僕は1977(昭和52)年生まれで、学生時代がバブル期の真っただ中でした。ドラマに出てきた「マハジャロ」のようなディスコにも行きましたし、当時流行していたユーロビートをはじめとしたクラブ・ミュージックも好きでした。鈴愛や律と近い世代である僕は、バブル期に限らず、80年代から現在までの音楽トレンドの変遷を、彼らと同じ目線で見てきた。その点を活かして、懐かしいけれど表面的ではない、生き生きとした音楽を作りたいと思いました。
鈴愛や律と同じ目線で音楽の変遷を見てきた
「半分、青い。」の音楽を依頼されて、どんなことを思いましたか?
気をつけたのは、時代の雰囲気を表現するにあたっての、音色との向き合い方でした。シンセサイザーなどは、扱い方によっては古くさく聴こえますよね。ですが、当時のかっこよさを実体験している自分ならば、時代の空気を醸し出しながらも、現代に合った良質な音楽をアウトプットできる。そう思って、「半分、青い。」ならではのサウンドを生み出そうと工夫を重ねています。今回は、普段の仕事ではまず選ばないような昔ふうの音色も、あえて使っています。
カメラがパンアップして鈴愛の前に青空が広がるイメージ
最初にメインテーマ『Half of the Sky』を制作したそうですが、どんなコンセプトですか?
メインテーマは、そこまで時代感を押し出さず、幅広い世代に“青春”を感じてもらえるようなサウンドを目指しました。着想を得たのは、ビートルズをはじめとした60~70年代の洋楽ロックです。オルガンの音色にこだわり、スパイスとしてこじゃれた感じを足しました。
メインテーマには、登場人物たちへの“応援歌”という意味合いも込めています。僕の中では、コーラスが盛り上がってくるあたりでカメラがパンアップして(上を向いて)、鈴愛の前に青空が広がるような感じ(笑)。みんなが幸せになっていくイメージです。メインテーマのメロディは、ほかの楽曲にも散りばめていますので、気にしてもらえたらうれしいです。
鈴愛の主観と視聴者の客観を共存させる作りに
鈴愛や律のテーマは、どんなふうにイメージを膨らませましたか?
「半分、青い。」のメインキャラクターたちは、愛すべき変わり者ばかり。鈴愛と律も、不器用だけど天才肌なところがありますよね。変わり者らしいおかしみや、ピュアで愛らしい感じを表現したいと思いました。
『スズメのテーマ』は、かわいらしく前向きに、ちょっとだけぶっ飛んだ感じを目指しています。演じる永野芽郁さんの透明感から着想を得た部分も大きいですね。
律のテーマ『リツ』は、佐藤健さんのクールなたたずまいに影響を受けつつ、親近感も湧くようなバランスに。律はピアノを弾けるので、楽器はピアノがメインです。「半分、青い。」の音楽全体においても、ピアノは大きな軸の一つになりました。
鈴愛の明るいキャラクターは、さまざまな楽曲に影響しています。たとえば、サスペンス要素のある場面でかかる楽曲にも、ドラマがシリアスになりすぎないよう、ちょっとしたおかしみを入れました。ピンチな状況を表現しながらも、慌てている鈴愛の感情を汲(く)むイメージですね。
恋愛に関しても、“胸キュン”一辺倒ではなく、恋愛模様を見守られているイメージをプラス。鈴愛の主観と視聴者の客観的な視点とを共存させるようなつくりにしました。
聴覚トリック(耳の錯覚)を取り入れた楽曲(『ふぎょぎょ』など)も制作しました。実際は同じ音階を繰り返しているのに、耳で聴いた時には音階がずっと上がっていくように聴こえてしまうという、耳の錯覚を引き起こす音作りです。ヘッドホンなどで聴いていただくと分かりやすいと思います。
地方から出てきた人が見た“大都会・東京”を表現
【東京・胸騒ぎ編】(漫画家編)で使われる楽曲に関しては、いかがですか?
東京のテーマ『TOKYO 90's』は、鈴愛や律がそうであるように、当時地方から出てきた人が見た“大都会・東京”という意識で作りました。埼玉に住んでいた当時の僕が池袋まで繰り出した、“大冒険”の記憶も生かしています(笑)。サウンド面では、当時らしいユーロビートと、それより少し前のディスコ・ミュージックを取り入れた形でしょうか。こうした楽曲を作る機会は少ないので、楽しかったですね。青春時代を少し思い出しました。
秋風のテーマ『I am AKIKAZE』も、漫画家編を象徴する一曲かもしれません。鈴愛や律を上回る変わり者な感じを表現しました。ほかに秋風先生関連では、創作の神様が降りてきた瞬間をイメージした楽曲も制作しています。
この先の音楽がどうなるのかは、物語の展開次第。僕も続きが気になっています(笑)。作中の時代が現代に近づくにつれ、サウンド感も変化していくので、若い方も含めて楽しんでいただけたらうれしいですね。