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トピックス -企業家倶楽部

2012年12月12日

画期的な技術で医療の進展に貢献する/スリー・ディー・マトリックス会長 永野恵嗣、社長 髙村健太郎

企業家倶楽部2012年12月号 注目企業





自己組織化ペプチド技術を用いて外科分野や再生医療分野の医療機器の開発をおこなっているスリー・ディー・マトリックス。安全性など従来の止血法が抱えていた問題をクリアする新しい止血材を開発し、医療業界から注目を集めている。「バイオマテリアル(生体材料)は、生体に移植しても拒絶反応がなく、医療用マテリアルが抱えている課題を解決できる」と代表取締役会長の永野恵嗣は語る。グローバルなスケールで医療製品を開発する日本初のバイオベンチャーの姿を追う。(文中敬称略)
 

 現在、世界中の医療現場で手術の際に出血を止める止血剤は、主に血液製剤や動物由来の成分が含まれているものが使用されている。しかし、日本のベンチャー企業スリー・ディー・マトリックスが開発した止血材は、透明な液体で、人体の構成成分である3種類のアミノ酸を化学合成したペプチドを原料としている。また、数多くの安全性試験をクリアしており、安心して使用できるという利点がある。この止血材は酸性の溶液で中性の血液に触れると瞬時にゲル状になる。この特性を活かし、手術の際に出血箇所にかけ止血できるので扱いやすい。血液が凝固した後は、最終的には体内に吸収されるようになっている。新しい止血材は従来の止血剤が抱える、エイズやC型肝炎ウイルスに感染するリスクを避けることが出来る。
 



■感染リスクを解決

従来の止血剤で最も多く使われるのは、人の血液から作るフィブリン製剤である。血液製剤の使用は、C型肝炎やエイズに感染する恐れがあることで、2002年薬害訴訟で社会問題となり関心を集めた。現在は血液成分を加熱するなどの感染対策がとられているが、完全に感染リスクを払拭することはできていない。また、牛や豚のコラーゲンも止血剤として使われているが、狂牛病やウイルス感染のリスク、アレルギー反応のリスクも懸念される。このように現場医師や患者の切実なニーズに応える止血剤の開発が待たれていた。
 

「特に日本は再生医療への期待が大きいです。そのため政府の後押しも強いことから、将来性が高いビジネスだったので挑戦しようと決めました」、永野は言う。1992年に米国マサチューセッツ工科大学(以下:MIT)のShuguang Zhang博士によって発見された自己組織化ペプチドの技術を用いて、MIT発のベンチャー、3D-Matrix,Inc.が設立されたが、その際に永野と投資家たちがエンジェル投資家となったことがMITとの関係の発端である。その後、永野が日本及びアジアでの展開を目指して設立したのが、現在のスリー・ディー・マトリックスである。設立後、同技術の可能性について薬事的な見地から永野が意見を求めたのが、現在代表取締役社長を勤める髙村健太郎だった。髙村は30年以上他の会社を含め医療デバイスの開発に一貫して携わってきた実績や経験があり、生体に使用する材料や器具、医薬品の開発やマーケティングを行ってきた。「永野から相談を受けたとき、この素材は生体適合性が高く非常に安全性が高いと思ったので、前向きな意見を述べた記憶がある」と語る髙村。また、薬や医療機器は効能の良し悪しももちろんだが、安全性や副作用の点で優れていることが肝心であることから、この素材を用いた製品化は、厚生労働省の許可を取りうる可能性が高いという確信があったという。「スタートする段階で何に使えるか、どういうふうに製品化していくかということを想定し、この時代で世の中に出せるかということが重要でした」と永野は言う。いくら高い効果を発揮する製品でも、安全性や副作用に問題があると許認可を取ることは難しい。こういった背景から、日本や世界で許認可が下るかどうかという側面もビジネスを始める上で重要であった。


■感染リスクを解決

■米企業を買収しグローバル展開

起業した2004年当初は、3D-Matrix, Inc. からのサブライセンスというかたちで始めた。アメリカでも止血剤への関心は高く、アレルギーを持つ患者が多いことから、動物由来の成分を安全な人工合成の ものに置き換えるだけで、医学界に対しては大きなメリットであることは分かっていた。しかし、アメリカ側の進捗が遅れていたことから2007年に同社を買 収し、自社でグローバルに展開していくことを決断した。買収することによって、MITからライセンスされた独占的かつ全世界事業化権を活用することが可能 になった。「大元の権利を持っている会社からサブ的に権利を貰っていると、何か問題が起きたときに事業が継続できなくなる。つまり、その点でも買収する必 要があった」と髙村。当時、日本のベンチャー企業がアメリカの会社を買収したことが話題となり、新聞に掲載された。勢いがある日本のベンチャー企業として 高く評価され、出だしは順調かと思われた。



■契約の難航

しかし、2008年のリーマンショックを境に予期せぬアクシデントが起きた。日本の大手販売会社とアライアンスを組み、国内の独占販売権を付与する話が進んでいたが、その会社は売り上げの半分が海外への輸出に依存していた。円が急激に高くなったことで業績が悪化したのだ。契約金なども決まっていたが、拘束力を持たないノンバイディングな契約を理由に、途中で契約は打切りになってしまった。永野たちは契約金を元に様々な事業を進めていく予定だったので痛い打撃となった。「12月に契約が白紙となることが決まって、従業員にどのタイミングで伝えるか悩みました。正月休み前に伝えるのは心苦しかったので、結局伝えたのは年明けでした」と振り返る永野。
 

 ただし、研究開発は続けていかなければならないという信念のもと、事業運営の経費は削減して開発資金に充当した。その後、商社・製薬企業との事業アライアンス、ベンチャーキャピタルからの出資などにより、財務状況は改善に向かった。開発を続けていたことが功を奏し、製品のプログラムが進んでいたおかげで、契約金も以前より増額できたのだ。苦しかった時期を抜け、2011年10月24日、ジャスダックに上場するまでに成長することができた。



■新しいビジネスモデルを構築

「私たちは、ビジネスモデルが医薬品ではなく医療機器という点が売りです。薬事法では止血剤の“剤”の字は“材”を使用している」と強調する髙村。通常医薬品の場合、開発や臨床試験を重ねて製品化する構図が一般的だが、この一連の工程は非常に時間と資金が必要である。最低でも資本金は40億円を有する。しかし、医療機器は医薬品と違って、臨床試験のステージが1回で済むため、開発から販売まで3?4年しかかからない。その分コストが安く抑えられる。スリー・ディー・マトリックスでは上場前の資本金13億円で様々な事業を賄うことができた。
 

 新しく開発された止血材に使用されるペプチドは、3種類のアミノ酸から構成されている。ペプチドは体内で分解され、アミノ酸に戻り排出されるか、体の構成成分となるため異物ではない。逆に工業製品のためC型肝炎などの感染症のリスクがなく、体に優しいことが最大のコンセプトである。このペプチドを使用して止血材の他にも様々な製品を作っている。例えば、歯科インプラントの際に、退縮した歯槽骨に対してインプラント術が適用できるよう、歯槽骨を再建する歯槽骨再建材。これはアメリカのハーバード大学で臨床試験を開始している。また、ポリープ切除の難易度とリスクを下げることができる粘膜隆起材もある。さらに、血管塞栓材は最近注目されているカテーテル治療において、肝臓癌や動脈瘤の治療に使うことができる。このように、MITからライセンスされた基本技術をもとに、日米約100の共同研究機関で蓄積された応用技術と組み合わせることで、様々な医療製品を開発している。そして、関連する多くの特許が取れているのがプラットフォーム技術の強みだ。



■バイオマテリアルの可能性

今後は独占的・全世界的な事業化権を活用して、グローバル展開を狙う。新しい止血材は、海外でも販売を開始できるように計画はすでに進んでいる。台湾や韓国に次いで、アメリカやヨーロッパでの販売を展開していく予定だ。「この事業はニッチに見えるが、全世界の止血材の市場規模が3000億円なので、マーケットの規模は大きい。この止血材がグローバルスタンダードになることを目指します」と熱く語る髙村。来年の国内販売において、在庫の準備も進めている。「医療製品は欠品が許されません。生産から出荷まで数カ月かかるので、欠品リスクは常に考えています。来年販売する分を準備している段階です」と永野。また、大阪の扶桑薬品工業、東京の科研製薬と販売パートナーシップを結び、総勢約1000人の医薬情報員がプロモーションを行う。これは医療製品の世界では、大規模なプロモーション活動である。
 

 「最近では手術する際に、医師は患者にインフォームドコンセントで止血剤の使用承諾を取りますが、例えば、未成年の子供を持つ親心としては、その時に薬害訴訟の事件を思い出して、子供が将来C型肝炎やエイズに感染するリスクを恐れます。実際に親が子供に既存の止血剤(フィブリン糊)を使わせることを躊躇するケースは多い。このような課題を克服する力が、当社の止血材にはある」と語る髙村は、今後の目標についてこう話す。「安全性が高い医療製品を開発していくことで、医療に貢献していきたい。また当社モデルを新しいビジネスモデルとして考えてもらいたい。現在使用されている先端の医療機器のほとんどは輸入品なので、日本発のものは誇りに思います。新たな産業として発展させていきたい」。
 

 安全性が高いペプチドを用いた製品案はまだまだ多数ある。それを一つ一つ実現させていくのが今後の目標だ。また、国立がんセンターと共同でプロジェクトを進めることで、最先端の核酸医薬の開発も行っていく。日本や海外のトップの研究所と協力して、更なる事業の開発を進めていきたいという。「当社は、少数精鋭で今後も頑張っていきます。全世界の医療進展に貢献するとともに、高い営業利益を目指します」と永野は熱く語った。
 

 今後、医療現場では欠かせない存在となってくる新しい止血材。周囲からの反響も強く、多方面で注目を集めている。「BtoBの会社なので、最初の頃は当社の製品の良さを理解してくれる人は、医療関係の方のみでした。しかし、最近は日本でも各個人の医療知識が増えてきました。そうした中で、様々なメディアが取り上げて下さるので、社会的関心がさらに高まっていくと思います」と期待を膨らませた。



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