マイクロマネージャーの憂鬱
僕がライフワーク的に読んでいる『CAREER SKILLS』という本では、マイクロマネージャーを以下のように定義していた。
「マイクロマネージャーは、部下に何をすべきかを指示し、それをどのようにすべきかを指示してから、仕事の状況を監視し、どこがまずかったかを指摘し、部下が行ったことを事細かく尋ね、それがどう間違っていたかをねちねちとあげつらう」
この一文を読んだときに思い出したのが、僕が新人のときのチームの課長の顔だった。
毎日のように進捗を確認する会議を開き、少しでも進捗に”違和感”があったら他のメンバーが見ている前で叱責する。
なんで遅れているんだ?
なんでこんな報告の書き方をしたんだ?
お前の仕事の仕方がおかしいんじゃないか?
だからお前はダメなんだ。
お前の仕事の仕方は改めないとダメだ。
明日から毎朝毎晩俺に状況を報告しろ。そのための時間を作れ。
僕は新人だったため、直接課長に報告するような機会はなかったけど、みんなの前で晒し者にされて叱られている先輩の顔を見て、「社会人ってなんて辛いんだろう」と陰鬱な気分になった。
当時は自分自身に全く余裕がなく、課長に目をつけられないようにビクビクと震えていたので、冷静に「マイクロマネジメント」について考えることができなかった。
部下を細かく管理する課長は何を求めていたのだろうか?
何が彼をマイクロマネジメントに走らせていたのだろうか?
第一に、彼は人を信頼できなかったのだと思う。
仕事に対してはとても熱心で、いつも遅くまで働いていた。
遅くまで働くといっても、部下を説教したり、進捗報告会を開かせたりしていて、本人が大変なようには見えなかったけど。
「信じて、任せる」
ことがとにかく苦手な人だった。
そして、部下の失敗を絶対に許さなかった。
何かミスがあったり、進捗に遅れがあるとどこまでも詰めまくる人だった。
「なぜ?なぜ?なぜ?」
と。
いや、お前に報告するための資料作りに時間が取られているんだろ...
と新人の僕でもわかったが、誰もそのことについては触れない。言えない。
結局この問題は、本人の「器」に収斂する。
信じて、任せて、責任を取る。
上司ができることはそれくらいしかないと思うのだが、マイクロマネージャーは人を信じることができない。
病的な完璧主義で、ミスの結果が自分に跳ね返ることを恐れているからだ。
マイクロマネージャー自身もそれまで「ミスが許されない」環境を歩んできて、出世競争()を勝ち上がってきた人間なのだ。
だからこそ、部下が自分の下でミスすることは許さない。
自分と同じレベルの細かさをマネージャーになってからも求めてしまう。
俺ができたから、できるはずだと。
俺と同じように働けと。
彼が本当に欲しかったのは、部下ではなく、彼のコピーだったのだ。
第二に、マイクロマネージャーは「自分の王国」を作りたがっていたように感じる。
マイクロマネジメントの世界は専制主義的であり、そこにあるのは一番偉い人の「支配」だった。
課長は自分に反論する人間を絶対に許さず、人の意見を聞き入れたところを見たことは一度もない。
とにかく何かを否定して、自分が考えたこと以外のアイデアは認めなかったと記憶している。
彼は完璧に部下を支配したかったのだ。
自分の城を作って、部下が自分を持ち上げる、気持ちの良い環境を維持したかったのだと思う。
新人時代の環境を大げさに言うと、トイレに行くのでさえ課長の許可が必要なようにも感じた。
何をするにも課長の許可を仰いで、「いい」と言われていないことは何もしてはいけない、そんな空気があった。
「他者を支配する欲求」は人間の根源的な欲求のようにも見えた。
第三に、マイクロマネージャー本人が自分の能力を信じ切っていた。
自分の仕事に自信があるからこそ、部下に同じ仕事のスタイルを求めたのだ。
たしかに、その課長の仕事の能力は高かったのだろう。
彼がプレイヤーだった頃の様子は全く知らないので確信はないが、誰よりも熱心で、誰よりも遅くまで、誰よりも細かく仕事していたのではないだろうか。
そういう人がマネージャーになると、部下に自分と同じ仕事のやり方を求めてしまう。
自分の積み重ねてきた実績が、マイクロマネジメントにつながっているように見えた。
CAREER SKILLS
さて、前置きが長くなったが、ここからはマイクロマネージャーの倒し方の話だ。
『CAREER SKILLS』401ページでは、以下の3つの方法が挙げられている。
- 信頼を勝ち取る
- やるべきことは求められる前にやってしまい、全部報告する
- マイクロマネージャーの手に余るくらい、いちいち報告していちいち指示を仰ぐ
一つ目の信頼を勝ち取る努力はわかりやすい。
マイクロマネージャーは細かい報告を求めているのだから、とにかく「報告しろ」と言われる前に報告してしまうのがいい。
「やらなければいけないこと」は「やれ」と言われる前にやっておき、やった後は必ず報告する。
歴史上でこの能力に極めて長けていた人物がいる。
豊臣秀吉である。
織田信長の要求を事前に察知し、報告を求められる前に全て準備していた。
信長が何を求めているかを常に想像し、先回りして信長の欲求を満たすように努めた。
当時は今のようにぬるい時代ではない。
主君(上司)の要求を満たせなかったら簡単に首を跳ねられてしまう。
命がけで上司の信頼を勝ち取らなければならないのだ。
「上司の欲求を先取りして満たす」仕事を続けていった結果、
信長は「秀吉なしでは困る」くらいに依存してしまった。
こうして秀吉の出世の道は開けていったのである。
「いちいち報告していちいち指示を仰ぐ」のもマイクロマネージャーを黙らせる有効な手段である。
本ではトランプが投資したホテルにマイクロマネージャーとして接してきた話が紹介されている。
トランプはホテルの経営にいちいち口を出してきて、あらゆる問題に首を突っ込もうとしてきた。
ホテルの経営者はそうしたマイクロマネジメントに文句一つ言わずに、にこにことして全て対応した。
この経営者は一枚上手だった。
ホテルのあらゆる判断について、トランプにいちいち電話をかけて指示を仰いだ。
しつこく電話して、しつこく指示を仰いでいるうちに、トランプはこの状況にうんざりし、
「自分の考え通りにホテルを経営しろ」
と彼に命令したのである。
本ではマイクロマネージャーを倒す方法について、こう書かれている。
「過剰に報告し、行っていること全てに指示を求めるのである。
マイクロマネージャーでも手に余るくらい細かいことをいちいち報告すして相手を苦しめ、そういったことは自分でも好きなようにして結果だけを報告しろと言わせるのである」
「誰かと『戦う』ときには、柔術家たちのように、相手と戦うのではなく、相手自身の動きを利用して相手を倒すやり方がもっとも効果的な場合がある」
厄介な相手を倒すために、正面からぶつかる必要はない。
衝突を避けて、相手に認めさせて、相手から負けを認めてしまうような、そんなシチュエーションに持っていくのが「賢いマイクロマネージャーの倒し方」なのだ。
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