう事を言いつけて放置して来たのである。

 ゴブリンならともかく、ホブゴブリンに進化した今のヤツなら、一週間くらいは飲まず食わずで大丈夫だろう。

 長い日数、拘束されるようなら、一度抜け出してヤツを助けてやろう。

 そう考えて、ヤツの事はそのまま忘れる事にした。

 ちょっとだけ、可哀想かな? とも思ったが、逞しいヤツの事だ、問題ない!



 俺達五人は、王宮へと連行された。

 とは言っても、ものものしく拘束されている訳ではない。任意同行に近い感じだ。強制だけど・・・。

 結局、牢屋で2日程過ごす事になった。

 とはいえ、それなりに良い食事が出ているようだし、部屋の調度も整えられている。

 5人一緒に入れられているので、牢屋というより大部屋という感じだ。

 待遇は、そこそこマシな印象を受けた。


「俺が短気を起こしてしまったばかりに・・・、スマン!」


 カイジンが謝ってきた。

 しかし、ここにそんな事を気にする者はいない。


「カイジンさん、大丈夫! 問題ないさ!」

「そうそう、親父さんが気にする事ないですよ!」

「・・・・・・!」


 三人も同じ気持ちのようだった。


「それより、釈放されたら、俺達もカイジンさんに付いていきますよ!」

「リムルの旦那、俺達がついて行ったら迷惑かい?」

「・・・・・・・・・??」


 最後のやつは何が言いたいのか、俺の理解力では判断出来ないが、気持ちは分かった。 


「ふん! 皆、まとめて面倒見てやるさ! ただし、扱き使うから、覚悟しとけよ!」

「「「おう!」」」


 とまあ、こんな感じに、俺達は釈放された後の事を相談し始めたのであった。



 一日目はそうやって過ぎて行き、二日目の夜。


「そう言えば、あの大臣、えらくカイジンを目の敵にしてなかったか? 何か理由でもあるのかな?」


 何の気なく、俺が質問をしたのだ。 

 これに対し、カイジンは苦虫を噛み潰したような顔になり、溜息をつくと話始めた。



 実はカイジンは、元、王宮騎士団の団長の一人だったのだそうだ。

 とは言っても、王宮騎士団は全部で7つの部隊があり、その内の一つを任されていたらしい。

 工作部隊・兵粘部隊・救急部隊の裏方三部隊。

 重装打撃部隊・魔法打撃部隊・魔法支援部隊の花形三部隊。

 そして、最も重要な、王直属護衛部隊である。

 カイジンは、工作部隊の団長を務めていたそうだ。

 その時の副官が、ベスターだったのだそうだ。


「ヤツは、侯爵の出でな、金で地位を買った! と言われていてな…。俺が庶民の出だったものだから、妬んでいたんだ。

 複雑だったんだろうよ。庶民の下で命令を受けるのも屈辱だったのかもしれんしな…

 俺には、他人の気持ちなんて思いやる余裕がなくてな。王の期待に添おうと必死だったんだよ…。

 そんな時に、あの事件が起きたんだ…」


 そう言って、当時の事件を語ってくれた。

 カイジンが、軍を辞めるきっかけとなった事件。


 魔装兵事件。

 当時、ドワーフの工作部隊は、新しい技術革新もなく、7つの部隊の中で最低の評価に甘んじていた。

 技術立国の立場から、工作部隊は花形であるべきだ! そう主張するベスター派。

 今のままで、堅実に研究を進めるべき! という主張のカイジン派。

 両者は議論が拮抗し、会議で結論が出る事は無かったという。

 そんな中、エルフの技術者との共同開発の、"魔装兵計画"が立ち上がった。

 この計画を何としても成功させ、工作部隊の地位を確固たるものにしよう! そうベスターは考えた。

 そのベスターの焦りをカイジンが指摘したが、庶民出の上司の忠告には、聞く耳を持たなかった。

 結果、焦ったベスターの独走により、"精霊魔導核"の暴走を引き起こし、計画は頓挫。

 当時最高の技術者を集めて行われた、"魔装兵計画"はこうして終焉を迎えたのだ!


 ………

 ……

 …


 結局の所、失敗の責任を取って、カイジンは軍を去る事になった。

 ベスターが、自分の失敗を全てカイジンに押し付けた上に、軍の幹部を抱きこみ、偽の証言まで用意した為である。

 しっかし、ベスター、絵に描いたような悪人だな。ある意味、解りやすい。

 要するに、カイジンがこの国にいると、いつまた軍に返り咲いて自分の地位を脅かすか解らない! と、こういう訳か。

 そんな卑怯なヤツ、死刑でよくね? まあ、死刑は言いすぎかもしれないが…。


「まあ、そういう訳で、俺がこの国から出たら、アイツも少しはマシになるかもしれんさ。」


 そう言って、この話を締めくくった。

 三兄弟も、当時の事件の真相を知る者達で、ベスター大臣を嫌っていたのだそうだ。

 そんな話を聞けば、俺だって嫌いになるわ…。


 しかし、貴族相手に殴ったのだ。

 このまま無事に、釈放されるとは思えないのだが…

 そうした俺の心配に、


「大丈夫だろ、一応。俺は退役したとはいえ団長にまでなったおかげで、準男爵の地位を戴いている。

 庶民が貴族に対して! ってのなら、裁判待たずに死刑もありえたけどな!」


 そう言って、大笑いしている。

 俺はまったく笑えないけどな…。

 いざとなれば脱出しよ! 俺、関係ない事にして、ほとぼり冷めるまで普通のスライムのふりして過ごそう。

 俺は内心、そんな事を考えたのだった。




 そして、裁判の日となった。

 俺達は、王の前へと連行された。

 ドワーフの英雄王。

 目の前にしたら、その圧倒的威圧感が半端ではない。

 現王、ガゼル・ドワルゴ。

 目を閉じ、椅子に深く腰掛けている。

 ドワーフらしい、がっしりとした体付き。迸るエネルギーを秘めた筋肉の鎧。

 その特徴ある、褐色の肌。後ろに撫で付けた、漆黒のオールバック

 強い!

 俺の本能が、久しぶりに全力で警報を鳴らしていた。

 両脇に、騎士が控えている。

 この二人も強いと感じるが、王の前には霞んでしまう。

 この王は、化物だ。

 簡単に逃げれるつもりでいたが、これは…

 俺の弛みきった意識は、王の前に来た途端に覚醒した。

 ひょっとすると、この世界に来てから初めて感じる"危機感"かもしれなかった。



 一人の男が王の前に膝をつき、何事か確認した。

 王の許可を得て立ち上がり、


「裁判を始める! 皆、静粛にせよ!!!」


 裁判の開始が告げられた。


 1時間かけて、双方の言い分が発表される。

 当事者である俺達に、ここでの発言は許されない。

 この場で自由に発言出来るのは、伯爵位以上の貴族だけである。

 それ以外は、王の許しが出るまで発言は許されない。

 発言すればどうなるのか?

 発言した時点で、罪が確定する。さらに、不敬罪まで上乗せされるというお得さで!

 冤罪も何も関係ない。それが、ここのルールなのだそうだ。

 代理人に、全てを任せるしかないのだ。

 この代理人とは、この二日、何度も顔を会わせて打ち合わせしている。

 言うなれば、弁護士みたいな者であろう。

 この代理人は大丈夫なんだろうな?

 そういう不安とは、得てして的中するものなのだ…。


「と、このように、店で寛いでお酒を嗜んでおられたベスター殿に対し、複数で店に押し入り暴行を加えたのです!

 これは、断じて許されるべき行為ではありません!!!」


「それは事実であるか?」


「はい! 私も、カイジン殿からの聞き取りだけではなく、店側からも調書を取って御座います!

 先の言い分に相違ない事は、間違い御座いませぬ!!!」


 …は? え、何だって?

 味方と思っていた代理人の、まさかの裏切りであった。

 これは…、不味いのではなかろうか?

 カイジンの様子を見ると、一気に顔が赤くなり、次第に青ざめ始めている。

 そりゃ、そうだ。

 なんせ、言い訳もさせて貰えないのだ。

 ちなみに…、代理人が嘘を吐く事は、許されていない。

 バレたら死罪である。余程の覚悟か、何らかの事情が無ければ、嘘を吐くなど考えられないのだが…

 王の前で、下賎な者(この場合は罪人)に発言を許さない為のシステムだが、今回は最悪の方へと運用されてしまったようだ。


「王よ! お聞き届け頂けましたでしょうか? この者達への厳罰を申し渡しください!」


 ベスター、調子に乗って、王に進言してくれた。

 さらに、こちらを見やり、勝ち誇った笑みを浮かべている。

 あの野郎…やっぱ、殴っておけば良かった…。



 王は、目を閉じたまま、微動だにしない。

 その様子を確認し、傍仕えが王に代わって発言を行う。


「静粛に!!! これより、判決を申し渡す!

 主犯、カイジン! この者は、20年の鉱山での強制労働に処す。

 その他、共犯者! この者共は、10年の鉱山での強制労働に処す。

 それでは、この裁判を閉廷…」


「待て…。」


 重く、深い静かな声が、閉会の言葉を遮った。

 王が目を開けて、カイジンを見つめた。


「久しいな、カイジン! 息災か?」

「…は! 王におかれましても、ご健勝そうで、何よりで御座います!」


 一泊おいて、カイジンが返答した。

 王の問いかけには、返事しても大丈夫のようだ。


「よい。余と、そちの仲である。本題である! 戻って来る気はあるか?」


 周囲がざわめいた。

 ベスターは一気に青ざめる。

 ふと見ると、裏切った代理人は、死にそうな程の土気色の顔色になっていた。


「恐れながら、王よ! 某は、すでに主を得ました!

 この契りは、某の宝であります。この宝、王の命令であれど、手放す気はありませぬ!!!」


 その言葉に、周囲が気色ばむ。

 護衛の兵士から、カイジンに向けて殺気が放たれている。

 それでも、カイジンに怯えは無く、むしろ堂々と胸を張って、王を見つめていた。


 その目を見て、王は再び目を閉じた。


「で、あるか…。」


 そう呟く。

 辺りを、再び静寂が支配した。

 そして、


「判決を言い渡す。心して聞けえい!!!

 カイジン及び、その仲間は、王国より国外追放とする!

 今宵、日付が変わって以後、この国にいる事を余は許しはしない。

 以上。では、余の前より消えるがよい…。」


 王が目を見開き、大音声で言い渡す。

 これが、王者の覇気!

 身が震える程の、威圧。

 それなのに…。俺には、王が寂しそうに見えたのだ。






 こうして、裁判は閉廷し、俺達はカイジンの店に戻ってきた。

 ちょっと飲みに行くつもりが、大事になったものである。

 さっさと荷造りして、出発しなければ!

 そういえば…、ゴブタは無事だろうか?

 まあ、まだ三日目だし…

 ちょっとだけ不安に思いながら、お仕置き部屋の扉を開けると…、


「あ! お帰りっす! 今まで楽しんでたっすか? 今度は自分も連れて行って欲しいっす!」


 などと言いながら、ソファから飛び起きるゴブタの姿が!

 なん…だと? 

 コイツ…蜘蛛の『粘糸』から、どうやって逃げ出せた?

 よく見ると…枕にしているのは、嵐牙狼であった。

 マジか? 召喚を成功させたのか!?


「お、おい、ゴブタ君。君、狼の召喚に成功したのかね?」

「あ! そうっす! 来てくれ! って念じたら、来てくれたっすよ!」


 簡単に言いやがって…

 未だ、他のホブゴブリンで成功した事例は無いというのに…。

 もしかして、こいつ、頭の栄養が才能に行き渡っているんじゃ…?

 まさか…、な。ゴブタの分際で、そんな訳ない。

 きっと偶然だろう。

 と、そこで、嵐牙狼を見て硬直しているドワーフに気付いた。


「何してるんだ? さっさと準備して行くぞ?」


 ドワーフ達に声をかけると、


「おいおい、待て待て! なんでこんな所に、黒牙狼がいるんだ!!!」

「そうだぞ! さっさと逃げないと、アレは、Bランクの魔物だぞ!!!」


 何やら大慌てしている。

 その様子は滑稽で、面白かった。


「大丈夫、大丈夫! 問題ない。唯の犬と大して変わらんよ! 家で飼ってる狼だしな!」


 安心させてやるつもりで言ったのだが、何故か、四人揃って絶句していた。


 時間が無いので、今回は仕方ない。

 ドワーフ達に、旅の服装に着替えて貰うと、皆で外に出た。

 そして俺一人、家の中の持って行く物全てを、飲み込んでいく。

 容量には、まだまだ余裕がある。

 だが、流石に建物を飲み込むのは、悪目立ちしすぎるし怪しまれるので止めておく。

 こうして旅の支度を整え、俺達はリグル達との待ち合わせ場所である森の入り口に、向かったのであった。


 武装国家ドワルゴン。

 今後、何度も関わりあう事になる国家。

 逃げるようにこの国から飛び出した俺達は、その事にまだ気付いていない。






ステータス

 名前:リムル=テンペスト

 種族:スライム

 加護:暴風の紋章

 称号:"魔物を統べる者"

 魔法:なし

 技能:ユニークスキル『大賢者』

    ユニークスキル『捕食者』

    スライム固有スキル『溶解,吸収,自己再生』

    エクストラスキル『水操作』

    エクストラスキル『魔力感知』

    獲得スキル…黒蛇『熱源感知,毒霧吐息』,ムカデ『麻痺吐息』,

          蜘蛛『粘糸,鋼糸』,蝙蝠『超音波』,トカゲ『身体装甲』

          黒狼『超嗅覚,思念伝達,威圧,影移動,黒稲妻』

 耐性:熱変動耐性ex

    物理攻撃耐性

    痛覚無効

    電流耐性

    麻痺耐性













 −−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−












 その場は、静寂に包まれていた。

 さっきまで騒々しいやり取りがあったとは思えないほど…。

 五人の犯罪者が、逃げるようにこの場を去った後、誰一人として動く者はいない。

 その静寂を壊すかの如く、


「さて、ベスター。何か、言いたい事はあるか?」

「お、恐れながら、王よ! これは誤解です! 何かの間違いで御座います!」


 見苦しく、王に縋り付かんばかりに喚きたてるベスター大臣。

 対する王は、終始感情を覗かせない、冷徹な態度である。


「誤解、か…。余は、忠実な臣を一人、失う事となった。」

「何をおっしゃいます! あの様な者など、王に忠誠を誓うどころか、どこの馬の骨ともわからぬ…」


「ベスターよ! お前は、勘違いをしておる。カイジンの奴は、元より、余の元を去っておった…

 余が失う忠実な臣、それは、お前の事だ。」


 静に、何の感情も覗えない、声。

 ベスターの喉が、ゴクリと鳴る。

 言い訳をしなければ…! ベスターの心臓は早鐘を打ち、頭は空転する。

 何も考える事が出来なくなっている。

 今、王は、何と言った?

 失うのは、お前! それは、つまり…

 ベスターはどうすればいいのか考える。だが、何も考えは浮かばない。


「もう一度、問おう。ベスターよ。何か、言いたい事はあるか?」


 怖い。

 ベスターは恐怖で頭がいっぱいになった。

 王に問われている。返答しなければ! だが、何も言葉が浮かんで来ないのだ!!!


「お、おそれ、恐れながら…」


「余は、お前に期待していたのだ。ずっと待っていた。魔装兵事件の際も、お前が真実を話してくれるのを待っていたのだ。

 そして、今回も。見よ!」


 そう言って、王が二つの品を指し示す。

 いつの間にか、近習が運んで来た物だ。

 ベスターは、虚ろな瞳でソレを見た。


 見た事もない、液体の詰まった袋状の球体。

 一本のロングソード。


「何か解るか?」


 そう問われ、よく観察する。

 球体は解らないが、ロングソードは見覚えがある。カイジンの持ち込んだ剣だ。


「教えよ!」


 王の説明に、近習が説明を行った。

 ベスターの脳が、ソレを理解するのに、しばしの時間が必要であった。


 蘇生薬ではないものの、ヒポクテ草の完全抽出液。それは、完全回復薬。

 ドワーフの技術の粋を集めても、98%の抽出が限界。

 98%では、上位回復薬の効果しか得られない。それが、99%!!!

 驚きに、ベスターの顔が歪む。知りたい! その抽出方法を!!!

 更に、驚くべき情報が、ベスターへと説明される。

 その、ロングソード。

 芯に使った魔鋼が、すでに侵食を開始し始めている、という報告。

 有り得ない…、普通、10年は馴染んでから、徐々に侵食は行われるものなのに!

 驚愕に、ベスターの思考が活性化される。

 その事が本当だとしたら! そういった考えがベスターを支配し、


「それを齎したのは、あのスライムだ。お前の行いが、あの魔物との繋がりを絶った。何か言いたい事はあるか?」


 決定的に、ベスターは王の怒りの深さを知る。

 もはや、何も言うべき事など、無いのだ…と。


「なにも…、何も御座いません、王よ。」


 涙が込み上げて来た。

 自分は、王に見捨てられたのだ! と、初めて理解して。

 王の役に立ちたかった。そして、王に認めて貰いたかった。

 彼の望みは、それだけだったのに…。

 いつから、自分は間違ったのか?

 カイジンに嫉妬した時から?

 あるいは、もっと前…?

 解らない。ただ解るのは、自分は王の期待を裏切ったという、その事実。


「で、あるか。では、ベスターよ! お前には、王宮への立ち入りを禁止する。二度と、余の前に姿を見せるな…!

 だが最後に一言、お前に言葉を送ろう。大儀であった!!!」


 ベスターは、王の言葉を聞くと立ち上がり、王へと深々とお辞儀をした。

 そして、その場を去る。

 自らの犯した、愚かしさの代償を支払う為に…。





 ベスターの退出と同時に。

 近衛が駆け寄り、ベスターの共犯の代理人を捕らえる。

 その様子を視界に収め、


「暗部よ! あのスライムの動向を監視せよ! 絶対に気取られるな! 絶対にだ!!!」


 念を押してまで、王が命令を発する。

 寡黙な王が、念を押してまで発する命令!

 その重要さに、周囲の気が引き締まる。


「この命に代えましても!」


 暗部はそう言い残し、消えた。




 王は思う。

 あの魔物スライムは何者だ?

 あれは、一種の化物だ。あんな魔物が解き放たれているのか…

 平和な時代が終わろうとしているのかもしれない…と。








今度こそ、次回で旅立ちます! 自信ある!

カイドウの活躍で、回復薬が王の手元に行った訳ですが、今回書ききれませんでした。

もっと簡単に旅立つハズだったのに…

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